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インタビュー

膀胱を全摘除しても自然な排尿を可能にする代用膀胱造設術とは

膀胱を全摘除しても自然な排尿を可能にする代用膀胱造設術とは
戸邉 豊総 先生

済生会宇都宮病院 泌尿器科 主任診療科長

戸邉 豊総 先生

この記事の最終更新は2016年07月14日です。

がんのために膀胱をすべて取り除く膀胱全摘除術を行うと、尿の排泄経路を変更するためボディ・イメージが大きく変わってしまいます。代用膀胱造設術は膀胱を取り除いた後、患者さん自身の腸の一部で新たに作った膀胱に置き換える手術です。これによって患者さんは術前と同じように自分で排尿することができます。済生会宇都宮病院泌尿器科主任診療科長の戸邉豊総先生は、スイス留学時にこの術式の考案者であるStuder教授の下で直接指導を受けて研鑽を積み、Studer式回腸代用膀胱造設術を導入しています。戸邉豊総先生に代用膀胱造設術のさまざまな利点についてお話をうかがいました。

代用膀胱は回腸(かいちょう・小腸の中で大腸につながる部分)の一部を使って作りますが、そのことによって腸の機能に問題は生じません。ただし、回腸を100cm以上使うと腸内におけるシュウ酸と結合すべきカルシウムが減るためシュウ酸の吸収量が増加して結石ができやすいというデータがあり、通常は50〜60cm弱程度を使います。新しく膀胱を作るという意味でネオブラダー(新膀胱)と呼ぶこともあります。

Studer式回腸代用膀胱造設術
出典:済生会宇都宮病院 広報誌「みやのわ」第41号

もちろんこの術式は簡単なものではありません。膀胱は作れてもうまく機能しない場合もあります。うまく尿をためることができずもれてしまったり、排尿ができないというということもありえます。

特に女性の場合は男性よりも尿道が短いため、問題なく排尿できるようにするには技術が必要です。もともと膀胱がんの患者さんが男性に多いということもあり、女性にはこの術式を行っている医療機関は少ないかもしれません。しかし、患者さんとしては審美的にも女性のほうがよりストマ(体外に設ける排出口)がないほうが望ましいので、我々は手術の適応があれば女性に対しても積極的に手術を行っています。

術後の検査では造影剤を入れて実際に排尿しているところを確認していますが、残尿なくきれいに排尿できています。腸で作った膀胱でも、術前とまったく同じように排尿ができるのです。

元からある膀胱を取った代わりに新しい膀胱に置き換えるわけですから、この術式は膀胱置換であるともいえます。これまでの回腸導管(かいちょうどうかん)ではストマを造設して尿をためる袋を常に体の外につけていなければならなかったため、患者さんも膀胱を取ることに抵抗がありました。

つまり、回腸導管による尿路の変更、ボディ・イメージの変化が受け入れられないため、本来であれば早いうちに膀胱を取るべきケースであるにもかかわらず手術をためらってしまい、その間にがんが進行してしまうことも少なからずあったのです。

しかし我々のデータでは、回腸導管の場合と比較しても、膀胱全摘除を行いネオブラダー(新膀胱)に置換したほうが術後の経過、つまり予後が良くなっています。これは膀胱を取るべき時期を逃してがんを取り遅れることがないためです。

済生会宇都宮病院 泌尿器科における膀胱全摘除後の尿路変向別生存率

 

今までの膀胱全摘除では、術後にボディ・イメージが変わってしまうだけでなく、男性の場合は膀胱の近くに勃起神経があるため、インポテンツ(勃起不全)になることがありました。しかし現在は状況に応じてその神経を温存しながら膀胱を取る術式も行っています。

膀胱を取ってしまっても自分で排尿ができ、セックスもできるとなれば、ほとんど手術前と変わらないということになります。ですから我々としては、膀胱全摘除を受け入れることができ、なおかつ手術の適応となる場合には代用膀胱造設術による膀胱置換をおすすめしています。

現在は術前に抗がん剤による化学療法を併用して、なるべくがんを小さくしてから取るということをしていますが、やはりデータから見ても根が深くならない早期のうちに膀胱を取るほうが予後はよく、がんの根が深くなればなるほど予後が悪くなるため、そうならないうちに手術をすることが大切です。

手術の適応となるのは、筋層浸潤(きんそうしんじゅん・粘膜に発生したがんが臓器の壁の奥深くにまで広がること)している膀胱がんですが、さらに進行すると今度は筋層を破って漿膜(しょうまく)に達しているかどうかというところによっても変わってくる部分があります。

他の施設では膀胱の温存を目的に抗がん剤の動注療法と放射線治療の組み合わせで治療を行っているところもありますが、その場合も手術の適応をかなり絞って行っているというのが実情です。膀胱を取りたくないという患者さんにはなんとか温存しようという流れもあるでしょうし、我々のように膀胱は取っても新しい膀胱に置換するというアプローチもあります。

まだiPS細胞をもってしても膀胱の再建ができるところまで進んではいませんから、実際には自分の臓器からそれを作って再建するというのが今、現実的にできる最新の治療なのではないかと考えています。

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    戸邉 豊総 先生

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