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インタビュー

日本の喫煙状況と年間の死亡数-職場の喫煙所が新たな喫煙者を生むことも

日本の喫煙状況と年間の死亡数-職場の喫煙所が新たな喫煙者を生むことも
羽鳥 裕 先生

日本医師会 常任理事

羽鳥 裕 先生

この記事の最終更新は2017年02月24日です。

喫煙が原因の病気や障害により、日本では年間10万人を超える方が亡くなっています。また、受動喫煙による死亡数は年間約15,000人(※1)にものぼっており、職場や飲食店でのたばこ対策、国民の意識改革は急務となっています。たばこと因果関係のある疾患のなかでも、死に至るリスクが高い病気にはどのようなものがあるのでしょうか。本記事では、禁煙することで防げる重篤な疾患や、家庭内でしばしば見受けられる置きたばこベランダでの喫煙の危険性について、日本医師会常任理事の羽鳥裕先生に解説していただきました。

※平成24年2月27日「たばこアルコール担当者講習会」(厚生労働省)より

たばこに起因する疾患は、全身のがん動脈硬化により起こる心疾患など、非常に多岐にわたります。

医学雑誌”THE LANCET“の日本特集号(2011年9月)によると、2007年の日本における非感染性疾患と傷害による成人死亡の主要な決定因子の第1位は喫煙であり、死亡数は12万9千人にものぼったと報告されています。

同報告では、喫煙に次ぐ危険因子は高血圧、次いで運動不足とされていますが、第2位と第3位の死亡数には大きな差があるため、日本における成人死亡の2大決定因子は喫煙と高血圧ということができます。

高血圧に起因する疾患の大半は循環器疾患ですが、喫煙により起こる重篤な疾患は、循環器疾患、悪性新生物(がんなど)、呼吸器系疾患など、全身のあらゆる部位に及びます。

「たばこが原因のがん」というと肺がんを想起される方が多いと思われますが、非喫煙者に比べ喫煙者の死亡リスクが何倍高くなるかを算出した相対リスクが最も高くなるのは、のどに生じる喉頭がんです。

喉頭がんや咽頭がんは、摘出術により声帯機能や飲食する機能にも影響が及ぶことのある怖いがんですが、喫煙しないことで防げる可能性が高いがんともいえます。

たばこ煙に含まれる発がん性物質は全身をめぐるため、食道がん胃がんだけでなく、一見無関係にみえる膀胱がんなどを引き起こすことも明らかになっています。

喫煙者のがんの死亡リスク
出典 愛知県がんセンター研究所疫学・予防部:日本のがん死亡統計:2005 画像提供:羽鳥裕先生

喫煙は、血液をドロドロ(粘稠)にする血中成分の増加や善玉コレステロールの減少も引き起こすため、動脈硬化を進展させます。

これにより心臓や脳へと繋がる太い血管にも狭窄(狭くなること)や閉塞が起こるため、狭心症心筋梗塞脳卒中などの罹患率が上昇することも証明されています。

虚血性心疾患(狭心症や心筋梗塞)のリスク:男性の場合、喫煙により約3倍に上昇

・脳卒中の発症率;喫煙により男性で1.3倍、女性では約2倍に上昇

Dobson,A.J.et al.:J Clin Epidemiol:1991 Manami,T.et al.:Stroke:2004
Dobson,A.J.et al.:J Clin Epidemiol:1991 Manami,T.et al.:Stroke:2004 画像提供:羽鳥裕先生

 

ただし、たばこを吸わなければ、男女合わせて約16万人もの人において脳卒中の発症を予防することが可能です。また、男性の虚血性心疾患の予防についても、上に示したグラフのように「禁煙」が即効的な効果をもたらします。

ここまでに喫煙による健康被害を記してきましたが、これらのリスクは喫煙者の方のみが負うものではありません。たばこの煙にはご本人が吸う主流煙とたばこの先から立ちのぼる副流煙があり、有害物質の含有量は副流煙のほうが数倍から数十倍も多くなっています。

副流煙に含まれる有害物質
副流煙に含まれる有害物質(主流煙との比較) 画像提供:羽鳥裕先生

受動喫煙の危険性を考えるときには、もくもくとした煙が上がっていない置きたばこにも注意を向ける必要があります。なぜなら、ベンゼンなどの発がん性物質は、たばこが低温状態で不完全燃焼しているときに発生するからです。

完全に火が消えていないたばこを吸い殻の上に置いておくといった行為(置きたばこ)により、ご家族など同じ空間にいる方が煙を吸い込んでしまうことをセカンドハンドスモークともいいます。

ベランダなどに出てたばこを吸えば、室内のご家族をたばこによる健康被害から守れるというわけではありません。喫煙者の服や髪にはたばこ煙に含まれる有害物質が付着するため、再び部屋などに戻ることは、「部屋に有害物質を持ち込む」行為となります。

このようなサードハンドスモーク(残留受動喫煙)により、奥さんやお子さんに頭痛喘息症状が現れるということも実際に起こっています。

このように、喫煙がもたらす健康被害は広範囲に及ぶため、現在日本では地方自治体や国をあげて禁煙を推し進めています。(各団体の取り組みの詳細は記事2『たばこのないオリンピックを目指して-全国各地の画期的なたばこ対策を紹介』をご覧ください。)しかしながら、次項で述べるように、日本の喫煙状況は依然として改善努力が必要な状態であり、また、禁煙の推進を阻む日本特有の社会構造があることも事実です。

国民健康栄養調査(厚生労働省)によると、日本の成人男性の喫煙率は過去10年にわたり減少傾向にあり、平成17年以降は40%を切って30%台前半にまで低下しています。

しかし、平成26年度に実施した特定健診データの質問票の回答を集計すると、40~44歳の男性の喫煙率は41.1%と非常に高い数値を示しています。この結果から、実際の喫煙率は、一般に公表されている数値よりも高いのではないかと推測できます。

アメリカでは男性の喫煙率が20%台にまで低下し、それに伴いがん死亡率も減少し続けています。

これら欧米諸国と比べると日本の喫煙率は依然として高く、私たち日本医師会はさらなる努力を続けていかなければなりません。

現在、厚生労働省は健康増進法に基づき、国民一人ひとりの健康を実現していくために『健康日本21(21世紀における国民健康づくり運動)』と呼ばれる基本方針を定めています。私自身も委員を務めた『健康日本21(第2次)』のプラン策定時には、一般企業における全面禁煙を義務付けるべきとする案が出されていました。しかしながら、喫煙率の高い日本においては時期尚早であるとの意見を受け、職場におけるたばこ対策は「努力義務」として規定されることとなりました。努力義務とは、職場における喫煙を認めてしまったのと同じことであると考えます。

私は産業医として複数の企業を訪問していますが、そのなかで高校を卒業したばかりの未成年の従業員が、休憩時間に先輩とコミュニケーションをとるために喫煙所に足を運び、やがてヘビースモーカーとなっていく様をみてきました。

なかには、全従業員のうち40%以上が喫煙者という事業所や、社長が愛煙家であるために喫煙所を撤廃できないという企業もあります。

こういった職場環境が、現在進行形で新たな若い喫煙者を生み出していることも事実です。

もしも、健康日本21に全面禁煙の一文が挿入されていれば、日本のたばこ対策は大きく進んでいたかもしれません。

その一方で、トップが交代した際に、喫煙所が撤廃されたという企業も存在します。

職場におけるたばこ対策が各事業所に一任されている現在の日本においては、企業のトップ達のたばこに対する意識改革も重要であると考えます。

次の記事『たばこのないオリンピックを目指して-全国各地の画期的なたばこ対策を紹介』では、各都道府県や各企業など、全国で行われているたばこ対策についてご紹介します。

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