
子宮体がんの標準治療は子宮全摘出手術であるため、妊娠する機能(妊孕性)に影響する可能性があります。しかし、なかには妊孕性を温存するために子宮を残した治療を希望する方もいます。がんの進行度合い(ステージ)や腫瘍の病態によって異なりますが、場合によっては子宮を温存することが可能です。では、どのような条件で子宮を温存できるのでしょうか。
本記事では子宮体がんと妊娠をテーマに、妊娠を希望する場合の治療法について詳しく解説します。
近年、妊娠を希望する子宮体がん患者が増加傾向にあるといわれます。
子宮体がんは40歳頃から患者が増加し、50~60歳代でピークを迎えるとされており、閉経後に生じることが多いといわれています。しかし、子宮体がん患者全体の5~8%は、一般的に妊娠を希望する年代である40歳未満の若年者が占めています。さらに、近年は初回結婚年齢・妊娠年齢が徐々に高齢化していることから、妊娠を希望する子宮体がん患者が増加することに影響していると考えられます。
一方で、妊娠や出産経験がない人は子宮体がんのリスクも高いといわれてますが、これは子宮体がんの原因の1つにある女性ホルモンのエストロゲンが関係しています。エストロゲンには子宮内膜を増殖させるはたらきがあり、その刺激に長くさらされることによって子宮体がんのリスクが上昇すると考えられているのです。つまり、出産経験がない、閉経が遅い、排卵障害などによる不妊症である、肥満である、エストロゲンを産生する腫瘍があるといった場合、エストロゲンの刺激に長くさらされることになるため、子宮体がんのリスクが上がりやすいと考えられます。
なお、妊娠中には子宮内膜の増殖を止めるはたらきがある黄体ホルモン(プロゲステロン)が大量に分泌されます。そのため、妊娠出産経験者は子宮体がんリスクが減少するとされています。
妊娠を希望する場合は、子宮や卵巣・卵管を摘出しない治療方法を選択する必要があります。
妊娠を強く希望する患者の場合、適応があれば子宮全摘出術を行わず、黄体ホルモン療法という治療ができる可能性があります。
黄体ホルモン療法とは、1日2〜3回ホルモン剤を飲むことと内膜掻爬術によりがんの縮小・消滅を期待する治療方法です。具体的な適応については後述しますが、病変が子宮の筋層内に入り込んでおらず、腫瘍のタイプが黄体ホルモンの効きやすい組織型・異型度である場合である場合、このような治療が検討されます。
黄体ホルモン療法を行う場合、治療開始時と終了前に麻酔をして子宮内膜を全面的に採取する処置をすることがあります。さらに、治療効果や副作用の確認のため、定期的にエコー検査、細胞診・組織診(子宮内の組織を採取してがんの有無を調べる検査)、血液検査などをすることもあります。
子宮体がん患者の全ての方が子宮全摘出を回避できるわけではありません。なぜなら黄体ホルモン療法には適応となる条件があるためです。黄体ホルモン療法の適応となるかどうかは、事前に検査にてよく精査することが必要です。たとえば、病理組織型がホルモン剤の効きにくいタイプであったり、MRIでがんが子宮の筋層に入り込んでいる疑いがあったり、卵巣に悪性を疑う変化が見られたりするような場合は、適応外となります。また、黄体ホルモン療法はがんが再び子宮内に現れる(再発)場合や、卵巣や腹腔内などの子宮外に現れる(重複がんまたは転移)場合は懸念されます。
子宮温存の選択ができるのは、基本的に以下のとおりです。
つまり、がんがあまり進行しておらず、がんの広がりや悪性度が低い場合に子宮温存が選択できることがあります。
上記の条件に当てはまっていても子宮温存が可能かどうかは個人差があり、妊娠に適さないほどの高血圧、肥満、糖尿病などを合併している場合や、40歳以上で不妊治療を行っていても妊娠の可能性が低い場合などは適応にはなりません。黄体ホルモン療法を行う場合、事前検査として細胞診、組織診、CT・MRI、肝機能や血の固まりやすさなどを調べる血液検査などが必要となります。また、必要に応じて子宮鏡検査が実施されることもあります。
画像診断で子宮筋にまでがんが入り込んでいる疑いがある場合、一般的には子宮を全摘出します。しかし、MRIの画像では精度が不十分である場合が考えられるほか、腫瘍内に平滑筋を含んでいるAPAMという腫瘍の場合は、腫瘍の性格上、画像では筋に入り込んでいるように見えることがあります。このように黄体ホルモン療法の適応を判断することが難しい場合は、子宮鏡下手術で腫瘍を取り除き、病理診断を行うことで黄体ホルモン療法の適応を判断します。病理検査の結果、子宮体がんの筋層浸潤が否定されれば、黄体ホルモン療法ができる可能性があります。この手術は専門性が高いので、日本婦人科腫瘍学会認定の婦人科腫瘍専門医によく相談することが大切です。
半年以上黄体ホルモン療法を行ったにもかかわらずがんが消えない場合、子宮摘出をすすめられることがあります。現在は途中でMRIやCT検査にて病変が進行、転移をきたしていないことを確認しながら、9〜12か月まで黄体ホルモン療法と内膜全面掻爬術で病変消失まで治療を続行することができます。
また掻爬の病理検査にて、黄体ホルモン療法の治療効果ががん細胞に全く現れてこないと判断された場合は、子宮全摘が望ましいと判断されることがあります。
黄体ホルモン療法を行った後に再発してしまった場合、2018年以前は子宮温存を諦めて子宮全摘手術を行う以外の選択肢がありませんでした。しかし、“子宮体癌治療ガイドライン 2018年版”より、黄体ホルモン治療後に再発してしまった場合でも、本人が妊孕性温存を強く希望する場合には厳重な管理を行ったうえで再び黄体ホルモン療法を行い、子宮温存を目指すことができるようになってきました。
再発後の黄体ホルモン療法はより専門性が高いので、婦人科腫瘍専門医によく相談して治療を受けましょう。専門性の高い医師によって、詳細に細かくフォローする手順が決められている前向きの臨床試験も2020年秋ごろから日本で開始されます。このような臨床試験に参加を検討するのも1つの選択肢なので、詳しくは医師に相談してみるとよいでしょう。
黄体ホルモン療法はがんが消えても再発するリスクが高く、半分以上の方に子宮内再発が起こるという報告もあります。そのため、妊娠できる状況であれは早期の妊娠を目指すのがよいとされています。場合によっては、治療後に不妊治療専門外来を紹介されることもあります。また、すぐに妊娠を希望しない場合は定期的に黄体ホルモン剤を内服することで、再発率を下げる方法もあります。
子宮体がんは、早期であればあるほど子宮温存できる可能性が高まります。しかし、一方で進行度や腫瘍の病態によっては、子宮全摘出が望ましい場合もあります。そのため、妊娠を希望する場合は納得した治療が行えるよう、自身でも子宮体がんの妊孕性を温存できる治療について十分に理解することが非常に大切です。そのうえで、疑問や不安がある場合は医師や看護師に相談するようにしましょう。
国際医療福祉大学医学部 教授
国際医療福祉大学医学部 教授
日本産科婦人科学会 代議員・指導医・産婦人科専門医日本婦人科腫瘍学会 理事・指導医・婦人科腫瘍専門医日本臨床細胞学会 理事・教育研修指導医・細胞診専門医日本癌治療学会 G-CSF適正資料ガイドライン改訂ワーキンググループ委員・臨床試験登録医日本組織細胞化学会 評議員日本婦人科がん検診学会 理事日本先端治療薬研究会 会員日本外科系連合学会 評議員日本専門医機構 産婦人科専門医日本がん治療認定医機構 がん治療認定医日本産科婦人科内視鏡学会 腹腔鏡技術認定医婦人科悪性腫瘍研究機構 子宮体がん委員会 委員・GCIG委員会 委員Sentinel Node Navigation Surgery 研究会 世話人日本臨床分子形態学会 理事日本遺伝性腫瘍学会 評議員
進 伸幸 先生の所属医療機関
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