心臓・大動脈疾患の医療

日本人の死因上位を占める心臓の病気
日本人の死因上位を占める
心臓の病気
近年、日本人の死因の第2位は心疾患(心臓の病気)となっており、その多くを占めるのが“心不全”です。心不全は、不整脈や心筋症などさまざまな心臓の病気の結果、最後にたどり着く病気です。国内の心不全患者数は約120万人と推定されており*、今後も高齢化とともにさらに増加すると考えられます。
埼玉県においてもこの傾向は同様であり、また高齢化が進むことでさらなる医療需要の増加が見込まれます。また心疾患は発症早期の治療が重要になるケースもあるため、救急医療提供体制の整備も重要です。今後も地域の救急医療を担う医療機関が中心となり、各医療機関との連携体制の強化に取り組み続けることが求められるでしょう。
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2020年におけるデータ(2021年 国立循環器病研究センター発表)
埼玉県南部においてチームで
循環器・呼吸器診療に向き合う
かわぐち心臓呼吸器病院

命を守るため、24時間365日緊急対応が可能な体制を整備
かわぐち心臓呼吸器病院は2015年に循環器(心臓、大動脈)と呼吸器の診療に特化した病院として誕生しました。心臓や大動脈の病気はゆっくりと進行し自覚症状がないことがほとんどです。しかし、あるとき突然症状が現れ、救命のために緊急を要する状態になることもあります。地域の方々の命を守るため、当院には心臓血管外科や循環器内科の医師が在籍し、24時間365日体制で救急の受け入れを行っています。心臓カテーテル室・手術室と、その両方の機能を持ったハイブリッド手術室を設置するとともに、心臓外科の専用手術室を常に2部屋確保*し、いつでも必要な処置が行える体制を整えています。また、日本集中治療医学会が認定する集中治療科専門医が7人*おり、院内各科の医師と連携して救命に尽力しています。医師・医療スタッフが力を合わせた“チーム医療”で、地域の方へよりよい医療の提供を目指しています。
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専用手術室の確保数、集中治療科専門医数(常勤医師のみ)は、ともに2024年11月時点

十分な専門性と経験を有する医師が結集し、幅広い心疾患に対応する
当院は心臓や大動脈、肺の治療に力を入れている病院であり、内科・外科ともに十分な専門性を備えた医師が揃っていると自負しております。先述したとおり、治療設備も整えていますので通常の外来診療はもちろん、緊急を要する症状にも対応可能です。紹介状をお持ちでない方も受診いただけますので、お困りのことや気になることがあればお電話、メールなどで遠慮なく我々にご相談ください。
かわぐち心臓呼吸器病院における
心臓弁膜症・狭心症・
不整脈・大動脈瘤の診療
心臓弁膜症の診療
自覚症状がないまま、心臓の機能が低下する病気
心臓弁膜症は、心臓内の弁がうまく開かない、閉じないなど正常に機能しなくなることで、血液の流れが悪くなったり、逆流したりする病気です。発症した時点では、自覚症状はほとんどありません。そのため、多くは健康診断時の聴診による心雑音や、心電図検査の異常がきっかけで発見されます。

当院では受診いただいたらまず、問診で息切れや動悸、胸の痛みなどの自覚症状をお聞きした後、聴診や心電図検査を行います。これらの検査で心臓弁膜症を疑った場合は弁の形態や弁の狭窄、血液の逆流の程度を確かめるために心臓超音波検査(心エコー)を実施して診断をします。
内視鏡下MICSやカテーテル治療などを導入し、高い根治性と負担軽減の両者を追求する

心臓弁膜症の治療には、薬で症状を緩和する保存的治療と手術がありますが、保存的治療については対症療法であり、根本的な治療のためには手術が必要になります。手術についてはこれまで開胸手術が行われていましたが、近年ではMICSという低侵襲手術(体への負担が少ない手術)が開発されており、当院でも導入しています。MICSは胸骨を切らずに処置を行えるため、開胸手術に比べて手術中の出血が少量で済むうえ、傷の感染リスクの低減も期待できます。傷が小さいことで早期回復・早期社会復帰が目指せることも特徴です。MICSには直視下で行う方法もありますが、当院では内視鏡(細長い医療機器)を用いたMICSを実施しておりますので、より低侵襲な治療がかなえられる環境が整っています。

これまで体力などの観点からリスクが高く手術が適さないと判断せざるを得ないケースも多々ありました。このような課題を解決するため、当院では手術よりも体への負担が少ない“カテーテル治療(医療用の細く柔らかい管を使った治療)”も積極的に導入しています。大動脈弁狭窄症に対しては、TAVIという方法で治療を、僧帽弁閉鎖不全症に対しては、MitraClipという方法で治療を行います。患者さんの体の状態や希望に合わせ、治療を選択できるのが当院の強みです。
内科と外科が密接に連携し、総合的な心臓治療を提供する
ここまでご説明したとおり、一言で心臓弁膜症といってもさまざまな治療法があります。当院では、循環器内科と心臓血管外科の医師が密接に連携し、一人ひとりの患者さんに適した治療をご提案できるよう尽力しています。また、医師のみならず診療に関わるスタッフも常に患者さんが安心して治療を受けられるようサポートしており、患者さんを中心とした診療体制を整えていることが当院の大きな特徴です。
治療=手術というイメージがあるかもしれませんが、あくまで手術は1つの過程であると私たちは考えています。治療後の経過観察も含め、総合的に患者さんの体の状態や症状を診ていく、というのが我々の考えです。
なお、当院では“分からないこと”への不安が少しでも解消できればと考え、「クリニカルパス」というスケジュール表を活用しています。きっと治療を受けるにあたってさまざまな不安があるはずです。クリニカルパスには、入院中に受ける検査などが記載されており、診療の過程や今後の見通しが分かりやすくなっています。
退院後の治療は希望や体の状態に配慮しつつ、患者さんと話し合いながら決定します。自宅から近く、通いやすいクリニックをご紹介するなど周辺地域の医療機関やクリニックの先生方とも連携し、患者さんが治療を続けやすい方法をご提案いたします。

心臓弁膜症には自覚症状はほとんどありませんが、「息が苦しそう」「体調がつらそう」などのちょっとした体調の変化は、患者さんよりもご家族など周囲の方が先に気付くこともあります。ご相談は患者さんご本人でなくてもかまいません。もしも、様子に違和感を覚える方がいらっしゃいましたら、ぜひご家族の方からかかりつけの先生、または専門の病院へお話ししてほしいと思います。



狭心症の治療
幅広い年代で発症する病気――胸の違和感は一度受診を

写真:PIXTA
狭心症とは、心筋(心臓の筋肉)に酸素を送る役割を担っている冠動脈に十分な量の血液が流れなくなり、心筋が酸素不足に陥る病気です。主な症状は胸の痛みですが、胸が締めつけられる、重苦しいなど痛みの現れ方は人により違います。ですので、初診時にはどのような症状か、という点に着目して詳しくお聞きするようにしています。
「患者さんの命を守る」をモットーに
当院の場合、患者さんの年代は20歳代から50歳代までの働き盛りの方が中心で、もっとも多いのは50歳代の方です。中には「検査は1日で済ませたい」という方もいらっしゃるため、ご希望があればその日のうちにできる限りの検査を行い、結果をもとに入院の有無まで結論を出すようにしています。
当院では“命を守る”ことをモットーに一人ひとりの患者さんに適した診療が提供できる体制を整えています。入院が必要なければ外来診療で定期的に経過観察を行いますが、入院が必要な場合には、その場で入院の予定を組み、後日入院できるように手配をいたします。また、病気が進行する可能性が高く、急を要すると判断した場合にはすぐにカテーテル治療を行います。患者さんの病状に合わせて迅速かつ柔軟な対応ができるのは当院の強みの1つです。

また、当院では、循環器内科と心臓血管外科など、同じ患者さんに携わる診療科同士が密接にコミュニケーションを取っているのも特徴の1つです。物理的に席が近いこともありますが、世代を気にせず、時間があればほかの診療科に顔を出して「あの患者さんはどんな感じですか」などと頻繁に情報交換をしています。それぞれ専門領域が異なる医師が力を合わせてよりよい治療を提供いたしますので、どうぞ安心して我々にお任せください。
さまざまな狭心症治療に対応
狭心症には突然症状が悪化する可能性がある「不安定狭心症」、運動など活動時に症状が現れる「労作性狭心症」、一時的に心臓の血流が悪くなる「冠攣縮性狭心症」があります。
当院には心臓血管外科専門医*も在籍しており、さまざまな狭心症に対応が可能です。治療方法は、薬物治療、カテーテル治療、外科治療(バイパス手術)の3種類です。各治療の中から患者さんの症状や体の状態に合わせた治療をご提案しています。
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3学会構成 心臓血管外科専門医認定機構認定の心臓血管外科専門医(以下、心臓血管外科専門医という表記はこれを指す)
当院では狭心症に対して包括的な治療が提供できる体制を整えていますが、その中でも特に、“経皮的冠動脈インターベンション(PCI)”“冠動脈バイパス術(CABG)”という治療に力を入れています。
経皮的冠動脈インターベンション(PCI)
PCIは脚の付け根や腕、手首などの血管から、カテーテルを挿入し、冠動脈の狭くなった部分を治療する方法です。胸を切開する必要がないため、侵襲性(体への負担)が低いのが特徴です。

当院では年間600件から700件ほどのPCI*を行っており、患者さんの病状に合わせて3つの治療法を使い分けています。先端にバルーン(風船)を取り付けたカテーテルで血管を押し広げる方法(バルーン治療)を基本に、ステントと呼ばれる細い金網の筒で血管を広げる治療、高速回転するドリルで石灰化(硬くなった)部分を削る「ロータブレータ」という機器を使用する治療に対応可能です。
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PCI治療実績:2021年(1月~12月) 655件、2022年(1月~12月)616件、2023年(1月~12月)767件
冠動脈バイパス術(CABG)

冠動脈バイパス術(CABG)は、冠動脈の流れが悪くなった部分の先に、患者さんご自身の体から採取した血管(グラフト)を縫い付けて、新しく血液が流れる道 (バイパス)を作る手術です。当院では、人工心肺装置を使用せず、心臓を動かしたまま行うオフポンプCABGを行っています。オフポンプCABGは、脳梗塞や腎障害、出血など人工心肺の使用時に発生し得る合併症の心配がないため、特に高齢の方や基礎疾患がある方などにはよい適応とされています。動脈グラフトを積極的に使用し長期開存*率を改善する工夫をしています。またCABGにもMICSを取り入れています。MICS-CABGは術後の早期回復や骨髄炎の予防につながるなどの利点があることが大きな特徴です。
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血管が開いたままであること。
気になることは放置せず、早めにご相談を
患者さんの中には、胸の痛みをどの診療科に相談すればよいか分からない、という方も少なくありません。健康診断の結果などで気になることがあっても、なかなか足が向かない方もいらっしゃいます。

しかし、心臓の病気は早くご相談いただくに越したことはありません。進行する前の早い段階で適切な治療介入ができれば、治療に要する時間や費用などを最小限にすることも可能です。
当院は、心臓や肺の病院として、24時間365日対応しています。紹介状は特に必要ありません。気になることがあれば、電話やメールでも結構ですので、できるだけ早く相談してほしいと思います。


不整脈の治療不整脈の重症度はさまざま――不整脈外来で相談を
不整脈には、治療の必要のない良性のものから、脳梗塞や心臓突然死を引き起こすものまであり、重症度はさまざまです。また、不整脈は誰にでも起こる可能性がある病気です。当院で不整脈の治療を受けている患者さんは、動悸などの症状で受診された方や、ほかの心臓疾患に併発している方、かかりつけ医での定期検査や健康診断をきっかけに発見に至った方などがおり、10~90歳代まで幅広い年代の方がいらっしゃいます。

写真:PIXTA
当院では各曜日、循環器内科で不整脈の診療経験を持つ医師が診療にあたるほか、毎週火曜日・水曜日・木曜日に不整脈の専門外来を設け、さまざまなご相談にお答えしています(2024年11月時点)。
迅速な検査・診断を心がける
当院では、なるべく早期に診断して治療方針を決めるため、また、患者さんの来院回数を減らし時間のご負担を少なくするために、可能な限り最初の受診日に必要な検査を完了するよう尽力しています。

不整脈の治療には主に薬物治療、ペースメーカー治療、カテーテル治療がありますが、当院はどの治療も可能な診療体制を構築していますので、一人ひとりに合った治療を見極め、ご提案することが可能です。
不整脈の原因を取り除く“カテーテルアブレーション治療”
心臓の手術は胸に大きく傷が残ると考える方もいらっしゃるのではないでしょうか。当院では、さまざまな不整脈に対する “カテーテルアブレーション治療”を行っています。この治療は脚の付け根からカテーテルを挿入して、原因となっている部分の心筋(心臓の筋肉)を焼灼する治療です。最近は心房細動*に対して治療を受ける患者さんが多く、発作を繰り返す方、持続する方が治療対象となり、早期治療が推奨されています。心房細動は肺静脈から生じる異常な電気信号が原因となって発症するとされているため、カテーテルアブレーション治療では、この肺静脈が左心房につながる部分を焼灼し、異常な電気が心臓に伝わらないようにします(肺静脈隔離)。
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心房細動:不整脈の一種。心臓の心房という部分が小刻みに震え、十分に機能しなくなる病気。

写真:PIXTA
治療は1時間から2時間ほどで完了します。胸を切らずに行いますので、治療後は数時間で歩行が可能になるなど患者さんへの負担が少ないことも特徴です。当院では、年間700件ほどのカテーテルアブレーション治療*を行っています。入院期間は2泊3日から3泊4日程ですが、体の状態やご希望によって調整も可能です。治療に際しては、外来受診時に病気の原因から治療のメリットまで時間をかけて分かりやすくご説明し、十分にご納得いただいてから治療を開始できるよう努めていますので、分からないことや不安なことがあればどんなに些細なことでもお尋ねください。
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2024年(1月~12月)のカテーテルアブレーション治療実績: 703件
病院内・地域で一体となり、不整脈の治療を行う
不整脈には、要因なく発生するものもありますが、高血圧症、糖尿病、肥満、睡眠時無呼吸症候群などの生活習慣が関わる病気が要因となるものや心臓病に併発するものがあります。

当院では不整脈の診療経験を持つ医師のほか、心臓血管外科専門医や循環器疾患の専門医*が在籍しており、背景となる心疾患があれば迅速に対応しています。また、地域の先生との連携も行い生活習慣改善のサポートに努めています。
近年はインターネットで医療情報が入手しやすくなりました。ただ、手軽に多様な情報を入手できる反面、病気への不安が大きくなりやすいというデメリットもあります。健康診断の結果や手術後の体調など気になることがあれば一度ご相談にいらしてください。治療が必要であれば、患者さんに合わせた方法を一緒に考えます。電話やメールなどでも構いませんので、不安は一緒に解決していきましょう。
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日本循環器学会が認定する循環器専門医


大動脈瘤の治療
突然発症し命を奪う、“サイレントキラー”

写真右:PIXTA
大動脈瘤とは体の中でもっとも太い血管である大動脈が“こぶ”のようにふくらんだ状態(動脈瘤)です。胸部の大動脈に発生した場合は、胸部大動脈瘤、腹部の大動脈に発生した場合は腹部大動脈瘤といいます。大動脈瘤は声のかすれなどが現れることもありますが、多くは自覚症状がないまま大きくなります。その一方で、病気が進行し動脈瘤が破裂すると激しい痛みに襲われます。体内で大量出血を起こすなど命にも関わり得る病気ですので、私たちはまず“大動脈瘤に備える必要性”について多くの方に知っていただきたいと考えています。
大動脈瘤は、一般的に70歳代くらいの方に多く発生しやすいといわれています。喫煙習慣や高血圧症、脂質異常症、糖尿病、高尿酸血症、肥満などがリスクを高めるとされていますので、これらに当てはまる方は生活習慣を整えていただきつつ、ご自身の健康状態を定期的にチェックする習慣をつけていただきたいと思います。

大動脈瘤を早期発見するためには、健康診断などで画像検査を受けていただくことが有効です。腹部大動脈瘤の場合は腹部超音波検査、胸部大動脈瘤の場合はX線検査を行うことで大動脈の有無が確認できます。
なお、動脈瘤の大きさを計測するためには、さらにCT検査やMRI検査が有効であるとされており、当院でも大動脈瘤の診断に活用しています。また、大動脈瘤は大きくなる可能性がありますので、すぐに治療が必要ないと判断できる場合であっても、約半年ごとにCT検査を受けていただくようおすすめしています。
病気の進行に応じた治療
治療の初期は動脈瘤の拡大や併存疾患(糖尿病や慢性腎不全など)の進行予防のため、薬による治療を行いますが、大動脈瘤が大きくなって破裂すると、胸やお腹の中で大量に出血し、激しい痛みなどで急速に危険な状態に陥ります。そのため一定以上の大きさ*になったり、動脈瘤の大きさが急激に拡大したりする場合には外科的治療(手術)を検討します。当院では、患者さんの年齢や体力、ご希望を踏まえて“ステントグラフト治療”“人工血管置換術”のどちらが適切か判断し、ご提案しています。
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胸部55mm以上、腹部50~55mm以上

ステントグラフト治療は、ステント(針金状の金属を編んだ金網)を取り付けた人工血管を用いて治療する方法です。大動脈瘤を内部から塞ぎ、血圧の影響を減らして破裂の予防を図ります。開胸手術に比べ傷も小さく、体への負担が少ないため、高齢の方など体力に不安がある方にご提案することが多い治療です。
人工血管置換術は、大動脈瘤を切除し人工血管に交換する方法です。体への負担は大きい治療であるものの、大動脈瘤を切除するため再発が少ないというメリットがあります。当院では経験を重ねた医師が執刀し、手術後も長期間安心いただけるように努めています。
定期的な健康診断で早期発見を
大動脈瘤は破裂した場合、極めて死亡率が高い病気ですので、治療の遅れは命にも関わります。そのため、今後は市内だけでなく、より広い地域の医療機関に当院の存在を知っていただき、連携を強めたいと考えています。

健康診断の結果など気になることがある場合には、お気軽に当院にご相談ください。大動脈の診療は、心臓血管外科の専門医がいる病院の受診をしていただくことが大切です。受診は紹介状がなくても問題ありませんし、お問い合わせはメールでもかまいません。可能な限り迅速に検査を行い、病気の早期発見と予防のお手伝いをいたします。

- 公開日:2025年1月30日
