概要
胎児水腫とは、胎児の胸やお腹に水がたまったり、全身に浮腫をきたしたりする重篤な病気です。
原因は大きく“免疫性胎児水腫”と“非免疫性胎児水腫”に分けられ、およそ9割が非免疫性胎児水腫であるといわれています。免疫性胎児水腫は母体と胎児の血液型が適合しない場合に胎児が貧血状態を起こし発症するもので、“Rh(D)不適合妊娠”が代表的な病気として挙げられます。
一方の非免疫性胎児水腫は、免疫性胎児水腫の原因に該当しないものが分類され、主な原因は先天性心疾患や先天性ウイルス感染症、染色体異常などです。
また、胎児水腫を起こし妊娠30週未満で出生した場合の予後は極めて不良とされ、中でもエプスタイン病などの胎児心臓構造異常が原因となる胎児水腫の場合は出生週数にかかわらず生命予後が不良とされています。
いずれの場合においても胎児水腫は重篤でまれな病気であり、専門の高次医療を取り扱う機関への受診が必要です。
原因
胎児水腫の原因は、免疫性と非免疫性に分けられます。
免疫性胎児水腫
免疫性胎児水腫の原因は、母体と胎児間での血液型の不適合によるものです。Rh(D)不適合妊娠が代表的な病気として挙げられ、母体と胎児との間で血液型が適合せず、胎児が貧血を起こすことで結果的に発症することがあります。
しかし、Rh(D)不適合妊娠による胎児水腫は一般的に第2子以降に発症するといわれています。その背景には、母親がRh(D)陰性、父親がRh(D)陽性である場合、第1子の妊娠中または分娩時に胎児の血液が母体に流れ込むことが関係しています。
Rh(D)陰性の母親がRh(D)陽性の子を分娩した場合、必然的にD抗原が母体に流れ込むため、母体で抗D抗体が作り出されることがあります。それを感作といいます。
感作された母体では、第2子以降にRh(D)陽性の子を妊娠すると、免疫反応が強く起こり、母体で産生された抗D抗体が胎児に移行し、胎児の赤血球が破壊され、貧血による心不全をきたし胎児水腫となります。
また、免疫性胎児水腫の原因はRh(D)だけでなく、ほかの不規則抗体が原因になることもあります。
非免疫性胎児水腫
非免疫性胎児水腫は、免疫性胎児水腫に分類されない原因によって発症したものです。
心臓構造異常、不整脈や特発性心筋症などの心血管系の異常、奇形症候群や21トリソミーなどの染色体異常症、TORCH症候群などの感染症、胎児胸部疾患(CPAM)、リンパ管異常などが主な原因です。
このように、非免疫性胎児水腫の原因は多岐にわたる病気や異常が原因になっていることが特徴です。
症状
胎児水腫では、胎児に生じる症状と母体に生じる合併症があります。
胎児の症状
胎児水腫では、胸水や腹水がたまる腔水症や全身に広く浮腫を生じることが特徴です。そのほか、非免疫性胎児水腫の場合には、胎児水腫を引き起こす原因の病気による症状が現れる可能性があります。
母体の合併症
胎児水腫の重篤な母体合併症の1つに、胎児と同様に母体に浮腫や胸水、腹水などをきたすミラー症候群という病気が挙げられます。浮腫や胸水、腹水のほか、タンパク尿や肺水腫、重症高血圧症、胎盤浮腫などを生じることもあります。
検査・診断
胎児水腫が疑われる場合は超音波検査を行い、胎児の皮下浮腫や胸水、腹水、羊水過多、胎盤肥厚、心嚢液を確認します。このうち2つ以上の異常が確認された際に胎児水腫と診断されます。
このほか、免疫性と非免疫性とでそれぞれ以下のような検査を行うこともあります。
免疫性胎児水腫
Rh(D)不適合妊娠の場合には、妊娠28週までに母体間接クームス試験という検査を行い、不適合妊娠の有無を確認します。陰性であった場合は妊娠28週前後で乾燥抗D (Rho) 人免疫グロブリンを投与し、母体の感作を予防します。
また、中大脳動脈最大収縮速度計測により胎児の貧血を疑うことができます。正確に胎児のヘモグロビン濃度を測定するには臍帯穿刺が必要です。
非免疫性胎児水腫
確認された異常や病気に対し、診断のための検査を行います。
胎児に心血管系の異常が疑われる場合には心エコー検査などを実施し、染色体異常症の疑いがある場合には胎児の血液や羊水により染色体検査が行われます。このほか、形態異常の診断には胎児MRI検査が有用な場合もあります。
治療
胎児水腫がRh(D)不適合妊娠を含む血液型不適合妊娠が原因と考えられる場合には、臍帯穿刺で胎児の貧血を確認したうえで胎児輸血を検討します。リンパ管異常で胎児胸水が多量の場合には、胎児胸腔・羊水腔シャント術が有用な場合もあります。
このように、胎児水腫の場合には妊娠週数や母体・胎児の状態を加味したうえで、胎児水腫を引き起こす病気に対する治療が行われます。
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