概要
肥厚性瘢痕とは、傷あと(瘢痕)が硬く盛り上がり、ときに痛みやかゆみを伴う皮膚の状態です。
けが(外傷)ややけど(熱傷)を負ったり外科的手術を受けたりすると、瘢痕組織*ができて傷が修復されますが、患部には傷あとが残ります。傷がジュクジュクしなくなり、表面的に治癒した後も、その下の瘢痕組織では1~2か月ほど炎症が継続することがあります。通常この過程で傷あとが赤くなったり硬くなったり痛みを伴ったりしながらも、少しずつ炎症が減少し、次第に傷あとは皮膚に馴染んでいきます。
しかし、何らかの異常によって傷の治癒が遅くなると炎症が続いて瘢痕組織が過剰に増え、いつまでたっても赤みが引かず、それどころか盛り上がってきて痛みやかゆみが現れるようになります。これを肥厚性瘢痕と呼び、傷あとの大きさよりも広範囲に広がっていくものをケロイドと呼びます。
*瘢痕組織:毛細血管や線維からなる傷を埋める組織。
原因
肥厚性瘢痕は、皮膚の真皮で炎症が持続することで生じます。肥厚性瘢痕は小学校高学年~思春期以降にみられます。また、傷ができてから特に3か月間のうちに皮膚が何度も伸びるような活発な運動をした場合や、傷あとが化膿するなどして治るまでに時間がかかった場合などに肥厚性瘢痕ができやすいことが分かっているため、傷あとを十分にケアすることが大切です。肥厚性瘢痕を生じやすい部位は、首や肩、肘や膝などの関節部です。上肢や首などの運動によって皮膚が強く引き伸ばされやすいところに生じやすく、頭頂部や眼瞼、下腿(膝から足首までの中間部分)などには生じにくいといわれています。妊娠などによる女性ホルモンの増加や高血圧症は、肥厚性瘢痕・ケロイドの悪化因子であることが知られています。
症状
肥厚性瘢痕では、もともとの傷あとに一致して赤く盛り上がり、チクチクするような痛みやかゆみを伴います。場所によってはひきつれ感がみられることもあります。
中には長い時間をかけて自然に軽快し、患部が白く目立ちにくくなる場合あります。関節に生じた場合は、傷が引っ張られることでなかなか炎症が治まらず、完全に炎症が落ち着くまでに1~5年ほどかかることもあります。
一方、ケロイドの場合は徐々に炎症がまわりの皮膚に広がっていき、自然に治癒することは少ないとされています。
検査・診断
肥厚性瘢痕やケロイドの診断には、基本的に診断アルゴリズムが用いられます。
まず、肥厚性瘢痕やケロイドと外観が似ている腫瘍(良性・悪性)との鑑別が重要となります。その後、見た目や患部病変の特徴などから、肥厚性瘢痕的な特徴が強いか、ケロイド的な特徴が強いかを判断していきます。肥厚性瘢痕とケロイドを明確に区別することが難しい場合もあります。
治療
治療法には、保存的治療(手術を行わない治療法)と外科的治療(手術)があります。これらの治療法はケロイドにも適応されますが、治療の効果や再発率が大きく異なります。
肥厚性瘢痕はケロイドに比べ手術での治療効果が期待でき、適切な治療によって治るまでの時間を短くできます。一方、より重度であるケロイドでは、手術だけでは再発してしまうため術後に放射線治療を行う必要があり、治療が完了するまでの時間が長くなります。
保存的治療
圧迫療法
テープやスポンジ、シリコーンジェルシートなどを患部に当てて、包帯やコルセットなど用いて持続的に圧迫することで過剰な血流を抑制し、炎症の改善や患部の安静を図ります。
ステロイドの外用・局注療法
ステロイドには皮膚の炎症を抑えたり組織を委縮させたりする作用があります。
肥厚性瘢痕に対しても、副腎皮質ステロイドテープ薬を患部に貼ることで痛みやかゆみの軽減、赤みや盛り上がりの改善が期待できます。効果を感じるまでに時間がかかることが難点ですが、多くの肥厚性瘢痕は副腎皮質ステロイドテープ薬のみで治癒します。副腎皮質ステロイドの局所注射では多くの場合、1~2回の注射で症状の軽減や患部の平坦化が期待できます。
抗アレルギー薬の内服療法
肥厚性瘢痕の発生や進行、症状にはアレルギー反応が関わっているため、抗アレルギー薬の内服によって瘢痕組織の増殖や症状を軽減させる効果が期待できます。現在、トラニラストという抗アレルギー薬が肥厚性瘢痕に対して国内で唯一保険適用されています。
レーザー療法
赤みや盛り上がりの改善や炎症の鎮静化を目的としてレーザー治療が行われることがあります。なお、レーザー治療は保険適用外です。
外科的治療
肥厚性瘢痕のひきつれによって関節などがうまく動かせない場合、目立つ場所で審美性が懸念される場合などに手術が適応となります。手術後に肥厚性瘢痕が再発する可能性もあることから、一般的には手術後に副腎皮質ステロイドテープ薬を貼るなどの保存的治療を実施して再発を予防します。
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