沖縄県南部地域の医療

写真:PIXTA
働く世代の“生活習慣”が
改善すべき課題
沖縄県南部医療圏は、那覇市、浦添市、糸満市など5市、11町村からなる地域です。人口は約74万人で、65歳以上の割合が22.4%と全国平均の28.6%よりも少ないのが特徴です*。この地域では、特に65歳未満における生活習慣病の罹患率および死亡率が、全国平均を上回っていることが課題となっています。原因としては、脂質や糖質の多いアメリカナイズされた食生活や車社会ゆえの運動不足、がん検診率の低さなどが考えられています。生活習慣病は、がんをはじめ、脳や心臓の病気につながる可能性もあります。これに対し沖縄県医師会では、生活習慣の改善やかかりつけ医による健康指導、検診率の向上に向けた施策を打ち出しています。
*
2020年時点
地域のニーズに応え、医療体制の充実を図る
那覇市立病院

「断らない医療」をモットーに
いつでも安心できる体制を
当院は1980年の開設以来、沖縄県南部地域の医療を支えてきました。現在は、入院治療や緊急手術などが必要な方を主に対象とし、24時間365日体制で提供しています。さらにがん治療、高度専門診療に対応するべく36の診療科を標榜し、医療体制の充実に注力しております。また、近年は手術支援ロボット「ダヴィンチ」を導入し、膵臓がんや大腸がん、前立腺がんなどの手術において、患者さんの身体的な負担(侵襲)が低く、精度の高い手術が可能になっています。
2025年10月には新病院も完成予定です。当院ではこれからも地域の医療機関の先生方のご協力もいただきながら、「断らない医療」をモットーに地域の患者さんがいつでも安心して医療を受けられる体制を維持してまいります。お困りの際にはぜひご受診ください。
那覇市立病院における
膵臓がん・大腸がん・脳卒中・
大動脈弁閉鎖不全症の治療
膵臓がんの治療
診療科の垣根を越えた連携で、診断確定までの期間をできるだけ短く
膵臓がんは、初期のうちは症状がほとんど現れないため、発見することが難しいといわれています。だからこそ、リスクを把握して定期的に検診を受けていただくことが大事です。たとえば、親族の中に膵臓がんになった方がいる場合や糖尿病の患者さんなどに多く発症することが分かっています。
当院では速やかに詳しい検査・診断をいたします。気になる症状や不安のある方は、かかりつけ医にご相談のうえ、紹介状をお持ちになり当院にお越しください。

膵臓がんは進行が非常に早く、一刻を争う病気です。患者さんが不安を感じる時間を少しでも短くするため、2週間以内を目安として、がんの有無や進行度(病期)を特定し、治療計画をご提示できるよう努めております。具体的には、紹介状を受け取った時点で消化器内科と情報を共有し、初診日にCTなど可能な限りの検査を実施したり、患者さんのご状況に応じて、その日のうちにご入院いただき、超音波内視鏡検査(EUS)や内視鏡的逆行性胆管膵管造影(ERCP)などの詳しい検査をスピーディーに実施したりしています。時間のロスを可能な限り減らした診療体制が構築できていることは当院の強みの1つです。
ロボット支援下手術で患者さんの負担が軽減、回復も早まる傾向に
当院では、2024年10月から膵臓がんに対してロボット支援下手術を導入しました。開腹手術に比べ傷口が小さく、出血量が少ないため患者さんの早期回復が見込めます。3DHDビジョンによって病変部位を立体的、かつ高解像度で拡大しながら見ることができるほか、複数の関節がついた鉗子により骨盤内部の病変部位にアプローチがより可能です。さらに手振れ防止機能により精密な操作ができるなどの特徴もあります。
なお、当院では出血量を抑え、正確性を高めた処置を得意としています。そのアプローチとして、膵頭十二指腸切除術では“動脈先行処理法”という術式を採用しています。この方法は、膵臓の裏を通る上腸間膜動脈にがんが浸潤している可能性がある場合に、動脈周りの組織へ先にアプローチすることで、がんを動脈からきれいに剥がす方法です。

写真:PIXTA
膵臓がんというと不治の病というイメージを持たれるかもしれませんが、手術や化学療法など治療方法はあります。当院は年間11件*の膵臓がんの手術経験を重ねており、患者さんのよりよい予後のための力になれると考えております。膵臓がんの可能性が考えられる方はぜひ一度受診していただきたいと思います。
*
2024年1~12月

大腸がんの治療
ロボット支援下手術の導入で患者さんの身体的負担をより軽くする
大腸がんは大腸の粘膜から発生するがんです。早期に発見できれば手術によって治る可能性が高いため、便潜血検査で陽性(+)となった場合には、なるべく早いうちに大腸内視鏡検査を受けるようにしましょう。なお沖縄県では、全国と比べて大腸がん検診を受ける方が少ない傾向にあります。早期に治療を始めるためにも、40歳を過ぎたら定期的に大腸がん検診を受けましょう。また便に血が混じる、便が出にくい、お腹が痛い、お腹が張るなど、もし何か気になる症状があれば、我慢せずに紹介状を持参し当院を受診してください。
当院では大腸がんの治療として、内視鏡治療、外科手術、薬物療法、放射線療法を行っています。患者さんのがんの進行度に合わせて治療を選択することはもちろん、治療法を組み合わせて根治を目指します。

外科手術に関して、当院では2024年6月からロボット支援下手術を導入しています。ロボット支援下手術は、従来の開腹手術に比べ傷口が小さく済み、患者さん体への負担を軽減できます。鮮明で立体的な画像を見ながら手術を行うことができるうえ、手振れ防止機能も備わっており、より正確で繊細な手術が実現できます。
他の診療科と連携した治療で患者さんをサポート
当院は総合病院としての強みを生かし、大腸がん診療にあたっています。婦人科、泌尿器科をはじめとした診療科が緊密に連携し、カンファレンスで診療各科の深い知見を共有・集約することで、患者さんに合った治療法を導き出しています。また、大腸がんが膀胱や前立腺、子宮といった周辺の臓器にまで広がっている場合、それらの臓器の切除は消化器外科医ではなく、それぞれの診療科の医師が担当します。このようにすることで、消化器外科単独で実施する手術よりも安全性を高めることができます。

下部直腸がんの場合には、肛門をできるだけ温存するように治療を行います。患者さんのQOL(生活の質)に直結する部分ということもあり、手術の前には対話する時間を大切にしています。たとえば、ご高齢の方の場合はもともと肛門機能が低下している場合が多いので、温存したとしても思いどおりに機能が残らない(便漏れなどが起きる)可能性も考えられます。術後の生活まで見据えた治療方針を提案することはもちろん、患者さんが術後の生活をイメージでき、安心して治療に臨んでいただけるよう丁寧に説明しますので、どんなささいな疑問・不安もお話しいただければと思います。よりよい生活を目指し、一緒に治療していきましょう。

脳卒中の治療24時間365日、救急隊との連携で迅速な治療を目指す
脳卒中とは、 突然発症する脳の血管の病気です。脳卒中には脳の血管が詰まる「脳梗塞」、脳の血管が破れる「脳出血」、 そして脳の動脈瘤が破れて起こる「くも膜下出血」があります。
脳卒中の症状には、頭痛、悪心・嘔吐、体の半身に起こる麻痺やしびれ、呂律がまわらない、ふらつきなどがあります。症状が強い場合は意識を失うこともあります。当院の場合、救急受け入れしている脳卒中の患者さんのうち2割ほどが、非常に緊急度が高い状態で搬送されてきます。脳卒中を疑う症状が現れたときには迷わず救急外来を受診することが大事です。当院では、救急の患者さんに対応するため、脳神経外科医、または脳血管内治療専門医・指導医*が常勤して24時間365日待機しています。さらに近隣の救急隊から脳神経外科医の直通電話につながるホットラインを設置することで、発症から搬送、治療までの時間の短縮を図っています。
*
脳血管内治療専門医・指導医:⽇本脳神経⾎管内治療学会が認定する資格。

写真:PIXTA
低侵襲治療を積極的に取り入れ、包括的な脳卒中診療を提供
当院には、脳神経外科疾患の各分野を専門とする医師が10名在籍しており*、脳卒中の各病態(脳梗塞・脳出血・くも膜下出血)に対して、それぞれの専門性を発揮した、質の高い医療を提供できる体制を構築しています。
また、当院では“低侵襲な治療を安全に行うこと”をポリシーとしています。脳梗塞では薬を利用したt-PA静注療法を行うケースもあります。またカテーテルを使用する血管内治療と開頭手術のどちらも治療選択肢となり得る場合には、患者さんの体への負担が小さく済む血管内治療を積極的に行っています。病状によっては、もちろん開頭手術にも対応しており、他院からのご紹介で患者さんを受け入れるケースもあります。このような対応が可能なのは、脳神経外科を専門とする医師を10名も抱える当院だからこそです。

なお、術後は地域のリハビリテーション病院、開業医の先生方など、さまざまな施設と連携し、脳卒中患者さんを支える体制を整えています。先のことも安心して、当院に治療をおまかせいただければと思います。
さらに、当院では未破裂脳動脈瘤の治療にも力を入れています。これはカテーテルを用いた治療で、フローダイバーター(細かいメッシュ状のステント)を留置して、脳動脈瘤に血流が及ばないようにするものです。この治療は、脳血管内治療指導医同等の経験**を積んだ医師のみが対応可能とされています。未破裂の脳動脈瘤が見つかり、治療にお悩みの方がいらっしゃれば、ぜひご相談ください。
*
2025年5月時点
**
脳血管内治療指導医と同等の経験:脳動脈瘤の血管内治療を、術者として40例以上経験した医師

大動脈弁閉鎖不全症の治療
息切れや疲労感が出たら、我慢せずに早めに心臓の検査を
心臓には4つの部屋(左心房、左心室、右心房、右心室)があり、各部屋の出口には血液の逆流を防ぐ弁があります(僧帽弁、大動脈弁、三尖弁、肺動脈弁)。このうち、全身に血液を送り出す左心室の出口にあるのが大動脈弁です。この弁が何らかの原因で正常に閉まらなくなる状態を、大動脈弁閉鎖不全症といいます。

写真:PIXTA
大動脈弁閉鎖不全症が引き起こされる主な原因は、加齢や糖尿病、リウマチ熱、感染性心内膜炎などです。血液の逆流が起こるため左心室には大きな負担がかかりますが、患者さん本人が気付かないことも珍しくありません。
今までよりも疲れやすくなった、少し動くだけで苦しいなどの症状を感じたときには、安易に年齢のせいだとご自身で納得せず、早めに一度受診しておくことをおすすめします。
患者さんの年齢やライフイベントを考慮して術式を選択
当院では大動脈弁閉鎖不全症の治療として、弁を交換する大動脈弁置換術と弁を修復する大動脈弁形成術を行っています。
大動脈弁置換術で使用する弁は、機械弁と生体弁の2種です。機械弁は生涯使用できる可能性がありますが、一生涯、抗凝固薬(血液をサラサラにする薬)の服用が必須となります。これらの特性と患者さんの年齢を考慮し、一般的に若年者には機械弁、65〜70歳以上には生体弁が選択される傾向があります。

大動脈弁形成術は、患者さんご自身の弁を治して使うため、抗凝固薬を飲み続けなくてよいというメリットがあります。ただし、症例によっては再手術が必要になってしまうケースもあるため、比較的年齢が若く、長期成績が見込める患者さんを中心に治療を行っています。たとえば、抗凝固薬にはリスクがあるため、近い将来の出産を考えていらっしゃる女性には、まずは大動脈弁形成術で対応します。そして、出産を終えて抗凝固薬を服用できるようになってから、耐久性の高い機械弁を用いた大動脈弁置換術を行うという進め方もご提案可能です。
私たちは、患者さんのライフイベントや退院後の生活を十分に考慮し、その方に合った手術方法をご提案することを大切にしております。大動脈弁閉鎖不全症に限らず心臓に関してご心配のある方は、紹介状をお持ちのうえ、ぜひご相談ください。

- 公開日:2025年7月1日

