概要
がんとは、一部の遺伝子が傷つくことによって異常な細胞が形成され、その細胞がどんどん増殖されていく病気のことです。がんの元となる異常な細胞は、全身のさまざまな部位に発生する可能性があるため、がんは身体の中にある臓器だけでなく、骨、筋肉、皮膚、血液などに発生することも少なくありません。
また、がんは細胞分裂を繰り返してどんどん大きくなっていきますが、周囲の臓器や血管などの組織を破壊しながら増殖していくのが特徴です。また、血管やリンパ管に入り込んだがんの細胞は血液やリンパ液の流れに乗って別の部位に移動し、そこで新たながんの塊を形成する“転移”を引き起こします。
現在、日本人の2人に1人は一生のうちで一度はがんになり、3人に1人の死亡原因はがんとされています。医学の進歩に伴い、がんは早期発見・早期治療によって克服が可能な病気となっていますが、がんの種類によっては急激なスピードで進行してしまうもの、自覚症状がほとんどないものもあるため早期発見が困難な場合も少なくありません。がんは進行すると発生部位の臓器などの機能を低下させるだけでなく、体内の栄養をどんどん奪って生育していくようになるなどの理由により、体力が著しく低下する“悪液質”と呼ばれる状態になり、最終的には死に至ります。
原因
がんは、遺伝子に傷が付くことによって異常な細胞が生み出されることが原因で引き起こされます。遺伝子に傷が付くメカニズムはがんの種類によって大きく異なり、いまだはっきりとした原因が分からないがんも少なくありません。
現在分かっているがんを引き起こす原因としては、喫煙、飲酒、野菜・果物の摂取不足、塩分や加工肉(ソーセージやハム)などの過剰摂取、運動不足、肥満など好ましくない生活習慣が挙げられます。とくに、たばこの煙には発がん性のある物質が多く含まれているため、たばこの害を受けやすい喉頭や肺、食道などのがんの発生リスクは非常に高くなります。
そのほか、肝炎ウイルス、ピロリ菌、ヒトパピローマウイルス、EBウイルスなどへの感染も特定のがんを引き起こすことが明らかとなっています。
またアスベストなど、発がん性のある化学物質に長時間さらされることもがんの原因となり、本来生体内にあるエストロゲン・プロゲステロン・アンドロゲンなどの性ホルモンも過剰に分泌されると生殖器系のがんを引き起こします。
一方で、一部のがんは遺伝との関連もあることが指摘されており、がんの発生に関わる特定の遺伝子変異の解明も進められているのが現状です。
症状
がんはごく小さな細胞から発生し、徐々に大きく進行していく病気です。そのため、がんの種類によって異なりますが、一般的には発症早期の段階では自覚症状はほとんどありません。
ですが、進行してがんが徐々に大きくなるとしこりを形成したりすることにより、周囲の正常な組織や臓器を破壊したり、圧迫したりすることでさまざまな症状を引き起こすようになります。また、一部のがんでは、体に悪影響を及ぼす物質を産生して発熱を引き起こすなど、全身的な症状があることも知られています。
また、がんはどんどん大きくなりますが、周辺の血管やリンパ管を破壊してがん細胞が内部に入り込むと、血液やリンパ液の流れにのって発生部位から離れた部位に新たながんを形成する“転移”を引き起こします。とくに血流の多い肝臓や肺、脳などはがんの転移が起こりやすい部位です。
そして、がんは多くのエネルギーを使いながら増殖していくのも特徴のひとつです。がんが進行すると体力低下や体重減少、食欲低下、体力低下、衰弱という症状を引き起こす“悪液質”という状態に至ります。悪液質に至ると、単に体力が落ちるだけでなく、免疫力が低下して感染症にかかりやすくなるなどさまざまな症状を引き起こします。
検査・診断
がんが疑われるときは必要に応じて次のような検査が行われます。
血液検査
貧血や炎症の有無、肝機能、腎機能など全身の状態を把握するために血液検査が行われます。また、血液検査ではがんを発症すると体内での産生量が増える特定の物質“腫瘍マーカー”の有無を調べることもでき、診断の手掛かりとなるだけでなく病状や治療効果を判定することも可能です。
画像検査
がんの有無やがんの状態を調べるためには画像検査を行う必要があります。X線検査や超音波検査などは簡便に行うことができ、がんの有無や大まかな大きさ・位置などを調べることが可能です。しかし、より詳しい状態や転移の有無などを調べるには、CT検査やMRI検査が必要となります。がんの種類にもよりますが、微小ながんを発見するためにPET検査が用いられることもあります。
また、食道、胃、大腸など内視鏡を挿入して観察できる部位にあるがんに対しては内視鏡検査が行われます。
病理検査
がんの病変部の組織の一部を採取して顕微鏡で詳しく観察したり、がんを引き起こす遺伝子変異の有無などを調べたりする検査です。確定診断のために必須の検査となっています。
病変部の組織の採取方法はがんの種類によって異なり、胃や大腸、食道、膀胱などのがんは内視鏡を用いた採取が行われます。一方、内視鏡が届かない範囲に発生するがんの場合は体表面から病変部に目掛けて針を刺して採取する方法が取られます。そのほか、白血病など血液の細胞に生じるがんの場合は採取した骨髄の病理検査を行うのが一般的です。
治療
現在、がんの治療は手術・薬物療法・放射線療法の3つの治療を単独、または組み合わせることによって行われています。
がんの根本的な治療は手術によるがんの切除ですが、がんが発生した位置や進行度などによっては手術ができないことも少なくありません。そのような場合には、がんを縮小させる効果のある抗がん剤や分子標的治療薬などを用いた薬物療法や放射線療法が行われます。また、手術を行った場合でも再発を防いだり、手術前に少しでもがんを縮小させたりするために薬物療法や放射線療法が組み合わされるケースも少なくありません。
薬物療法では、がんの細胞を死滅させる細胞障害性の抗がん剤による化学療法のほか、2000年以降には分子標的薬という治療薬が登場しました。分子標的薬は、がんの増殖に関わる分子にはたらきかけることでがんの増殖を防ぐ治療薬です。化学療法剤と比較すると副作用が少なく、特定の割合で効果を示すといわれています。また、薬物療法にはこのほかにも免疫チェックポイント阻害薬などがあります。
昨今のがん治療では“プレシジョン・メディシン(精密医療)”という考え方が取り入れられており、患者1人1人の体質やがんの特徴に合わせた治療が盛んに行われています。その1つとしてがん遺伝子パネル検査を用いたがんゲノム医療が挙げられます。2019年6月から、がんの標準治療がないか、または終了した患者さんを対象にがんの組織を採取し、次の何らかの薬物療法を探索するために、遺伝子異常を調べる“がん遺伝子パネル検査”を保険診療で実施できるようになりました。
がん治療では、一見同じがんにみえても、効果を示す治療薬が異なるケースがあります。そこで、遺伝子パネル検査により遺伝子の異常を明らかにすることで個々の患者さんに効果のある治療薬を選択することが可能となってきています。
一方、全身に転移が広がっているために治療を行うことでかえって全身の状態を悪化させてしまう可能性があるケースでは、がんによる痛みを緩和して安らかな生活をかなえるための緩和療法なども行われます。
予防
がんは好ましくない生活習慣によって引き起こされるケースも多いため、禁煙、食生活や運動習慣の見直し、感染症治療などを行うことで発症するリスクを下げることは可能です。
それでも、がんは徹底した対策をしても発症を完全に予防することはできません。そのため、定期的にがん検診や健康診断などを受けて早期発見に努めることが大切です。
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