咽頭がんとは、鼻の奥から喉にかけてできるがんの総称です。がんができる部位によって、がんの性質や治療方針が大きく異なります。今回はNTT東日本関東病院 耳鼻咽喉科・頭頸部外科 部長の中尾 一成先生に、咽頭がんの原因や症状、検査について詳しくお話を伺いました。
咽頭とは、鼻の奥から食道に至るまでの、空気や食べ物の通り道を指します。咽頭は“上咽頭”“中咽頭”“下咽頭”の3つに分かれています。鼻の後ろ側が上咽頭、口の後ろ側が中咽頭、喉の後ろ側が下咽頭です。なお、同じく喉にできる“喉頭がん”は、咽頭と気管をつなぐ喉頭(声帯を含む)にできるがんを指します。
咽頭がんは発生する部位によって、がんの原因や性質、治療方針が大きく異なるのが特徴です。ここからは各部位ごとの原因・特徴を解説します。
上咽頭がんは中国の東南部や東南アジアで高頻度に発症し、日本での発症数はあまり多くありません。発がんにはEBウイルス(エプスタイン・バール・ウイルス)と呼ばれるヘルペスウイルスの一種が関与していて、日本人の多くは子どもの頃に親から感染するといわれています。
がんの種類(組織型)もほかの部位と異なります。中咽頭がんと下咽頭がんの多くは“扁平上皮がん”と呼ばれる種類であるのに対し、上咽頭がんは“低分化がん”がほとんどです。低分化がんには放射線療法や化学療法が効果を発揮しやすいです。
中咽頭がんは、世界的に患者数が増加傾向にあります。飲酒や喫煙、HPV(ヒトパピローマウイルス)感染がリスク要因です。
同じ中咽頭がんでも、飲酒・喫煙によるものとHPV感染によるものでは、がんの性質が異なります。HPV関連の中咽頭がんは比較的若い年齢で発症するケースが多く、頸部(首)リンパ節転移の割合が高い傾向です。ただし、HPV関連の中咽頭がんはそうでないものに比べて予後が良好であることが知られています。こうした違いがあることから、中咽頭がんではHPV感染の有無によってステージ(病期)の決め方が異なります。
下咽頭がんは飲酒と非常に深い関連のあるがんです。食道がんと性質がよく似ていることから、下咽頭がんと食道がんを重複して発症する方が多くいます。
下咽頭がんは、お酒を飲むと顔が赤くなる“フラッシャー”と呼ばれる方が、無理にお酒を飲むことで発症リスクが高まることが知られています。フラッシャーの方はアルコールを分解する過程で産生されるALDH2(2型アセトアルデヒド脱水素酵素)の活性が弱く、日本人の約4割がALDH2不活性型であるといわれています。
上咽頭がんでは耳の症状が多くみられます。耳管と呼ばれる管ががんによって塞がれることで、滲出性中耳炎を起こすことがあります。鼓膜の内側に水がたまった状態になり、音がこもったように聞こえが悪くなるなどの症状が現れます。
上咽頭は鼻の突き当たりに位置することから、鼻に症状が現れることもあります。鼻づまりや繰り返す鼻血などで診断に至る患者さんもいます。また、首のリンパ節腫大で見つかる場合もあります。
中咽頭がんと下咽頭がんは症状の現れ方が似ています。喉の違和感や飲み込むときの痛みなどが特徴的な症状です。下咽頭がんの場合は、声帯に麻痺などをきたす場合もあり、がんが大きくなると声がかすれたり、気道を塞いでしまうことで呼吸困難のような症状が現れたりすることもあります。
また、咽頭がんは頸部リンパ節に転移しやすい性質があるため、首の腫れでがんが発見されるケースもあります。
以前は患者さんが自覚症状を感じて受診され、咽頭がんの診断に至るケースが多くありましたが、最近では上部消化管内視鏡検査(胃カメラ)で発見される患者さんが増えてきている印象です。咽頭がんと食道がんを重複して発症するリスクが高いと分かってきたことで、消化器内科医の視点が頭頸部にも及ぶようになったことが大きいといえるでしょう。
また、最近では喉頭がん検診を実施している自治体もあり、検診をきっかけに咽頭がんが発見されることもあります。
咽頭がんの検査は視診と触診が基本です。口から直接見ることのできない上・下咽頭は、鼻からファイバースコープを挿入して観察します。ファイバースコープで病変を認めた場合には、その進展範囲も確認しておくことが大切です。触診では首のリンパ節を触って腫れがないかどうかを確認します。
視診や触診で異常がみられた場合には、組織診断を行います。組織の一部を採取し、がんかどうかを顕微鏡で詳しく調べます。その際、がんに関連するウイルス感染(EBウイルスやHPV感染)の有無も確認します。がんの大きさや広がり、転移の有無などを確認するためには、CT検査やMRI検査、超音波検査、PET検査などの画像検査を行います。
飲酒や喫煙は咽頭がんの重大なリスクですが、そのことをご存じない方も多いため、発症予防のためには社会に対する啓発活動が重要だと考えています。各学会のホームページでも情報発信がされていますが、一般の方が閲覧する機会は少ないと思いますので、自治体や医療機関など地域が中心となり啓発を行っていくことが重要だと考えています。
また、先ほどお話しした喉頭がん検診は飲酒・喫煙習慣がある方にこそ受けていただきたいのですが、そうした高リスクの方は積極的に検診を受けない傾向にあります。高リスクの方の検診受診率を上げるためには、飲酒や喫煙が人体に与える影響を数値化した指数(ブリンクマン指数など)を活用し、一定の数値を超えた場合に検診へ促すような仕組みを整えることも有用かもしれません。
中咽頭がんに関して言えば、男性のHPVワクチン接種が今後の課題であると考えています。2022年4月には、女性を対象に子宮頸がん予防を目的としたHPVワクチン接種の積極的勧奨が約8年ぶりに再開されました。しかし、男性のHPVワクチン接種は海外では実施されているものの、日本ではまだまだ議論が進んでいない状況です。HPVが関連する中咽頭がんを減らすためには、男性へのHPVワクチン接種についても議論が進むことを望みます。
NTT東日本関東病院 耳鼻咽喉科・頭頸部外科 部長
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