高知県の医療
心血管疾患の発症リスクが懸念される高知県――
適切な医療を滞りなく供給するには
高知県では高齢者の人口が年々増加しており、2021年時点での高齢化率は全国2位となっています。高齢化に伴って増加する病気の1つに心血管疾患が挙げられます。特に高知県では心血管疾患の発症リスクを高める生活習慣病(高血圧症や糖尿病など)を患っている方や、飲酒・喫煙習慣のある方が多い傾向にあり、県全体で予防などへの対策が推進されています。なお、心臓血管手術が可能な病院は2024年時点で県内に4か所しかなく、住んでいる地域によっては受診の際に長距離・長時間の移動が必要になってしまいます。医療アクセスの課題を解消し、適切な医療を滞りなく供給するためには県内全域で医療提供体制の強化に取り組み続ける必要があるといえるでしょう。
先進医療の提供と医師教育を担う
高知大学医学部附属病院
質の高い治療の提供と後進育成を通じて地域医療に貢献する
当院は1981年に開院以降、県内全域にわたる医療の中心的役割を担ってきました。特に、我々心臓血管外科は地域の循環器診療の砦として専門的な外科治療を必要とする患者さんに幅広く貢献してまいりました。近年では低侵襲(体への負担が少ない)な治療も広がりをみせていますが、患者さんに安全・安心・確実な治療を選択いただくためには、従来の手術手技も高いレベルを維持し続けることが求められます。我々は新しい治療だけでなく、従来の手術方法も駆使しながら柔軟かつきめ細やかな医療を地域の皆さんに提供すべく、日々努力を続けています。
また、高知県内で唯一の医学部を有する病院として、若手医師の教育にも全力で取り組んでいます。当然ながら医師が不足していては、患者さんへ適切かつ平等な医療を届けることはできません。高知県のさらなる医療提供体制の安定を目指し、今後も積極的にバックアップをしていく所存です。常に患者さんファーストの姿勢を大切にし、まごころをもって診療にあたらせていただきます。気になる症状がある方、治療に関してお困りの方は、“おらんくの大学病院”へぜひ一度ご相談ください。
高知大学医学部附属病院における
心臓弁膜症・大動脈瘤・
末梢動脈疾患
(閉塞性動脈硬化症)
の治療
心臓弁膜症の治療
気付きにくい心臓弁膜症――まずは専門医の受診を
心臓弁膜症は、自覚症状が現れないケースも珍しくなく、多くは診察時の聴診などをきっかけに発見されます。ただし、中には聴診を行っても、専門医*でないと気付きにくい心臓弁膜症もあります。65歳以上の約10人に1人が患うとされる身近な病気ですので、気になる症状がある方は一度専門医の受診をしていただきたいと思います。
心臓弁膜症は進行するとやがて心不全を引き起こし、命に関わる恐れもある病気です。すでに聴診で心雑音を指摘されている方、あるいはすでに心臓弁膜症と診断されている方は、適切な治療のタイミングを逃さないよう定期的に検査(心臓超音波検査など)を受けるようにしましょう。
15年後・20年後の未来も視野に入れ、終生の治療プランを立てる
心臓弁膜症の中でも特に多いとされる“大動脈弁狭窄症”の場合、基本的に傷んだ弁を人工弁に交換する治療(弁置換術)を行います。近年では胸を大きく切らずに治療をする“TAVI(経カテーテル的大動脈弁留置術)”という治療方法が普及していますが、 60代、70代で開胸手術に耐えられると判断した患者さんには、従来の大動脈弁置換術を積極的にご提案しています。
もちろんTAVIも有用な治療選択肢の1つではありますが、将来的に留置した弁が劣化して2度目の治療が必要となった際、再びTAVIを選択できないことがあります。その場合、根治的な治療の選択肢として残るのは外科手術となります。仮に60歳でTAVIを受け、25年後に再治療が必要になったと考えると、年齢は85歳です。体力の低下やほかの病気などの影響で開胸手術ができない可能性もあり、そうすると「治療が困難」と判断せざるを得ません。このような事態を防ぐためにも、当院では患者さんの15年後、20年後、さらにその先の心臓の状態も考慮して治療方針を決定します。外科手術が可能な患者さんにはできるだけ外科手術をご提案し、もし将来的に再治療が必要になった場合でも治療の選択肢が残せるよう努めています。
また、日本人は人工弁を留置する場所(弁輪)が小さい傾向にあり、TAVIの実施が困難なケースもあります。当院では将来の追加治療を考慮して外科手術による大動脈弁置換術と併せて弁輪拡大術も実施し、将来的にTAVIを受ける場合でも不安なく治療ができるよう終生の治療プランを立てています。
低侵襲心臓手術(MICS)や大動脈弁形成術にも対応
当院ではMICSと呼ばれる低侵襲心臓手術を積極的に行っています。MICSは、6cm程の小さい切開によって手術を行うため、20~30cm程の切開が必要となる従来の開胸手術(胸骨正中切開)と比べて体への負担を大きく減らせます。傷口が小さいぶん手術操作の複雑さは増しますが、当院は狭い術野であっても安全性の高い手術が実施できるようハイレベルな技術の習得と維持が安定的におこなわれています。
また、大動脈弁閉鎖不全症に対する弁形成術も積極的に実施しています。先述のとおり、大動脈弁狭窄症に対しては弁置換術が行われることが多いものの、先天性の2尖弁など年齢が若く弁が柔らかい患者さんには弁形成術(自身の弁を修復する治療)をおすすめしています。人工弁も改良が進んでいますが、自身の弁に勝るものはありません。『大動脈弁形成術』や『自己弁温存基部置換術』は、ドイツ留学時代から自身のライフワークとしてきました。これまで培ってきた経験や専門性から、弁置換術/弁形成術のどちらが適しているかを的確に判断し、患者さんのライフスタイルに合った治療をご提案します。
「心臓の手術が必要」と言われたら、誰しも大きなショックを受けるはずです。我々は外科医ですから手術で治すことも大切に考えているものの、切らずに治るのであればそれに越したことはないでしょう。循環器内科と心臓血管外科を備え高度先進医療を支える大学病院として、あらゆる選択肢を示せる環境でありたいというのが我々の思いであり、各科の医師が密に連携して診療にあたることで個々の患者さんに応じたオーダーメイドの医療の実現を目指しています。心臓は生涯動き続ける臓器ですので、我々も患者さんがその生涯を終えるまで診続ける覚悟で診療にあたっています。不安なこと、治療について相談したいことなどがあれば、ぜひ一度当院にいらしてください。
大動脈瘤の治療
大動脈瘤の大半は無症状――小さい段階でも必ず定期検査を
大動脈瘤とは大動脈(体の中でもっとも太い血管)の一部が膨らむ病気で、主に動脈硬化が原因となって発症します。大動脈瘤が生じた時点ではほとんどが無症状ですが、大きくなり破裂した場合は命に関わるため、早期発見と適切な治療が重要です。
膨らみが小さい場合は経過観察となることもありますが、小さいからといって絶対に破裂しないわけではありません。大動脈瘤は風船と同じで、最初こそ膨らみにくいものの、ある程度の大きさになると簡単な力で膨らみます。そのため、すでに診断されている方は、必ず定期的な検査を受けていただきたいと思います。当院では瘤の大きさ・形などから破裂リスクを適切に評価し、治療方針について丁寧にご説明させていただきます。大学病院だからと構えずに楽な気持ちでいらしてください。
多角的な観点から“目の前の患者さんに適した大動脈治療”を見出す
破裂の危険性がある大動脈瘤は、手術が必要となります。治療には“人工血管置換術”と“ステントグラフト内挿術”という2種類の方法があり、当院ではどちらの治療にも精通した医師が患者さん一人ひとりの状態に適した治療をご提案しています。
人工血管置換術とは、膨らんだ血管を切り取って、人工の血管に置き換える治療方法です。開胸・開腹手術のため体への負担が大きくなってしまうものの、根治性が高い手術です。もう一方のステントグラフト内挿術とは、ステントという金属のバネをつけた人工血管を、カテーテル(細い管状の医療器具)を使って足の付け根から挿入する治療です。血管を内側から補強することで大動脈瘤の破裂を防止します。瘤は体内に残るため再発する可能性があるものの、開胸・開腹手術と比べて傷が小さく済むため、高齢の方など開胸手術のリスクが高い方に適した治療です。治療方針については瘤の位置や形状、それぞれの治療法のメリット・デメリット、患者さんの体力、患っている病気など多角的な観点で検討し、慎重に判断をしていきます。
どのような病態にも対応できるよう高い技術力を担保する
胸部大動脈は大きくカーブした構造になっており、ちょうど曲がっている部分(大動脈弓部)に瘤が生じた場合は、人工血管置換術を行うのが一般的です。しかし、胸部大動脈は心臓や脳に近い場所にあるうえ、人工血管置換術を行う際は人工心肺を用いて脳や腎臓などほかの臓器への血流を維持しながら処置を行う必要があるため、体への負担が非常に大きい手術になります。当院では少しでも負担を軽減できるよう、開胸手術が難しい方に対しては人工血管置換術とステントグラフト内挿術を組み合わせた“ハイブリッド手術”も実施しています。
また、大動脈瘤の手術の合併症(脳梗塞など)を防ぐための工夫を実践するほか、ステントグラフト治療のさらなる低侵襲化も図り、患者さんの負担をできるだけ抑える努力を続けています。今後も高知県の皆さんに安心して受診いただける病院であり続けるため、より一層努力を重ねていく所存です。
末梢動脈疾患(閉塞性動脈硬化症)の治療
安静時の足の痛みや、足の傷の治りにくさを感じたら一度受診を
当科では閉塞性動脈硬化症という血管の病気の治療に注力しています。この病気は動脈硬化により手や足の血管が狭くなったり詰まったりする病気で、多くは足(下肢)に生じます。放っておくと重症下肢虚血*に進展し、足の切断を余儀なくされることもある病気です。そのため、重症化する前に発見し、治療を行うことが重要です。
現れる症状としては、「安静時の足の痛み」「足の傷の治りにくさ」「間欠性跛行(休憩しながらでないと歩き続けられなくなる症状)」などが挙げられます。ただ、これらの症状が生じてもほとんどの方は、まさか重篤な状態になり得るとは思わないでしょう。実際、当院を受診されたころには治療のタイミングを逃してしまっている方も多くいらっしゃいます。早期発見・早期治療をかなえるためにも、まずは“閉塞性動脈硬化症”という病気を知っていただきたいと思います。特に糖尿病を患っている方や透析をしている方は発症リスクが高い傾向にありますので、「きっとそのうち治るだろう」とは思わずに一度受診いただくことを強くおすすめします。
将来の治療も見据えて、患者さんの足を救うために尽力する
痛みや潰瘍などが生じている場合は、血流の改善を図る治療を実施します。治療方法には、カテーテル治療と外科治療(バイパス手術)の2通りがあり、当院ではどちらにも対応可能です。カテーテル治療とは、足の付け根からカテーテル(細い管状の医療器具)を挿入し、狭くなった血管を内側から広げる方法です。もう一方のバイパス手術は、患者さんの体のほかの場所から採取した血管や人工血管を、狭くなった足の血管につなぎ血液の迂回路を作る方法です。
基本的には体への負担が少ないカテーテル治療を優先的に選択するものの、当院では将来的にバイパス手術が必要となる可能性を念頭に置いた治療を心がけています。カテーテル治療後に傷の治り具合がよくない場合、追加でバイパス手術を行うこともあります。ただ、バイパス手術を行うには、採取できる血管があること・問題なくつなげられる血管であることが前提です。初回のカテーテル治療で血管を傷つけてしまった場合、バイパス手術ができなくなってしまいますので、当院では将来の治療の可能性もしっかりと視野に入れて治療を行います。
フットケアチームを立ち上げ、下肢の治療を追求し続ける
先述のとおり、閉塞性動脈硬化症の認知度は高くなく、医師の間でも広く知られていない側面があります。また、末梢血管の診療を専門とする外科医も少ないため、当院が率先してフットケアの重要性を発信していければと思います。院内では“フットケアチーム”の立ち上げも計画中です。
循環器内科医・心臓血管外科医・皮膚科医・形成外科医・看護師・理学療法士など、多職種がそれぞれの専門性を活かして多角的なアプローチができれば、足の切断を回避するのみならず、“傷をきれいに治すこと”も十分に可能だと考えます。「大学病院に行ってまで……」などと思う必要はありませんので、お気軽に受診ください。これまでに培った知識と経験を生かし、誠心誠意、診療させていただきます。
- 公開日:2024年9月27日