膀胱がんの治療選択肢は、膀胱壁の筋層までがんが浸潤しているか否かで異なります。もし、がんが筋層まで達しているいわゆる筋層浸潤がんであれば、膀胱全摘出術と尿路変向術という2つの手術を同時に行うのが標準的な治療です。ただし、患者さんの年齢や体力、ご本人やご家族の意思などを尊重して治療方針を決めることが重要になります。
本記事では膀胱がんに対する手術を中心に治療について解説します。
まずはCT検査や超音波検査などの画像診断を行います。加えて、尿検査の一種である尿細胞診なども行い、これらで膀胱がんが疑われた場合には、膀胱鏡検査(内視鏡検査)にて最終診断を行います。膀胱がんであると診断された場合、さらにMRI検査を行い、がんが広がっている範囲(深達度など)を確認します。
膀胱鏡検査はゼリー状の粘膜麻酔薬を尿道に入れた後、膀胱鏡を用いて膀胱内を観察する検査です。尿道からカメラを入れるため、“痛い”というイメージをお持ちの方もいるかもしれません。しかし、柔らかくて細いカメラを使用しているので、痛みはほとんど感じないと思われます。時間も5~10分程度で終わりますので、膀胱がんを疑う何らかの症状がある、尿検査で異常を指摘されたという方は、ためらわずに検査を受けましょう。
膀胱がんは、がんの深達度によって治療選択肢は異なります。膀胱がんのステージ分類のうち、T1(がんが膀胱壁の筋層に及んでいないもの)までを非筋層浸潤がんと呼び、経尿道的膀胱腫瘍切除術(Trans urethral resection of bladder tumor:以下TUR-Bt)の適応となります。一方、筋層まで達しているものを筋層浸潤がんと呼び、膀胱全摘出術および尿路変向術が治療選択肢になります。
非筋層浸潤がんに対しては、内視鏡とループ状の電気メスを用いて腫瘍を切除するTUR-Btが主に行われます。TUR-Btの後に、再発予防のための抗がん剤の膀胱内注入療法、上皮内がん(ステージ分類:Tis)に対するBCG(ウシ型弱毒結核菌)膀胱内注入療法などを行う場合もあります。また高リスクの非筋層浸潤がんでは、2回目のTUR-Btによる残存腫瘍の切除、深達度の再評価を行うこともあります。
TUR-Btの詳細については、「非筋層浸潤膀胱がんに対するTUR-Bt(経尿道的膀胱腫瘍切除術)、膀胱内注入療法」をご覧ください。
筋層浸潤がんに対しては、原則として膀胱全摘出術が主な治療となります。方法としては開腹手術、腹腔鏡下手術、ロボット支援手術がありますが、近年はより低侵襲(患者さんの負担が少ない)であるロボット支援手術が主流になりつつあります。また、術前術後に化学療法(抗がん剤治療)を追加する場合があります。なお、膀胱全摘出術が適応となるのは、基本的にはがんが膀胱内にとどまっているか、あるいは少し膀胱を超えて広がりがあっても手術的に全てを取り除ける可能性がある場合(おおむねT3以下)に限られます。
また、がんの進行が膀胱周囲に及び(T4)膀胱全摘出術が手技的に困難な場合や、高齢の方や合併症のため膀胱全摘出術のリスクが非常に高い場合、多くの転移を有し予後を考慮して手術の適応ではないと判断する場合などは、膀胱全摘出術は行わず化学療法や放射線治療などで治療を行います。また転移のある場合や、再発が生じた際は主に化学療法が治療の中心となり、近年は免疫療法(免疫チェックポイント阻害剤)も選択可能になってきており、多くの治療法が行われています。
膀胱全摘出手術を受ける場合は、同時に尿の出口を確保するため何らかの尿路変向術が必要となります。主な術式には、腹部に尿の出口(ストーマ)を作って集尿袋を装着し、尿をためる“尿管皮膚ろう造設術”や“回腸導管造設術”、腸管を用いて代用膀胱を作り尿道からの排尿を可能にする“自然排尿型代用膀胱造設術”などがあります。それぞれに長所と短所があるため、年齢・体力・術後の生活習慣・予後などを考慮し、患者さん自身が治療法を理解して、納得することが重要でしょう。
尿路変向術は膀胱全摘出術に引き続いて同時に行います。近年、技術の向上などにより以前と比べれば改善はされているものの、膀胱全摘出術+尿路変向術は多くの侵襲的操作を伴い、手術時間も長く(6~10時間以上:条件によりさまざま)体の負担が大きい手術です。また、骨盤内は血管が深く、なおかつ入り組んでいるため出血した場合のコントロールが難しく、まれに大きな出血に至るケースもあります。加えて、尿路変向術で腸管を用いる場合には、術後に腸管麻痺や感染症、吻合不全に伴う腹膜炎などの大きな合併症が起こる場合もあります。
そのほかにもさまざまな合併症の可能性があり、侵襲やリスクが高い手術であるため、患者さんの条件をよく検討して手術適応を考えなければなりません。
尿路変向術の代表的な術式である、尿管皮膚ろう造設術、回腸導管造設術、自然排尿型代用膀胱造設術について、それぞれの特徴を中心に解説します。
尿管を直接お腹の皮膚より出して固定し、そこから尿を排出する方法です。左右の尿管をまとめてストーマを1か所にする場合と、左右それぞれに作る場合があります。特にストーマを右側1か所に集めることができれば、術後の生活が便利なのですが、体格のよい方や肥満の方は左側の尿管の長さが足りず、届かないことがあり、このような場合には左右両側にストーマを作ることになります。いずれの場合もストーマに集尿袋を装着して尿をため、一定量になったら捨てる必要があります。
尿管皮膚ろう造設術は、腸管を直接操作することがないので手術そのものによる体への負担が少ない点が大きなメリットです。そのため、高齢の方や合併症によりリスクの高い方などに検討される術式といえます。一方、デメリットとしては、術後にストーマ周囲の腹壁の組織が尿管を圧迫したり、ストーマが狭くなったりして尿の流れが滞ってしまうと、腎臓が腫れたり腎盂腎炎を起こしたりする場合があります。このような場合には、スムーズな尿の排出を促すため、尿管ステントや腎盂バルンカテーテルを留置する処置を行わなければならない場合があります。
小腸の一部(回腸)を20cmほど遊離した(切り離した)ものを導管として利用し、これに左右の尿管をつなぎ、この導管を経由して体外に尿を排出する方法です。導管の片方の口は閉じ、もう片方の口を皮膚に固定してストーマを作り、集尿袋を装着して尿をためて、一定量に達したら捨てるようにします。
尿管皮膚ろう造設術と比較すると腸管を利用するため手術そのものの負担は大きくなりますが、ストーマが1か所で済むとともに、尿の排出口を大きくとれるためスムーズに尿が排出される点が回腸導管のメリットです。そのため腎臓のはたらきが維持され、腎盂腎炎も起こりにくいので、尿路変向術の中でもっとも標準的な術式とされています。
ただし、腸管を遊離して残りを再吻合する手術であるため、時に腸閉塞、吻合不全、腹膜炎といった腸管に伴う合併症をきたす場合があります。
小腸(回腸)を約60cm程度遊離し、これを開いた状態にして縫い合わせ、尿をためる袋(代用膀胱)を作る手術です。代用膀胱の上部に尿管を、底部に残された尿道をつなぐため、尿道から排尿することができます。つまり、お腹にストーマを作る必要がないので、膀胱摘出前に近い状態で排尿をすることができ、術後のQOL(Quality Of Life:生活の質)が高い術式といえるでしょう。
一方で、やはり腸の切除や吻合操作に伴う腸閉塞や腹膜炎、吻合不全や感染症といった合併症リスクを伴います。また、あくまでも代用の膀胱であり、本来の膀胱とまったく同じ機能を担えるわけではありません。特に夜間は腸の蠕動運動(腸に食べ物が届いたときなどに起こる筋肉の収縮運動)により尿が漏れることもあります。
また、回腸導管造設術と比べて腸管を大きく遊離する手術ですので、より体への負担も大きくなります。そのため、比較的年齢が若く、体力のある患者さんに対して行われることが多いのが現状です。また、尿道を取り除かず温存するため、尿道へのがんの再発リスクが高い場合には自然排尿型の本術式が選択できない場合もあります。
尿管皮膚ろう造設術、回腸導管造設術を受けた方には、ストーマや集尿袋の管理方法を習得していただく必要があります。病院によっては皮膚・排泄ケア認定看護師がストーマや排尿の管理について指導やサポートを行う病院もあります。
自然排尿型代用膀胱造設術を受けた方には、排尿については特別な指導は必要ありません。本来の膀胱で感じる尿意とは異なるものの、尿がたまってくるとお腹が張るような感覚があり、少し腹圧をかけて排尿を意識すれば尿道括約筋がゆるみ、自然に排尿することが可能です。しかし中には、うまく排尿できていなかったり、残尿(排尿した後にも膀胱内に尿が残ること)が多くなったりして、何らかの問題が起こっている場合もあります。したがって、日頃からご自身の尿の出方や量に意識を向け、違和感や気になることがあれば早めに受診することが大切です。
膀胱全摘出術と尿路変向術は侵襲(患者さんの負担)が大きな手術です。そのため、排尿に関する指導以外にも日常生活に大きな支障が出ないよう、特に高齢の方などは術後の早期離床と歩行訓練や筋力強化といった基本的なリハビリが重要です。通常は術後2~3週間程度で退院できる方がほとんどです。
またどの術式であっても、退院後の食事や運動、入浴などの日常生活に制限はありません。ストーマがある方も、集尿袋にたまった尿を捨て、専用のベルトで袋を固定すれば問題なく入浴できるため、工夫しながら温泉やスパに行かれる方もいらっしゃるようです。
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再発リスクの評価
表在性膀胱癌の手術を6月に行い、単発抗がん剤注入を受けました。 その後、先9月の膀胱鏡検査では、再発をしていませんでした。 比較的簡易な処置で済む癌ですが、1年以内の再発率60%程度と高く、一度再発すると2度目は70%、3度目80%、とさらに上がるそうです。 よって近場の泌尿器科のクリニックでがん細胞診の尿検査を毎月受け、3ヶ月毎に膀胱鏡検査をすることにしています。 しかし、その確率の高さを考えると憂鬱です。先手を打ち再発リスクを下げる方法はないのでしょうか? また、よしんば再発が免れたとしても、いったいあと何年再発への注意をしなければいけないのか?見通しが欲しいです。
治療方法など
2018.6に非浸潤型膀胱がん発症、2ヶ所Ta、ローグレード 2019.5再発2ヶ所、2020.5再発2.5ヶ所手術は実施予定 (2018.11、2019.12は再発せず) いずれもTURBT手術を実施 手術後、抗がん剤注入せず 抗がん剤注入しないのは効果が変わらない 又同病院ではやっていない とのこと (病院は、がんを診察したクリニックからの紹介) 質問 1.抗がん剤の効果は無いのか 2.再発時の手術後、抗がん剤は注入しないのか 3.将来、BCG注入必要になった際、BCGは副作用があり、その代替で抗がん剤注入しないのか 4.転院しても抗がん剤注入した方が良いのか 5.転院は簡単に出来るのか 6.転院の手続きはどうするのか 7.BCG注入で萎縮の副作用があれば、膀胱を切除するしかないのか 以上
86歳、膀胱癌で手術後のBCG注入治療は必要か教えてください。
86歳で膀胱癌と診断され手術後BCG注入治療を勧められたのですが、介護施設の主治医に副作用が大変だから勧められないと言われ治療をお断りしたら再発・再発で1年間に3度の手術を受ける結果となりました。3月3日に手術をしましたのでまた1ヶ月後に治療を勧められると思います。癌は再発、転移するので治療が絶対必要だとおっしゃる先生と、高齢で進行がゆっくりなのに副作用が大変な治療をする必要はないとおっしゃる介護施設の主治医、知識や経験が全くない私はどちらを選択すれば良いのか悩んでおります。良きアドバイスをどうぞよろしくお願い致します。
膀胱がんでのBCGについて
来月からBCGを開始するのですが 1.BCGはやるべきか 2.一般に生じる副作用はどのようなものか 3.BCGは恐ろしい気がするのですが
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