沖縄県・那覇市に位置する那覇市立病院は、1980年に誕生した伝統ある病院です。同病院は、24時間365日の救急医療を実現するとともに、33診療科の総合病院として新生児から高齢者まで幅広い患者さんを受け入れてきました。
2016年には、地域医療の確保に重要な役割を果たしたとして、全国優良自治体病院総務大臣賞を受賞した那覇市立病院。このように、古くから地域に貢献してきた同病院の屋良 朝雄院長は「いつまでも患者さんに選ばれる病院でありたい」とおっしゃいます。地方独立行政法人の先駆けでもある同病院の屋良 朝雄院長に那覇市立病院の取り組みについてお話いただきました。
那覇市立病院は、緊急の治療を要する患者さんへの24時間365日の救急医療を実現しています。特に、小児科医による救急医療を実施している点が大きな特徴です。急性期の患者さんの疾患や症状は実に様々です。中には、見落としてはならない重病が隠されている場合も少なくありません。私たちは総合病院として、すべての診療科が協力し、小さいリスクも見落とさず、治療が難しい症例にも対応しています。
お話したような救急医療に加え、那覇市立病院は地域周産期母子センターとしての機能を持ち、妊娠や分娩時の母児の健康を守る周産期医療にも力を入れています。そのため、新生児から高齢者まで幅広い患者さんを受け入れています。
沖縄県は、今後10数年間は人口が増えることが予測される稀有な地方県です。しかし高齢者の人口構成が増える訳ですので、他府県と同様、高齢者の疾患に対応しなければなりません。当院は、幸い今後医療需要が増えてくると思われる呼吸器、循環器、消化器グループ、脳外科等について充実した人材が揃っています。
那覇市立病院には、救急による患者さんを、できるだけ断らずに受け入れてきた歴史があります。そして、現在の那覇市立病院では、診療科や職種の垣根を超えた「チーム医療」を実現しています。連携は医師や看護師だけにとどまらず、医療技術部(検査技師・放射線技師・PT・ST・OT・臨床工学技士・管理栄養士)や医療支援部(メディカルソーシャルワーカー(MSW)・地域医療連携室・感染防止対策室・がん相談支援センター)など多職種に及びます。
また、私たちは地域医療支援病院の認定を受けており、地域の医療機関から紹介された患者さんを積極的に受け入れています。病院全体で協力し合う体制を構築しているからこそ、このようにさまざまな症例の患者さんに幅広く対応することができるのです。
さらに、那覇市立病院は2005 年1月より専門的ながん医療を提供する「がん診療連携拠点病院」に指定されており、そこでもチーム医療が効果を発揮しています。がん患者さんへ専門的ながん医療を提供し、がん診療の連携協力体制の整備、及び相談支援や情報提供を積極的に行っています。
また、院内での医療者向けの講演会、緩和ケア研修会以外に、院外でもがん診療に関する公開市民講座を年に数回開催し、県のがん診療の一役を担っています。
私たちは人材の育成にも力を入れています。この病院で研修を受けた医師は、どこでも通用する力を身につけることができると考えています。それは、病院全体で研修医を指導する体制が整っているからです。
指導は知識や技術にとどまりません。チーム医療の重要性や患者さんの目線に立つ医療の実践など、医師として重要な考え方を身につける機会になるでしょう。
私たちの病院で研修を受けた医師の中には、県外の専門施設で研鑽を積んだ後に、当院に戻ってきてくれる者も増えています。これらの人材は非常に貴重であるとともに、今後私たちの病院をリードしてくれる優秀な医師になると確信しています。
お話してきたように、私たち那覇市立病院のスタッフは優秀であることに加え、やる気や明るさに満ちた者が多いことも特徴です。
私たちの病院ではスタッフ主体で患者さんのためにイベントを開催することがあります。入院している患者さんの中には、クリスマスなどのイベントの際に落ち込んでしまう方がいます。それは、楽しいイベントのときになぜ自分は入院しているのかという気持ちがあるからです。
そのような患者さんの気持ちを少しでも和らげてほしいと、私たち病院の医師を中心にバンドを組み病院内でクリスマスライブや七夕コンサートを毎年開催しています。これは一例にすぎませんが、明るい気持ちで患者さんに寄り添うことができるよう、スタッフには常に充実した環境で仕事をしてほしいと願っています。
私たちは地域医療支援病院として、今後も地域医療に力を入れていきたいと考えています。これまでも地域の医療機関から紹介された患者さんを積極的に受け入れてきましたが、今後もさらに増やしていく使命があります。
そのためには、より地域に開かれた病院になる必要があると考えています。例えば、勉強会や講演会による最新医療の発信や地域の班会議への出席も有効でしょう。2017年より地域の診療所や他の病院へ、私たちの病院の医師が外来支援を実施しています。このように、積極的に地域に出て行くことにより様々な情報を得ることができますし、地域の医療機関との密な連携や住民との交流につながると考えています。
近年、推進されている地域医療構想において、私たちの病院は主に急性期病院としての役割を果たすべきだと考えています。ですが、それは今後、変化していく可能性があります。地域の基幹病院としてどのような役割を果たすべきか、それは常に考え続けなければいけない課題です。
また、地域医療構想は来るべき超高齢化社会に対応するための政策になります。一方、私たちは小児科に力を入れる総合病院でもあります。高齢者のみならず、国の宝でもある子どもをはじめ住民全体の健康のために、今後も幅広い患者さんに対応していきたいと思っています。
地域の話とは少し離れますが、沖縄県は、日本の中でも有数の観光立県です。そのため、他県と比べても外国人旅行者が多いという現状があります。最近では、母国語しか話すことができない外国人旅行者の救急受診も増えています。
そのような実態を受け、私たちの病院では、多言語通訳クラウドサービス(24時間365日タブレット使用でコールセンター接続、5か国語対応)を2015年8月より採用しています。地域への貢献はもちろんですが、外国の方に対しても少しずつ受け入れ体制を整えていきたいと考えています。
私たちは、患者さんと同じ目線に立ち、常に謙虚な気持ちで治療に当たるよう心がけています。また、住民の方が健康でいられるよう、医療を通して地域に貢献していくことが私たちの願いです。些細なことでも構いませんので何か健康上の不安があれば、ぜひ来院していただきたいと思っています。
記事内写真提供:那覇市立病院