概要
禁煙とは喫煙を継続的(一時的ではありません)にやめることを指します。たばこに含まれるニコチンには依存性があるため、喫煙を長く続けるとやめることは難しいとされます。しかし、喫煙は種々のがん、虚血性心疾患、脳卒中などさまざまな病気のリスクを高め、さらに喫煙者本人だけでなく副流煙を吸い込むことで周囲の人にも健康被害を与えることが分かっています。そのため、現在では喫煙をやめることができない状態を“ニコチン依存”や“ニコチン中毒”と呼び、医学的な治療がすすめられるケースが増えています。
2006年4月からは禁煙治療が保険適用となり、自分の意志で禁煙できなくても条件を満たせば投薬治療などを受けることができるようになりました。また、2020年には従来の治療と共に禁煙治療をサポートするスマートフォンのアプリも保険適用となっています。
目的・効果
喫煙は、肺がんや喉頭がんなど種々のがん、虚血性心疾患、脳卒中、慢性閉塞性肺疾患、糖尿病、歯周病などさまざまな病気の発症リスクとなることが分かっています。また、妊娠中の喫煙は早産や低出生体重児の原因となり、出産を終えた後も乳幼児突然死症候群のリスクが高くなるとされています。さらに、喫煙によるこれらの健康被害は喫煙者本人だけでなく、周囲にいた人がたばこの煙を吸う“受動喫煙”によっても高まります。そのため、世界的には1990年頃から“禁煙は年齢や性別を問わず人々の健康改善をもたらす”と考えられるようになりました。
喫煙を続けると体はさまざまなダメージを受けますが、一般的には禁煙後24時間で心筋梗塞などのリスクが下がり、1か月後には呼吸器疾患の症状が改善して感染症にもかかりにくくなるとされています。さらに1年が経過すると肺の機能が改善して2~4年後には虚血性心疾患や脳卒中のリスクが下がることが分かっています。
禁煙による健康改善の効果は若いほど高いとされていますが、50歳で禁煙しても寿命が6年長くなるとの報告もあります。また禁煙から10~15年後には、病気になるリスクが喫煙経験のない人と同程度にまで下がると考えられています。
種類
禁煙治療には以下のような方法があります。
薬物療法
現在、一般的に使用されているのはニコチンを体内に吸収させる“ニコチンガム”や“ニコチンパッチ”、脳内のニコチンが作用する受容体にはたらきかける“バレニクリン”と呼ばれる禁煙補助薬です。
ニコチンガムやニコチンパッチは市販されていますが、バレニクリンは禁煙外来を受診して医師から処方される薬剤です。バレニクリンの効果は高く、禁煙による離脱症状と喫煙による高揚感を抑えることで禁煙に導く作用があります。
禁煙治療アプリ
2020年12月から保険適用となった新たな治療法です。禁煙治療を補助する目的で開発されたアプリをスマートフォンにインストールし、自身の息の中に含まれる一酸化炭素の量を専用の機器で計測して喫煙の状況を記録していきます。また、その状況は担当医がチェックできるようになっており、チャットなどを通じて喫煙欲求が高まったときの対処法などについてその場でアドバイスを受けることができます。
治験では、禁煙治療アプリを使用することで禁煙治療の成功率が高まることが分かっており、今後のさらなる普及が期待されています。
リスク
薬物療法には一定の副作用が出る可能性があります。
ニコチンガムやニコチンパッチなどは頭痛、不眠、めまい、吐き気、腹痛、便秘、倦怠感、動悸、血圧上昇などの副作用が知られており、ニコチンパッチでは貼った部分にかぶれや赤みが現れることがあります。一方、バレニクリンは吐き気、頭痛、便秘、腹痛、頭痛などの副作用があります。しかし、これらの症状は一時的なものであることが多く、重篤な副作用はほとんどありません。
また、禁煙治療の1つである禁煙治療アプリは薬剤を使用しないため副作用はなく使用による何らかのリスクは現在のところ報告されていません。
適応
現在、保険診療で禁煙治療が適用となるのは以下のような条件が全てそろっている場合です。
(1)ニコチン依存にかかるスクリーニングテストでニコチン依存症と診断された人
(2)34歳以下の喫煙者で自力での喫煙が困難な人
(3)34歳以下の喫煙者で自力での喫煙が困難な人。あるいは35歳以上でブリンクマン指数(1日の喫煙本数×喫煙年数)が200以上の人
(4)ただちに禁煙することを希望しており、「禁煙治療のための評価手順書」に則った禁煙治療の説明を受け、当該治療を受けることを文書で同意している人
ただし、保険適用とならなくても自費診療で治療を受けることができますので、禁煙外来で相談しましょう。
治療の経過
一般的に禁煙治療は、ニコチンガムやニコチンパッチなどを補助的に使用しながらバレニクリンの内服を12週間かけて行います。
標準的なスケジュールとしては、禁煙を開始する日を設定して1週間前からバレニクリンの内服を開始します(1~3日目は0.5mgを1日1回、4~7日目は0.5mgを1日2回)。そして、禁煙を開始する日から12週間目まで1mgを1日2回の内服を継続していきます。その間、診療は初診時、内服開始2週間後、4週間後、8週間後、12週間後に行うこととなっています。
なお、治療中には吐く息の中にどれくらい一酸化炭素が含まれているか計測する検査などを受けることもでき、必要に応じてニコチンパッチなどの貼り薬を用いて離脱症状などを抑える治療を受けることも可能です。
これらの標準的な治療を行うことで7~8割の方は禁煙に成功するとされており、2020年から開始された禁煙治療アプリを用いた経過観察を行っていくことでさらなる成功率の上昇が期待されています。
費用
禁煙治療は健康保険の適用となる場合は12週間の治療で2万円前後かかるのが一般的です。ただし、バレニクリンだけでなくニコチンパッチなどを処方されたり、検査を受けたりする場合はそれらの費用もかかります。
医療機関によってかかる費用は異なりますので、治療終了までにどれくらいの費用が必要になるのかは事前に確認しましょう。
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