科学的根拠やデータを交えて特定の病気、治療などで推奨される方法が記載されたものを、ガイドラインと呼びます。子宮体がんの治療ガイドラインに記されている治療の基本は手術で子宮を摘出することで、一般的には開腹手術が行われます。しかし、最近はより負担の少ない腹腔鏡手術が行われることも増え、ガイドラインにも腹腔鏡手術が検討される状況や方法が詳しく記載されています。
本記事では子宮体がんの治療ガイドラインを基に、腹腔鏡手術について詳しく解説します。
子宮体がんで最初に推奨されている治療法は、手術で子宮、卵巣・卵管などを取り除くことです。
手術は腹部にメスを入れる開腹手術が一般的です。しかし、最近では腹部に小さな穴を複数開け、そこからカメラと器具を入れて手術する腹腔鏡手術も行われるようになりました。腹腔鏡手術は開腹手術に比べて傷が小さく、それに伴って術後の痛みの緩和、回復が早いといったメリットがあります。
ただし、全ての手術で腹腔鏡手術が選択されるわけではなく、がんのステージや状態によっては難しいケースもあります。子宮体がんで腹腔鏡手術が検討できるのは、ステージI期で再発低リスク群と推定される場合、ステージI・II期で再発中・高リスク群が疑われる場合です。一方、ステージⅢ・Ⅳ期の進行例に対しては推奨されていません。
子宮体がんの腹腔鏡手術は、基本的に手術前にステージI期(がんが子宮体部にのみ存在する)かつ再発低リスク群と推定される場合に検討が可能です。
ステージI期で傍大動脈リンパ節の切除を必要としない再発低リスク群の場合、2014年4月から腹腔鏡手術が、2018年4月からロボット支援下手術が保険適用となったため、腹腔鏡手術やロボットによる手術が増加してきています。また、I期の場合は開腹手術、腹腔鏡手術ともに単純子宮全摘出術(子宮、卵巣・卵管を切除する)、または拡大単純子宮全摘出術(腟壁まで切除する)を行うことが推奨されています。
ステージI・II期で再発中・高リスク群が疑われる場合にも腹腔鏡手術が可能な場合があります。
ステージI・II期では単純子宮全摘出術に加え、がんの状態などによって周辺の組織などを切除することもあります。さらに、再発中・高リスク群と推定される場合は、傍大動脈リンパ節郭清と呼ばれる、傍大動脈(腎臓の近くの大動脈周囲にあるリンパ節)の切除が行われることがあります。
2017年7月からは、腹腔鏡下傍大動脈リンパ節郭清が先進医療となりました。先進医療とは保険診療との併用が認められている医療のことで、先進医療に係る費用(この場合は腹腔鏡下傍大動脈リンパ節郭清の手術)は全額負担になりますが、そのほかの診察や検査、入院費などは保険適用となります。
子宮体がんの根治性(完治できるかどうか)と再発率は、腹腔鏡手術でも開腹手術でも差はないとされています。
たとえば、骨盤リンパ節の摘出個数は腹腔鏡手術では12〜24個、開腹手術の11〜22個と同等であるという研究結果があります。また、3年再発率(診断から3年後の再発率)も腹腔鏡手術で10〜20%、開腹手術で 0〜18%と差はないという結果が出ています。
子宮体がんの腹腔鏡手術は、開腹手術と比較して根治性も再発率も同等であり、入院期間の短縮や手術中の出血量が少ないといったメリットも報告されています。しかし、その一方で以下のような問題点も指摘されています。
子宮体がんの腹腔鏡手術が報告されたのは1992年のことで、まだ歴史が浅く、高度な技術も必要なため、できる施設も限られています。そのためガイドラインでは十分に技術のある婦人科腫瘍専門医によって、場合によっては内視鏡技術認定医も協力の下で手術を行うことがよいとされています。
子宮体がんの腹腔鏡手術では、子宮マニピュレーターという器具を使うことがあります。子宮マニピュレーターとは、腟から挿入し子宮を移動・固定する装置のことをいいます。これによって、腹部の中にがん細胞を散布してしまうことが懸念されています。
しかし、実際に子宮マニピュレーターを使用した場合と、使用しなかった場合を比べたところ、治療後に影響はなかったという結果が出ています。ただし、最初に卵管を電気凝固するなど、がん細胞の散布を予防したうえでの結果であるため、予防策は行ったほうがよいと考えられています。
腹腔鏡手術は、腹部に開けた穴から器具を出し入れする筒(トロカー、トロッカー)を入れて行います。この部分にがんが転移することをトロカー挿入部転移と呼び、子宮体がん以外のがんでしばしば報告されています。
ただし、子宮体がんではトロカー挿入部転移の発生率は0.3%程度です。開腹手術では、切った箇所に再発する確率が0.11%であることを考えるとややリスクが上がりますが、手術時に転移がない場合では通常発生しないと考えられています。
子宮体がんで腹腔鏡手術が受けられる施設、状況は限られています。そのため、腹腔鏡手術を受けたい場合は医師とよく相談する必要があります。また、腹腔鏡手術を行う場合は、そのリスクや問題点についてもしっかり理解しておくとよいでしょう。
地方独立行政法人山梨県立病院機構 山梨県立中央病院 婦人科 部長/ゲノム検査科 部長
日本産科婦人科学会 産婦人科専門医・指導医日本がん治療認定医機構 がん治療認定医日本婦人科腫瘍学会 婦人科腫瘍専門医日本産科婦人科内視鏡学会 腹腔鏡技術認定医日本内視鏡外科学会 技術認定取得者(産科婦人科領域)日本ロボット外科学会 国内B級認定ロボット手術専門医日本臨床細胞診学会 会員日本臨床腫瘍学会 会員
山梨県立中央病院婦人科部長。婦人科の良性疾患だけでなく悪性疾患にも低侵襲手術を山梨県内で初めて取り入れた。日本婦人科腫瘍学会 婦人科腫瘍専門医と日本内視鏡外科学会 内視鏡技術認定医のダブルライセンスを有するのは山梨県内では唯一(2020年5月現在)。2016年からはロボット支援下手術にも力を入れており、2018年度は90件、2019年度は108件と、年間ロボット手術件数は国内で上位でした。がんに対するゲノム研究も行っており、いろいろな視点からがん治療を組み立てている。
坂本 育子 先生の所属医療機関
関連の医療相談が23件あります
体がん手術後の後遺症
お世話になります。 先月31日に開腹手術で子宮、卵巣、リンパ摘出の手術をしました。 結果はG2ステージ1bでした。 18日から抗がん剤治療が始まります。 先生にお聞きしたい事は2点あります。 1点目、術後2.3日してから右足前面に痺れがあり、側面が麻痺しており感覚が全くありません。歩行には支障はありませんが歩く度にジンジン響きます。退院前に先生に相談したところ、治りますよ。と言われました。 しかし2週間近く経っても何も変わりません。日にち薬で時間がかかるのでしょうか? 2点目、18日から抗がん剤治療始まりますが、治療中痺れが出ると聞きました。 今の痺れが酷くなるとゆう事はないですか? 歩けなくなるのではと不安です。 ご回答宜しくお願いします。
ペット集積あり、細胞診疑陽性
こんにちは、54歳女性です。12月6日、たまたまペットCTの検診を受けたところ子宮に集積あり、検査後の医師面談で子宮体がん濃厚と言われました。 婦人科で細胞診を行いましたら疑陽性、hyporplasia が考えられるとのコメントでした 子宮内膜増殖症と言われました。子宮内膜増殖症でもペット集積はするのでしょうか? 総合病院に紹介していただき12月20日受診予定です。全く症状がなかったのに昨夜微量の出血ありました。不安でたまりません。これまで全く症状が無くて今年の2月にも子宮体ガン検診を受け、陰性だったのに思いもよらない出来事に受診までの毎日が心配です。
黄体ホルモンとめまい
更年期障害と診断されホルモン療法を始めて2年が経ちました。子宮体がんの検査が思わしくなく、ホルモン剤を服用し始めて三日後に出血しました。5日程で出血はとまりましたが、その間ずっとめまいと嘔吐が続き苦しかったです。今から7年前には突発性難聴にかかり耳の閉塞感もあります。因みに、降圧剤と不整脈もあり薬も飲んでいます。黄体ホルモン剤とめまいと耳の閉塞感は何か関係あるのでしょうか?何科を受診したら良いのでしょうか?
子宮頸がんの遺伝について
子宮頸がんや子宮体がんは家族の遺伝とか関係ありますか?
※医療相談は、月額432円(消費税込)で提供しております。有料会員登録で月に何度でも相談可能です。
「子宮体がん」を登録すると、新着の情報をお知らせします