はいがん

肺がん

肺

目次

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基本情報

肺がんとは

肺がんとは、肺にできた「がん(悪性の腫瘍)」のことをいいます。がんは、体のなかの正常な細胞が「がん化※」することで生じます。肺がんでは、肺の大部分を占める「肺胞(はいほう)」や、肺へ送られる空気の通り道である「気管支(きかんし)」といった部分の細胞が、がん化します。

国立がん研究センターのデータ(2013年罹患数[全国推計値])によると、罹患数の多いがん(男女計)の第3位は「肺がん」と報告されています1)。このように、肺がんはがんのなかでも患者数が多いことがわかっています。

肺がんは、早期の段階では「症状があらわれにくいがん」として知られています。そのため、症状から発症を疑って医療機関を受診したときには、すでに病気が進行しているということもあります。発症早期に適切な診断と治療を受けるためにも、「肺がん検診」などの定期検診を受診することが勧められています。

※がん化:正常な細胞の遺伝子が傷ついて、異常な細胞増殖を続けるようになった状態

肺がんの疫学

患者数

厚生労働省が公表している「平成26年患者調査の概況」によると、肺がんを含む「気管、気管支及び肺の悪性新生物」の総患者数※は14万6,000人と報告されています。

発症しやすい年齢

肺がんを発症しやすい年齢については、国立がん研究センターがん対策情報センターの「地域がん登録全国推計によるがん罹患データ(2013年)」で報告されています。このデータによると、肺がんの患者さんは男性、女性ともに40歳前後から増加しはじめ、高齢になるほど増えていくことがわかっています。こうした特徴も考慮して、男女ともに40歳以上では肺がんの定期検診を受けることが勧められています。

※総患者数:継続的な治療を受けていると推測される患者さんの数

肺がんの原因とは?

肺がんの発症に関わっている原因(因子)には、以下のものがあります。

タバコ(喫煙)

タバコを吸うこと(喫煙)は、肺がんの発症に大きく関係しています。タバコを吸う人が肺がんを発症するリスクは、タバコを吸わない人と比べて、男性で4.4倍、女性で2.8倍になるという報告があります2)。特に多くのタバコを長年吸う方は、病気の発症リスクが高い人(ハイリスク群)であると考えられています。

家族歴

肺がんの発症には、「家族歴」という因子も関わっています。肺がんの家族歴(かぞくれき:患者さんの親族のなかでの発症歴)がある場合、家族歴なしの場合と比べると、肺がんにかかるリスクが2倍ほど高くなることが明らかにされています2)。この結果は、遺伝学的に肺がんになりやすい因子がある可能性も示唆しています。

大気汚染

大気汚染も、肺がん発症の要因であると考えられています。特にPM2.5(微小粒子状物質)をはじめとする微小な浮遊粒子は、肺がんの発症リスクを高めると報告されています2)

有害化学物質

アスベスト、ラドン、ヒ素、クロロメチルエーテル、クロム酸、ニッケルといった「有害物質」も、肺がんの発症リスクを高めることがわかっています2)。特に職業上、これらの有害物質を吸ってしまう環境に長期間さらされることは、肺がんの発症リスクを高めるとされています。

慢性閉塞性肺疾患(COPD)

肺に慢性的な炎症が起こる病気、たとえば慢性閉塞性肺疾患(まんせいへいそくせいはいしっかん[Chronic Obstructive Pulmonary Disease:COPD]:以前までは肺気腫・慢性気管支炎とよばれていた病気)を発症することも、肺がんの発症リスクを高めることがわかっています2)

肺がんの症状

肺がんは初期の場合、ほとんど無症状といえます。進行していくにつれて、以下のような症状があらわれることがあります。ただし、どの症状も「肺がんのみ」にみられるものではないため、症状から「肺がん」か「ほかの病気」かどうかを区別することは難しいといわれています。

  • 咳(せき)
  • 痰(たん)
  • 血痰(けったん:血が混じった痰のこと)
  • 発熱
  • 呼吸困難
  • 胸痛(きょうつう)(胸のあたりの痛み)

など

また、症状から発見された肺がんと、検診によって発見された肺がんでは、がんの進行度に違いがみられます。症状発見の患者さんは、検診発見の患者さんと比べるとがんが進行していることが多く、予後が優れない傾向にあることが報告されています2)。そのため、定期的な肺がん検診を年1回受け、無症状の段階から肺がんを早期発見することが大切です。

肺がんの予防

肺がんの予防として最も重要視されているものは「禁煙」です。タバコを吸っている方が「禁煙」を行うと、禁煙を行わなかった場合と比べて肺がんのリスクが低下することも明らかになっています。また禁煙を行った年齢が低いほど、発症のリスクも低くなることが明らかになっています2)

また「受動喫煙(じゅどうきつえん)(タバコから出た煙を周囲の人が吸い込むこと)」も、肺がん発症のリスク因子になることが示されています。受動喫煙にさらされた人は、さらされなかった人と比べて、肺がんの発症リスクが約1.3倍に増加することが明らかにされています2)。そのため受動喫煙を避けることも、肺がんの発症を抑えるために重要と考えられます。

  1. 1) 国立がん研究センターがん情報サービス「がん登録・統計」(男女) 年齢階級別罹患率(全国推測値)2013年
  2. 2) 日本肺癌学会 EBMの手法による肺癌診療ガイドライン2017年版

検査・検診

肺がん検査の流れ

肺がんは、次のような流れで診断されます。

  1. ①「肺がんの疑い」に気付く
    • 肺がん検診を受ける
    • 生活のなかで、症状などから肺がんの発症を疑う
    • ほかの目的で検査を行うなかで肺がんの発症を疑う
    など
  2. ②「肺がんかどうかの鑑別」のための検査を行う (よりCT検査や生検など)
  3. ③「肺がんの進行度を確認する」のための検査を行う (より精密な画像検査など)

肺がんの検査方法にはさまざまなものがあります。患者さんの状態、がんの位置や広がり方などによって、必要な検査も変わります。

肺がんの検診「肺がん検診」

肺がんの発症に気付くための定期検査には、「肺がん検診」があります。

肺がん検診は男性、女性ともに40歳以上の方が対象となっています。受診を希望する場合は、お住まいの自治体(都道府県、市町村、特別区)や各自治体から委託を受けている医療機関などの案内をご覧ください。

肺がん検診で行われる検査には、次のようなものがあります。

  • 問診
  • 胸部X線検査(レントゲン検査)
  • 痰の検査(喀痰細胞診:かくたんさいぼうしん)(肺がんのリスクが高い人に対して)

※異常ありと診断された場合には、精密検査として、胸部CT線検査、気管支鏡検査(きかんしきょうけんさ)などが行われます。

まずは「発症リスク別」に検査が行われる

肺がん検診では、まずタバコを吸う習慣(本数や喫煙期間)などから「喫煙指数※」を割り出します。この喫煙指数により、発症リスクが「高い方」と「低い方」にわけられます。 発症リスクが「低い」と予想される方には、問診と胸部X線検査(レントゲン検査)が行われます。発症リスクが「高い」と予想される方には、上記2つの検査に加えて痰の検査が行われます。

検査の結果、異常ありのときには精密検査へ

これらの検査の結果「異常なし」と診断された方は、1年後再び定期検診を受けることが勧められます。 一方、「異常あり」と診断された方は、さらに精密な検査を受けるようお知らせが届きます。精密検査では、より正確な診断のために、胸部CT線検査や気管支鏡検査などが行われます。

精密検査で肺がんが明らかになれば治療を検討する

精密検査の結果、「異常なし」または「がんではない(良性の腫瘍)」と診断された方には、1年後ふたたび定期検診を受けることが勧められます。 「肺がん」と診断された方は治療を検討していくこととなります。

※喫煙指数:「1日に吸うタバコの平均本数」×「喫煙年数」で計算されます。たとえば、1日にタバコ20本を30年吸っている場合には喫煙指数が600となり、リスクの高い方に該当します。

肺がん鑑別のための検査

肺がんを疑って病院を受診するときや、ほかの目的で検査を受けるなかで肺がんの疑いを指摘されたときには、医療機関で以下のような検査を受けます。

  • 問診、診察
  • 胸部X線検査(レントゲン検査)
  • 胸部CT検査
  • 痰の検査(喀痰細胞診:かくたんさいぼうしん)
  • 肺の組織検査(気管支鏡検査、経皮針生検、胸腔鏡検査など)

など

症状があらわれている、発症要因(喫煙歴など)があるといったときには、肺がんの疑いがあるため、胸部X線検査、胸部CT検査、痰の検査などを組み合わせて行います。

これらの検査結果から、肺がんの可能性が高いと判断されるときには「確定診断」を行います。確定診断とは、腫瘍を直接採取したり、カメラのついた医療器具で近くから腫瘍を観察したりすることで、がんであることを確かめる検査です。確定診断により、「肺がん」であることを的確に診断できます。さらに、確定診断では肺がんの種類も明らかできるため、今後の治療方針を判断するためにも役立ちます。

確定診断では以下のような検査が行われます。

  • 生検(せいけん:経気管支生検、経皮生検、胸腔鏡下生検、開胸生検など)
  • 気管支鏡検査(きかんしきょうけんさ)
  • 胸腔鏡検査(きょうくうきょうけんさ)

など

確定診断では、実際に腫瘍の組織を採取する「生検」という検査を行います。採取した細胞や組織の大きさ、形状などを顕微鏡で観察することで、良性か悪性(がん)かどうか、がんであるときにはどの種類のがんか、などを明らかにします。

また気管支鏡(きかんしきょう)、胸腔鏡(きょうくうきょう)という小型のカメラがついた医療器具を使って、直接腫瘍を観察する検査もあります。気管支鏡は口からのどを通して、胸腔鏡は胸に小さな創をつくりそこから挿入して、それぞれ肺の内部を観察することができる器具です。 これらの検査により病変を確認することで、肺がんの確定診断を行います。

肺がんの進行度を確認する検査

肺がんであることが確認された場合には、どの程度進行しているのかを確認するための検査が行われます。具体的には全身CT検査、PET-CT検査、MRI検査、超音波検査、骨シチグラフィなどを組み合わせ、全身臓器に転移がないかどうかを確認します。 なお、生検時などに得られた組織を用いて、薬に対しての感受性を確認するための「バイオマーカー検査」も行われます。 これら検査を組み合わせることで、肺がんに対しての治療方針を決定します。

肺がん検査の費用とは?

「肺がん検診」の場合、患者さんの負担する費用は、検診の種類によって異なります。また、市区町村が実施している検診、職場での検診など、検診にはいくつかの種類や実施団体があります。 まずはお住まいの自治体のがん検診ホームページやがん検診窓口などで確認してみましょう。

また、医療機関による肺がん検査の費用は、どのような検査を受けるのかによって変わります。近年、肺がんに対して健康保険の適用内で行えるようになった検査方法もあり、患者さんの負担が軽くなったものもあります。詳しい検査費用については、各医療機関に問い合わせてみることをおすすめします。

種類

肺がんの種類

肺がんは、いくつかの種類に分類されます。この分類は「組織型」とよばれています。肺がんの組織は、顕微鏡などで観察すると、形などに違いがみられます。この組織の違いによって、肺がんは大きく「小細胞がん」「非小細胞肺がん」のふたつに大別されます。

それぞれの種類によって、がんが発生しやすい部位、症状のあらわれやすさ、進行の速さなど、病態の特徴が異なります。そのため、それぞれの組織型によって治療の方針も変わってきます。

Lung class

Lung details

「非小細胞肺がん」とは?

非小細胞肺がんは、肺がんの80~85%を占めるがんです。非小細胞肺がんは、がんが生じる組織の違いなどによって、さらに「腺がん」「扁平上皮がん」「大細胞がん」の3つに分類されます。

それぞれ生じやすい部位は異なっており、腺がんと大細胞がんは「肺野(はいや)※1」、扁平上皮がんは「肺門(はいもん)※2」に起こりやすいとされています。

また特徴もそれぞれ異なります。腺がんは、肺がんのなかで最も多いがんで、症状があらわれにくいという特徴があります。扁平上皮がんは、咳や血痰などの症状があらわれやすいという特徴があります。大細胞がんは頻度が少ないがんですが、増殖が速いという特徴があります。

※1 肺野(はいや):気管支の末梢から奥の肺胞がある部分
※2 肺門(はいもん):肺に気管支が入る部分

「小細胞肺がん」とは?

小細胞肺がんは、肺がんのうち約15%を占めるがんです。肺の「肺野」「肺門」どちらにも生じやすいとされています。

非小細胞肺がんと比べると頻度が少ないがんとして知られていますが、増殖が速く、転移しやすいという特徴があります。そのため初診の段階ですでに病状が進んでいる、肺以外の臓器へ転移しているということも少なくはありません。

ステージ

肺がんの病期分類(ステージ)

がんの「進行度」は、病期(ステージ)という分類によって分けられます。一般的には、TNM分類という分類方法が用いられています。

TNM分類

TNM分類とは、以下のようなT、N、Mの3つの要因によってステージを分類していく分類方法です。

  • T(primary Tumor):原発腫瘍の進行度
  • N(regional lymph Nodes):所属リンパ節転移の有無や範囲
  • M(distant Metastasis):遠隔転移の有無

それぞれ、原発腫瘍(一番はじめに生じたがん腫瘍)の大きさや周囲の組織との関係はどうか(T)、周囲のリンパ節にどれほど転移がみられるか(N)、はじめに生じたがん腫瘍がそのほかの肺の部分へ転移したり胸水を起こしたり、その他の臓器へと遠隔転移を起こしているか(M)という観点になっています。

がんの進行度は、この3つの要因の程度をそれぞれ判断し、これらを組み合わせて決めていきます。進行度は、「ステージⅠ」「ステージⅡ」「ステージⅢ」「ステージⅣ」の4つで定義されます。

  • ステージⅠ
    • ⅠA1
    • ⅠA2
    • ⅠA3
    • ⅠB
  • ステージⅡ
    • ⅡA
    • ⅡB
  • ステージⅢ
    • ⅢA
    • ⅢA
    • ⅢC
  • ステージⅣ
    • ⅣA
    • ⅣB

ステージがⅣに近いほど、またAよりもBやCに近いほど、がんは進行していると考えられます。どのステージに分類されるかによって、その後の治療方針や予後が変わっていきます。

小細胞肺がんの場合

小細胞肺がんは、診断時にすでにがんが進行してほかの臓器へ転移していることが多いがんでもあります。そのため、TNM分類に加えて「限局型」と「進展型」という分類も用いて治療方針が検討されることがあります。

  • 限局型(げんきょくがた):以下の3つを満たすもの
    ①病巣が片側の肺にとどまっている
    ②リンパ節転移が、反対側の縦隔(じゅうかく)・鎖骨上窩(じょうか)リンパ節までにとどまっている
    ③悪性の胸水(きょうすい)心嚢水(しんのうすい)がみられない
  • 進展型(しんてんがた):上記の範囲を超えてがんが広がっているもの

治療

肺がんの治療選択肢とは?

肺がんの治療には、次のような選択肢があります。

  • 手術療法(手術)
  • 放射線療法
  • 薬物療法(抗がん剤などによる化学療法、分子標的薬、免疫チェックポイント阻害剤など)
など

 

実際に選択される治療は、患者さんの状態、年齢、そして肺がんのステージ、肺がんの種類などによって異なります。

種類ごとの治療方針

肺がんの治療方針の大枠は、その種類(組織型)によって判断されます。

非小細胞肺がんの治療

非小細胞肺がんでは、一般的に「手術療法」を念頭に置いて治療方針を決定します。 肺がんの進行度によっては、手術の後に化学療法(抗がん剤による治療など)を行うことがあります。肺がんのステージや、患者さんの状態、年齢などによって、手術が難しいと考えられる場合には、放射線療法や薬物療法が検討されます。

小細胞肺がんの治療

小細胞肺がんは、発見されたときすでに肺の他の部分や、肺以外の臓器へとがんが転移していることが多く、手術が可能な早期に発見されることは少ないです。 転移がみられるがんでは、画像検査の結果でがん転移がみつからない部位であっても、がんが広がっている可能性が考えられます。そのため小細胞肺がんでは、局所(きょくしょ)(体の一部)を治療する「手術療法」ではなく、全身を治療するための「薬物療法」が中心となります。そのほか、患者さんの状態などに応じて放射線治療を併用することもあります。

肺がんの「手術療法」

手術は、肺の一部を切除することで、がん病変を取り除き、がんの根治や症状緩和を目指す治療法です。

手術の適応

手術を行うかどうかは、がんの進行度(ステージ)に応じて検討します。患者さんの状態や年齢なども、考慮して、手術を行うかどうか判断をおこないます。手術を行う場合には、確定診断のための検査を実施し、多数の医療従事者で手術を選択すべきか検討を重ねることが必要とされています。進行した肺がんでは、肺以外の臓器にも転移がみられることから、手術が推奨されないケースがあります。

  • ステージⅠ~Ⅱ: 切除が可能な肺がんである場合には、まず手術を行うことが推奨されます。
  • ステージⅢA: 手術を行うかどうかよく検討する必要があります。
  • ステージⅢB~Ⅳ: 進行した肺がんでは、肺以外の臓器にも転移がみられることから、手術が推奨されないケースがあると考えられます。

 

手術療法の方法

肺がんの手術では、がんの病変が残らないよう、また同時に、切除範囲が広すぎて患者さんに過度な負担がかからないよう、適切な切除範囲を検討します。以下は、一般的に知られている切除範囲ごとの手術方法です。

  • 一側肺全摘術(いっそくはいぜんてきしゅつじゅつ)
  • 肺葉切除術(はいようせつじょじゅつ)
  • 区域切除(くいきせつじょ)※1
  • 部分切除(ぶぶんせつじょ)※1※2

 

Lung sugery method

※1 縮小手術ともいう
※2 楔状切除(けつじょうせつじょ)ともいう

肺の切除範囲の検討とともに、がんの周りのリンパ節をどこまで摘出するのか(リンパ節郭清[かくせい]の範囲の検討)という点も、重要な検討事項となります。

手術後におこりうる合併症

手術の後には、以下のような症状や合併症への注意が必要です。

痰(たん)の増加

手術の後、痰が一時的に増えることがあります。これは切除した部位に軽い出血が起きたり、気道で分泌物が増えたりすることなどによるものです。 適切な姿勢を保つこと、水分補給をすること、適度に運動をすることなど、痰をしっかりと出すことが大切です。医療従事者の指導などを受けながら、痰をしっかりと出せるよう意識して対処しましょう。 また手術後は、手術した部位に痛みを感じて痰を出しにくくなることがあります。その場合には痛み止めを用いるなど、痛みをコントロールして、体を適度に動かせるようにします。

肺炎の発症

痰がたまってしまうと肺炎を起こすリスクが高まります。特に喫煙歴が長い場合には痰が多く出る傾向があります。しっかりと痰を出せるよう、対処法を身につけていくことが大切です。

術後の創(きず)の痛み

手術後には、手術の創や、肋骨、胸の前あたりに痛みあらわれることがあります。痛みを感じる場合には医療従事者に相談しましょう。痛み症状を抑えるために、痛み止めの薬剤が処方されることがあります。痛みが強い場合には、痛み止めの薬剤を変更したり、増量したりすることで、症状を緩和していきます。

手術後のリハビリテーション

手術後には、肺の呼吸機能を回復させていくためのリハビリテーションを行います。リハビリテーションを行うことで、痰をうまく出せるようになったり、呼吸するための機能を取り戻したりすることができます。 リハビリテーションは看護師やリハビリスタッフとともに、患者さんの状態に合わせながらすすめていきます。まずは体を動かしてみる、歩いてみるといったことからはじめ、必要があればトレーニングマシーンなどを使い、回復を目指します。

肺がんの「放射線治療」

放射線療法とは、がんに放射線をあてることで、がん細胞の遺伝子を傷つけ、細胞死させる治療法です。

放射線治療の目的

放射線治療は、主に以下に該当するときに行われます。

  • 根治的放射線治療:手術が難しいときの「根治療法」として行うもの
  • 緩和的放射線治療:がんの進行を抑え、症状を和らげるために行うもの
  • 予防的全脳照射:脳への転移を抑えるために、脳に対して予防的に照射するもの

根治的放射線療法は、手術が難しい患者さん(非小細胞肺がんのI期~Ⅱ期で手術を行えない場合や、III期で化学放射線療法が難しい場合)に対して、がんを根治させることを目指して行われます。 緩和的放射線治療は、がんの根治が難しいときに、がんによる痛みを和らげたり、がんが原因の出血や圧迫による症状を改善させたりするために行われます。 また予防的全脳照射は、転移が起こりやすい小細胞肺がんの患者さん(限局型の場合)などに対し、脳への転移を予防するために行うことがあります。

このほか、がんの状態などによっては手術後の予後をよりよくするために、周術期に放射線療法が行われることがあります。

放射線治療の種類

放射線治療には、放射線を外側からあてる「外部照射(がいぶしょうしゃ)」と、内部からあてる「内部照射(ないぶしょうしゃ)」のふたつがあります。また放射線の種類やあて方にもさまざまな種類あります。

肺がんの治療では、外部照射によって高エネルギーのX線をピンポイントにあてるもの(直線加速器:リニアック)を使うことが一般的です。

放射線治療の方法

放射線治療は、目的によって方法もさまざまです。がん状態や治療の目的などによって、どれくらいのエネルギーの放射線量を、どの回数、どれくらいの期間で照射するのかは異なります。 放射線治療を行う前には、放射線腫瘍医の診察が行われ、CTやX線検査などの結果から治療計画が立てられます。

放射線治療で起こりうる合併症

放射線治療の合併症としては、以下のようなものが挙げられます。

  • 皮膚の炎症(かゆみ、皮がむけるなど)
  • 粘膜の炎症(食道炎など)
  • 放射性肺臓炎(ほうしゃせいはいぞうえん)

など

放射線の合併症は、放射線があたる部分の皮膚、気管支、肺などに起こる可能性があります。皮膚ではかゆみ、皮がむけるなどの症状があらわれることがあります。また食道の炎症(食道炎)が起こり、食べ物を飲み込みにくくなる、胸やけがするといった症状があらわれることがあります。また、放射線があたることで肺炎を発症するケースがあります。これは「放射性肺臓炎」と呼ばれ、咳や痰が増えたり、発熱や息切れといった症状があらわれたりすることがあります。

皮膚の炎症が強いときには軟膏など、食道炎を起こしたときには粘膜保護剤や痛み止めなど、肺炎を起こしたときには症状が強い場合には副腎皮質ステロイド剤などを用いて治療を行います。

肺がんの「薬物治療」

がんに対する抑制効果がある薬剤を、服薬や点滴などの方法で体内に入れ、がんの増殖を抑える治療法です。

肺がんの薬物治療では、以下のような薬剤が使われます。

  • 抗がん剤(化学療法)
  • 分子標的薬
  • 免疫チェックポイント阻害剤

など

抗がん剤

抗がん剤とは、がん細胞の増殖を抑制するはたらきを持つ薬剤のことです。たとえば、細胞分裂やDNAの合成を抑えることで、がんの異常な増殖や転移を抑えます。抗がん剤を使った治療は「化学療法」と呼ばれます。近年さまざまながんの治療薬が登場していますが、抗がん剤による化学療法は、従来から用いられている薬物療法です。

「非小細胞肺がん」では、手術の補助として行われる場合(術後化学療法)と、根治が難しい患者さんの症状を和らげるために行われる場合(緩和的化学療法)があります。

がんの増殖が速い「小細胞肺がん」では、すでに転移している方が多く、手術療法を行うことができないこともあります。そのため、多くの場合では化学療法が治療の中心となります。

分子標的薬

分子標的薬とは、がん細胞の表面にある、がん細胞の増殖や転移に関わる特定の物質(細胞表面のタンパク質など)に作用することで、効率よくがんを抑制するはたらきを持つ薬剤です。

日本の肺がん治療に分子標的薬が登場したのは2000年代に入ってからです。それ以前までの薬剤は、正常細胞・異常細胞どちらであるかは関係なく、細胞を死滅させることに重点が置かれていました。そのため、がん細胞と正常細胞の区別がなされず、薬剤が正常な細胞まで攻撃してしまうという課題がありました。分子標的薬は、がん細胞だけが持つ特徴をとらえて攻撃する薬剤であることから、薬による副作用を抑えることや、がんの増殖を抑制するといった面で、よりよい肺がん治療を行うための治療選択肢となることが期待されています。

分子標的薬は、非小細胞肺がんのなかでも非扁平上皮がん(腺がん・大細胞がん)のうち、手術が難しい進行性、もしくは再発の肺がんのときに使用が検討されます。

また分子標的薬の効果は「がんの増殖に関わる遺伝子のうち、どこに異常がみられるのか」により大きく変わることがわかっています。そのため治療を行うときには、EGFR遺伝子変異、ALK融合遺伝子、ROS1融合遺伝子などがあるかどうかを検討したうえで、治療の方針を決める必要があります。

免疫チェックポイント阻害剤

免疫チェックポイント阻害剤とは、がん細胞がもっている「ヒトの免疫機能から攻撃されないようにする仕組み」に作用することで、免疫機能ががん細胞を攻撃していくようにする薬剤です。

本来がん細胞は、ヒトが備えている「免疫機能」によって攻撃を受け排除されています。しかし、がん細胞のなかには自らを守るためにヒトの免疫機能に「ブレーキ」をかける仕組みを備えているものがあります。免疫チェックポイント阻害剤は、このブレーキをかけている部分に作用することで、ブレーキを失くし、免疫機能ががん細胞を攻撃できるようにしていきます。

日本の肺がん治療において、免疫チェックポイント阻害剤が登場したのは2010年代に入ってからです。これまでとは異なる作用機序を持つ薬剤が登場したことで、よりよい肺がん治療を行うための選択肢となることが期待されています。

免疫チェックポイント阻害剤は、非小細胞肺がんのなかでも、手術が難しい進行性のがん、もしくは再発の肺がんに対して使われます。免疫チェックポイント阻害薬は新しい作用機序の薬剤であるため、2018年2月現在、この薬剤を用いた治療を行うための施設要件(投与を受けても安全である施設)、医師要件(処方をされても安心できる医師)が厳格に定められています。

薬物治療でおこりうる副作用

どの薬剤を使うかにより、起こりうる副作用は異なります。また、副作用の程度には個人差があります。

一般的に知られている抗がんの副作用には、脱毛、口内炎、下痢など、新陳代謝が盛んな細胞に影響が及ぶことで生じるものが挙げられます。また、白血球や血小板の数が少なくなる骨髄抑制、全身のだるさ、吐き気、手足のしびれや感覚の低下、筋肉痛や関節痛、皮膚や爪の変化、肝臓の機能異常などがあらわれることもあります。

また分子標的薬では、皮膚や爪の変化、下痢、高血圧、出血、タンパク尿、倦怠感などが起こることがあります。多くの場合は軽度ですが、まれに間質性肺炎などの危険性の高い副作用があらわれることがあります。

免疫チェックポイント阻害剤の副作用には、発熱、倦怠感(けんたいかん)、食欲減退、発疹などがあります。また重症なものとしては、間質性肺炎、甲状腺機能異常、劇症 I 型糖尿病、自己免疫性腸炎、重症筋無力症などがあらわれることがあります。免疫チェックポイント阻害剤を用いた治療は、定められた要件を満たしている施設・医師のもとで受けましょう。

肺がんの「緩和ケア」

緩和ケアとは、がんの発症に伴って起こるさまざまな苦痛を和らげるための対処・治療です。がんの最終段階だけでなく、がんと診断されたときから、がんに伴う体と心のさまざまな苦痛に対して行われます。

  • 痛みをやわらげる(痛み止め[鎮痛剤や医療用麻薬]、神経ブロック療法、放射線治療など)
  • 筋肉のこわばりをとる(マッサージ、鍼[はり]、お灸など)
  • 心の不安を軽減する(心のケア、抗不安薬や抗うつ薬の服用など)
  • そのほか(楽しい会話、好きな音楽を聴く、心地よい環境を整えるなど)

など

こうした対処や治療によって苦痛を和らげることで、患者さんが自分らしく過ごせることを目指します。患者さんご本人が感じるつらさに応じて、医療従事者や患者さんのご家族とともによりよい方法を考えていきます。

肺がんの「転移に対する治療」

進行した肺がんでは、肺だけでなくそのほかの臓器へとがんが広がっていくことがあります。これは、がん細胞がリンパ液や血液の流れなどにのって、ほかの臓器に移動してしまうためだと考えられています。このように、がんがほかの臓器へと広がることを「遠隔転移(えんかくてんい)」といいます。

肺がんでは、以下に挙げる部位に転移が起こりやすいとされています。

  • リンパ節
  • 肝臓
  • 副腎

など

ほかの臓器へとがんが転移している場合には、すべてを手術で取りきることがむずかしくなります。そのため、手術ではなく「薬物療法」を中心に治療を行っていくことが一般的です。がんが転移した場所や症状などによっては「放射線治療」を行うこともあります。 がんの状態によっては、根治をめざす治療を選択できないこともあります。このような場合には、苦痛を緩和することで患者さんが自分らしく生活できるよう、症状を和らげる治療(緩和ケア)が行われます。

予後

肺がんの経過観察

肺がんの治療後は、5年間を目安として「経過観察」が行われます。経過観察期間には、定期的な検査を受けるなどして、がんが再発していないかどうかを確認します。

経過観察中には問診や診察、胸部X線検査、血液検査、尿検査などが行われます。また必要に応じてCT検査、MRI検査、PET-CT検査、骨シンチグラフィといったより詳細な検査が追加されます。

定期検査の内容や受診回数は、患者さんの状態や、肺がんの種類・進行度、また治療の内容と改善の程度などによって異なります。 治療を続けている場合は、治療のスケジュールに応じて通院します。治療を終了されている場合は、はじめは1~3か月おき、病状が安定してきたら6か月~1年ごとの受診となることが一般的です。ただし、気になる症状があるときには、定期的な受診を待つことなく、受診することが望ましいとされます。

肺がん患者さんの「生存率」とは

肺がん患者さんの5年相対生存率については、ステージごとのデータが公表されています※

肺がんの5年相対生存率※2(2017年7月集計)

  • ステージI 83.8%
  • ステージⅡ 50.1%
  • ステージⅢ 22.4%
  • ステージⅣ 4.8%
  • 全症例 44.7%

※1 全国がん(成人病)センター協議会の生存率共同調査(2017年7月集計)による (対象:2006~2008年に診断を受けた患者さん)

※2 症例数は次のとおり ステージI:7,134件、ステージⅡ:1,309件、ステージⅢ:4,309件、ステージⅣ:5,011件、全症例:18,048件

※治療については、手術、放射線治療、薬物療法、そのほかの何らかの治療を受けた患者さんが対象となっています。各施設で公表しているデータや、手術のみを受けた患者さんを対象としたデータとは数値が異なる場合があります。

肺がんは完治・再発する?

がんの完治の目安とされているのは、上記の「5年相対生存率」です。

5年相対生存率とは、「がんと診断された患者さんのうち5年後に生存している方の割合」が、「日本全体で5年後に生存している方の割合※3」と比べて何%低いか、を算出した数値です。すべてのがんにおける5年相対生存率の平均は約6割に達しており、なかには甲状腺(こうじょうせん)がん、精巣がん、乳がんのように8~9割を超えるものもあります。

肺がんの5年生存率(2017年7月集計)は、全ステージの症例で44.7%と報告されています。ステージIでは83.8%となっており、より早期に適切な治療を受けることで、完治する可能性は高まるといえます。

また完治や再発の可能性は、がんの種類によっても異なります。小細胞肺がんは、がんの増殖が速く、転移しやすいという特徴があります。そのため診断されるときには進行し、遠隔転移がみられる可能性が高くなります。このような場合には、治療後に再発となる可能性も高くなると考えられます。

※3 正確には、性別、生まれた年、および年齢の分布を同じくする日本人集団

日常生活で注意すべきことは?

「肺がんとは?」でもあったように、喫煙は肺がん発症の大きなリスク因子です。タバコをやめること、タバコの煙を吸わないようにする(受動喫煙を避ける)ことも大切と考えられます。がんは喫煙や生活習慣だけでなく、多数の要因が複雑に重なり合い、長い期間を経て発症が明らかになる病気です。生活習慣の改善は一つの目安と捉えて、今の生活を見直すことが望まれます。

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