子宮体がんの治療の選択肢は、がんの進行度合い(ステージ)や状態によって異なりますが、基本的に手術で子宮と卵巣・卵管を全摘出します。また、必要に応じて周辺のリンパ節や組織などを切除することもあります。
手術は主に開腹手術が選択されます。術後は痛みが生じるため、日常生活に支障が出ることがありますが、最近では一定の施設基準と術者基準を満たす場合、早期の子宮体がんの症例では腹腔鏡下手術、ロボット支援下腹腔鏡下手術など、術後の負担が小さい手術を選択できることが増えてきました。
本記事では子宮体がんの術後をテーマに、術後に生じる体への影響や術後の注意点などについて詳しく解説します。
子宮体がんの手術は基本的に開腹手術が行われます。術後は切った箇所に痛みが生じて下腹部に力を入れづらくなるため、起き上がったり立ち上がったりすることが困難になるほか、移動やトイレに苦労することがあります。ただし、硬膜外麻酔を併用している場合は痛みが軽減されます。
開腹手術では恥骨の上から下腹部、上腹部まで切開が必要となるため、腹部に大きな傷が残ります。
腹腔鏡下手術とは、下腹部周辺に5mm~1cm程度の小さな穴をいくつか開けて、その穴から腹腔鏡(医療用のカメラのようなもの)と組織を把持するための鉗子器具を入れ、モニターを見ながら行う手術です。
ロボット支援下腹腔鏡下手術の場合は、へそに1か所とへその同じ高さ左右に2か所ずつ、計5か所に8mm~1cm程度の穴を開けます。どちらの場合も開腹手術より傷が小さく済むため、体への負担を軽減できます。また、入院期間も短く済むため、早期の体力回復や社会復帰も可能となり、開腹手術に比べて腸閉塞*(イレウス)が生じるリスクが低いというメリットもあります。
*腸閉塞:腸管の癒着が起こり、腸管内容物の通過障害が起こること。
しかし、全ての方が腹腔鏡下手術を選択できるわけではありません。ステージやがんの状態、病院によってはできなかったり費用が高額になったりすることもあるため、手術法に関しては医師とよく相談するとよいでしょう。
子宮体がんでは術後に病理組織検査を行い、“手術進行期分類”を用いてステージを確定します。その後に、必要に応じて追加で以下の治療を行います。
子宮体がんの術後には以下のような合併症が起こることがあります。気になる症状がある場合は早めに医師に相談し、医師の判断を仰ぎましょう。
また、合併症に対する治療・ケアについては自己判断で行うのではなく、必ず医師の指導の下で行いましょう。
骨盤内や脚の付け根のリンパ節を取り除くとリンパの流れが滞り、下半身にリンパ浮腫が生じることがあります。術後すぐに生じるとは限らず、数年後に生じることもあるため注意が必要です。
リンパ節を切除した後に放射線治療を追加した場合は、より浮腫が生じやすくなるとされています。骨盤リンパ節のうち、外鼠径上リンパ節郭清*を省略することで下半身のリンパ浮腫が軽減されることが分かってきました。
*リンパ節郭清:がん周辺のリンパ節を切除すること。
リンパ節を切除した後に浮腫が生じた場合、そのまま放置すると、脚の腫れが悪化することがあります。そのため、以下のような予防・ケアを指導されることがあります。
脚の乾燥やひび割れが起こるとそこから細菌が入り、太ももや下腹部あたりで炎症が起こって蜂窩織炎を生じることがあるため、入浴後はクリームなどで保湿をするとよいでしょう。
蜂窩織炎が悪化すると、さらにリンパ浮腫が悪化しやすくなる悪循環に陥る可能性があります。赤く腫れ始めたときは早期に医師に相談し、必要に応じて抗菌薬の内服や点滴を受けることが重要です。
医療用弾性ストッキングを着用すると、皮下組織に水分がたまりづらくなるため、寝るとき以外は着用するとよいでしょう。適切なサイズや圧迫圧は医師に相談しましょう。また、リンパ浮腫治療のために購入する場合は保険適用となり、半年ごとに療養費の支給が受けられます。
長い時間立ったままや、座ったままで姿勢を変えない状態はむくみが悪化する可能性があるため避けましょう。また、横になって休むときはできるだけ脚が心臓よりも高い位置になるように、脚を上げるとよいでしょう。
散歩やストレッチなどによってリンパ液の流れが促進されます。脚を上げて動かしたり、脚を下から上にそっとなでたりしてみましょう。ただし、激しい運動はリンパ浮腫を発症させる可能性があり、強い力でのマッサージは炎症につながる可能性があるため禁物です。医師に相談しながら行うようにしましょう。
広汎子宮全摘出術*などにより排便の調節をする神経が傷付くと便秘になることがあります。術式はがんの広がり方によって異なり、単純または準広汎子宮全摘術の場合は排便障害が生じることは非常にまれです。また、放射線治療後にしばらくしてから腸の動きが悪くなり、便秘になることもあります。
*広汎子宮全摘出術:子宮、卵巣・卵管、腟、子宮周囲の組織を含めた広い範囲を切除する手術。
食物繊維の多い野菜を食べたり、牛乳などを飲んだりするとよいでしょう。食物繊維は便のカサを増したり、軟らかくしたりして便通を改善し、牛乳は腸のはたらきを促します。ほかにも、たんぱく質、野菜、果物などをバランスよく取るとよいでしょう。ただし、腸閉塞の傾向がある場合は繊維が少なく、消化がよいものを食べるように心がけ、食事の量を調整することが必要です。便秘に対する適切な食事は人によって異なるため、気になることがあれば医師や看護師、栄養士に相談しましょう。
食事以外にも、腸管の蠕動を促進する漢方の大建中湯や、便を軟らかくする酸化マグネシウムも便秘改善に効果が期待できます。
さらに、運動をしたり毎日決まった時間にトイレに行ったりすることもよいとされています。それでも改善されない場合は、浣腸や下剤を処方してもらうことを検討しましょう。もし24時間以上ガスが出ない、腹痛が強い、嘔吐があるといった場合には、腸閉塞(イレウス)の可能性も考えられるため、急ぎの受診が必要な場合もあります。
閉経前に卵巣を切除したり放射線治療で卵巣の機能が失われたりすると、女性ホルモンが減って更年期症状のような症状が起こることがあります。これを、卵巣欠落症状といいます。
主にだるさ、食欲低下、イライラ、ほてり、発汗、頭痛、肩こり、動悸、不眠、腟からの分泌液が減る、骨粗鬆症、高脂血症といった症状が現れます。人によって症状や発症する期間が異なりますが、両側の卵巣を手術で摘出した若い人に症状が強いことが多いとされています。
症状は、まず血管運動神経症状(のぼせ、異常発汗、めまいなど)、次に精神神経症状(倦怠感、不眠、不安、動悸、憂うつ、集中力低下、記憶力減退など)、そして泌尿器生殖器の萎縮症状(萎縮性腟炎、外陰掻痒症、性交障害、尿失禁など)、最後に心血管系疾患(動脈硬化、高血圧、脳卒中、肝不全など)や骨粗鬆症という順番に発現してきます。
血行をよくし、精神的にリラックスできるように過ごすことが大事です。ヨガであれば、ゆっくり体を動かして血行を促進すると同時にリラックス効果が期待できます。
また、精神面では医師や身近な人に話を聞いてもらうだけでもよいでしょう。必要に応じて卵巣欠落症状を緩和する漢方などを用いることもあるため、気になる症状があれば医師に相談してみましょう。
広汎子宮全摘出術などにより、排尿の調節をする神経が傷付くことがあります。尿が出にくくなる、尿意を感じない、尿が漏れるなどのトラブルが起こることがありますが、1か月ほどで日常生活に支障のない程度に改善するとされています。
ただし、子宮体がんの多くでは単純(拡大)子宮全摘術か準広汎子宮全摘術が用いられるため、これらの場合は排尿障害が起こることはほとんどありません。
広汎子宮全摘を受けて排尿しづらい場合は、間欠導尿法を行うことがあります。これは、尿道から膀胱にカテーテル(細い管)を入れて、カテーテルから排尿させる方法です。
また、尿意を感じにくい場合は、知らず知らずのうちに膀胱に尿がたくさんたまってしまいます。そのため、起床後すぐにトイレに行き、その後は3~4時間ごとにトイレに行くようにします。手で膀胱のあたりを圧迫すると排尿しやすくなります。
上術した合併症のほか、がんの症状や抗がん薬治療に伴う副作用、合併症、後遺症などの予防、治療、ケアを目的に、支持療法が行われることがあります。具体的には、感染症に対して抗菌薬の使用、貧血などの場合の輸血療法、吐き気・嘔吐に対する吐き気止めの使用などが行われます。
退院後1か月程度は安静にして過ごす必要がありますが、2か月目からは家事や軽作業をしても問題ないでしょう。その後、徐々に体を慣らしていきます。また、腟の奥の縫合部がきれいになれば入浴も可能です。いずれも医師に確認したうえで行いましょう。
具体的な日常生活で気を付けたほうがよいこと、過ごし方のポイントは以下のとおりです。
術後は肥満や便秘になることがあるため、バランスのよい食事、食物繊維の多い食材を取ることを心がけるとよいでしょう。
また、卵巣機能が失われたりホルモン療法を行ったりすると、女性ホルモンが減少して骨密度が低下し、骨粗鬆症になることがあります。そのため、カルシウム(牛乳、小魚など)やビタミンD(イワシ、サンマ、サケ、シイタケなど)、ビタミンK(モロヘイヤ、納豆など)を取るとよいでしょう。
治療中や術後は動くことが少なくなり、肥満や生活の質(QOL)の低下が起こることがあります。できる場合は徐々に適度な運動をしていくとよいでしょう。ただし、術後しばらくは、疲れたらすぐ休むなど無理をしないようにしましょう。
性生活については、腟の奥の縫合部分がきれいになっていれば基本的に問題はありません。しかし、広汎子宮全摘術後は腟が短くなったり、放射線治療後は腟が硬くなったりするため、性生活に支障をきたすことがあります。場合によってはゼリーなどを使用して工夫するとよいでしょう。なお、閉経前の早期の子宮体がんの方で卵巣を温存できた場合は、腟が委縮し硬くなることはほとんどありません。
術後は、体調や再発の有無の確認のために経過観察を行います。最初は1~4か月に1回程度、4年目以降は半年に1回程度、6年目以降は年に1回程度通院します。経過観察では、内診・直腸診や細胞診、腫瘍マーカー(CA125)の採血などの検査を行うこともあります。術後5年までは適時画像検査(CTなど)で再発、転移が起こっていないかどうかを確認していきます。卵巣を温存した場合も、卵巣がん(重複がんや子宮体がんの転移)が起こっていないかどうかエコーで検査することが必要です。
子宮体がんの術後は、ほかのがんの術後と同様に、さまざまな合併症が起こる可能性があります。また、傷の痛みなどで生活に不便が生じることもあります。自分でできるケアなどもありますが、いずれも自己判断せずに医師に相談をしてから行うようにしましょう。また、術後に気になる症状があれば、放置せずに医師に相談するようにしましょう。
国際医療福祉大学医学部 教授
国際医療福祉大学医学部 教授
日本産科婦人科学会 代議員・指導医・産婦人科専門医日本婦人科腫瘍学会 理事・指導医・婦人科腫瘍専門医日本臨床細胞学会 理事・教育研修指導医・細胞診専門医日本癌治療学会 G-CSF適正資料ガイドライン改訂ワーキンググループ委員・臨床試験登録医日本組織細胞化学会 評議員日本婦人科がん検診学会 理事日本先端治療薬研究会 会員日本外科系連合学会 評議員日本専門医機構 産婦人科専門医日本がん治療認定医機構 がん治療認定医日本産科婦人科内視鏡学会 腹腔鏡技術認定医婦人科悪性腫瘍研究機構 子宮体がん委員会 委員・GCIG委員会 委員Sentinel Node Navigation Surgery 研究会 世話人日本臨床分子形態学会 理事日本遺伝性腫瘍学会 評議員
進 伸幸 先生の所属医療機関
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