概要

臨床試験とは、薬や手術など新しい治療法の有効性と安全性を確認するために、人に対して行われる研究的な治療です。臨床試験のうち、国内で新しい薬や医療機器の使用許可を得るために行われるものを“治験”といいます。治験への参加や辞退は、患者自身の意思で自由に決めることができます。一度同意しても、いつでも自由に撤回することが可能です。

薬の治験の場合は“第I相試験”から“第II相試験”、“第III相試験”と段階的に実施されます。これらの試験を経て、医薬品医療機器総合機構(PMDA)*1に有効性や安全性が承認された薬や医療機器のみが医療現場で使用できます。

治験を正確かつ安全に行うため、治験を実施する製薬会社や病院、医師は“薬機法*2”という法律と、薬機法に基づいて国が定めたGCP*3(Good Clinical Practice)という規則に従う義務があります。治験担当医師や臨床研究コーディネーター(CRC)*4などの医療スタッフが連携し、副作用が発生した場合は即座に適切な処置が行われるとともに重篤な場合は厚生労働省にも報告され審査されます。

*1医薬品医療機器総合機構(PMDA):医薬品・医療機器等の品質、有効性、安全性の確保を目的とする独立行政法人。主な業務は、医薬品などの健康被害に対する迅速な救済、医薬品や医療機器の承認審査、市販後の安全性情報の収集・分析・提供。これらの活動を通じて国民の健康と安全の向上に貢献している。

*2薬機法(医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律):医薬品や医療機器などの製造・販売・使用に関する規制を定めた法律。製品の品質、安全性、有効性を確保し、消費者の健康を守ることを目的としている。

*3GCP:臨床試験実施の際に、企業や医療機関が守るべき基準をまとめた省令。欧米を含む世界中で採用されており、医薬品開発における国際的なルールとされている。

*4臨床研究コーディネーター(CRC):参加者の安全に配慮し、治験や臨床研究をスムーズに進められるように調整を行う人。

種類

治験を実施する前には、動物や細胞を用いて安全性や有効性を確認する“非臨床試験”が行われます。この非臨床試験で有効性と安全性が確認された場合にのみ、治験に進むことができます。

薬の治験は第I相試験、第II相試験、第III相試験の3段階を経て進行し、各段階で薬の投与量、安全性、有効性を調べます。一方、医療機器では非臨床試験の次に実際の患者を対象として治験が行われます。

第I相試験(臨床薬理試験)

動物実験などで薬の効果が確認された後、人に初めて投与する段階の試験です。健康な方を対象として、主に安全性(副作用)を調べます。治験薬*の投与は少量から開始し、徐々に量を増やして適切な薬の量や副作用の有無、薬の体内での濃度などを調べます。

なお、抗がん薬など効果や副作用が強い薬の場合は、実際の患者を対象にした治験を行います。

第II相試験(探索的試験)

実際に少数の患者に治験薬を使用する段階です。病気に対する治験薬の効果や副作用、適切な薬の投与量や投与間隔などを調べます。

第III相試験(検証的試験)

より多くの患者を対象に行い、第II相試験までに得られた治験薬の有効性や安全性が大勢の方にもあてはまるかどうかを確認します。現在使用されている薬よりも治験薬が優れているかの比較や、長期間使用した場合の効果と安全性についても確認が行われます。

*治験薬:治験で使用される未承認または適応外の薬。新しい薬の候補。適応外とは、すでに国内で承認されている医薬品を、承認内容の範囲外、すなわち添付文書に記載されている効能・効果、用法・用量の範囲外で使用すること。

実施の流れ

通常、治験は以下の流れで進みます。

診察

担当の医師が、治験に参加しても問題ないか体の状態を確認します。

治験の説明と同意

主治医または担当の医師が、治験の目的、方法、期待される効果、リスク、参加の自由などを詳細に説明します。治験への参加を希望する方は、その後、文書での署名同意を得て治験に進むことができます。このプロセスを“インフォームド・コンセント”といいます。

スクリーニング検査

問診や血液検査、X線検査やCT検査などを行い、病気の程度や治療歴、合併症がないかなどを確認します。この検査の結果で最終的に治験に参加できるかどうか決まります。なお、参加条件は治験ごとに異なります。

治験の実施

治験のスケジュールに沿って、治験薬の使用を開始します。体の状態や有効性、副作用の有無を把握するために定期的に検査を行います。入院・通院が必要な治験が一般的ですが、近年では通院回数を減らし、医療スタッフが自宅に訪問する在宅治験(DCT)が可能なものもあります。

なお、治験の参加者は治験を開始した後でも理由を問わず辞退可能で、辞退しても患者にとって不利益になることはありません。

参加方法

治験に参加する方法は主に次の2つがあります。まず1つ目は、主治医から治験への参加をすすめられる場合です。主治医は患者の病状や治療歴を把握しているため、条件に合う治験を紹介することができます。2つ目は、患者自身が治験情報を収集し、参加を希望する場合です。患者はインターネット、病院内のポスター、新聞や雑誌の広告などを通じて治験情報を得て、自ら応募することができます。

メリット

治験に参加すると最新の治療法を受けられます。また、通常の治療よりも詳しい検査や診察を受けるため、自分の体や病気の状態をよく知ることができます。さらに治験に必要な検査や薬などの費用が補助されるため、経済的な負担が軽減されます。そのほか、自身の治験への参加が将来の医療の進歩、社会貢献につながります。

デメリット

国内の病院で行われている治療は、治験などを経てその有効性や安全性が確認されているものです。治験は科学的なデータを収集することを目的としており、病気を治すことを目的とする通常の“治療”とは内容が異なります。そのため、治験では思ったとおりの効果が得られないこともあります。

また、治験では詳細な検査や診察が行われますが、治験薬や医療機器による何らかの副作用が起こる可能性があります。副作用が出た場合は医療スタッフが速やかに対処し、治験の継続が可能かどうかを検討します。なお、治験の内容によっては日常生活上の制限があるほか、服薬の方法など守らなければならないこともあります。治験のデータを正しく取得するため、また副作用をできる限り未然に防ぐためにも、治験に参加する際には医師の指示に従うことが大切です。

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