福岡市の医療情勢

人口がさらに増加する福岡市 循環器病対策の強化が急務

人口がさらに増加する福岡市
循環器病対策の強化が急務

福岡市は全国の中でも人口が増え続けている都市であり、2040年頃には約170万人に達すると推計されています。高齢の方の割合も増えており、心臓病、脳卒中といった循環器病の罹患数も増えていくことが予想されます。そのため、地域の医療機関は救急医療を含む医療体制の整備、患者さんへの支援など、さらなる包括的な対策が求められています。

福岡市の医療を支える
九州医療センター

高度急性期病院として地域の方々に寄り添い続ける

高度急性期病院として
地域の方々に寄り添い続ける

九州医療センターは福岡の地域医療を支えるべく、高度急性期医療・救急医療を提供している病院です。国立病院機構の病院として医科・歯科全ての病気に対応できる診療体制を整えており、救命救急センターでは年間6,000台を上回る救急車を受け入れています(2023年1月〜12月実績)。また基幹災害拠点病院に指定されており、災害医療に対しても使命感を持って取り組んでいます。
当院は “病む人に寄り添い、安全かつ最適な医療を提供します”という理念を掲げています。この理念を全職員が胸に刻んで日々研鑽を積み、患者さん・ご家族にしっかりと寄り添い、求められる治療を遂行しています。院内には患者さんの相談支援を行うMCセンター(メディカルコーディネートセンター)があります。広々としたスペースに多職種のスタッフがおり、入院生活をスムーズに開始いただくためのサポートのほか、退院後の支援も行い、かかりつけ医やケアマネジャーの方々などをつなぐハブとして機能しています。治療のこと、薬のこと、医療費のことなどあらゆる相談を受け付けていますので、ぜひお気軽にご活用ください。これからもセンターの機能をさらに充実させ、地域の医療機関と連携しながら切れ目のない支援を目指してまいります。

院長プロフィール
岩﨑 浩己 先生
岩﨑 浩己先生

九州医療センターの
循環器病の治療・サポート

心疾患の治療

得意領域を持つ医師が集い、チーム医療を実践

当院の循環器内科は狭心症、心筋梗塞しんきんこうそく、心臓弁膜症、不整脈といった心臓血管の病気に対して、病気別に専門の医師がそろっています。心臓が徐々に弱っていく病態(心不全)は、これらの病気が重なって発症していることが多いため、専門の医師のチームワークが非常に大切です。私たちは一人ひとりの患者さんそれぞれに必要な検査や治療について議論し、薬物治療やカテーテルを用いた低侵襲治療ていしんしゅうちりょう(体への負担が少ない治療)を適切なタイミングで高い精度で行うことを目標にしています。カテーテル治療は狭心症・心筋梗塞に対する経皮的冠動脈形成術(PCI)*、不整脈に対するカテーテルアブレーション**、ペースメーカーの植え込み術などを行っています。どれも専門的な技術が必要ですが、患者さんの安心・安全を第一に考えた提供を心がけています。

*経皮的冠動脈形成術(PCI):腕や足の血管からカテーテルを挿入し、狭くなった冠動脈を広げる治療。
**カテーテルアブレーション:カテーテルを挿入し、不整脈の原因となっている心臓の一部を焼灼する治療。

体への負担が少ない“TAVI”を導入

体への負担が少ない“TAVI”を導入

内科と外科のハイブリッドな治療が必要な場合は循環器内科と心臓血管外科が議論を重ね、適切な治療を選択して提供します。大動脈弁狭窄症だいどうみゃくべんきょうさくしょうの治療においては、2023年4月より“TAVI(経カテーテル大動脈弁置換術)”を導入しました。機能が低下した心臓の弁を、カテーテルを用いて人工の弁に置き換える治療法です。心臓を止めることなく(人工心肺を使わず)行えるため、身体的な負担軽減はもちろん、開胸手術にくらべて精神的なハードルも下げられると考えられます。手術に耐えられないと判断された高齢の患者さんにとって特にメリットのある治療です。2022年からスタートしたばかりのハイブリッド手術室で、複数の診療科が連携して手術にあたっています。
また心臓血管外科では、カテーテル治療が難しい複雑な病変などに対して“冠動脈バイパス術”を積極的に行っています。狭くなった冠動脈の先に新たな血管をつなげて血流の改善を図る治療法です。どの術式を選択するかは患者さんの体力や併存疾患など、全身状態に合わせて判断していますが、私たちは100%の努力を尽くし、全力で治療する方針で日々取り組んでいます。どうしても手術が必要なケースもあり、抵抗を感じられる方もいると思いますが、私たちは自信を持って治療を提供していますし、同時に患者さんの不安を取り除くことも大切にしています。共によく話し合いながら、お互いに納得できる治療方針を決めていきましょう。

多職種によるアプローチで再入院を防ぐ

多職種によるアプローチで再入院を防ぐ

当院の循環器内科・心臓血管外科はフレンドリーな関係を築いており、柔軟かつ迅速に連携できるのが強みです。今後は脳血管チームとの連携も推進していきます。
病棟の回診では内科・外科の医師のほか、緩和医療を専門とする医師、薬剤師、看護師、理学療法士などが協力して患者さんのリハビリテーションをサポートし、再入院の予防にも努めています。近年始めた取り組みの1つに“ハートノート”の導入があります。心不全の悪化を客観的に評価できる自己管理ツールで、活用によって患者さんの再入院の回避が期待できます。当院は率先してこの福岡での普及に努め、入院した患者さんを中心に体制を整えています。患者さんが退院後の生活をいかに有意義に過ごせるかに重きを置き、その人らしく生きていただくためのサポートに力を尽くしてまいります。

解説医師プロフィール

脳卒中の治療

3つの診療科が1つになり、診断から治療、リハビリの支援まで尽力

当院の脳血管センターは脳血管・神経内科、脳血管内治療科、脳神経外科が診療科の枠を超えて連携し、脳卒中の発症前の段階から発症後の急性期治療、その後の原因探索からリハビリまで一貫して行っています。脳血管センターの3つの診療科は診断・治療の役割が明確に分担されており、毎朝カンファレンスを開催して適応を検討しながら診療を進めています。物理的にも距離が近く、常に連携が取れていることが強みです。急性期脳梗塞、脳出血の患者さんだけでも年間約500例に対応しています(2023年1〜12月実績)。

3つの診療科が1つになり、診断から治療、リハビリの支援まで尽力

脳血管センターのスタッフ

脳卒中の診断、内科的な管理は“脳血管・神経内科”が行います。当科は日本脳卒中学会認定の脳卒中専門医のほか、神経、救急、総合内科、循環器を専門とする医師が集まっており、幅広い診療をしているのが特徴です。診断においては、脳卒中は一刻を争う状態が多いため細かいサインを見逃さない観察眼が求められます。また検査はMRI検査が基本ですが、検査画像をどう解釈するかも非常に大切です。脳卒中は生活習慣病などにより脳血管が劣化することで発症するため、画像に映らない病変もあります。画像で見えるものだけで判断せず、病気の本質を捉えて危険因子や生活習慣にまで目を配って病状を把握し、見極め、退院後の生活までを視野に入れて診療する――。これは簡単なことではなく、研修教育施設として機能する当院だからこそできることだと自負しています。

24時間体制でスピーディーに治療

24時間体制でスピーディーに治療

脳卒中の根本治療(脳の血管の詰まりの解除や止血)は“脳血管内治療科”と“脳神経外科”が担当します。脳血管内治療科では、カテーテル(医療用の細いチューブ)を使って血栓回収除去術やコイル塞栓術そくせんじゅつを行います。開頭手術が必要な重症例、予防的な血行再建術が必要な場合は、脳神経外科がメスを使った治療を行います。どちらも24時間体制でスピーディーに対応しています。
脳血管内治療科の医師はフローダイバーター*による動脈瘤どうみゃくりゅうの治療ができる技能を備えています。脳神経外科は血管・腫瘍しゅようそれぞれに精通した医師がいることが強みで、手術に集中できる体制が整っています。

*フローダイバーター:メッシュ状の血流改変ステント。血管に留置して動脈瘤を閉塞させ、根治を目指す。

退院後の生活を視野に入れたサポート

当院は急性期病院でありながら、リハビリまで丁寧に対応していることも特徴です。脳卒中の後遺症でお困りになるポイントは患者さんによって異なりますので、要望をお伺いしたうえでリハビリの方針を決めています。たとえば麻痺が軽くても、さらに繊細な手先の作業ができるようになりたい、営業職で話すことを仕事としているためその回復を優先したいなど、退院1か月後、3か月後にどうなっていたいかが大切です。もちろん、必要な場合は最終的にリハビリ専門の病院におつなぎしますが、スムーズに移行できるような情報共有を徹底しています。また、再発予防のためのコミュニケーションも欠かせません。病気や予防についての動画を見ていただきながら分かりやすい説明に努めるほか、 “福岡県脳卒中あんしん連携ノート”という退院後の生活に役立つ情報をまとめたツールを活用しています。
私たちは病気だけを診るのではなく“患者さん全体を診ること”を大事にしています。個々の患者さんとしっかり話し合い、よい選択をしていただくための努力を惜しみません。ぜひ安心して当院にかかっていただきたいと思います。

解説医師プロフィール

福岡県循環器病総合支援センター

治療や医療費のことなど、県民が無料で電話・対面相談できる

治療や医療費のことなど、県民が無料で電話・対面相談できる

循環器病総合支援センターとは、循環器病(脳卒中や心臓病など)と診断された患者さん本人、ご家族など周囲の方がどなたでも無料で相談できる窓口です。医師、薬剤師、管理栄養士、リハビリテーションスタッフ、医療ソーシャルワーカー、脳卒中・心臓病の担当看護師などが話を伺い、一緒に解決策を考えていきます。当院は福岡県で唯一、循環器病総合支援センターを委託されている医療機関です。MCセンター(メディカルコーディネートセンター)内に設置しており、現在院内外合わせて26人のスタッフが支援活動に携わっています(2024年5月時点)。

治療や医療費のことなど、県民が無料で電話・対面相談できる

利用の際は、まず専用電話やMCセンターの受付で面談の予約を入れていただきます。地域連携室の看護師が詳細に話を伺い、担当スタッフとの面談日時と形式(対面・電話など)を決定します。病気や治療のことなら医師、食事のことなら管理栄養士、薬のことなら薬剤師、介護保険や医療費、就労のことならソーシャルワーカーというように、相談内容に合わせて適切なスタッフとの面談につないでいます。福岡県に在住の方はもちろん、県外からのご相談も可能です。

さまざまな悩みが1日で解決できるように

私たちは、患者さんやご家族が抱える全ての悩みがワンストップで解決できる窓口を目指しています。たとえば、症状の心配事についてはまず医師が対応し、その後、お金の心配事についてソーシャルワーカーが対応するなど、一度の来院で解決できるように調整しています。面談はプライバシーを確保した部屋で行い、1回の面談時間は20〜30分程度を予定しています。相談された方が何度も同じ話をしなくて済むよう、最初にご連絡をいただいた時点での相談内容や面談記録をスタッフ間で情報共有する仕組みを整えています。

1対1のコミュニケーションで安心を得てほしい

1対1のコミュニケーションで安心を得てほしい

実際に活用いただいた方の中では、医師と直接対話ができることをメリットに思われる方が多いようです。かかりつけ医とのコミュニケーションに関する悩みなど、納得のいく治療を受けるためにはどうしたらよいかという悩みについて、医師が適切なアドバイスをしています。そのほか、退院後の日常生活についての相談も多くあります。入院中に運動指導・栄養指導を受けたものの、自宅に帰ってはじめて実践が難しいと実感することも多いかと思います。たとえば、心臓に負担のかからない運動、麻痺・拘縮を改善する運動は自宅でどのように行ったらよいか、塩分控えめの食事は具体的にどのように作ればよいか、などです。このような患者さん一人ひとりの生活に密着した問題についても解決に導けるよう、専門のスタッフが丁寧なアドバイスに努めています。
世の中にはたくさんの情報があふれており、どうしても振り回されてしまいがちです。また、調べても選択肢が多いために立ち止まってしまうこともあると思います。当センターは専門のスタッフと1対1で話すことができ、自分の状況に合わせてアドバイスをもらえる場所です。ぜひここで安心を得ながら、次のアクションにつなげていただきたいと思います。無料で受けられますので、まずは気軽に相談いただけるとうれしいです。

解説医師・看護師プロフィール
田口 裕子 先生
看護師長
田口 裕子さん
  • 公開日:2024年7月1日
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