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肺がんとはどのような病気? 早期発見が重要な理由とは

肺がんとはどのような病気? 早期発見が重要な理由とは
後藤 太一郎 先生

地方独立行政法人山梨県立病院機構 山梨県立中央病院 呼吸器外科 センター長

後藤 太一郎 先生

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肺から発生するがんである“肺がん”。早期の肺がんは特徴的な自覚症状がなく、血痰や咳などの症状に気付いたときには手術が難しくなっている可能性があるため、早期発見することが重要な病気です。

今回は、肺がんとはどのような病気か述べるとともに、検査方法や治療選択のポイントについて、山梨県立中央病院 肺がん・呼吸器病センター センター長の後藤 太一郎(ごとう たいちろう)先生に伺いました。

肺がんとは、肺にできるがんの総称です。がんにおける死亡原因の第1位(2019年)、罹患数は第3位(2018年)となっています*。罹患数の順位に対して亡くなる方が多いことが特徴です。昔はたばこを吸う男性に多いがんでしたが、最近では、たばこを吸わない方や40~50歳代の方、女性の患者さんも増えてきています。

肺がんについて注意すべき点は、無症状で進行することです。患者さんが病院を訪れて診断が付いた時点で、約7割の方は手術ができません。また、進行すると血痰や咳、骨転移による手や足の痛み、脳転移による意識障害など転移の部位によってもさまざまな症状が出ますが、症状が出ている患者さんの多くは治療が間に合わない状態です。

肺がんを早く見つけるための特徴的な症状はほとんどありません。早期発見、早期治療を行うにはCT検診を受けることをおすすめします。

*国立がん研究センターがん情報サービス「がん統計」(厚生労働省人口動態統計)より

肺がんには、大きく分けて次の2種類があります。

小細胞肺がんは、進行が速くて転移や再発をしやすいタイプです。たばこを吸っている方に多く、やや悪性度が高くなります。

非小細胞肺がんは全体のうち約8~9割を占めており、扁平上皮がん、腺がん、大細胞がんに分類されます。この中でも近年主流になっているのは腺がんで、女性や若い方、非喫煙者にもみられます。特に、CT検査を行うと“すりガラス陰影”と呼ばれる薄い(もや)がかかったような陰影の見えるタイプが女性に増えており、女性もCT検査を受ける重要性は高くなっているといえるでしょう。

基本的には、高齢化に伴って生じる遺伝子の異常が肺がんの原因となります。

発症しやすくなる要因としては、喫煙が知られています。喫煙者の肺がんのリスクは非喫煙者の4~5倍です。つまり、肺がんの患者さんの5人中約4人は喫煙したから肺がんになった(言い換えれば、禁煙していれば肺がんにならなかった)のだと考えられます。しかし、5年ほど禁煙期間を置けば、肺がんのリスクは吸っていない方と同じレベルにまで近づくことが分かっています。今喫煙している方も諦めず、早めに禁煙することが大切です。

肺がんは、CT検査や胸部X線検査(レントゲン検査)という画像検査によって発見されます。CT検査は、X線検査(レントゲン検査)と比べて小さながんでも見つけやすい方法です。2011年のアメリカの報告によると、胸部X線検診では肺がん死亡が減少しませんでしたが、CT検診は肺がん死亡率を約20%減少させる効果が示されています。

症状がきっかけで診断が付いたときには手術の適応にならないことも多いですが、健康診断などで偶然発見されたときは早期ということが大半です。50歳以上で喫煙している方は、男女を問わず、年1回はCT検査を受けることを強くおすすめします。人間ドックや健康診断のオプションとして追加するなど有料の検査になりますが、ぜひ受けるようにしてください。

提供:PIXTA
提供:PIXTA

肺がんかどうかを確かめたり、肺がんのタイプを判断したりするには、組織を採取して調べる気管支鏡検査を行うことが一般的です。

進行具合や全身への転移を調べる方法としては、PET検査や脳MRI検査があります。

肺がんのステージはTNM分類*によって判断され、腫瘍(しゅよう)の大きさや分布はT(腫瘍)、リンパ節の広がりはN(節)、ほかの臓器への転移はM(転移)で表します。もっとも進行しているのは、ほかの臓器への転移(M)がある状態です。手術できるのはほかの臓器への転移(M)がなく、がんの広がりがリンパ腺(N2)までの状態で、それより広く転移があると手術ができないと判断されます。

*TNM分類:腫瘍(Tumor)、節(Node)、転移(Metastasis)の3つの要素で決定される

先に述べたような検査を全て行うには、1~2か月ほどかかることがあります。しかし、手術はなるべく早い時期に行うことが重要なため、当院では内科と協力して約1~2週間で済ませられるよう無駄のない検査を心がけています。

場合によって一部の検査を省略することもあります。たとえば、肺がんの診断や治療に慣れている医師は画像検査で診断できることが多いため、気管支鏡検査が必要ない患者さんもいます。気管支鏡検査は体への負担がかかる苦しい検査であり、近年の新型コロナウイルス感染症対策の観点でも飛沫が飛びやすいことはデメリットです。検査の回数をなるべく減らして患者さんの負担を抑えるとともに、手術のタイミングを逃すことのないよう努めています。

肺がんの主な治療方法は、手術療法、放射線療法、薬物療法です。がんが広がっていない段階で早期発見できれば、患者さんの体の状態によって、手術でがんを切除することが期待できます。しかし、広範なリンパ節や遠隔臓器への転移があるなど進行した状態では手術を断念し、放射線療法や薬物療法を行うことになります。がんのステージ(病期)でいうと、I期とII期は主に手術を行います。III期は主に放射線療法や薬物療法ですが手術できるケースもあります。IV期は薬物療法が中心です。

手術において、がんの取り方にはいくつか方法があります。肺葉と呼ばれる部分と周囲のリンバ節を取リ除く“肺葉切除”が基本です。早期の小型肺がんでは、がんの部分を小さく切除する“区域切除”も注目されていますが、まだ十分なエビデンスはなく、当院ではほとんどの症例に対して肺葉切除で対応しています。

放射線療法は、患部に放射線を当ててがん細胞にダメージを与える治療方法です。がんのある部分だけ(局所)に対する治療であり、周囲の組織にはなるべく放射線を当てずに体への負担を抑える方法が開発されています。

近年、ニボルマブなどの免疫療法の薬や、肺がんの特徴に応じて使用する分子標的薬などさまざまな薬物療法が登場しており、進行肺がんに対しても、うまく組み合わせて治療することが可能になりました。肺がんは致死率が高いものの、薬剤の開発が非常に進歩しており、近年、治療成績は大幅に改善してきています。

肺がんのリスクを減らすために、まずは禁煙をすることが重要です。肺がんに関しては“X線検査を受けているから大丈夫”と思わず、喫煙している方や高齢の方はCT検診を受けるようにしてください。

当院は、患者さんの体への負担を抑える低侵襲手術(ていしんしゅうしゅじゅつ)や、がんゲノム医療などを導入し、肺がん治療に力を入れて取り組んでいます。詳しくは『肺がんに対する手術――低侵襲手術、治療選択のポイント』、『肺がんに対する“がんゲノム医療”とは?』をご覧ください。

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