日本において前立腺がんは、高齢化や診断技術の進歩により近年急速に増加しています。前立腺がんの多くはゆっくりと進行するといわれていますが、早期の場合は症状がなく、発見が難しいことも特徴のひとつです。前立腺がんの症状、原因、治療選択について、ご説明します。
前立腺とは、男性のみにある臓器で、尿道を取り囲むような形で膀胱の下にあり、骨盤の最下部に位置します。男性の場合、膀胱に溜まった尿は前立腺を通過し、その下に続く尿道へと流れます。
前立腺は、精液の一部である「前立腺液」を産生しています。前立腺液には、精子に栄養を与えたり、精子の運動を助けたりするはたらきがあります。
前立腺がんは、前立腺の細胞が正常な細胞増殖機能を失い、無秩序に自己増殖することによって発生します。早期に発見できれば、治癒することが可能です。前立腺がんは比較的ゆっくりと進行することが多いのですが、なかには、急速に進行する悪性度の高いタイプも存在します。
前立腺がんは、周辺のリンパ節や骨に転移することが多いのですが、肺、肝臓などの臓器に転移することもあります。また、全身に転移しても症状が出ないこともあります。
上図のように前立腺は尿の通り道なので、前立腺が腫大すると内腔が圧迫されて狭くなることで、尿が出にくい、トイレの回数が多くなるといった自覚症状があらわれます。このような場合を「前立腺肥大症」といいます。
前立腺肥大症と前立腺がんは、まったく別の病気です。前立腺肥大症は良性疾患であり、前立腺がんは悪性疾患です。両者が併存することはありますが、前立腺肥大症から前立腺がんが発症するわけではありません。
早期の前立腺がんは、多くの場合、自覚症状がありません。進行して前立腺肥大症と同様の症状が出現する場合もありますし、転移を起こすまで進行しても排尿に関する症状が何もない場合もあります。骨転移による疼痛(腰痛など)が出現して、はじめて症状を自覚する方もいらっしゃいます。
どんながんにもいえることですが、早期発見・早期治療が重要です。可能ならば、症状を自覚する前に診断の機会を得ることが理想的です。
前立腺がんの場合は、まず血液検査である腫瘍マーカーPSA注1測定を受けることをおすすめします。基本的に、PSA検査はどの医療機関でも受けることができ、泌尿器科でなくても受けることが可能です。もしPSAの値が高い場合は、その医療機関から泌尿器科医のいる病院に紹介受診することができるでしょう。
また、排尿に関して「おしっこに勢いがなくなった」「残尿感(おしっこが残っている感覚)がある」「夜中に何度もトイレに行きたくなる」「トイレのあとに下着を汚してしまう」のような症状が気になり出したら、泌尿器科の医師に相談をしましょう。
注1 PSA値・・・前立腺の上皮細胞から分泌されるタンパクであるPSA(前立腺特異抗原:prostate-specific antigen)を血液検査で測定した数値
前立腺がんのリスクを高める要因として、以下の条件が明らかにされています。
そのほかにも、肥満や喫煙、食品(カルシウムの過剰摂取など)と前立腺がんの関係について多くの研究が行われていますが、まだ明確には解明されていません。
標準治療ガイドラインに基づき、がん進行状態やPSA値、悪性度(グリーソンスコア)、リスク分類、年齢、期待余命(それから先どのくらい生きることができるかという見通し)、患者さんの希望や治療に対する考え方などを考慮し、治療方法を検討します。
前立腺がんに対する主な治療法は、以下のとおりです。このうち、複数の治療法を組み合わせて行う場合もあります。
外部照射:ガンマ線(通常の放射線治療)、陽子線、重粒子線
内部照射:密封小線源療法
一般的に、がんを根治させる手法として2つの考え方があります。
がん細胞を死滅させるか、手術によってがん細胞を体内から除去するかです。がん細胞を死滅させる方法としては、放射線治療か抗がん剤治療が挙げられます。よって、がん治療の3本柱は手術・放射線・抗がん剤です。
前立腺がんの場合は少し変わっていて、前立腺は男性にしかない組織で、多くの場合は男性ホルモンを調節することで前立腺がんを抑制することができます。
ただし、抑制することはできても根治することは難しく、ホルモン療法だけでは効果が持続できない場合が多いです。ホルモン療法の効果がなくなった場合には、ほかのがんにも使用されるような抗がん剤を使用する場合があります。
ですから、前立腺がんの場合は抗がん剤治療といえばホルモン療法から開始し、効果が得られなくなれば通常の抗がん剤を使用する、という流れになります。また、手術療法や放射線治療の補助としてホルモン療法を併用する場合があります。
放射線治療は、医療機器の進歩により、前立腺に高線量を照射して治療効果を高め、周囲の組織への副作用を軽減させることが可能となっています。また、体の負担が少ないという利点があります。ただし、治療期間が長く、根治できたかどうか判定が難しいという問題点があります。
手術は体への負担が懸念されますが、前立腺を摘出することによって体内から前立腺がんの細胞をなくすことを目標としています。手術と放射線治療の両方ともに、がん再発の可能性、排尿障害の可能性、男性機能低下の可能性を有しています。
また、低リスクの前立腺がんと診断されて進行するリスクが低いと判断された場合に、手術や放射線治療などの積極的な治療は行わずに無治療で経過観察して、進展や増悪の兆しがみられた時点で治療を行う「監視療法」もあります。
これまでお話ししたように、前立腺がんは多くの場合は、早期には症状がありません。
しかし、症状がない段階でがんを発見することができれば、治療の選択肢は広がりますし、根治できる可能性があります。そのため、定期的に検診を受けることをおすすめします。
もし前立腺がんがみつかって治療をすることになった場合には、患者さんにとって最適な治療法とタイミングを検討しますので、病気に向かっていく気持ちを持っていただき、治療をがんばっていくのが重要になります。
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