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中・下咽頭がんに対する経口的腫瘍摘出術――ロボット支援下手術の可能性

中・下咽頭がんに対する経口的腫瘍摘出術――ロボット支援下手術の可能性
中尾 一成 先生

NTT東日本関東病院 耳鼻咽喉科・頭頸部外科 部長

中尾 一成 先生

目次
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中・下咽頭(ちゅう・かいんとう)がんの手術には、頸部(けいぶ)(首)の皮膚を切開して行う方法と、口から手術機器を入れて腫瘍(しゅよう)を切除する経口的腫瘍摘出術があります。経口的腫瘍摘出術は患者さんへの負担が少なく、発声や飲み込みの機能も温存しやすいのがメリットです。今回は、NTT東日本関東病院 耳鼻咽喉科(じびいんこうか)頭頸部外科(とうけいぶげか) 部長の中尾 一成(なかお かずなり)先生に、経口的腫瘍摘出術の詳細や、ロボットを使った新しい手術について詳しくお話を伺いました。

経口的腫瘍摘出術は、口から喉へ手術機器を挿入して腫瘍を摘出する方法です。皮膚を切開して腫瘍を取り除く手術と比較して、声帯や嚥下機能(えんげきのう)(飲み込む力)への影響を抑えることができ、入院期間も短縮できるなどのメリットがあります。

経口的腫瘍摘出術ができるかどうかは、腫瘍のサイズが大きなポイントです。小さな腫瘍であれば経口的腫瘍摘出術の対象となることが多いです。ただし、がんが喉の表面だけでなく奥深くまで進展している場合は、小さなサイズの腫瘍でも経口的腫瘍摘出術の対象にはなりません。

放射線療法や化学療法後に再発したケースも経口的腫瘍摘出術が対象となることが多いですが、放射線や抗がん薬の影響で組織が脆くなっているため、適応は慎重に見極める必要があります。

経口的腫瘍摘出術では、口の中という限られたスペースで手術を行います。腫瘍の大きさや場所を明確に把握したうえで切除するためには、種々のタイプの開口器などを駆使しながら、患者さんごとに適した方法で良好な視野を確保することが非常に重要です。

もう1つ重要なのが、術前の評価です。腫瘍が経口的に切除できるものなのかどうか、正確に判断しなければなりません。以前は術前評価と病理診断のための手術を行ったうえで、後日あらためて腫瘍を切除する方法が取られていたことが多くありました。しかし、二度も手術をすることは患者さんにとって大きな負担となります。そのため、最近ではファイバースコープや画像検査などで術前評価を行ったうえで、切除手術を実施するケースがほとんどです。

ただ、綿密な術前評価をしても、予想よりも腫瘍の広がりが大きい、十分な視野が得られないなどの理由で、手術が難しい状況になることもあります。そうした場合は無理やり手術を続行するのではなく、潔く撤退して別の治療に切り替える判断も重要です。術前の説明では、患者さんにもその可能性があることをお伝えするようにしています。

当院における経口的腫瘍摘出術の手術時間は30分〜2時間程度です(平均1時間程度)。手術中の麻酔は、麻酔の管をどこに置くかが重要なポイントです。視野の邪魔にならないよう、麻酔科医と相談しながらどのような方法で麻酔をかけるかを決めています(麻酔科標榜医:小松 孝美(こまつ たかみ)先生)。手術中は大量に出血してしまうと切除する場所が見えなくなってしまうので、できる限り出血を起こさないように手術を進めます。

術後の痛みは、飲み薬の痛み止めを飲めば対処が可能なことがほとんどです。喉の痛みが強くて食事が取れない場合には、鼻から胃にチューブを通して栄養補給を行うこともあります。痛みが治まってきた段階で、通常の食事に切り替えます。

術後の合併症としては、手術器具による歯の損傷、手術中に舌を押すことで生じるしびれや味覚障害などが起こる可能性があります。ただし舌の症状については、症状が出たとしても一過性のものです。

喉の筋肉を一緒に切除する場合は、空気が漏れ出して皮膚の裏側にたまる“皮下気腫(ひかきしゅ)”が起こることがあります。また、喉が腫れることで気道が狭くなったり、閉塞(へいそく)したりするリスクにも注意が必要です。術後は出血と気道の閉塞に注意しながら経過を見ていきます。

当院における入院期間は、多くの場合1週間以内です。表面の粘膜だけ切除するような小さな手術の場合には、手術翌日に退院できることもあります。扁桃や喉の筋肉などを切除した場合は、術後の出血リスクを考慮して、少し長めに入院して経過を見ています。

退院後は、定期的に通院してもらってフォローアップを行います。当院の場合、術後1年間は基本的に月に1回通院してもらって経過を観察し、2年目以降は2か月に1回、3か月に1回……と徐々に間隔を延ばしていき、5年間は経過観察するようにしています。

咽頭がんは、食道がんなどほかのがんと重複して発症することも多くあるため、飲酒・喫煙習慣があり重複がんのリスクが高い方については、5年を超えてフォローアップすることがあります。

PIXTA
写真:PIXTA

2022年に咽頭がんに対するロボット支援下の経口腫瘍摘出術が保険適用となりました。ロボット支援下手術とは、ロボットアームに接続された手術器具やカメラを口から挿入して、がんの切除手術を行う方法です。術者は患者さんから離れた場所にある操作台から遠隔でロボットアームを操作して手術を行い、助手が患者さんの横に立ち視野の確保やロボットアームの位置調整などを行います。術者と助手の緊密な連携がロボット支援下手術では非常に重要となります。

ロボット支援下手術の大きなメリットは、通常の経口的腫瘍摘出術と比較して圧倒的に視野がよい点です。また、ロボットアームは人の手指の可動域を超える動きができ、手ぶれも防止されます。以前よりもより患者さんの体の負担が少なく、根治性の高い治療が期待できます。

先方提供
ロボットアーム操作の様子(提供:NTT東日本関東病院)

咽頭がんのロボット支援下手術が日本で行われ始めたのはつい最近のことですが、アメリカでは約15年前から行われていました。アメリカのペンシルベニア大学でロボット支援下手術が始まった頃、私はちょうど同大学に留学しロボット支援下手術をはじめとする低侵襲治療の技法や概念について学んでいました。そうした背景もあり、ロボット支援下手術がようやく保険適用となったことを喜ばしく感じますが、一方でこれまで日本にはロボット支援下手術がなかったからこそ、ロボットに頼らない経口的腫瘍摘出術がレベルアップしてきた一面もあります。

ロボット支援下手術には多くのメリットがありますが、決して万能ではありません。腫瘍の位置によっては、ロボットアームが邪魔をして切除できないこともあります。これからは、経口的腫瘍摘出術の1つのモダリティとしてロボットを組み合わせることで、より質の高い手術が患者さんに提供できると考えています。

ロボット支援下手術などの技術的な進歩や早期発見の取り組み、また診療ガイドラインによる治療の標準化などによって咽頭がんの治療成績は向上し、日本全国どこでもほぼ同等のレベルの治療が受けられるようになってきています。進行がんでは治療が大変になることはありますが、治療とリハビリテーションをしっかりと行えば、元の状態に近い生活を目指せることも事実です。

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