てつけつぼうせいひんけつ

鉄欠乏性貧血

最終更新日
2023年10月31日
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2023/10/31
更新しました
2021/04/21
更新しました
2017/04/25
掲載しました。

概要

鉄欠乏性貧血とは、体内の鉄不足によって生じる貧血のことです。血液中には赤血球、白血球、血小板、血漿といった成分が含まれています。このうち、赤血球は全身の組織に酸素を運ぶ役割を果たしており、赤血球に含まれるヘモグロビンが酸素とくっつくことで、酸素が血液に乗って全身へと運ばれます。

このヘモグロビンを作るためには鉄が不可欠で、鉄が不足するとヘモグロビンがうまく作られなくなります。そうすると全身に十分な酸素が行きわたらず、動悸や息切れ、めまい、立ちくらみ、疲れやすいなどの症状が現れるようになるのです。

貧血にはさまざまな種類がありますが、もっとも多いのが鉄欠乏性貧血です。特に月経のある女性に多く、日本では20~40歳代の女性の約2割が鉄欠乏性貧血であるといわれています。

原因

鉄欠乏性貧血の原因は、出血による鉄の喪失、鉄の摂取不足、鉄の吸収障害の3つに大別されます。

出血による鉄の喪失

鉄欠乏性貧血の原因としてもっとも多いものが出血です。出血の原因には胃や十二指腸および大腸の潰瘍(かいよう)や炎症、がんが挙げられます。男性の場合、このような消化器からの出血が中心ですが、女性の場合は消化管出血に加え、多くは過多月経や婦人科疾患に伴う出血が原因となります。

鉄の摂取不足

偏った食事やダイエットで極端な節食が続くと、食事から十分な鉄分を摂取することができなくなります。特に成長の著しい思春期、妊娠中、授乳期には鉄分の必要量が増えるため、鉄欠乏性貧血を起こしやすくなります。

鉄の吸収障害

食事から摂取した鉄は胃酸によって吸収されやすい形になります。そのため、胃炎や胃切除後、胃酸抑制薬などの薬を服用している場合には、胃酸の分泌が低下して鉄が吸収されにくくなり、鉄欠乏性貧血を起こすことがあります。

症状

全身に十分な酸素が運ばれなくなると体内の各所が酸欠状態になり、動悸や息切れ、めまい、立ちくらみ、耳鳴り、疲れやすい、頭が重い、顔色が青白い、集中力の低下などの症状が現れます。

また、鉄が不足することで、爪が割れやすい、髪が抜けやすい、肌のかさつき、口の周りや舌が荒れる、無性に氷を食べたくなるといった症状が見られるようになります。

一般的にこのような症状は貧血が急速に進むと強く現れ、ゆっくり進むと弱く現れるか症状が出ないこともあります。また、高齢の方は若い方と比べて症状が強く現れる傾向があります。

検査・診断

鉄欠乏性貧血の診断は血液検査によって行います。貧血の有無は血液中のヘモグロビン濃度Hb)を調べることで分かりますが、貧血にはさまざまな種類があるため、赤血球数(RBC)、赤血球の大きさ(MCV)、網状赤血球(ret)、血清鉄(Fe)、総鉄結合能(TIBC)、血清フェリチンなどの項目も調べます。

一般的に、Fe低値とTIBC高値であれば鉄欠乏性貧血と診断します。また、血清フェリチンは貯蔵鉄の量を反映して増減し、低値を示す病態は鉄欠乏性貧血以外にないため、血清フェリチンが低値を示すと鉄欠乏性貧血が確定となります。

血液検査で鉄欠乏性貧血であることが分かったら、その原因を調べます。胃や十二指腸、あるいは大腸からの出血、女性では婦人科疾患に伴う出血によって鉄欠乏性貧血が起きている場合があるため、必要に応じて検便や内視鏡検査、超音波検査などを行います。

治療

鉄欠乏性貧血は、鉄剤を補うとヘモグロビン値も臨床症状も改善しますが、それを引き起こした原因疾患の精査とその治療が重要です。それを怠ると、がんなどの重要疾患の発見が遅れてしまいます。原因疾患の精査後、あるいは並行して、欠乏した鉄の補充が行われます。鉄の補充には内服薬によるものと注射によるものの2通りがありますが、通常は鉄剤の内服治療を優先します。

治療方法としては鉄剤を毎日1~2回服用し、定期的に検査をしながら、貧血の程度に応じて数か月続けます。ただし、過多月経が原因の場合には、子宮筋腫などの過多月経を起こしている原因治療を行うか、閉経まで薬を飲み続ける場合もあります。

消化器症状などが出て、鉄剤の内服が難しい場合や、鉄の吸収不良などで内服による効果が得られない例では、静脈注射で鉄剤を補充する場合があります。注射の投与は病院で行います。以前は週に複数回と頻繁に通院する必要がありましたが、カルボキシマルトース第二鉄やデルイソマルトース第二鉄のように週に一度の投与で効果が長く続く薬剤が近年保険適用され、患者の負担の軽減が期待されています。通常は週に1回投与し、1~3回の投与で臨床効果が得られます。また貧血の程度によってはさらに間隔を空けて投与することもあります。しかし、注射薬は鉄過剰に陥る可能性があります。鉄剤の経口投与であれば、過量に投与しても十二指腸で吸収を調節するため鉄過剰にはなりにくいですが、注射剤の場合は血管に注入するため過剰投与に注意する必要があります。人体には過剰の鉄を積極的に排泄する機能がなく、いったん鉄過剰になると簡単には改善できないため注意が必要です。

予防

鉄欠乏性貧血の予防には、バランスのよい食事を十分に取ることが大切です。

食品中の鉄には“ヘム鉄”と“非ヘム鉄”の2種類があり、一般にヘム鉄は肉や魚などの動物性食品に含まれ、非ヘム鉄は野菜や穀類などの植物性食品に含まれるといわれています。ポルフィリン環に鉄が結合したものをヘムと呼び、このヘムがグロビンというタンパクに結合したものがヘモグロビンです。一方、非ヘム鉄は、タンパク質に結合していない無機鉄を指します。

非ヘム鉄はヘム鉄よりも体内で吸収されにくいですが、動物性食品と植物性食品を同時に摂取することで非ヘム鉄の吸収がよくなります。また、鉄を多く含む食品ばかり食べているとほかの栄養素が不足してしまうため、バランスよく食べるよう心がけましょう。

なお、食事療法は鉄欠乏性貧血の予防に有用ですが、食事療法のみで治療するのは困難です。したがって、すでに発症している場合には病院で治療をしっかりと受けることが大切です。

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