北九州市のがん診療
高齢化が進む北九州市。
がんになっても安心して過ごせる地域であるために
北九州市は政令指定都市の中でもっとも高齢化が進んでいる都市です(2022年時点)。2023年には北九州市の人口のおよそ3人に1人が65歳以上となり、85歳以上の高齢者は2040年まで増え続けることが予想されています。
高齢者に多い胃がんや大腸がんなどの消化器がん診療の需要はよりいっそう高まるでしょう。こうした中、現在、自治体を挙げてがんの早期発見・早期治療に向けた取り組みが進められています。同時に、たとえがんになっても安心して治療を受けられる地域社会の構築も欠かせません。北九州市周辺地域の未来を見据え、この先も安心して生活できる医療体制の構築が必要といえます。
北九州市の医療を支える
JCHO九州病院
がん治療の選択肢を広げ、
総合力と技術力で地域を支える
JCHO九州病院は48の診療科と集中治療部を有し、ほぼ全領域の診療をカバーする総合病院です。当院の入院患者さんの約1/3はがん患者さんであり、地域がん診療連携拠点病院として、北九州市周辺のがん診療において中心的な役割も担っています。
手術や化学療法、放射線治療などを組み合わせた集学的治療を提供しており、診療科の幅広さを生かした総合力と熱意を持って、日々がん診療に向き合っています。また診療科間で連携しながら治療を進めることができるため、がん以外の病気を抱える高齢の方の診療も得意としています。
胃がんや大腸がんのような高齢の方に多くみられるがんに対して、当院では患者さんの体への負担が少ない腹腔鏡下手術*を積極的に行っています。また、2015年から内視鏡手術用の医療ロボット“ダヴィンチ”を導入しており、2020年以降は消化器がんの治療でもロボット支援下手術に対応しています。これらの手術は切開範囲が小さく済むため、患者さんの体への負担が小さく、術後の生活にも配慮した手術方法です。2024年6月には2台目を導入し、北九州市周辺地域における今後の医療需要に応えるべく体制を整えております。さらなる高齢化を見据え、よりいっそう患者さんの支えになれれば幸いです。
JCHO九州病院の
胃がん・大腸がん・
膵臓がん・肝がん治療
胃がんの治療
術後の生活に配慮した胃がん手術
当院は、単にがんを治すのではなく、術後の生活に負担がかからないようQOL(生活の質)を重視した治療を大切にしています。そのために積極的に行っているのが、腹腔鏡下手術やロボット支援下手術などの患者さんの体への負担が少ない手術です。腹腔鏡下手術は開腹手術よりも切開範囲が小さく済むため術後の回復が早く、当院では術後1週間程度で退院される患者さんもいらっしゃいます。また、ロボット支援下手術では、ロボットアームの先端に付いた鉗子の可動域が540°と広く、腹腔鏡下手術で用いる鉗子では届かない部位での治療も可能です。より精密な手術を実現できることから、逆流性食道炎のような後遺症の予防につながることも分かっており、術後の生活を考えても有用な手術方法といえます。また、ロボット支援下手術では術後の生存率が改善したというデータもあり、全国的にも広がりを見せています。当院では2020年からロボット支援下手術を導入しており、地域の方へよりよい医療を提供するべく、実績を重ねてまいりました。当院の医師は、高難度手術である胃の手術実績や手術手技から、その治療技術が認められ日本内視鏡外科学会の技術認定(消化器・一般外科領域)を取得しています。これまで培ってきた技術を駆使して、患者さんに寄り添った治療を提供いたします。
胃がん患者さんの中には、手術を受けること自体が初めてという患者さんもいらっしゃるかと思います。手術の説明はイラストを用いながら分かりやすい説明を心がけています。また、手術前の患者さんには、ちょっとしたことでも相談いただけるよう、1日2回病室に伺うことを欠かしません。退院までのスケジュールや食事内容についても事前にお伝えし、治療後の漠然とした不安がない状態で手術に臨んでいただけるようサポートしてまいります。
総合力を生かした集学的治療で進行がんや併存症を伴う胃がんにも対応
早期の胃がんから進行胃がんまで、当院で胃がん治療を受ける患者さんの病期は多岐にわたります。また、患者さんの中には70~80歳代の高齢の方もおり、胃がんのほかにも心疾患など別の病気がある方もいらっしゃいます。当院では各診療科の専門的な意見を総合して、病期や併存症の有無に合わせた治療方針を立てることができます。また集学的治療によって、より高い治療効果を目指すことができるのも強みです。
さらに、緩和ケアも当院でお受けいただけますので、治療中、または治療後の痛みのケアも迅速に行うことができます。転院する必要がないことが、患者さんにとってもご家族にとってもメリットの1つになればうれしく思います。
大腸がんの治療
各領域の専門知識を統合し、患者さんに適した治療方針を提案
高齢になると年齢に大きな違いはなくても、併存症の有無やADL*によってがんの治療方針が異なることもあります。当院は一人ひとりの体の状態に合わせた治療を提供できるよう診療体制を整えています。それを可能にしているのは、当院が誇る“総合力”です。2023年(1月~12月)の大腸がんの切除手術は138件でした。これも診断から治療までをスムーズに進められる総合力があるからこその実績だと自負しています。
当院には消化器内科を専門とする医師が4名おり、迅速にがんの診断を行うことができます(2024年7月時点)。化学療法・放射線治療・手術を中心に治療を行い、それらを組み合わせた集学的治療も積極的に行っています。治療方針は各診療科の医師が集まり、各領域の専門知識をもとに話し合って決めているので、独断的な意見で治療方針が決まることはありません。たとえば、心疾患があれば循環器内科医がバックアップするなど、併存症にも対応しながらがん治療を進めることができます。
大腸がんは早期に見つかれば、その分治療の選択肢が広がります(内視鏡的治療など)。年に1度は検診を受けるようにしましょう。またお通じなどに異常があるなど気になる症状がある場合には紹介状をお持ちのうえ、ぜひ相談にいらしてください。
体への負担軽減を考慮した大腸がん手術――高齢の患者さんにも対応可能
当院では、より患者さんの体にかかる負担が少なくなるよう、開腹手術だけでなく腹腔鏡下手術にも対応しています。手術方法の選択肢を増やすことで治療の可能性を広げ、患者さんの年齢に左右されず適切な医療を提供できることも私たちの強みです。なお、腹腔鏡下手術は開腹手術に比べて体にかかる負担が小さいため早期の回復が見込めるだけでなく、入院期間が短くなり、結果としてADLを低下させずに維持することにもつながります。
さらに、当院ではロボット支援下手術も行っています。なかなか聞きなれない方もいらっしゃるかもしれませんが、今やそれほど珍しい手術というわけでもありません。この手術では、ロボットのアームの先に付いている鉗子を人間の手首のように自在に動かすことができます。そのため、骨盤内など狭い場所にあるがんを切除する際に有用です。一方で手術時間は腹腔鏡下手術よりも長くなる傾向がありますので、患者さんの体調や病状に合わせて提案させていただいています。
また、手術を含めた治療の進め方はその場(診察室)ですぐに決断しなくてもかまいません 。大腸がん治療に携わる私でさえ、大腸がんを宣告され、治療法を提示されてもすぐ決められる自信はありません。初めて聞くことや知ることが多いなかで、患者さんご自身にとってよりよい決断をするのは難しいと思いますので、時間をかけて一緒に検討していくことを大事にしています。
術後の生活サポートも充実を図る
大腸がん治療では病変部位や病状によってストーマ(人工肛門)を作る必要があるため、不安を感じる方もいらっしゃるかもしれません。当院では、がんをきちんと切除し根治させることを念頭に置いたうえで、可能な限り肛門を温存できるよう治療方法を検討します。たとえば、化学療法でがんを小さくしてから手術を行うなどの集学的治療を行うことで、肛門を温存できる可能性があります。ただし、がんが再発してしまっては元も子もありませんから、当院では慎重かつ十分に治療方針を検討しています。また“人工肛門はなんだか大変そう……”という漠然とした不安や疑問には、医師に加え皮膚・排泄ケア分野の日本看護協会 認定看護師がお答えします。チーム体制で、術後も患者さんの生活をサポートしますのでご安心ください。
膵臓がんの治療
院内連携を生かした迅速な診断、総合力が強みの膵臓がん診療
膵臓がんの罹患リスクには、家族歴(家族に膵臓がんにかかった方がいる)、喫煙習慣、糖尿病などが挙げられます。少しでも心配な方は、ぜひ一度当院の消化器内科(肝胆膵部門)を受診いただければと思います。
当科はほぼ全ての患者さんに対し、初診日に造影CT(またはMRI)検査まで行い、より早い診断と治療を提供しています。これは、経験を積んだ医師が対応しており、画像検査で確度の高い診断ができていることと、診療科同士の垣根が低く、連携が取れているからこそ実現できています。初診日に診断し、同日腫瘍内科を受診することも稀ではありません。
確定診断に組織採取を必須とする施設もありますが、膵臓がんの組織検査は陽性率が高くなく、こだわるあまり徒に時間を要することや、検査後に膵炎を発症し手術を延期せざるを得ないこともあります。当院はこのような理由から画像検査を重視してより早く治療を開始することを心がけています。
また当院は、腫瘍内科・肝胆膵内科医・放射線治療科医が常勤し、緩和ケア病棟を有し、専任の緩和ケア医も在籍しているため、もし根治不能の状態になっても、継続して当院で加療可能*です。
膵臓がんの手術――地道な研鑽を重ね、精度と安全性を追求
膵臓がんの手術は“高侵襲”であることがほとんどです。切除可能だからと一律に手術をおすすめするのではなく、術後の生活まで考えて治療方針を一緒に決めていきたいと思っています。当院の肝胆膵外科には、肝胆膵外科高度技能専門医*がおります。手術の実績や手術のビデオ審査に合格した医師が、完璧を目指すことをモットーに丁寧な手術を行っています。私(山田 大輔)はこれまで手技向上のために十分な研鑽を重ね、現在では医療機器メーカーのホームページ内で、医師向けに手術動画を発信させていただけるほどになりました。手術ではこれまでの積み重ねを十分に発揮して安全な治療の提供に努めていますので、ぜひ安心して当院にお越しください。
肝がん(肝臓がん)の治療
総合力で患者さんを支える肝がん治療
肝がんの治療法には、手術のほかに、薬物療法、放射線治療、ラジオ波焼灼療法、肝動脈化学塞栓療法など、複数の選択肢があります。当院は消化器内科(肝胆膵部門)、放射線科、血液・腫瘍内科、消化器外科がそろっており、上記治療法の全てが施行可能であり、これらを組み合わせた集学的治療を提供できることが強みです。また初診日にCT(またはMRI)検査が施行できるので、診断が早くでき、結果治療の開始日も早まります。来院回数を減らすこともできるので、患者さんの肉体的負担だけでなく精神的負担も軽減できるのではないでしょうか。
治療方針については、各診療科の医師による専門的な知見を総合し、よりよいご提案に努めています。手術においても、患者さんの年齢で区切るようなことはせず、患者さんご本人の意思と体力を総合的に考えてご提案しています。なお、治療方針を決めるうえでは患者さんご本人の意思がもっとも重要です。納得して治療方針を決めるために、病状を理解いただくところからしっかりと伴走しますのでご安心ください。
地域のために安全で質の高い肝臓がん手術を目指す
肝切除術は、開腹と腹腔鏡の2通りのアプローチがありますが、開腹でも難易度が高い手術であり、腹腔鏡手術の難易度は尚更です。このため、腹腔鏡下肝切除を行ってよい施設は限られており(施設基準が設けられています)、当院は施設基準をクリアし、2011年より腹腔鏡下肝切除を開始しました。当然ですが、「安全」であることをモットーとし、これまで腹腔鏡下肝切除術の術後に亡くなられた患者さんは1人もおられません。また2024年7月現在、当院には北九州市にただ1人の“腹腔鏡下肝臓切除術”の技術認定医*を有しており、安全かつ丁寧な腹腔鏡下肝切除術を提供しています。開腹手術と腹腔鏡下手術では患者さんの体への負担は雲泥の差があります。特に高齢者や肥満の患者さんにおいては顕著です。14年間の経験の蓄積によって現在私たちは、肝切除術の70~80%を腹腔鏡下に施行しており、可能な限り患者さんの体の負担軽減に努めています。
なお、近年ではロボット支援下手術も登場してきており、2024年から当院でも開始する予定です。腹腔鏡下手術では難しいとされる症例にも対応できる可能性があり、期待もありますが、安易に導入・移行するつもりはありません。安全性を第一に本当に有益か否かを慎重に判断していきたいと考えております。当院は質の高い手術に努めるだけでなく、検査から緩和ケアまでを含む肝臓がん治療をカバーする総合力があります。患者さん一人ひとりのご状況に合った治療を提供しますのでぜひ当院にお越しください。
- 公開日:2024年8月1日