概要
HPVワクチン(子宮頸がんワクチン)とは、子宮頸がんの原因となるヒトパピローマウイルス(HPV)の感染を防ぐ予防接種に用いられる薬剤のことです。
子宮頸がんは子宮の入り口である子宮頸部に生じるがんで、原因のほとんどが性交渉によるヒトパピローマウイルス感染です。
ウイルスに感染しても約90%は細胞に異常をきたすことはありませんが、ごく一部の人ではがんになる前の段階(異形成)を経て数年から数十年かけて子宮頸がんになることがあります。
HPVワクチンは市区町村が主体となって実施する定期予防接種で受けられるほか、定期予防接種の対象年齢以上の人が任意で受けることもできます。HPVワクチンの接種はヒトパピローマウイルスの感染を予防し、HPVが原因の病気の予防につながります。
目的・効果
HPVワクチンの目的は、ヒトパピローマウイルスに対する免疫を作ることです。
ヒトパピローマウイルスには200種類以上もの型が存在し、そのうち少なくとも15種類ががんの発生に関わっています。これらをハイリスク型と呼び、子宮頸がん全体の50~70%は16型と18型が原因といわれています。
HPVワクチンの接種によって予防できるHPV型に対する抗体を作ることができ、これらの型の感染を予防できます。
また、ヒトパピローマウイルスは、腟がん、外陰がん、肛門がん、陰茎がんなどのがんの発生にも関わっているため、これらのがんの予防にもつながると考えられています。
種類
現在、日本で認可されているHPVワクチンには、2価ワクチン、4価ワクチン、9価ワクチンの3種類があります。
2価ワクチンは16型と18型に対するワクチンで、4価ワクチンは16型と18型に加えて性感染症(良性疾患)の尖圭コンジローマの原因となる6型と11型の計4つの型に対するワクチンです。
9価ワクチンは6・11・ 16・18型に加えて、ハイリスク型の31・33・45・52・58型の感染を予防することができます。9価が一番新しいワクチンで、日本では2020年に承認されましたが、世界ではすでに広く用いられています。
リスク
安全性
HPVワクチンの接種後に起こりうる症状として、接種した部位の痛みや腫れなどの局所反応がありますが、多くは数日以内に改善します。
また、アナフィラキシーは約96万回に1回とまれですが、接種後30分は医療機関で様子を見ましょう。
接種の痛みや不安で一時的に気分が悪くなったり、血管迷走神経反射(失神など)を起こしたりすることもあります。以前に注射や採血で血管迷走神経反射を起こしたことがある人は、事前に医師に伝えましょう。
接種による副反応として疑われた歩行障害やけいれん、痛みや自律神経障害などの症状については、国内外で数多くの研究が行われ、HPVワクチンとの因果関係は示されませんでした。
適応
予防接種法に基づき、市区町村が主体となって定期予防接種が行われています。対象者は小学校6年生~高校1年生相当の女子で、無料で接種を受けることができます。
対象年齢を過ぎた女性でも、任意で(自費で)接種を受けることが可能です。予防効果の観点から26歳までは接種が推奨されています。それ以上の年齢の場合、有効性はライフスタイルにより異なりますので、産婦人科で相談しましょう。
また、9歳以上の男性も任意で接種を受けることができます。ただし、現在のところ日本で男性に適応のあるHPVワクチンは4価ワクチンのみとなっています。
接種前後の注意
HPVワクチンに限らずほかの予防接種についても同様ですが、体調がよいときに接種しましょう。また、これまでに注射や採血で気分が悪くなったり失神したりしたことがある(血管迷走神経反射)人は、問診の際に伝えましょう。こうした方については、横になった状態で接種するなどの対応を取ることができます。
接種後はすぐに帰宅せず、30分は様子を見ましょう。帰宅後は普段どおりの生活で構いません。何か気になる症状があれば接種した病院に相談しましょう。
費用の目安
小学校6年生~高校1年生相当の女子を対象とした市区町村の定期予防接種では、費用の全額が公費によって負担されるため、無料で接種を受けることができます。
ただし、現在のところ公費負担となるワクチンは、2価ワクチンと4価ワクチンです(2価は新規供給されない見込みのため、今後新たに接種を開始する場合は4価となります)。9価ワクチンの接種を希望する場合には全額自己負担となります。
対象年齢を過ぎた女性や男性においても全額自己負担で接種を受けることになります。医療機関によって費用は異なりますが、2価ワクチンと4価ワクチンは3回接種で約5万円、9価ワクチンは3回接種で約10万円です。
なお、積極的勧奨再開が差し控えられていた間に定期予防接種の対象年齢であった高校2年生以上の学年にも特例で費用補助がなされる方向で検討されています。
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