子宮頸がんを含む婦人科がんの治療(主に手術や放射線)を行った後に起きる特徴的な合併症に卵巣欠落症状があります。卵巣欠落症状では手術で卵巣を摘出したり、放射線により卵巣機能が低下したりすることによって、さまざまな症状が出ることが知られています。
今回は卵巣欠落症状とは具体的にどのような病気なのか詳しく解説します。
卵巣欠落症状とは婦人科がん治療の一環で手術による両側卵巣摘出や放射線治療を行った結果、卵巣機能が低下または喪失することによって起きる合併症です。卵巣機能が低下または喪失してしまうことで女性ホルモンの減少による症状、つまり更年期障害に似た症状が出現します。具体的にはほてりやのぼせ、頭痛や肩こり、骨粗しょう症などが挙げられます。
卵巣欠落症状の原因となる治療には大きく分けて“手術で両側卵巣を摘出した場合”と“放射線療法で卵巣の機能に影響が生じた場合”があります。
手術で両側卵巣を摘出した場合に、卵巣機能が喪失することにより卵巣欠落症状が見られることがあります。
卵巣を摘出するかどうかはがんの進行度によってさまざまです。たとえば卵巣がんと子宮体がんでは原則両側摘出されますが、子宮頸がんでは卵巣欠落症状を防ぐために温存させる場合と転移による病状悪化を防ぐために摘出する場合があります。いずれの場合も、出産を望むかどうかなど患者の状態を総合的に判断して決定されます。
放射線療法によって卵巣の機能に影響が生じ、卵巣欠落症状が見られることがあります。
放射線療法による治療は子宮頸がんや子宮体がんなどで行われます。また、卵巣の機能を温存させるために放射線の被ばくを避けて放射線が当たらない場所に卵巣を移動し固定する場合もあります。
女性は誰しも年を重ねると卵巣機能が低下し、更年期を経て閉経を迎えます。更年期では更年期障害と呼ばれるほてりやのぼせ、骨粗しょう症などの症状が見られ、やがて閉経を迎えると脂質異常症や骨量減少症に伴う骨粗しょう症のリスクが高まります。
しかし、閉経前のがん治療により人工的に閉経状態となった場合、急激な女性ホルモン欠落症状や、長期的には骨粗しょう症、脂質異常症、動脈硬化症などにより生活の質の低下をきたすリスクがあります。
卵巣欠落症状の治療にはホルモン補充療法や漢方薬があります。
ホルモン補充療法とは不足している女性ホルモンを投与する治療で、HRTとも呼ばれます。ホルモン補充療法にはET(エストロゲン単独投与)とEPT(エストロゲン・黄体ホルモン併用投与)がありますが、子宮を摘出している場合はETが、子宮がある場合はEPTが用いられます。子宮体がんでは、完治した可能性が高いと判断された場合にはHRTを行うことができます。また漢方薬が適応になることもあるので、希望がある場合は主治医に相談するとよいでしょう。
卵巣欠落症状とは、婦人科がん治療(手術による卵巣摘出や放射線治療)により卵巣機能が低下または喪失することによって起こる合併症です。主な症状は更年期障害に似た女性ホルモンの減少による症状であるほてりやのぼせ、骨粗しょう症などがみられます。もしも子宮頸がんや子宮体がんの治療後に気になることがある場合は、医師に相談するようにしましょう。
奈良県立医科大産婦人科学教室 准教授
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