概要
膀胱がんとは、膀胱内に発生するがんのことです。膀胱の内側は尿路上皮という粘膜で覆われており、膀胱がんの大部分は尿路上皮ががん化したものです。
膀胱がんはがんの広がりや深さによって大きく2つに分けられます。1つは膀胱筋層まで広がった“筋層浸潤性がん”で、もう1つは膀胱筋層まで広がっていない“筋層非浸潤性がん”です。後者には膀胱の表面を這うように発育する“上皮内がん”という特殊なタイプも含まれます。筋層浸潤性がんは進行が早く転移を起こしやすい、上皮内がんは悪性度が高いなど、それぞれで異なる特徴がみられます。
日本で膀胱がんと診断される人は年間約2万人といわれ、男女共に60歳頃から増え、高齢になるほど発生頻度が高くなります。特に男性に多く、男女比は約4:1となっています。
原因
膀胱がんの原因はまだはっきりと分かっていませんが、喫煙が大きなリスク因子になることは判明しており、男性の50%以上、女性の約30%は喫煙が原因と推測されています。また、喫煙者は非喫煙者と比べてがんの発生率が2~4倍ほど高くなるといわれています。
仕事で特定の化学薬品(ナフチルアミン、ベンジジン、アミノビフェニルなど)を取り扱う人も膀胱がんの発生率が高いことが知られています。そのほか、薬剤(シクロフォスファミド、フェナセチン含有鎮痛剤など)や、骨盤内臓器への放射線治療による膀胱への被ばくなどもリスク因子になると考えられています。
症状
膀胱がんの初期症状としてもっとも多くみられるのが血尿です。血尿は膀胱炎などの良性疾患でもみられる症状ですが、良性疾患では痛みを伴うことが多いのに対して、膀胱がんでは一般的に痛みを伴いません。
そのほかの症状としては、頻尿や尿意切迫感、排尿時の痛み、下腹部の痛みなどが挙げられ、このような症状で発症することもあります。また、出血が多くなると疲労感やふらつき、息切れ、顔色が青白いなどの貧血症状がみられる場合があります。
検査・診断
膀胱がんが疑われると、まず尿細胞診検査、腹部超音波検査、膀胱鏡検査などを行います。尿細胞診検査にてがんの疑いがある場合、膀胱鏡検査などで膀胱内に腫瘍を認める場合には、内視鏡下に腫瘍を切除してがんかどうかを確認します。がんであった場合には、CT検査、MRI検査、骨シンチグラフィなどの画像検査を行い、がんの広がりや転移の有無を調べます。
尿細胞診検査
尿を採取して、尿中にがん細胞が含まれているかを顕微鏡で調べる検査です。5段階で評価し、1と2が陰性、3が疑陽性、4と5が陽性となります。ただし、がんがあっても陰性になる場合もあるため、この検査だけで判断することはできません。
腹部超音波検査
プローブという超音波を発する器具をお腹の表面に当て、超音波の反射波を利用して膀胱内の様子を観察します。体への負担がなく簡便に行うことができますが、検査精度は膀胱鏡検査よりも劣ります。
膀胱鏡検査
内視鏡を尿道の出口から膀胱内に入れて、カメラで膀胱内を観察する検査です。肉眼的に腫瘍の有無や発生部位、数、大きさ、形状などを確認することができます。
画像検査
膀胱がんの診断に用いる画像検査には、CT検査、MRI検査、骨シンチグラフィなどがあります。CT検査はリンパ節やほかの臓器への転移の診断に有用で、MRI検査は主にがんの深さを診断するために行います。骨シンチグラフィでは、骨に集まる放射性の薬を注射して骨に転移しているかを調べます。
膀胱生検および経尿道的膀胱腫瘍切除術
膀胱がんの診断を確定するために、膀胱の粘膜を採取あるいは切除し、顕微鏡を用いてがん細胞の有無を確認します。この検査は体に負担がかかるため、多くの場合、検査と治療を兼ねて行います。
治療
膀胱がんの治療法には手術、放射線療法、化学療法、膀胱内注入療法があり、がんのタイプや転移の有無、患者の希望などに応じて選択します。
手術
転移がない場合には基本的に手術を行います。手術方法には大きく分けて、内視鏡下でがんを切除する経尿道的膀胱腫瘍切除術(TURBT)と、膀胱を全て摘出する膀胱全摘除術の2つがあります。最近では腹腔鏡下手術、ロボット支援手術が行われることもあります。
TURBTは主にがんが粘膜付近にとどまっている筋層非浸潤性がんに対する手術で、全身麻酔または腰椎麻酔を行い、内視鏡を使用してがんのある部分を高周波電気メスで切除します。
膀胱筋層まで広がる筋層浸潤性がんでは、内視鏡で完全にがんを切除することができないため、膀胱を全て摘出する必要があります。膀胱を摘出すると尿を溜めておくことができなくなるため、新たな排尿路を作る尿路変向(変更)術を同時に行います。
膀胱内注入療法
膀胱内に直接抗がん剤またはBCG(ウシ型弱毒結核菌)を注入する治療です。内視鏡治療後に、膀胱内でのがんの再発を防ぐ目的で行います。悪性度の高い筋層非浸潤性がん、あるいは上皮がんの場合にBCGを用いることが多く、抗がん剤は悪性度の低いがんに対して用いる場合があります。
放射線療法
膀胱がんに放射線を照射してがんを縮小・消滅させる治療です。高齢などで体力的に手術が難しい場合や、膀胱の摘出を望まない場合に適応となります。がんによる不快な症状を軽減させることを目的として行うこともあります。
化学療法・免疫療法
リンパ節やほかの臓器に転移している場合や、膀胱全摘術を行っても再発・転移の可能性が高いと判断した場合に、抗がん剤を点滴して全身に行きわたらせる全身抗がん剤治療を行います。そのほか、抗がん剤治療後に免疫療法などを行うこともあります。
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【第59回日本癌治療学会レポート】泌尿器科ロボット支援手術の現状と未来――次世代教育の課題(2700字)
患者への根治性を担保した低侵襲手術の提供、術者への高い操作性の提供の双方からロボット支援手術の需要が高まっている。特に泌尿器科での悪性腫瘍手術は次々とロボット支援手術に置き換わっており、全てがロボット支援手術となる時代が間近に迫っている。国立がん研究センター東病院 泌尿器・後腹膜腫瘍科長の増田 均氏
【インタビュー】膀胱がん手術時の光線力学的診断――目視できないがん細胞判別も可能に(370字)
最近、膀胱がん手術時に光線力学的診断(PDD)を用いる方法の有用性が実証され、保険収載された。PDDとは、5-アミノレブリン酸(5-ALA) という光感受性物質を体内に投与した後に蛍光内視鏡を用いてがん病変を蛍光発光させる診断方法である。現在、膀胱がんに対しては内視鏡と切除ループを用いる経尿道的膀胱
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