頭頸部のなかでも、下咽頭、喉頭は、のどの奥にあるため口を開けただけでは見ることができません。そこに発症する咽頭がんの手術は、従来は喉の外側を切って切除していました。しかし、大きく傷が残ってしまうことや、誤嚥の問題が生じる危険性があることから患者さんのQOLをより高めるために新しい治療法が考えられてきました。日本で開発された彎曲型喉頭鏡を使った手術ELPSについて、東京医科歯科大学朝蔭孝宏先生にお話をうかがいます。
下咽頭という部分は、ふだんは食べ物が通らなければつぶれた状態になっています。そこへ彎曲型喉頭鏡を入れることによって、喉頭から下咽頭を押し広げて行う手術のことをELPSと呼びます。下咽頭は、ふだんつぶれた状態であることに加え、喉の非常に奥のほうに位置しているので、口を開けた状態では病変が直接見えにくいという特徴があります。しかし、その彎曲型咽頭鏡と内視鏡を入れることによって病変が見やすくなり、粘膜切除することができます。粘膜切除は、従来胃がんや食道がんで行われていた手術で、胃や食道の表面を内視鏡ではぎとるという手術です。
咽頭の手術は従来、使用されていた器具にはまっすぐなものしかなく、非常に困難でした。そのため、首の外側を開いて喉の中にあるがんにアプローチするしかありませんでした。しかし、彎曲型咽頭鏡やカーブがついた鉗子などが開発されたことによって、首に傷を残すことなくがんを切除することが可能になりました。内視鏡の精度も年々上がっています。
従来の下咽頭手術では、首を切って開け、がんを取り除き、空腸などを移殖するという工程であったため7~8時間かかっていました。移殖手術がうまく体に馴染まなかった場合、再手術を必要とすることもあります。ELPSの場合、首の切開や移殖の必要がないため手術は2~3時間で済み、再手術のリスクも非常に小さいという利点があります。
喉頭、下咽頭、舌根(中咽頭の一部)にできるがん早期がんに適応されます。従来であれば、この早期がん(小さいがん)でも首の外側を切る必要がありました。しかし、ELPSが行われるようになってからは、より患者さんの状態に適した治療法が選択できるようになったのです。
この手術によって新たな弊害が生じることはほぼありません。しかし、内視鏡などの器具の精度が上がったことにより、今まではがんと認識されなかったような小さな病変まで発見されることはあります。そのため、非常に早い段階で、想定していなかったがんの治療にあたらなければならないケースがあります。
頭頸部がんは、同じ領域にいくつも発生しやすいがんです。しかし早期発見であれば、首を切らなければならないような大きな手術ではなく、経口的に小さい手術で治療可能です。
この経口的手術では、1つ目の手術の際に2つ目3つ目のがんが見つかり、同じように経口的手術で切除するというケースも少なくありません。しかし、同じ深さのレベルで付近にがんが密集していた場合、切除しても手術後に切除した部分が瘢痕化して縮まってしまい、食べ物が通らなくなってしまうこともあります。がんの深さや複数のがんの位置関係によっては、経口的手術が行えない場合もあります。
東京医科歯科大学 医学部 頭頸部外科学講座 教授
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