概要
遺伝性球状赤血球症は、血液を構成する細胞のうち、各臓器や組織への酸素運搬を担う赤血球という細胞の遺伝的な形態異常によって起こる病気です。常染色体優性遺伝という形式で遺伝することが多いです。症状の程度は個人差が大きく、小児期に非常に重い症状を起こす場合もあれば、成人してから検査結果の異常で偶然発見される場合もあります。
原因
赤血球は狭い血管を通過できるように、正常では中央部分がへこんだ楕円のような形をしています。この形態によって、狭い部分を通過する際に細胞が折りたたまれ、細胞を傷つけずに流れていくことができます。
しかし、球状赤血球症では細胞骨格を作り上げるタンパク質の遺伝子異常があるため、赤血球が通常通り変形することができず、細い血管や脾臓を通過するたびに細胞膜が削り取られていきます。細胞膜の面積が減っても細胞の中身の量は変わらないため、同じ表面積でもっとも体積を多くできる球状に赤血球が近づいていきます。最終的には細胞膜が薄くなることで形を保てず脾臓で赤血球が壊されてしまいます(血管外溶血)。
細胞骨格に関わるタンパク質には多くの種類があり、どのタンパク質にどのような異常が出るかによっても病気の深刻さは異なってきます。
症状
重症の場合は、胎児期に高度の貧血のため、胎児水腫という状態を起こすことがあります。新生児期に症状が出る場合は、溶血のために血液中にビリルビンが増え、新生児黄疸を起こして発見されることがあります。
遺伝性球状赤血球症の患者さんでは、赤血球が壊れずに体内を循環できる期間が病気のない方と比べて少ないため、常に骨髄が活性化して多めに赤血球を作り続けている状態です。そのため、パルボウイルス感染やビタミンB12不足など、骨髄の活動を抑制するような出来事があると急激に貧血が進行して症状を起こす可能性があります。
また、溶血によって赤血球からビリルビンが漏れ続けているため、肝臓がそれを処理しきれずにビリルビンが胆石を作り、胆石疝痛発作を起こす可能性があります。
検査・診断
症状が強くない方ではほとんどの場合、通常の血液検査で血液細胞を観察した際に球状赤血球数が多いことで病気が疑われます。細胞骨格に関わるタンパク質の異常の程度によって球状赤血球数も異なってきます。その後は、血液中で溶血が起こっているかを確認する検査、自己免疫性溶血性貧血など、ほかの溶血を起こしうる病気を除外するための検査、浸透圧に対する赤血球の脆弱性をみる検査を行います。
治療
遺伝性球状赤血球症では、支持的な治療法として、正常より多くの量が必要となる葉酸を経口で補充します。
また、脾臓での溶血は、遺伝性球状赤血球症の症状を起こすうえで重要な過程です。そのため、溶血や貧血に伴う症状が高度な方や、これらの症状が軽度でも胆石が認められる方などでは、脾臓を外科手術によって取り除く脾摘が治療法となります。脾摘後は感染症に対して抵抗力が弱くなるため、脾摘の前にワクチン接種を受けることが推奨されます。
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