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インタビュー

膀胱がんによる膀胱全摘除と術後の経過

膀胱がんによる膀胱全摘除と術後の経過
戸邉 豊総 先生

済生会宇都宮病院 泌尿器科 主任診療科長

戸邉 豊総 先生

この記事の最終更新は2016年07月14日です。

膀胱がんの治療のために膀胱全摘除術を受けた後、回腸導管とStuder法による代用膀胱造設術(ネオブラダー)では術後の経過や日常生活にどのような違いがあるのでしょうか。長期的な予後や患者さんとご家族のQOL(生活の質)などについて済生会宇都宮病院泌尿器科主任診療科長の戸邉豊総先生にお話をうかがいました。

骨盤内臓全摘術とは、直腸がんが進行して膀胱側など他の臓器に浸潤してしまったときに、骨盤内にある臓器をすべて摘出する手術です。その場合、患者さんは回腸導管と人工肛門の2つのストマを造設して生活しなければなりませんでした。

そこで、私が済生会宇都宮病院の前にいた千葉大学医学部附属病院では、「ストマのない骨盤内臓全摘術」という術式を行っていました。これは排尿・排便機能を再建した骨盤内臓全摘術です。直腸がんの患者さんは比較的若い方も多いので、非常に喜ばれていました。

私が実際にStuder法によるネオブラダー(新膀胱)の第1例目の手術を行ったのは1998年のことですが、それ以来、今でもずっと年賀状やお手紙をくださる患者さんがいらっしゃいます。ちょうど2000年に「ストマのない骨盤内臓全摘術」を受けた患者さんで、16年経った今でも排尿・膀胱に問題がなくお元気な方がいらっしゃいます。

気になる長期予後について、腎機能や排尿ができるかどうかなど、術後10年で区切ってみたデータがありますが、術後10年でも日中は尿がもれることもなく排尿ができています。ただし夜間に関しては少し失禁が見られます。これは就寝中に起きてトイレに行けば回避できることなのですが、慣れてくると尿もれパッドなどで対策をして睡眠を優先するという方も増えてくるので、そういったケースも含まれます。術後3年で見ると6〜7割の方は夜間ももれはありませんし、日中は尿もれのない方が95%以上になっています。

また、残尿もほとんどみられません。ただし10年経過するとカテーテル導尿をする方が出てきますが、それは術後の後遺症というよりも加齢性の変化という部分が大きいとみられます。

Studer法によるネオブラダーは腹圧をかけることによって排尿をします。そのため、ご高齢で寝たきりになったときに回腸導管のほうがむしろ管理が楽なのではないかと考える方もいるのですが、実際にはバルーンカテーテルを尿道から入れておけば何ら問題はありません。

我々はQOL(Quality of life:生活の質)について研究をしたことがありますが、そこでは患者さんとご家族のQOLについて調べました。膀胱がんの患者さんご本人だけでなく、ご家族も忘れてはならない存在です。もちろん患者さんがストマの管理を自分自身でされる場合もありますが、尿をためるパウチの交換などをご家族にやってもらうことも少なくありません。我々はその点に着目して研究を行いました。健康関連のQOL(HRQOL: Health Related Quality of Life)を測定するための尺度にSF-36®というものがあります。身体機能や全体的健康感、心の健康など、それぞれの項目の得点をレーダーチャートで表したものが下記の画像です。

SF-36® による患者のQOL
すべての項目においてネオブラダーが回腸導管より上回っている

 

SF-36®による患者家族のQOL
社会生活機能、日常役割機能、全体的健康感でネオブラダーの方が回腸導管より上回っている

このようなデータで比較すると、回腸導管よりもネオブラダー(新膀胱)のほうがよい結果が出ています。それは患者さんのご家族で見ても同様です。しかも時間を追って見ていくと、回腸導管ではストマのケアで疲弊してしまってスコアが落ちてくるのに対して、ネオブラダーのほうは変わらないかむしろ向上しています。

膀胱がんは高齢の患者さんが多いため、面倒を看るご家族、特に配偶者の方も一緒に高齢化しています。ご高齢であってもストマのケアに慣れてきて十分続けられる方もおられるでしょうが、データから見てもやはり高齢のご家族が疲弊してQOLが低下しているという面が伺えます。そういった意味でもこのネオブラダーは、適応可能な方にはさまざまな面でおすすめできる術式であると考えます。

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