肺がんと聞くと、“たばこを吸う人がかかる病気”というイメージをお持ちの方も多いかもしれません。しかし、近年では喫煙習慣がなくても発症するケースも増えており、誰にとっても身近な病気になっています。また、自覚症状がほとんどないまま進行することが多いため、健康診断などをきっかけに偶然見つかることも少なくありません。今回は、NTT東日本関東病院 呼吸器内科 医長 野口 智史先生に、肺がんの基礎知識から予防、早期発見の重要性についてお話を伺いました。
肺がんとは名前のとおり、肺にできるがんを指します。肺がんとひとことで言っても、その中にいくつかの種類があるのをご存じでしょうか。
まず、増殖速度や治療法が異なることから、非小細胞がんと小細胞がんの2種類に大きく分けられます。さらに、非小細胞がんは主に腺がんと扁平上皮がん、大細胞がんに分類されます。
非小細胞がんの中でも、腺がんは日本人に多いとされているがんです。次いで、扁平上皮がん、大細胞がんの順に発生頻度が高くなります。小細胞がんは進行が早いタイプである一方で、薬物療法や放射線治療が効きやすいという特性があります。最近では治療の進歩により、長期的な生存が期待できるようになってきました。
なお、図のとおり多く発生しやすい場所は組織分類によってさまざまですが、一方で肺門部に腺がんが、あるいは肺野部に扁平上皮がんが発生することもあります。
肺門部にがんが発生すると、太い気管支を巻き込むことが多いため、咳や痰、血痰などの症状が出やすくなります。一方で肺野部にがんができると初期には症状が出にくく、健康診断での画像検査などで偶然見つかることが多いです。
肺がんの原因として、圧倒的に多いのはやはり喫煙です。特に扁平上皮がんや小細胞がんは、喫煙との関連性が非常に強いことが分かっています。たばこを吸わない方では、これらのタイプのがんにはかかりにくいと考えられます。なお、腺がんはたばこを吸わない方でも発症することがありますが、それでも非喫煙者と比べて喫煙者のほうが発症しやすいことは確かです。
ご自身でたばこを吸わなくても、周囲のたばこの煙を吸い込む受動喫煙も肺がんのリスクを高めます。そのほかPM2.5などによる大気汚染や、アスベストなどの職業的な曝露(物質にさらされること)もリスク因子として挙げられます。
さらに、慢性閉塞性肺疾患(COPD)*や間質性肺炎**といった慢性の肺の病気を抱えている方は、そうでない方と比べて肺がんを発症するリスクが高くなるといわれています。当院では、こうした慢性的な肺の病気を抱える患者さんの外来診療においても、定期的にX線やCT検査を行い、肺がんが発生していないかを確認しています。
*慢性閉塞性肺疾患:慢性気管支炎(気管支の炎症が長く続く)や肺気腫(肺の組織が壊れる)といった病気を含む総称で、咳や痰、息切れなどの症状が現れる。喫煙が主な原因とされる。
**間質性肺炎:酸素を取り込む肺胞(はいほう)を隔てる壁(間質)に炎症が起こり、間質が厚く硬くなる病気で、原因の1つに喫煙が挙げられる。
肺がんは初期には自覚症状が少ないこともありますが、進行すると徐々にさまざまな症状が現れてきます。可能な限り早期に肺がんを発見して治療につなげられるよう、どのような症状があるかを把握しておくことも大切です。
主な症状は、肺がんそのものが引き起こす症状と、肺がんが肺の外に広がる、あるいは転移したことで現れる症状に分けられます。
肺がんによって生じる症状としては、以下のようなものがあります。
肺がんが肺の外に広がったり、転移したりすることで現れる症状はさまざまです。たとえば肺がんが反回神経(声帯を動かす神経)にまで及ぶと、声がかすれることがあります(嗄声)。また進行した肺がんの中には、脳へ転移するものもあります。その場合は、脳のどの部分に転移するかによって症状が異なります。たとえば、運動機能をつかさどる部分に転移した場合は、手足に力が入らないといった麻痺が主な症状として現れます。これに対し、けいれんや頭痛は、脳のどこに転移しても広くみられる症状です。また骨に転移した場合には骨の痛みが現れることがあります 。
咳や痰の症状を「ただのかぜだろう」と思い込んで放置すると、病気が進行し転移が進んでしまうリスクがあります。転移をきたした場合、手術や放射線による根治的な治療が難しくなります。そのため、いつもと違う症状が長引く場合は、軽く考えないことが大切です。特に、2週間以上続く咳や痰、あるいはこれまでかぜを引いたときにはみられなかった症状(血痰や胸の痛み)などの症状があれば、定期的な検診を待たずに医療機関を受診するのがよいでしょう。
肺がんを予防するために最も効果的なのは、やはりなんといっても禁煙です。受動喫煙や大気汚染などは、気をつけようにも防げない部分がありますから、禁煙による積極的な予防をしていただきたいと思います。また、バランスのよい食事や運動習慣など、一般的な健康管理も心がけることは肺がん以外のがん予防にもつながります。
加えて日々の生活でできることとしては、定期的な検診を活用することが挙げられます。特に喫煙歴がある方や、上記でお伝えしたそのほかのリスク因子のある方は、定期的なX線・CT検査を推奨します。早めに受診することで、肺がん以外の病気が見つかることもありますので、肺がんだけにとらわれずに、まずは一歩を踏み出すことが重要です。
もし肺がんにかかっても、早期に発見できれば根治(完全に治ること)を目指すことができます。ご自身の体の変化に注意をよく払い、少しでも気になることがあれば、医療機関に相談しましょう。
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