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HPVワクチン(子宮頸がんワクチン)の副反応にはどのようなものがあるの?〜最新のエビデンスをもとに解説〜

HPVワクチン(子宮頸がんワクチン)の副反応にはどのようなものがあるの?〜最新のエビデンスをもとに解説〜
木下 喬弘 先生

CoV-Navi(こびナビ) 副代表

木下 喬弘 先生【執筆・監修】

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HPVワクチン子宮頸(しきゅうけい)がんワクチン)は、2013年から安全性に懸念があるとして“積極的勧奨”は中止されていました。しかし、2021年11月、8年ぶりにHPVワクチンの積極的勧奨の再開が決まりました。この突然の再開のニュースに驚いた方も多いのではないでしょうか。そこで本記事では、HPVワクチンの主な副反応に加え、8年の間に確かめられた安全性に関する研究結果を中心に解説します。

現在日本で主に使用されている4価HPVワクチンの副反応として知られている症状には、以下のようなものがあります。

まず、68%の方に注射した部位の痛みが出ることが分かっています。多くの場合、接種直後から痛みが出現し数日以内によくなります。

ほかの比較的頻度が高い症状としては、注射した部位の腫れや赤み、頭痛や発熱などが挙げられます。こうした症状は、実はインフルエンザワクチンなどの副反応と大きな違いはありません。

注射が苦手な方にHPVワクチンの接種を行うと、気分が悪くなったり、まれに失神したりすることがあります。これは血管迷走神経反射や予防接種ストレス関連反応などと呼ばれるもので、ワクチンの成分によって引き起こされるものではありません。

しかし、急に転倒して頭を打つなどの危険があるため注意が必要です。過去に注射で気分が悪くなったり失神を起こしたりしたことがある方や、接種が不安な方は寝転んだ状態で接種することもできますので、医療機関にお申し出ください。

ほかにも、全身の痛みなどの重い症状が出たことが報告されていますが、こうした症状はワクチン接種との因果関係が示されていません。

HPVワクチンは2013年6月に厚生労働省の審議会により、積極的勧奨が中止されました。

これは、誰でも無料で接種できるワクチンとして国民に提供は続けるものの、“各家庭に接種をする通知を送ることをやめる”という意味です。この決定の背景には、安全性に対する懸念があったためです。

2013年3月頃から、HPVワクチンを接種した後にさまざまな症状が出現した女性がいることが報じられました。具体的には、接種後に広い範囲の痛みや手足の動かしにくさ、自律神経症状、けいれん、記憶障害などの症状が出現したのです。

このため、国は安全性に関する情報提供が十分できるようになるまで積極的勧奨を中止し、適切な情報提供のためにさまざまな研究を行い審議されることとなりました。

では、この8年間の研究でどのようなことが分かったのでしょうか。2021年10月1日の厚生労働省の審議会で議論された安全性に関する主な研究には、以下のようなものがあります。

まず、日本で問題になった痛みなどを伴う自律神経機能障害については、2006年から2015年に米国で行われた研究でHPVワクチンとの因果関係が調べられました1

その結果、HPVワクチンを接種した後に29件の自律神経機能障害の報告があったことが分かりました。これは、約650万回の接種に1回と非常にまれな頻度で自然に発生する率を上回らなかったため、ワクチン接種が原因で起こっているわけではないと判断されています。

神経の病気やけいれんなどについては、2017年から2019年に韓国で行われた研究で安全性が確かめられました2

この研究では、HPVワクチンを接種した約38万人の女子と、ほかのワクチンを接種した約6万人の女子を対象に33種類の病気の発生頻度を分析しています。その結果、神経の病気などの発生率は、HPVワクチンを接種した人と接種していない人で変わらないことが示されました。

また、日本でも同様の研究が行われていて、2015年に名古屋市で行われた研究3では、歩行障害や重い頭痛、月経異常、集中力の低下など24つの症状について、HPVワクチンを接種した人と接種していない人で比べた結果、頻度に差がないことが分かりました。

このように、HPVワクチン接種が原因だと疑われていた症状は全てHPVワクチンを接種していない人にもみられ、HPVワクチン接種との因果関係は証明されなかったのです。このため、厚生労働省は2021年11月に「ワクチンの安全性についての特段の懸念は認められない」として積極的勧奨の再開を決めました。

HPVワクチンの副反応として主なものは、注射した部位の痛みや腫れ、頭痛、発熱などが挙げられます。

日本では、HPVワクチンを接種した後に重い症状が出た女性がいるため積極的勧奨が一時中止されました。しかし、日本を含め世界中で行われた数多くの研究で安全性が確かめられたため、2021年に積極的勧奨が再開されました。

また、厚生労働省は、「HPVワクチンを1万人が受けることで、受けなければ 子宮頸がんにかかっていた約70人ががんを防ぐことができ、 約20人の命が助かる」と計算しています。このように、実際にHPVワクチンを接種することによってがんが防げることが分かっているのです。

世の中にはさまざまな情報が流れていますが、正しい情報を正しく理解することが大切です。HPVワクチンの接種にあたり不安や疑問がある場合は、ぜひお近くの病院やクリニックでご相談ください。

また、各都道府県に設置されている“ヒトパピローマウイルス感染症の予防接種後に症状が生じた方に対する相談窓口”に相談することも可能です。

参考文献

  1. Jorge Arana et al. J Adolescent Health.2017; 61: 577-582
  2. Ji-Ho Lee, et al. BMJ 2021;372:m4931
  3. Papillomavirus Research. 2018; 5: 96-103
  • CoV-Navi(こびナビ) 副代表

    日本救急医学会 救急科専門医日本外傷学会 外傷専門医

    木下 喬弘 先生

    2010年大阪大学卒。大阪の3次救急を担う医療機関で9年間の臨床経験を経て、2019年にフルブライト留学生としてハーバード公衆衛生大学院に入学。2020年度ハーバード公衆衛生大学院卒業賞"Gareth M. Green Award"を受賞。卒業後は米国で臨床研究に従事する傍ら、日本の公衆衛生の課題の1つであるHPVワクチンの接種率低下を克服する「みんパピ!みんなで知ろうHPVプロジェクト」や、新型コロナウイルスワクチンについて正確な情報を発信するプロジェクト「CoV-Navi(こびナビ)」を設立。公衆衛生やワクチン接種に関わる様々な啓発活動に取り組んでいる。

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