概要
貧血とは、血液中の赤血球に含まれるヘモグロビンの量が少なくなった状態です。ヘモグロビンは全身に酸素を運ぶ重要なはたらきをしているため、その量が少なくなると運べる酸素の量も少なくなって全身が酸欠状態となり、めまいや立ちくらみ、頭痛などのさまざまな症状が現れるようになります。
特に女性は月経で血液を失うため貧血になりやすく、中でも若い女性はダイエットや偏食など不摂生な食生活によって貧血になる人が増加傾向にあるとされています。一方、男性の貧血は多くの場合、消化管に出血が生じる病気など重篤な疾患が原因となっています。
生活の中で生じる些細な症状の原因が実は貧血ということも多くあります。気になる症状がある場合は医師に相談することが大切です。
種類
貧血にはさまざまな種類があります。代表的な貧血の種類は以下のとおりです。
鉄欠乏性貧血
ヘモグロビンの元となる鉄が不足することによって生じ、貧血全体の約7割を占めるといわれます。赤血球に含まれるヘモグロビンが少なくなるため、赤血球の大きさが小さくなることが特徴です。
再生不良性貧血
血液を作る役割を持つ骨髄のはたらきが低下することによって起こります。赤血球だけでなく白血球・血小板も減少し、国の指定難病にもなっています。
骨髄異形成症候群
一般的にがんの1つとして知られており、赤血球を産生する骨髄のはたらきの異常によって主に貧血が生じます。また、多くの場合、白血球や血小板の減少を伴います。再生不良性貧血と同じく骨髄の異常により発症しますが、骨髄異形成症候群の骨髄は正~過形成であるのに対して、再生不良性貧血は低形成であり、それぞれで治療法が異なるため鑑別が必要です。
巨赤芽球性貧血
ビタミンB12や葉酸の不足で赤血球が減少することによって起こる貧血の総称です。赤血球が大きくなることから、巨赤芽球性貧血と呼ばれます。
溶血性貧血
溶血性貧血は、さまざまな原因により赤血球が寿命(120日)よりも早く壊れ(溶血)、ヘモグロビンが流出することによって起こります。先天性の約70%は、赤血球膜の遺伝子異常によって発症する遺伝性球状赤血球症です。一方、後天性では自己免疫性溶血性貧血(AIHA)がもっとも多いといわれています。赤血球膜上の抗原に対して自己抗体が産生され、それらが結合することで赤血球が破壊されて貧血を生じます。また、自己免疫性溶血性貧血は抗体が赤血球に結合する温度によって大きく以下の2つに分類されます。
- 37℃で自己抗体が結合する温式AIHA
- 4℃で自己抗体が活性化する冷式AIHA(寒冷凝集素症*、発作性寒冷ヘモグロビン尿症**)
*寒冷凝集素症:赤血球が破壊され、貧血症状のほか、赤血球同士がくっつき(凝集)手足などの細い血管内の血流が悪くなり末梢循環障害を引き起こす。皮膚が青紫色様となるチアノーゼ症状や、痛みやしびれなどの感覚がにぶくなるレイノー現象がみられる。
**発作性寒冷ヘモグロビン尿症:DL抗体とよばれるIgG自己抗体によって起こる。感染症をきっかけに発症し、貧血症状のほか赤血球が破壊されることで尿中にヘモグロビンが放出され、赤ワインのような色をした尿(ヘモグロビン尿)がみられる。
腎性貧血
腎臓では、赤血球の産生を高めるエリスロポエチンという造血因子が作られています。腎臓が悪くなることでエリスロポエチンの産生が低下し、貧血が起きた状態を腎性貧血といいます。
慢性炎症に伴う貧血
慢性関節リウマチなどの慢性炎症が存在すると、体の中で鉄の囲い込みが生じるようになり、鉄の利用が妨げられます。つまり、体の中に鉄は十分存在しても、鉄が利用されにくくなり鉄欠乏性貧血のような状態になります。
原因
貧血の原因は種類によって異なります。
貧血のなかで最も多い鉄欠乏貧血は、ヘモグロビンの元となる鉄不足が原因です。鉄の摂取不足のほか、妊娠・授乳による鉄の需要増加、過多月経や消化管からの出血によって起こります。
そのほかの原因としては、骨髄・腎臓などの病気、ビタミンB12・葉酸などの栄養不足、免疫の異常などが挙げられます。
症状
貧血に伴って現れる症状は以下のとおりです。
- めまいや立ちくらみがある
- よく頭が痛くなる
- 息切れがする
- 倦怠感がある
- 疲れやすくなる
- 味覚がおかしくなる
- 朝すっきりと起きられない
- 集中できなくなる
- 顔色が悪くなる
- 胸が痛む(心臓病など心臓のはたらきが低下しているため)
- 爪がもろくなる
- 口角炎や舌炎が生じる
- 飲み込みづらくなる
など
症状が強くなると、やる気が起きないなど日常生活に支障が出ることもあります。
ときに無症状のことがあり、健康診断などで行われた血液検査の結果から貧血を指摘されることもあります。
検査・診断
まず血液検査で、赤血球数(RBC)やヘモグロビン濃度(Hb)、ヘマトクリット値(Ht:赤血球の容積の割合)などを調べます。
そのほか、貧血の原因を特定するため、女性の場合は子宮筋腫や子宮がんなど婦人科系の病気、閉経後の女性や男性の場合は胃・十二指腸潰瘍、ポリープ、がん、痔など消化器科系の病気などの検査を行います。そのほか骨髄に原因があると考えられる場合には、骨髄検査も行います。
治療
貧血の原因を特定して、原因に応じた治療を行います。
鉄欠乏性貧血の場合は、主に鉄剤の内服が検討されます。鉄剤の内服によって悪心、嘔吐などの副作用が生じる場合は、通院して鉄剤を注射で投与します。近年、カルボキシマルトース第二鉄やデルイソマルトース第二鉄のように、鉄剤が多く含まれ週に一度の投与でも薬の作用が持続する注射薬が保険適用されました。1~3回の投与で症状の改善が見込めるケースもあり、患者の通院負担が以前より減る点がメリットに挙げられます。一方、注射薬は直接血管内に投与するため鉄過剰に陥る可能性がある点は注意が必要です。人体には鉄を排泄する機能がなく、鉄過剰を改善することは容易ではないといわれています。鉄過剰とならないためには、定期的に血液検査を行って過量投与になっていないか確認することが大切です。
貧血の改善には食事療法も重要です。栄養バランスが整った1日3食の食事を基本として、貧血の改善につながる栄養素や食べ方のポイントなどを指導します。重症の貧血の場合、たとえば強い症状が出ていたり、心臓の負担が大きかったりするときには、輸血が行われることもあります。
予防
貧血の場合は食事から鉄分を摂取することが大切です。成人した日本人の場合、1日に食事から摂取する鉄の量は男性で7.5mg、月経のある女性では10.5mg、月経のない女性では6.5mgが推奨されています。吸収率の高いヘム鉄を多く含むレバーやかつおのほか、非ヘム鉄を豊富に含む豆製品や小松菜、ひじきなどを意識的に摂取するとよいでしょう。また、鉄の吸収を助けるビタミンCや動物性たんぱく質などを積極的に取りましょう。胃酸を十分に分泌させ吸収をよくするために、よく噛んでゆっくり食べることも効果的です。
このほか、無理なダイエットをしたり朝食を抜いたりするといった食生活を見直すことも必要です。通常の食生活でこれらの栄養素を十分に取ることができない場合は、サプリメントなどの食品を取り入れるのも1つの手段です。
特に女性はライフステージに応じて貧血が起こりやすい時期があります。月経のある間は婦人科系の病気によって貧血が生じることがあり、妊娠中は栄養が不足しやすくなることで貧血が生じることもあります。男性の場合は消化管の病気による貧血の可能性があります。気になる症状があれば病院の受診を検討しましょう。
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