手術を行った後の傷跡や、皮膚に傷を負ったあとは、皮膚が盛り上がったり、傷跡が広がっていくことがあります。これは「ケロイド」「肥厚性瘢痕」と呼ばれる病態です。なぜ傷跡は綺麗に戻らず、炎症を続けてしまうのでしょうか。本記事では症例画像を交えながら、日本医科大学形成外科 主任教授 小川令先生のお話をもとに、ケロイド・肥厚性瘢痕の病態について解説していきます。
ケロイドや肥厚性瘢痕とは、皮膚の傷ついた部分に赤く盛り上がったような炎症が生じる病態を指します。一般的に、傷の部分だけにとどまっている炎症を「肥厚性瘢痕」、傷の部分を超えて広がっていく炎症を「ケロイド」と呼んでいますが、組織的にみて二つの病態の明確な区別はありません。炎症が強いものがケロイド、やや弱いものが肥厚性瘢痕、と考えれば良いでしょう。
ケロイド・肥厚性瘢痕を患うと下記のような症状に悩まされる方が多くいます。
・痛み
・かゆみ
・皮膚のひきつれ
・機能障害(重症化して大部分に症状が広がることにより腕が上がらなくなる、など)
・見た目の問題(ケロイドなどができたことによる外観の問題)
ケロイド・肥厚性瘢痕を抱える患者さんの中には、病変がかゆくてたまらない、痛みで夜も眠れないという方もいます。また、症状の深刻さや、発症部位によっては、外見に大きな影響を及ぼすため、大きな精神的苦痛を感じる方もいます。
ケロイドや肥厚性瘢痕では、皮膚の表面(表皮)だけでなく、その下の真皮まで炎症が起きています。体では、この表皮~真皮の傷を治そうという力(創傷治癒力)が働いて炎症が生じますが、このときに様々なトラブル要因が関わることで、一時的に必要なはずの炎症が起こり続けてしまい、皮膚の盛り上がりや、傷口を超えて炎症が広がってしまいます。
ケロイドや肥厚性瘢痕は、わずかな傷であっても発症する可能性があります。よく受診される患者さんは下記のようなケースが多いです。
もっとも多いケースは「ニキビ」がきっかけとなるパターンです。最初はとても小さな皮膚の炎症であっても、非常に大きなケロイドに発展することがあります。
ケロイドや肥厚性瘢痕は、胸や肩、肘などに発症する患者さんが多くいます。これらの部位は傷が引っ張られやすく、ケロイドや肥厚性瘢痕を悪化させやすい部位だといえます。
では、実際にケロイドや肥厚性瘢痕はどのように見た目にあらわれるのでしょうか。ケロイドや肥厚性瘢痕の症例写真をご紹介します。
こちらはざ瘡(にきび)が原因で発症したケロイドです。この写真ぐらいの症状では薬剤(張り薬)による治療が行われることが多いです。
こちらも同じくざ瘡(ニキビ)が原因で発症したケロイドです。このような非常に強い炎症が生じている場合は、手術による治療が行われます。
こちらはニキビが原因で発症したケロイドです。このような重症化した症例も、手術による治療が行われます。
子供のころに受けたBCG注射による炎症が続き、大きくなってしまったものです。BCG注射後に炎症がなかなか収まらない時は、早期の外用剤による治療が必要です。
こちらは帝王切開手術のあとにケロイドができてしまったケースです。このようなケースでは、手術によってケロイドを取り除いても、その手術跡からまたケロイドが広がってしまうケースがあります。このようなケースを綺麗に治していくには、ケロイドにならない「皮膚の縫い方」をする必要があります。
▼ケロイドの手術方法については<ケロイド・肥厚性瘢痕の外科的療法(手術)>とはをご覧ください。
ケロイドや肥厚性瘢痕は発症しやすい、悪化しやすい要因があります。
ケロイドや肥厚性瘢痕の患者さんは「皮膚科」を受診することが多くありますが、治療選択肢を広げる観点から、「形成外科」を受診することをお薦めします。
形成外科では、皮膚科で行われる薬物治療(張り薬・塗り薬・飲み薬)だけでなく、手術による治療を行うことができます。そのため形成外科の中で、ケロイドや肥厚性瘢痕を治療できる病院を受診することが最適だと考えられます。
ケロイドや肥厚性瘢痕は治療後、炎症が治まらず再発してしまうことも多くあります。このことから、以前は「治らない病態」として認識されていた時代もありました。しかし、治療法や手術方法は進歩しており、いまでは治らないケロイド・肥厚性瘢痕はありません。さらに、できるだけ傷跡が目立たないように治療することも可能になってきました。しかし、一部の患者さんや医療従事者のなかでは「重症化したものはもう治療できない」と認識されている方もいます。そのように考え、ケロイドをそのまま放置してしまうと、病変がどんどん広がってしまい、より深刻な状態に発展してしまいます。ケロイドと肥厚性瘢痕は必ず治療することができますので、治すことをあきらめずに、専門の医師がいる医療機関を受診し相談していきましょう。
ケロイドと肥厚性瘢痕を治癒させるために、いまも様々なアプローチ方法が検討されています。近年ではレーザーで治療する方法や、放射線のみで治療する方法、より炎症抑制効果の高い張り薬を活用する方法などが登場し治療選択肢が増えてきています。
最近ではメイクアップの技術によって、病変を綺麗に隠す方法も確立されてきました。例えば病変に薄いフィルムを張り、その上からファンデーションをつけることで、ケロイドや肥厚性瘢痕を目立たなくすることができます。このフィルムは1週間、病変に張ったままの状態を維持することができます。このように「見た目を綺麗にする」だけでも患者さんの負担は大幅に軽減されるケースがあります。
メイクアップセラピーの一つである、リハビリメイク®を施行した状態。傷あとの色だけでなく、凹凸も改善していることがわかる。
ケロイドや肥厚性瘢痕は、痛み、かゆみといった身体的な問題だけではなく、見た目の問題にもつながることから、患者さんの生き方に大きな影響をもたらす疾患です。そのため、ただ身体的に傷を治癒するだけでなく、治療後の傷を目立たないようにする方法も積極的に研究されています。最近は患者さんの傷あとや、ニーズに合わせた治療法が進歩してきており、一人一人にあった方法を選べるようになってきたと思います。
ケロイドや肥厚性瘢痕は治すことができる疾患であり、目立たないようにするための方法も数多く見出されてきていますので、疾患に苦しむ方は専門の医療機関へ相談し、よりよい生活を送るための解決法を見つけていきましょう。
日本医科大学大学院 医学研究科 形成再建再生医学分野 大学院教授、日本医科大学付属病院 形成外科・再建外科・美容外科 部長、日本医科大学 形成外科学教室 主任教授
日本医科大学大学院 医学研究科 形成再建再生医学分野 大学院教授、日本医科大学付属病院 形成外科・再建外科・美容外科 部長、日本医科大学 形成外科学教室 主任教授
日本形成外科学会 形成外科専門医・皮膚腫瘍外科分野指導医日本熱傷学会 認定熱傷専門医日本抗加齢医学会 抗加齢専門医日本創傷外科学会 専門医日本再生医療学会 再生医療認定医
診療、基礎研究の双方を精力的に取り組む。診療ではマイクロサージャリーを用いた組織再建外科治療や熱傷再建・瘢痕拘縮再建といったやけどによる後遺症の治療、ケロイド・肥厚性瘢痕・瘢痕治療、皮膚良性・悪性腫瘍・リンパ浮腫治療を専門的にこなす。ケロイド・肥厚性瘢痕の手術、および術後の放射線治療に関する研究は、国内外からも注目をあつめる。また、基礎研究の分野ではメカノバイオロジー・メカノセラピー研究、細胞・組織・臓器の環境を考える再生医療・組織工学、瘢痕・ケロイドの物理生物学・分子生物学的・分子遺伝学的解析などに取り組んでいる。
小川 令 先生の所属医療機関
関連の医療相談が11件あります
右耳たぶのしこり
右耳の耳たぶに大きさ5mm程度でしょうか、しこりがあります。 元々ニキビに似た症状があったので、気になって触っていたら、 いつの間にか小さいパチンコ玉程度のしこりになってました。 1年程度前からあります。 気になっているのですが、診察を受けるとしたら何科へ行けば 良いのでしょうか。
いびき治療について
数年前より、就寝中のいびきを指摘されることが増えていることが気になっています。いつか診断を受けたいと思っておりましたが、どのようなところへ行ったら良いのかよくわからずにおります。仕事が忙しく睡眠時間があまり長くとれないのもありますが、就寝時間に関わらず、あまり疲れがとれないのもあります。
何科を受診すべきか
半年前から便に血がつくことがあります。痔の自覚は数十年前からあるものの、やがて気にならなくなるまで治るので、特に受診したことがありません。半年前にあった痛みは今はほとんどなくなりましたが、ごく少量の血がたまに付着します。切れ痔かと思いますが長く続くので他の病気かと不安になります。何科への受診がいいですか?またどのような検査をされるのでしょうか?
最近言葉でよく噛むようになった
最近職場などでも言葉で噛むようになりました。ラ行とかは普通に言えます。 何か病気なのか不安です。 ストレスなのかもわからず気にしてしまいます
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