傷あと
※この用語は、医学的には病名ではない場合、もしくは病名として認められつつある段階である場合があります。また、医療や身体にまつわる一般的な用語を掲載している場合があります。
概要
傷あととは、皮膚にできた切り傷、擦り傷、やけど、手術などの損傷が治った後に残るあとのことです。私たちの皮膚には、損傷を受けても組織の再生や細胞の増殖などによって治癒する仕組みが備わっています。ごく浅く軽度な皮膚損傷であれば治癒したあとは正常な皮膚とほぼ変わらない状態となりますが、損傷が大きく深い傷ほどあとが残りやすくなります。
傷あとは保険適用となる“病気”ではありませんが、顔・足・腕などの目立つ部位に生じると美容上の大きな問題となることもあり、精神的なダメージが生じることで日常生活に支障をきたすケースも少なくありません。また、大きく深い皮膚損傷を受けた際の傷あとは皮膚の組織を固くして引きつれを起こし、関節運動の妨げになることもあるため、この場合は瘢痕拘縮と言って保険適用で治療が可能です。一般的に軽度な傷あとに対しては、できた部位や大きさ、目立ち方などによって、本人の希望により治療を行います。
原因
傷あとは、切り傷、擦り傷、ニキビ、手術、やけどなどによる傷が治る段階で、正常な皮膚の組織とは異なる性質の組織(瘢痕)が形成されることによって生じます。傷あとの残りやすさは傷の深さや広さに左右され、手術あとのように深い傷はあとが残りますが、浅い傷でも広範囲に及ぶ場合や、化膿を起こした場合は傷あとが残ることも少なくありません。また、腕や首など動きが多い部位の傷も修復する組織に炎症が起こりやすくなるため、あとが残りやすいとされています。
一方、傷あとの残りやすさは体質が関与することが分かっています。過度な飲酒などの好ましくない生活習慣がある人、高血圧などの生活習慣病を患っている人、強い炎症がある人は傷あとが残りやすい傾向にあります。また、傷あとの残りやすさは遺伝が関係するとの説もありますが、現時点で傷あとの残りやすさに関係する遺伝子は特定されていません。
症状
傷あとは原因となる傷の深さ、大きさ、部位、体質などによって現れ方は大きく異なります。軽度な傷あとであれば、赤みを帯びた傷が徐々に白っぽい組織に修復されていきます。このような傷あとは“成熟瘢痕”と呼ばれますが、見た目の異常以外には、通常は症状がありません。
一方、深い傷や傷口に刺激が繰り返されて炎症が起きた状態が続く場合は、組織が過剰に修復されるため赤く盛り上がった傷あとが形成されます。このような傷あとは“肥厚性瘢痕”や“ケロイド”と呼ばれ、関節運動などで傷あとに刺激が加わることで増悪します。肥厚性瘢痕とケロイドは、見た目は似ていますが、ケロイドはできた傷の周囲に広がってゆくのに対して、肥厚性瘢痕は傷の中にとどまっているという違いがあります。そして、肥厚性瘢痕やケロイドをそのまま放置すると、隆起した部分が増悪することも多く、早めの治療が必要です。
検査・診断
傷あとは、皮膚損傷の既往と皮膚の“見た目”で診断を下すことができます。そのため、特別な検査が必要となることはほとんどありません。また、関節運動が妨げられているような瘢痕拘縮やケロイド・肥厚性瘢痕は医師の診察が必要です。
治療
傷あとは軽度なものであれば治療の必要はありませんが、美容上の問題がある場合や、瘢痕拘縮となり関節運動に支障をきたすことが考えられる場合、ケロイド・肥厚性瘢痕などは積極的な治療が必要となります。具体的には、重症度や患者の希望に合わせて次のような治療が行われます。
薬物療法
軽度な傷あとの場合は、色素沈着を軽減させる塗り薬の使用や、トラニラストの内服などによる薬物療法が行われます。
肥厚性瘢痕やケロイドの場合は、ステロイドの貼り薬や局所注射を使用すると傷あとの盛り上がりを改善させることができます。肥厚性瘢痕やケロイドに直接ステロイドを注射する場合はへこみ過ぎてしまうこともあるため注意しながら治療を行っていく必要があります。
レーザー治療
軽度な傷あとで、色調に変化がある場合は、レーザー治療を行うことがあります。また、フラクショナルレーザーを用いると、周囲の正常皮膚との境界をぼかした感じにすることができます。肥厚性瘢痕やケロイドの場合は、血管を減らす作用のあるレーザーを照射する治療が行われることがあります。
手術
以上のような方法でも、傷あとの幅を狭くすることはできないので、幅を狭くしたい場合は傷あとの組織を取り除く治療を行うことがあります。
ケロイドや肥厚性瘢痕の場合は、手術のあとが新たな傷あとになり、切除しただけでは再発するので、再発防止のため手術後に放射線治療を行うこともあります。
セルフケア
傷あとを予防するには、皮膚に損傷を受けたら適切な治療を受けることが大切です。また、傷口にはできるだけ刺激を与えないよう、安静にすることも傷あとを目立たなくするためのポイントです。動きが多い部位にできた傷あとはテーピングを行うなど皮膚の動きをできるだけ少なくするようにしましょう。
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