概要

喫煙とはたばこを吸うことを指します。たばこの煙には多くの有害物質が含まれており、種々のがん虚血性心疾患脳卒中慢性閉塞性肺疾患(まんせいへいそくせいはいしっかん)COPD)、糖尿病歯周病などさまざまな病気の発症リスクを高めることが分かっています。また、喫煙者本人だけでなく、周囲でたばこの煙を吸った人にも健康被害が生じます。

喫煙には多くのリスクがあることが広く知られるようになり、喫煙率は年々減少しています。しかし、たばこに含まれるニコチンには依存性があるため、長く喫煙を続けているとやめるのが困難なケースも少なくありません。そのため、2006年には一定の条件を満たせば禁煙治療を保険診療で受けることができるようになり、2020年には禁煙治療を補助するためのアプリが開発され、同じく保険診療で利用することができるようになっています。

原因

たばこには依存性がある“ニコチン”という物質が含まれています。

喫煙によって体内に取り込まれたニコチンは、脳に存在する“ニコチン受容体”と呼ばれるタンパク質に結合します。すると、脳内では気分の高揚を引き起こすドーパミンと呼ばれる物質が放出されることが分かっています。また、ニコチンには頭をすっきりさせる物質や気分を落ち着かせる物質などの分泌も促すため、喫煙は一時的に多くの“快感”をもたらすことになります。

しかし、ニコチンは体内に入ると1~2時間ほどで減少していくため、快感を得るために断続的な喫煙を行うようになります。このような状態は“ニコチン依存症”と呼ばれ、治療の対象となる病気と考えられています。

症状

喫煙をすると、体内にニコチンが取り込まれるため一時的に気分の高揚や集中力の高まりなどを感じるようになります。しかし、それと同時に交感神経が刺激されることで血圧の上昇や心拍数の増加が引き起こされます。また、たばこの煙には一酸化炭素が含まれるため、体内に取り込むことで酸欠状態になることも少なくありません。

なお、喫煙は将来的にさまざまな健康被害を引き起こすことも分かっています。

たばこの煙の中には70種類もの発がん性物質が含まれており、肺がん喉頭(こうとう)がん・食道がん膀胱がん胃がん膵臓(すいぞう)がん・子宮頸(しきゅうけい)がんなどのリスクを高めることがさまざまな研究から明らかになっています。また、虚血性心疾患脳卒中腹部大動脈瘤(ふくぶだいどうみゃくりゅう)など命に関わる病気や糖尿病歯周病などの病気の発症リスクを高めることも知られています。

さらに、妊娠中の喫煙は早産低出生体重児胎児発育不全などを引き起こし、出生児の乳幼児突然死症候群のリスクを高める原因でもあります。

検査・診断

喫煙は依存性や健康被害がない場合は治療の必要はありませんが、日常生活や健康状態に何らかの支障をきたしている場合はニコチン依存症として治療の対象となります。

ニコチン依存症が疑われる場合は以下のような検査を行うことがあります。

血液検査

喫煙を長く続けていると慢性的な酸欠状態に陥ることで多血症などの病気が引き起こされることがあります。そのほか、血糖値などにも影響を与えることがあるため、全身の状態を把握するために血液検査を行うことがあります。

画像検査

長期間の喫煙は肺などの臓器にダメージを与えることがあります。喫煙に関連する病気が疑われる場合はレントゲン、CT、MRIなどによる画像検査を行う必要があります。

呼気一酸化炭素濃度測定

吐いた息の中に一酸化炭素がどれくらい含まれているか調べる検査です。喫煙の状況を評価するために行われます。

治療

禁煙を目指しているものの自力で喫煙できない場合は禁煙治療を受けることが可能です。

2006年からはニコチンを体内に補給して離脱症状などを抑えるニコチンガムやニコチンパッチ、脳のニコチン受容体に作用して離脱症状や喫煙時の高揚感を抑えるバレニクリンと呼ばれる禁煙補助薬の使用が保険適用となっています。

ただし、保険適用となるには以下が条件となります。

  • ニコチン依存症に係るスクリーニングテストでニコチン依存症と診断された
  • 35歳以上でブリンクマン指数(1日の喫煙本数×喫煙年数)が200以上、または34歳以下の喫煙者
  • 直ちに喫煙することを希望している
  • 禁煙治療のための標準手順書に則った禁煙治療について説明を受け、当該治療を受けることに文書で同意している

また、2020年には喫煙治療の補助を行うアプリが開発されて保険適用となっています。このアプリはスマートフォンで利用でき、吐いた息の中の一酸化炭素を計測する機器を利用して毎日の喫煙状況を記録し、喫煙欲求が高まったときなどは担当医からアプリのチャットなどでアドバイスを得ることが可能です。そのため、孤独になりがちな禁煙治療の成功率を高めるとされています。

セルフケア

喫煙はさまざまな病気のリスクを高めるため、まず何より“たばこに手を出さない”ことが大切です。

しかし、すでに喫煙している人はできるだけ早く禁煙することでたくさんのメリットがあります。禁煙することで、病気へのリスクは減少していくことが分かっており、1年後には肺の機能が改善し、2~4年後には虚血性心疾患脳卒中のリスクは3分の1程度減るとされています。また、禁煙後10~15年経過すると喫煙したことがない人と健康上のリスクはほぼ同程度になることが分かっています。

自力で禁煙が難しい場合は、断念せずに禁煙外来で薬物療法などを受けることも検討してみるとよいでしょう。

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