三重県の医療

三重県の医療

治療選択肢が増えている心疾患。
三重県内では医療格差が課題

心筋梗塞しんきんこうそくや不整脈など、⼼臓や⾎管に起こる病気を循環器疾患といいます。発症リスクの1つには生活習慣病があり、高齢の方だけでなく40歳以降の働き盛り世代にもみられることが特徴です。
循環器疾患に対する治療方法は徐々に開発が進みその選択肢が増え、予後(回復の見込み)を期待できるようになってきました。その一方で、三重県内では地域ごとに医療格差が生じていることが課題です。全国と比較しても外科医の数が少なく、心臓血管外科医がいない地域もあります。また、地域によっては循環器疾患の集中治療室(CCU)が設置されていない医療機関もあり、救急搬送にかかる時間には地域差が生じています。
時に1分1秒を争う循環器疾患を治療するためにも、三重県の医療機関には医師の確保や施設間のスムーズな連携が求められています。

三重県の医療を支える
三重ハートセンター

三重県の医療を支える三重ハートセンター

体への負担が小さい治療を取り入れ、患者さんに寄り添った循環器診療を提供

当院は循環器疾患を専門に診る病院として2004年に開院して以来、24時間体制で速やかに患者さんを受け入れています。CCUを5床備え、超急性期の患者さんへは集中的な治療管理を行っています。また心臓手術においては低侵襲心臓手術ていしんしゅうしんぞうしゅじゅつ(MICS)を積極的に行っています。MICSとは胸骨を切開することなく、または人工心肺装置を使用せずに行う心臓手術のことです。傷が小さいため患者さんの体への負担が小さく、術後の回復も早いため、社会復帰にかかる時間が短縮されます。当院はMICSを県内で最初に導入し、三重県の循環器診療をリードしてまいりました。
循環器内科・心臓血管外科を中心としたハートチームが一丸となって診療にあたっているのも特徴です。専門的な視点を持った医師が常に連携し、患者さんに合う治療を提案しています。また心臓病セミナーを定期的に開催し、循環器疾患に関わるスタッフが病気や検査について説明する場を設けています。さらに、ご希望に応じて患者さんの手術映像をご家族にも公開し、“開かれた医療”を推進しています。
循環器疾患は“治療して終わり”ではありません。私たちは“心をこめた診療”をモットーに、治療後もかかりつけの病院と連携してしっかりとフォローを行います。循環器について少しでも不安があれば、いつでも当院にお越しください。

院長プロフィール

三重県の
循環器疾患治療

狭心症・心筋梗塞の治療

カテーテル治療を追求し、高難度の症例にも対応

狭心症・心筋梗塞の治療

狭心症、心筋梗塞に対する治療には薬物治療のほか、新たな血流の迂回路を形成する“冠動脈バイパス手術”と、カテーテル(医療用の細いチューブ)を用いて冠動脈を広げる“経皮的冠動脈インターベンション(PCI)”があります。
カテーテル治療においては、心血管カテーテル治療専門医*を含めたチームで治療にあたっています。私たちは慢性完全閉塞まんせいかんぜんへいそく(CTO)**に対する治療も得意としています。この治療は巧みな技と積み重ねた経験が必要といわれており、他院からのご紹介で当院の治療を受けに来る患者さんも多くいらっしゃいます。高難度な病態までを対象とした治療を行うなかで、私たちが大切にしているのは“経験だけに頼らない治療”です。患者さんの体への負担を最小限に、かつ最大限の治療効果を得るためには、いかに最短ルートで挿入し、速やかに血流を回復できるかが非常に重要です。当院ではこの最短ルートを知識や理論に基づいて導き出せるよう、日々研究を重ねています。また患者さんとのコミュニケーションも大切に、一人ひとりにふさわしい治療戦略を立てています。

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日本心血管インターベンション治療学会により、安全で有用なカテーテル治療を行うにあたり十分な能力と技術を持つと認定された医師。

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冠動脈が3か月以上ふさがっている病態で、PCIの中でも難度が高いとされる。

“ただつなぐだけではない治療”――術後の生活に寄り添った冠動脈バイパス手術

狭心症・心筋梗塞の治療

薬物治療で改善がみられない場合やカテーテル治療が適応にならない場合には、冠動脈バイパス手術を検討します。冠動脈バイパス手術とは、狭くなった血管の先に、自身の体の別の場所から採取した血管を縫いつなぎ、新たな血液の通り道を作る手術です。当院は“ただつなぐだけではない治療”を目指し、患者さんの体の負担や手術後の生活に配慮した手術に努めています。特に積極的に行なっているのは、心臓を止めずに行う“オフポンプバイパス手術”です。心臓を止めて行う手術に比べて心臓の負担を軽減でき、脳梗塞や出血などの合併症リスクを低減できることがメリットです。高齢の患者さんや、オフポンプバイパス手術に耐えることが難しい患者さんへは“低侵襲冠動脈バイパス手術”を行っています。左の胸を小さく切開して行うMICS手術のため、オフポンプバイパス手術に比べて切開する範囲が小さく済み、より体への負担に配慮した治療が可能です。
また、冠動脈につなぐ新たな血管には複数の選択肢がありますが、当院では内胸動脈*を採用しています。これは内胸動脈を使用すると血管が詰まりにくく、血流が保たれやすいことが報告されているためです。患者さんの術後の予後までを十分に考えた治療を提供できるよう、日々研鑽に努めています。

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胸骨の裏側を通り、左右で対になっている血管。

解説医師プロフィール

不整脈の治療

患者さんを理解し、第一に考えた治療を目指す

不整脈の治療

不整脈は脈の打ち方が異常な状態を指し、時に心不全や脳梗塞につながるリスクもあるので、適切な治療を受けることがとても大切です。当院では不整脈専門医*による診療を行っており、合併する高血圧症や基礎心疾患も含めて総合的に患者さんを診て、一人ひとりに合った治療を提案しています。
不整脈の中でも頻脈(脈が速くなること)が続く場合は、カテーテルアブレーションによる根本治療を検討します。カテーテルアブレーションとは、血管を経由して細い管を心臓に挿入し、不整脈の原因となる部分を心臓の内側から焼き切って正常な拍動に戻す治療法です。心臓が正常に収縮すると、血栓(血の塊)ができにくくなり脳梗塞の予防につながるほか、心機能を維持できるため寝たきりの回避にもつながります。患者さんの年齢で区切らず、現状のADL(Activities of Daily Living:生活を送るための活動能力)なども判断材料にして治療を選択していますので、ぜひ諦めずにご相談いただければと思います。
なお、不整脈はカテーテルありきで治療が行われると思われがちですが、あくまで治療法の1つに過ぎません。カテーテル治療が怖いという方もいらっしゃるかと思いますが、私たちは治療法を正しく理解いただけるよう十分な説明を心がけ、そのうえでどのような治療を望まれるか伺い、患者さんの気持ちを何より大切にして治療を進めていきます。気になることや分からないことがあれば丁寧に説明しますので、どのようなことでもお知らせください。

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日本不整脈心電学会により専門的な不整脈診療の経験と知識を持つと認定された医師。

予防的治療を併せて行い、術後も命を守り続ける

不整脈の治療

カテーテルアブレーションを行っても、心不全などのリスクが高い不整脈が再発する場合や、心臓弁膜症を合併している場合には外科治療を検討します。外科治療には、心臓のリズムを一定にすることを目的としたMAZE(メイズ)手術があります。原因となる心臓の部位に高周波の電流を流し、心臓内の不要な回路を遮断する治療法です。胸骨を切開しないMICSで行うため、術後の早期回復が期待できます。出血のリスクが少ないこともメリットです。
なお、心臓のリズムが一定化しない不整脈では、左心耳(左心房の端にある小さな部屋のような部位)内の血液がよどんで血栓になり、その血栓によって脳梗塞を引き起こすことがあります。そのためMAZE手術を行う際には、併せて左心耳閉鎖(左心耳を縫い閉じること)を行います。不要な電気回路の遮断だけでなく、予防的治療としてのメリットもある治療法です。不整脈には、原因が完全には明らかになっていないものもありますが、だからこそ今後さらに治療技術が発展する可能性があります。当院ではよりよい治療法を積極的に取り入れながら、地域の皆さんの健康を支えてまいります。

解説医師プロフィール

心臓弁膜症の治療

患者さんに元気にお帰りいただくために――術後の生活を見据えた治療

心臓弁膜症の治療

心臓弁膜症は特有の症状がないため、気付かない間に病気が進行していることもあります。中でも僧帽弁閉鎖不全症は高齢化に伴って増えている病気で、僧帽弁がうまく閉まらず血液が逆流し、心不全を引き起こす原因になります。治療には弁形成術と弁置換術とがあり、当院はどちらの術式にも対応しています。弁形成術は僧帽弁に形成用リングを付けて修復する手術、弁置換術は僧帽弁を人工弁(生体弁か機械弁)に付け替える手術です。しかし弁置換術は生体弁の場合は劣化しやすく再手術を行う必要がありますし、機械弁は血栓が付着しやすく血液をサラサラにする薬(抗凝固薬)を飲み続けなければなりません。そのため患者さんの負担を考慮すると、比較的若い患者さんには弁形成術が有効だと考えます。
さらに適応がある患者さんへは胸骨を切開しないMICSによる弁形成術をすすめています。当院では術後約2週間で退院できるケースが多く、車社会の三重県において術後すぐに運転ができるようになることは、早期の社会復帰に欠かせないポイントだと思います。これからも患者さんの病気の重症度や体調、術後の生活まで考えた診療に努めてまいります。

解説医師プロフィール

大動脈瘤・心不全の治療

どのような病態にも対応できる大動脈瘤治療を目指す

大動脈瘤とは、大動脈の壁の一部がこぶのように膨らんだ状態のことです。心臓のすぐ近くに生じると、血液が逆流して心不全を引き起こすことがあります。また大きくなって破裂すると生命の危険があるため、瘤の破裂を未然に防ぐための治療が必要です。
治療には “人工血管置換術”と“ステントグラフト内挿術”の2つの方法があります。人工血管置換術は瘤を切除して新しい血管に置き換える治療法で、再発率が極めて低いことが特徴です。ステントグラフト内挿術は足の付け根からカテーテルを挿入し、金属製のばねを留置することで瘤の破裂を防止する治療法です。患者さんの体への負担が小さく高齢の患者さんに対しても行うことができるため、ステントグラフト内挿術を積極的に行っています。

大動脈瘤・心不全の治療

また当院では、瘤の部位や形によっては人工血管置換術とステントグラフト内挿術のハイブリッド治療も行っています。この方法は人工血管置換術のみで行うよりも出血量が少なく済み、手術時間も短縮できるため、体への負担をできる限り抑えることが可能です。このような難度の高い病態に対しても安全な治療を目指せる技術と体制を備えていることが当院の強みです。

24時間、患者さんの心臓を見守る心不全治療

当院では薬物治療から心機能を維持するペースメーカー治療まで、幅広い治療選択肢の中から心不全の原因疾患やステージに合った治療法を提案しています。中でも薬物治療は進歩しており、生命予後(病気の経過が命に与える影響)が徐々に改善されてきています。
心臓の収縮機能の低下がみられる患者さんへは、心臓の拍動にばらつきが生じないよう心臓再同期療法(CRT)を検討します。CRTはペースメーカーを使用し、微弱な電気刺激を左右の心室に送ることで心臓から安定的に効率よく血液が送り出せるようにする治療です。当院は心機能を継続的に見守る機能が付いたペースメーカーを導入し、心臓の動きを常時モニタリングしています。異変があった場合は当院にその情報が共有されるため、すぐに患者さんに連絡して治療を開始することができます。

大動脈瘤・心不全の治療

心不全そのものに対する治療のほか、合併症や腎機能の低下がみられる場合は栄養指導を、回復期には運動指導や心臓リハビリテーションなどを行い、さまざまな角度から患者さんの生活を支えています。医師や看護師、管理栄養士や臨床検査技師などの多職種がチームとなって手厚い治療体制を整えていますので、不安なことはどのようなことでもご相談ください。

解説医師プロフィール
  • 公開日:2024年5月27日
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