膀胱がんとは、尿をためる臓器である膀胱に発生する悪性腫瘍のことです。複数のがんが発生したり、再発したりしやすいのが特徴であり、がんの状態によっては膀胱を全て摘出しなければならない場合もあります。今回は、膀胱がんの原因や特徴的な症状、検査・治療について、NTT東日本関東病院 泌尿器科 部長 兼 前立腺センター長である中村 真樹先生にお話を伺いました。
膀胱がんは60歳以上の方に発生しやすく、特に男性に多いとされるがんです。発症率の男女比は、おおよそ3:1といわれています。再発しやすいのが特徴で、早期に見つかって治療をした場合でも約50%の確率で再発します。再発を繰り返すうち、徐々に進行するケースもあり、長い経過を辿るがんとして知られています。
膀胱がんの原因として多いといわれているのは、喫煙です。喫煙者は非喫煙者に比べて、膀胱がんを発症するリスクが2~4倍高まるといわれています。また、ベンジンをはじめとする有機溶剤を扱う職業に就いている方も、膀胱がんを発症しやすいといわれています。
そのほか、まれではありますが膀胱結石や、海外では寄生虫による感染も原因として知られています。
膀胱がんは多くの場合で、血尿が出ます。血尿は膀胱炎などでも出る場合がありますが、膀胱がんの場合は“無症候性血尿”といって痛みや発熱などほかの症状を伴わないことが多いのが特徴です。また、肉眼で確認できない血尿もあり、その場合は主に健康診断の尿検査で発見されます。
なお、なかなか治らない膀胱炎にも注意が必要です。治療をして症状が改善したにもかかわらず再び膀胱炎になるような場合は、膀胱がんが隠れている可能性もあります。
肉眼で確認できる血尿の場合、便器に赤い尿が広がるためすぐに異常に気付けるものの、数日で止まることもあってつい見過ごしてしまいがちです。血尿が出なくなったことに安心してしまうかもしれませんが、しばらくして再び血尿が出る可能性が高いため、一度でも血尿が出た場合は泌尿器科を受診していただくことをおすすめします。
当科では受診いただいたら、まず尿検査を実施します。尿に血液が含まれていることが分かったら、次は尿細胞診を行います。尿細胞診は尿検査と同じく尿を採取して、その中にがん細胞が含まれているかどうかを調べる検査です。そのほか、膀胱の超音波検査を行う場合もあります。
ここまでの検査で膀胱がんの可能性が高いと判断した場合は、尿道から細いカメラを入れて膀胱の中を観察する膀胱鏡検査を実施します。
検査を行って膀胱がんであることが分かった場合は、がんの深さや転移の有無を調べるためにMRI検査やCT検査を実施します。これらの検査である程度がんの状態が分かる場合もありますが、さらにTURBT(経尿道的膀胱腫瘍切除術)でがん組織を採取し、顕微鏡で正確な評価(病理診断)を行います。
TURBTとは、尿道から内視鏡を挿入して電気メスでがんを切除する検査であり、膀胱がんの治療方法の1つでもあります。
膀胱がんの病期(ステージ)は主に、がんの深さ・リンパ節への転移・別の臓器への転移の有無によって決まります。
上記の図のとおり、がんが膀胱内~粘膜下組織にとどまっているものは、Tis・Ta・T1にそれぞれ分類され、これらは筋層非浸潤性膀胱がんとも呼ばれます。いわゆる早期がんの段階ではありますが、中には転移をしていたり、多発したがんの中に悪性度の高いがんが混じっていたりする場合があるため、注意が必要です。
T2以上のがんもその深さに応じてT2a・T2b・T3・T4と分類され、数字が大きいほどがんが深いことを表します。筋層まで及んでいるがんは、筋層浸潤性膀胱がんといいます。
なお、T3・T4は膀胱で発生したがんが壁を越えて外に出ている状態で、T4については膀胱に隣接する臓器(前立腺や子宮など)にも影響が及びます。
膀胱がんの治療は、がんの状態によって大きく異なります。膀胱がんにはさまざまな治療法がありますが、主に用いられるのは以下の3つの治療法です。
先述のとおり、内視鏡を使ってがんを切除する治療法です。TURBTを行い、がんの病期がTaかつ転移なしと分かった場合、基本的には約3か月に1回の頻度で膀胱鏡検査を実施しながら経過観察となります(膀胱鏡検査の間隔は適宜延びていきます)。
TURBTの結果、T1(粘膜の下の層まで及ぶがん)と診断された場合には、1か月程度空けて再びTURBTを実施します(セカンドTURBT)。セカンドTURBTでは必要に応じて追加切除を行いますが、がんが明らかに残存している場合には、進行・再発するリスクを踏まえて膀胱全摘除術を検討することもあります。
膀胱内に抗がん薬やBCG(ウシ型弱毒結核菌)を注入して、がんを治療する方法です。カテーテルを使って尿道から注入を行います。主に膀胱の表面を這うように発生しているがん(病期でいうTis)の場合や、がんが多発している場合などで膀胱内注入療法を行います。
手術によって膀胱を全て摘出する治療です。病期がT2以上の膀胱がんは、基本的に膀胱全摘除術が標準治療とされています。そのほか、がん細胞がリンパ管や血管に入り込んでいる場合や、膀胱内注入療法を行っても効果がみられない場合などで膀胱全摘除術を検討します。膀胱全摘除術を行う際は、排尿機能を補うための尿路変向術も同時に実施します。
突然血尿が出たとき、驚きと恐怖で受診から目を背けたくなる方も多いと思います。実際、当科を受診される患者さんも2回目の血尿で初めて受診される方が多くいらっしゃいます。血尿が出たからといって必ずしも膀胱がんであるとは限りませんが、受診を躊躇っている間にがんが進行してしまうケースがあるのも事実です。
膀胱がんはさまざまな病期がある腫瘍で、日本泌尿器科学会が定める診療ガイドラインに則った治療を行えば再発を防げる方もいらっしゃいますので、自己判断はせずにまずは受診して検査を受けていただきたいと思います。
NTT東日本関東病院 泌尿器科 部長 兼 前立腺センター長
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