概要
がんゲノム医療は、がん細胞の“ゲノム”から多くの遺伝子を調べ、がんの性質に合った治療に役立てられる“個別化治療”の1つです。
ゲノムとは、私たちの体を構成する細胞の設計図である“遺伝子”や遺伝子情報のことで、一人ひとり異なります。生活習慣や加齢などの原因により、この遺伝子に変異(違いや変化など)が生じることなどによってがん細胞が発生し、がんの増殖や進行の原因になるといわれています。
目的・効果
がんゲノム医療では、主に“がん遺伝子プロファイリング検査”という検査によって多くの遺伝子の変異を調べ、がん細胞の性質などを明らかにします。これにより、がんの性質を明確にしたり、患者さん個人に合った治療を見出したりすることを目的としています。
メリット
がんゲノム医療では、治療の選択肢が増えることが期待されています。現在までの研究では、がん遺伝子プロファイリング検査後に10%程度が遺伝子変異にマッチし治療を受けることができたと報告されています。
がんの主な原因は、遺伝子にストレスがかかることで生じる遺伝子の変異です。そのため、この遺伝子変異の特徴などを調べることで、特定のがんの診断につながることもあります。
国内では、がんゲノム医療中核拠点病院、がんゲノム医療拠点病院、がんゲノム医療連携病院などが設置され、日本全国どこにいてもがん遺伝子プロファイリング検査を受けられるよう体制整備が行われています。
このほか、新しい治療法の開発に役立つ可能性もあり、将来的に多くの患者のがん治療に役立つことも期待されています。
がん遺伝子プロファイリング検査
がんゲノム医療で行われるがん遺伝子プロファイリング検査は、遺伝子の特徴を調べることでがんの特徴を明らかにする検査です。検査によって個々のがんの特徴を知り、一人ひとりに合った治療を検討します。
実際の検査では、摘出したがん組織や血液などを使用し、一度に数十~数百もの遺伝子を調べます。検査結果は専門家のもとで検討され、担当医に届けられます。この結果に加え、担当医が患者それぞれの治療歴や状態を考慮し、適切な治療をさらに検討・決定し、患者に提案します。
検査の流れ
手術や生検で採取された組織や血液を用いて検査が実施されます。 “次世代シークエンサー”という機器を使用し、採取した組織や血液のがん細胞のゲノムを解析し、多数の遺伝子情報を調べます。保存されている組織が利用できない際には、生検を実施する必要があり、体の一部に傷が残ったり痛みが生じたりすることがあります。
検査の結果、遺伝子に変異が見つかり、その変異に対して有効な可能性のある治療が存在する場合には、さらに臨床試験に参加することもあります。遺伝子変異に対して、その治療が本当に有効であるかを確かめるために、臨床試験が実施されています。
リスク
検査を受けても、必ずしも遺伝子の変異が見つかるわけではありません。有効な治療を選択するうえで役立つ可能性のある遺伝子の変異が検出されるのは、検査を受けた患者さんのうち約半数といわれています。
また、遺伝子の変異を検出できた場合でも、有効な薬剤が存在しないケースなどもあります。がん遺伝子プロファイリング検査を受けた方のうち、有効な治療法が見つかる方は全体の10%ほどであるといわれています。
また、がん遺伝子プロファイリング検査では多くの遺伝子について調べるため、時にはもともと目的としていた治療の選択肢を広げることとは別に、将来がんを発症する可能性を持つ遺伝子が特定されることがあります(二次的所見)。このように、本来は検査の目的としていなかったがんに関する所見は、患者の希望により聞かないようにすることも可能です。
遺伝カウンセリングについて
がん遺伝子プロファイリング検査を受けた後に、二次的所見が疑われた際には“遺伝カウンセリング”を受けることもできます。このカウンセリングでは、がん遺伝子プロファイリング検査で発見された将来的にがんになる可能性がある腫瘍(遺伝性腫瘍)についての説明を聞くことも可能です。遺伝性腫瘍は家族間で発症する可能性もあるため、家族とカウンセリングを受けることもできます。
適応
がんゲノム医療は、誰でも受けられるわけではありません。現在、検査の適応となっているのは、発症しているがんに対して“薬物(抗がん剤)療法”“放射線療法”“手術”などの標準治療が行えない場合や、進行性のがんもしくは転移があり、すでに標準治療が終了した場合です。標準治療をどの段階で終了とするのか、全身状態から検査が受けられるかなどを担当医師が診断のうえ、検査の適応を判断します。
費用の目安
2019年6月よりがん遺伝子プロファイリング検査に保険が適用されるようになりました。ただし、保険診療で行われるもの以外にも、施設によっては自費診療で行われるもの、研究で行われるものを受けることも可能です。
保険診療の場合、検査にかかる費用はおよそ560,000円です。この場合の自己負担額は、1割負担の場合で56,000円、3割負担の場合で168,000円です。また、このほかに追加の生検などにより、別途追加費用がかかることもあります。
“高額療養費制度”を適用できる場合もあるため、検査を受ける医療機関で確認することがすすめられます。
参考文献
- 国立がん研究センター がん情報サービス 「がんゲノム医療 もっと詳しく」 (閲覧日:2022年8月8日)
- 国立がん研究センター中央病院 「がんゲノム医療とは」 (閲覧日:2022年8月8日)
- 国立がん研究センター がんゲノム医療とがん遺伝子パネル検査 「よく分かるがんゲノム医療とC-CAT」 (閲覧日:2022年8月8日)
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