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AYA世代がんの包括的ケア提供体制――医療や支援の課題について

AYA世代がんの包括的ケア提供体制――医療や支援の課題について
清水 千佳子 先生

国立国際医療研究センター病院 がん総合診療センター 副センター長、乳腺・腫瘍内科 医長

清水 千佳子 先生

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思春期・若年成人(AYA世代)と呼ばれる若い世代のがん、AYA世代がん。近年、AYA世代がんの患者さんが抱える若い世代ならではの多様な悩みや不安を軽減できるよう、さまざまな団体や施設が医療・支援の提供体制づくりに取り組んでいます。今回は、AYA世代がんの医療と支援に関する活動や、医師としての思いについて、国立国際医療研究センター病院 乳腺(にゅうせん)腫瘍内科(しゅようないか)清水(しみず) 千佳子(ちかこ)先生に伺いました。

AYA世代がんに対する総合的な治療とサポート』でも述べたように、国立国際医療研究センター病院は2018年にAYA支援チームを立ち上げました。私が研究代表者を務めさせていただいていた厚生労働科学研究費(がん対策推進総合研究事業)「思春期・若年成人(AYA)世代がん患者の包括的ケア提供体制の構築に関する研究」班としての活動の延長線上で実践している取り組みです。

乳腺・腫瘍内科の医師である私と共に、産婦人科の医師、小児科の医師、ゲノム医療を専門とする医師、看護師、ソーシャルワーカーなどが協力し、AYA世代がんの患者さんや小児がん経験者の方々に対する支援やケアを行っています。若い世代のがんの患者さんは数が少なく、忙しい現場ではこちらから患者さんの悩みに気付けないことが多いです。そこで、当院では事務スタッフの助けを借りて、AYA世代の患者さんをサポートする“AYA支援チーム”があることを入院のタイミングでお伝えできるよう診療の流れを整えています。また入院中の患者さんだけでなく、外来の患者さんにもAYA支援チームの存在を伝えるよう努め、困ったり悩んだりしている患者さんがいれば寄り添って一緒に考えていきたいと思っています。

AYAがんの医療と支援のあり方研究会(以下、”AYA研“)は、先述した研究班のメンバーが中心となって2018年に立ち上げた研究会です。病院の中だけで解決するのが難しい支援などの課題に対応していけるよう、医療従事者だけでなくAYA世代でがんを経験された方、がんを経験していなくてもAYA世代のがんの方の支援に携わっている方を巻き込んで、AYA世代がんの方が生きやすい医療や社会の構築を目指して活動しています。研究会というと少し固いイメージがあるかもしれませんが、当会は職種や立場に関係なく、フラットな立場で和気あいあいと議論する雰囲気が特色です。

私たちAYA研は、全国各地でAYA世代がんに関する取り組みを行っている団体や施設に呼びかけて、2021年3月14日から21日まで全国各地で“AYA week 2021”というイベントを開催しました。患者会主催のイベントや、大学生が主催するAYA世代のがんについて考える会、成人式で振袖や袴を着られなかった方に向けた一般企業による撮影会、音楽活動を行う若い人たちと一緒にAYA世代のがんについて語り合う会など、約80の団体が参加してくださいました。

このようなイベントの実施をとおして、AYA世代がんの患者さんが抱える問題をより多くの方に知っていただき、患者さんの孤独感や孤立感の改善につなげていくことが重要だと考えています。

提供:PIXTA
提供:PIXTA

AYA世代がんは、小児がんや高齢の方のがんと比べて予後の改善率が低いことが分かっています。その理由の1つとして考えられるのが、AYA世代がんの患者さんは長期的にさまざまな健康の問題を抱える可能性があるということです。同じ世代でがんを経験していない方と比べると、AYA世代のがん経験者は、高脂血症、骨粗しょう症心疾患といった病気のリスクが高くなるといわれています。がんの治療が終了すると、がんの治療施設を離れてしまうことが多いですが、その後の包括的な健康管理についても医療者が目を向けるよう、啓発とともに研究を進めていかなければなりません。

多職種でAYA世代がんの患者さんを支援するチームは国内の医療機関でも見られるようになりましたが、取り組みの進み具合には地域格差があると感じています。都会の病院は若い患者さんが多くニーズが見えやすい一方、若い方が少ない地域では患者さんが孤立しやすく、リソースも不足していることが多いため、ケアを届けられるような工夫が必要になります。

AYA世代がんの患者さんの悩みごととして挙げられることが多い妊娠・出産に関しては、人口の少ない地域に生殖医療を提供できる体制づくりが1つの課題となっています。近年、沖縄県や離島でその仕組みづくりに戦略的に取り組まれている方々がいらっしゃって、都会から離れた地域にこそ優れたモデルがあるのではないかと注目しています。患者さんが専門的なアドバイスを受けつつ島の医療機関で治療を継続できるような仕組みやネットワークの構築を目指して、私も一緒に取り組んでまいります。

AYA世代のがんの患者さんは、がん全体で見ると数が少なく、病状や背景は多種多様です。そのため、医療機関としても診療の経験を蓄積しにくいという構造的な問題があると考えています。10歳代など若い患者さんが受診され、どのような悩みごとがあるのか想像もつかないということもあるのではないでしょうか。

私は、医療従事者は自分自身の若いときの経験を振り返って、自分事として考えながら患者さんに接することが大切だと思っています。病気以外の問題についても「自分がそのとき病気になったらどう考えるだろう」と想像すればよいのであって、難しく考える必要はありません。若いときの恋愛、親との関係、お金の問題など、ぜひ想像力を膨らませてみてください。患者さんが悩みを口にしてくれたら、周りのスタッフたちと共有して必要な支援につなぎます。それができれば、単にがんを治療するだけではなく、患者さんに寄り添うケアを提供する一歩になるのではないかと思います。

一方、医療機関の中でできることは限られているにもかかわらず、求められる支援には際限がないと感じるなかで、医療機関の外の資源をもっと育てていく必要があるのかもしれないと考えているところです。AYA世代がんに関わる医療従事者の方には、その落としどころをぜひ一緒に考えていただけたら嬉しく思います。

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  • 国立国際医療研究センター病院 がん総合診療センター 副センター長、乳腺・腫瘍内科 医長

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