近年、肺がん治療は新薬の登場やアプローチの進歩によって大きく変化し、かつては難しかった進行がんでも“治癒”を目指せる時代となっています。一方で、肺がん診療は複雑化しており、適切な医療を提供するためには“チーム力”が欠かせません。今回は、山梨県立中央病院 肺がん・呼吸器病センター 統括部長である後藤 太一郎先生に、同院で注力されているサンドイッチ療法やがんゲノム医療、そしてそれらを支える高度な治療体制についてお話を伺いました。
こちらのページでも触れたとおり、近年の肺がん治療における大きな進歩として挙げられるのが、手術と薬物療法を組み合わせた“サンドイッチ療法”です。
これは、手術の前に免疫療法を含む薬物療法を行い、がんを縮小させたうえで手術を実施し、術後に再び免疫療法を行う治療アプローチです。手術の前後に薬物療法を実施することで、サンドイッチのように手術を挟むことからこの名で呼ばれています。
従来は、手術の対象となるのは主にステージIやIIの早期肺がんに限られており、ステージIIIなどの進行がんでは手術を断念せざるを得ないケースが大半でした。しかし、サンドイッチ療法の登場により、現在ではステージII後半からステージIII(一部のIIIBを含む)の進行肺がんにおいても手術が可能となり、良好な治療成績が報告されています。
実際に、当院では2024年~2025年の1年間、進行肺がんに対してサンドイッチ療法を中心に、手術と免疫療法を組み合わせた集学的治療を積極的に行ってきました。現在では、月に3〜4名*の患者さんに対してこの治療を実施しています。
*2024年8月~2026年8月実績
肺がんの薬物療法の進歩は目覚ましく、以前は想像できなかったような治療効果が現れています。
実際、当院で免疫チェックポイント阻害薬を併用した術前化学療法を行ったところ、12例中6例でpCR(病理学的完全奏効)を達成しました*。pCRとは、手術の前に投与した薬が非常によく効き、切除した組織を顕微鏡で調べた際にも、がん細胞が1つも残っていなかった(薬によって完全に消滅していた)状態を指します。がん細胞が消滅しているため、その後の再発リスクも低く、実質的に“治癒”といえる良好な状態です。
対象となった12例の患者さんは、腫瘍が大きかったりリンパ節への転移がみられたりして、以前であれば手術の適応にならなかった方々です。そうした進行がんにおいて半数の割合で治癒といえる状態が得られていることは、非常に期待の持てる治療成績といえるのではないでしょうか。
*対象:肺がん(ステージII~III)と診断され、山梨県立中央病院で術前化学療法および手術加療を行い、治療後フォローを実施した患者12例
調査期間:2024年8月~2026年8月
サンドイッチ療法は、まず呼吸器内科で薬物療法を約3か月間行い、続いて呼吸器外科で手術を実施し、その後再び呼吸器内科で薬物療法を行うという流れで進めます。
このように複数の診療科を行き来する複雑な治療において、治療の成功率を高める最大のカギとなるのが両科の緊密な連携です。当院がサンドイッチ療法の成果を患者さんに届けることができている背景には、長年かけて築き上げてきた成熟したチーム医療体制があります。
当院では毎週、呼吸器外科と呼吸器内科の医師全員が集まる合同カンファレンスを開催し、患者さん一人ひとりに適した治療法について意見を交わしています。サンドイッチ療法によって治癒を目指せる可能性がある患者さんがいれば、自然と「サンドイッチ療法を検討しませんか」と声が上がり、チーム全体が同じ方向に向かって動き出します。
治療が始まってからも連携は途切れません。内科での薬物療法中も「順調に進んでいます」などと経過を共有し、適切なタイミングで「そろそろ外科へ引き継ぎます。手術をお願いします」と連絡が入ります。診療科の垣根なく迅速にやり取りができる風通しのよさと深い信頼関係があるからこそ、タイミングを逃さずスムーズなバトンの受け渡しが可能となっています。
治療を受ける患者さんの立場に立てば、「たとえどんなに複雑な治療であっても、治る可能性があるなら受けて治したい」というのが一番の本音のはずです。
だからこそ、私たち医療者も「治る可能性が少しでもあるなら、躊躇せず積極的に挑んでいこう」という“攻めの姿勢”を大切にしています。
当院には新しい治療の導入を後押しする風土があり、さらに内科と外科が垣根を越えてサポートし合える良好なチームワークが基盤にあるからこそ、こうした治療をブレずに実践し続けることができます。患者さんの「治りたい」という強い思いに全力で応えること――それこそが県唯一*の都道府県がん診療連携拠点病院である当院の使命であり、チーム医療を貫く揺るぎない軸となっています。
*2026年8月時点
標準的な保険治療を一通り終えた後も、当院では決して諦めることなく、次の治療の可能性を模索し続けます。当院は地域のがんゲノム医療を牽引する“がんゲノム医療拠点病院”に指定されており、“がんゲノムプロファイリング検査(FoundationOne)”を積極的に実施しています。
この検査は、例えるなら車が故障した際に、どの部品に異常があるのかをコンピュータで一括診断する検査とイメージいただくと分かりやすいかもしれません。300以上のがん関連遺伝子を一度にまとめて解析することで、がんを引き起こしている遺伝子の異常を特定します。特別な検査という印象が強いかもしれませんが、標準治療が終了した、または終了する見込みの患者さんであれば保険診療内で受けることができます。
検査後は、院内の専門家が集まるパネル会議(エキスパートパネル)で解析結果を検討し、その遺伝子変異に適合する国内の治験情報を徹底的に探します。
適合する治験が見つかった場合は、実際の参加に向けた手続きやサポートも行っています。
肺がんは長年にわたり、国内のがん死亡原因の第1位であり続け、治りにくい病気の代表とされてきました。しかし、さまざまな治療のアプローチが登場した今、「恐れる病気」から「克服できる病気」へと変わる時代まであと一歩だと感じています。
次なる挑戦は、ステージIVの肺がんの克服です。私が現役の医師として現場に立っている間に、ステージIVであっても治る道筋を何とか作り上げたいと考えています。
さらに、私自身が情熱を傾けてきた低侵襲手術の手技や知識を確かな形として残し、全国の若い世代の医師たちへ広めていくことにも力を尽くしてまいります。自分がよいと信じて磨き抜いてきた手術を若い医師たちが継承し、それが実際の患者さんに届き、喜んでいただける――これが形になれば「これまで手術を頑張ってきてよかった」と心から思えるはずです。その広がりを最後まで見届けることこそが、外科医としての私の「手術のゴール」であり、患者さんの笑顔につながるその日まで、これからも情熱を持って歩みを進めていきたいと思います。
新薬の登場やゲノム医療、手術手技の進歩により、現代の肺がん治療は非常に高度で複雑なものとなっています。治療の説明にもゲノム(遺伝子)や免疫といった専門的な内容が含まれるようになり、患者さんやご家族にとっては「理解が難しい」と感じられる場面も増えているかもしれません。
しかし、多様化する治療選択肢を十分に理解し、ご自身にとってよりよい治療を受けるためには、患者さん側もある程度の知識や情報を備えておくことが大切になってきます。
また、かつてのように「どの病院で治療を受けても結果はほとんど同じ」という時代は終わり、病院全体のチーム力や新しい治療に挑む積極的な姿勢によって、治療成績が大きく変わるシビアな時代となっています。だからこそ、「ここでいいや」と安易に決めてしまわず、医療機関の診療実績や集学的治療の体制などを可能な限り調べ、心から信頼して任せられる病院を選択することが重要です。
当院では、セカンドオピニオン*を含め、いつでもご相談を受け付けております。肺がんと診断されて不安を抱えている方や、現在の治療選択でお悩みの方は、決して1人で抱え込まず、ぜひ一度当院へご相談ください。
*セカンドオピニオンは、全額自費となります。料金:1回 11,000円(税込)。時間は通常30分から40分程度です。
▼山梨県立中央病院を初めて受診される方へ
初めて当院を受診される方には、スムーズな診療のため事前のご予約をお願いしております。予約がない場合でも診察はお受けいただけますが、待ち時間が長くなってしまうことがあります。また、紹介状をお持ちの方の診療を優先しておりますので、初診の際には、ぜひかかりつけの医療機関などで発行された当院宛の紹介状をご持参いただきますようお願いいたします。
地方独立行政法人山梨県立病院機構 山梨県立中央病院 肺がん・呼吸器病センター センター長
地方独立行政法人山梨県立病院機構 山梨県立中央病院 肺がん・呼吸器病センター センター長
日本外科学会 外科専門医・指導医日本呼吸器外科学会 呼吸器外科専門医・評議員日本呼吸器内視鏡学会 気管支鏡専門医・気管支鏡指導医日本がん治療認定医機構 がん治療認定医肺がんCT検診認定機構 肺がんCT検診認定医師日本移植学会 移植認定医日本肺癌学会 評議員・タバコ対策委員
1997年より呼吸器外科医師としてキャリアをはじめる。2011~2014年の期間、慶應義塾大学医学部呼吸器外科で講師を務めていたが、山梨県の呼吸器外科診療、および肺がんの遺伝子研究に興味を抱き、2014年4月より現職に就いた。年間約320件(2025年4月~2026年3月)の呼吸器外科手術全症例の執刀を行いつつ、夜間休日を利用して肺がんの遺伝子研究も行い、臨床・研究ともに日本の医療業界に貢献している。慶應義塾大学外科客員准教授を兼務、そのほか海外JournalのEditorも多数務めている。
後藤 太一郎 先生の所属医療機関
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