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肺がんに対する手術――低侵襲手術、治療選択のポイント

肺がんに対する手術――低侵襲手術、治療選択のポイント
後藤 太一郎 先生

地方独立行政法人山梨県立病院機構 山梨県立中央病院 呼吸器外科 センター長

後藤 太一郎 先生

目次
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部位別がん死亡率(2019年)の第1位となっている肺がん。命に関わる病気だからこそ、手術ではより安全に根本的な治療を行うとともに、患者さんの体への負担を軽減することが重要だといわれています。今回は、肺がんの低侵襲手術(ていしんしゅうしゅじゅつ)や、手術できる可能性のある肺がんへの対応について、山梨県立中央病院 肺がん・呼吸器病センター センター長の後藤 太一郎(ごとう たいちろう)先生に伺いました。

肺がんの手術では、出血や合併症を防ぐこと(安全性)、がんを残さず取りきること(根治性)が重要です。当院では、短時間で手術を終えて合併症を起こさないことを意味する“綺麗に早く治す”をモットーとして、患者さんの生存の可能性を少しでも広げられるよう、安全性と根治性を向上させる手術の実践に努めています。

さらに、患者さんの体への負担を減らして痛みを抑えること(低侵襲性)を目指し、小開胸手術、短時間手術、無痛法の開発などの術式改良を行っています。

低侵襲手術には、体に小さな穴を開けて行う内視鏡手術やロボット手術と呼ばれる方法があります。傷あとが小さくて済むというメリットがあり、大腸がん胃がん前立腺がん、婦人科がんなどさまざまながんの治療として広く普及しつつありますが、実は、肺がんに対する手術としては低侵襲とはいえない方法だと思います。

全身の血液が流れ込んでくる肺の血管は、体のほかの部位の血管と異なり、太くて軟らかく破れやすくなっていることが特徴です。そのため、手術の際に大出血などの合併症を起こすことのないよう、傷の大きさよりも安全性や根治性を重視した“開胸手術”が一般的に行われます。これは、皮膚を切開して胸の中の操作を直視下に行う従来の方法です。なお、ある程度の大きさの開胸は必要ですが、医療の進歩により、切開する傷の大きさは大幅に縮小してきています。

また当院では、縦隔(じゅうかく)(左右の肺に挟まれた空間)に生じる縦隔腫瘍に対しては、積極的にロボット手術を選択しています。ロボットを用いても腫瘍を取る際の困難が少なく、患者さんにとってメリットが大きいと考えられるためです。

合併症の発症率を低く抑えて短時間で手術を終えることは、患者さんの体への負担を減らして回復を早めるとともに、入院期間の短縮にもつながります。当院では、肺がん手術における出血量を平均10cc程度と微量に抑え、手術時間は1時間程度で終了するよう努めています。

術後は、患者さんの状態などに合わせて多少の変更を行う場合もありますが、クリニカルパス(入院診療計画書)に沿ってケアしていき、多くの場合は術後5~6日程度で退院が可能です。ただし、糖尿病のコントロールや手術前の抗凝固薬休薬など術前の対応が必要だと入院期間が延びることもあります。

術後の痛みを不安に思われている患者さんも多いのではないでしょうか。そこで当院は無痛手術を開発し、肺がん手術のほぼ全例で導入しています。これは、手術時に創部周辺に薬液のたまる空間を作り、術後そのスペースに局所麻酔薬を持続的に注入し、傷の部分だけ痛みを抑える当院独自の方法で、傍脊椎(ぼうせきつい)ブロックと呼ばれる麻酔法によるものです。患者さんが術後の痛みに悩まされず快適に生活できるよう、従来の麻酔法(硬膜外麻酔)に加えて行うことで痛みを積極的にコントロールしています。

提供写真
山梨県立中央病院 肺がん・呼吸器病センター 手術の様子

肺がんとはどのような病気? 早期発見が重要な理由とは』でも述べたように、肺がんは早期発見すれば手術で治癒できる病気です。一方、遠隔転移などの理由で手術できないといわれている患者さんでも、実は手術できるケースだったということがあります。

肺がんは、手術できるケースとできないケースに二分されるわけではなく、実はその境界にあたる症例もあるのです。たとえば、リンパ節が腫れていても遠隔転移はしていない場合。私はそれを“勝負の領域”と考え、いかに完全切除するかということに力を注いでいます。

手術できる可能性が残っている患者さんは、院内カンファレンスを行うなかで偶然見つかることもあります。こうした症例もあるからこそ、手術の適応をしっかりと判断するとともに、簡単に治療を諦めてはならないと考えています。

肺がんが見つかったら、ぜひ、肺がんの診断や治療に慣れた病院にかかることをおすすめします。可能であれば、ほかの医師にも相談するかセカンドオピニオン(第2の意見)を利用して、より適切な診断や治療につなげてください。転移の有無や治療の適応に関する判断は、その後の見通しにも関わる重要なポイントだからです。

当院では、内科や外科、放射線科、病理診断を行う医師なども集まって、患者さん一人ひとりに合った治療法を丁寧に検討することを心がけています。このように、複数の医師の目を通して判断することは非常に大切だと考えています。

当科は2014年、肺がん・呼吸器病センターを立ち上げて新たなスタートを切りました。それ以降の症例数は増加し、特に肺がんに関して、2018年度では274例の手術を行っています。肺がん手術を専門とする私も内科の症例を全て確認しております。内科と外科で緊密な連携を取りながら治療にあたり、治療成績は年々向上しています。

当院は、人工肺装置のECMO(Extracorporeal membrane oxygenation)を導入し、高度救急救命センターと連携し、必要な患者さんに随時使用しています。ECMOは、肺の機能が低下して生命維持が難しくなったとき、血液を体外に出し酸素化してから体内に戻すことで肺の代わりを担う装置です。肺の手術中は、反対側の肺だけで酸素を取り込むことになるため、体への負担が大きく手術が困難な場合などにECMOを併用することがあります。当院は公立病院ではありますが、このような高い専門性を要する治療も可能な医療体制が構築されており、各診療科同士で協力して治療を進めることで、より難しい手術にも対応できるのだと考えています。

肺がんの手術を受けることは、ある意味で医師に命を預けるようなものだと思います。だからこそ、患者さんが納得してから医師を選べるような体制づくりが必要なのかもしれません。しかし日本では、最初に診察室で出会った医師が執刀医になるケースが多く、自主的に主治医を決めにくいところがあります。

がんのステージや治療の適応を正しく判断できる、実績のある病院で手術を受けるのは大切なことです。また、セカンドオピニオンなどを利用して複数の意見を聞き、納得したうえで、信頼できる病院や医師のもとで手術を受けることをおすすめします。

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