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各ステージで選択される子宮がんの手術とは〜ガイドラインに基づいた手術方針を解説〜

各ステージで選択される子宮がんの手術とは〜ガイドラインに基づいた手術方針を解説〜
坂本 育子 先生

地方独立行政法人山梨県立病院機構 山梨県立中央病院 婦人科 部長/ゲノム検査科 部長

坂本 育子 先生

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治療ガイドラインとは、ある病気で推奨される検査法や治療法などを科学的根拠に基づいて提示した文書のことです。子宮がんの1つである“子宮体がん”にも治療ガイドラインがあり、状況ごとの治療方法などが詳しく記載されています。本記事では、2018年版子宮体がん治療ガイドラインに基づき、子宮体がんの手術についてわかりやすく解説します。

子宮体がんは、初回治療として手術が検討されます。これは子宮体がんでは手術によって子宮を摘出し検査を行わない限り、がんの進行度合い(ステージ)を判断できないことがあるためです。なお、子宮体がんの手術では子宮やその周辺部位の摘出が行われます。手術を行う前に検査などによってあらかじめステージを推定し、推定されたステージを基に手術内容を決定します。推定されるステージごとの子宮摘出術式は以下のとおりです。

がんが子宮体部のみに存在するステージI期と推定される場合には、基本的に単純子宮全摘出術が行われます。I期では予後(治療後の状況)が良好なため、より広い範囲を摘出する広汎子宮全摘出術は不要と考えられているためです。実際に単純子宮全摘出術と卵巣・卵管の摘出を行ったI期の患者の5年生存率(診断から5年後の生存率)は90%以上とのデータもあります。

一方で、I期であっても筋層(子宮の壁)の2分の1以上の深さまでがんが広がっていたり(Ib期)、がんが大きかったりする場合は、準広汎子宮全摘出術のほうが予後を向上させるという報告があります。そのため、患者によっては準広汎子宮全摘出術が選択される場合もあります。

がんが子宮頸部に広がっているII期の手術方法に関しては、質の高い科学的根拠が少なく研究途上となっています。

しかし、がんが子宮頸部の表層よりも深いところに広がっていると推定される場合は、準広汎または広汎子宮全摘出術を行った後、抗がん剤治療の追加が検討されることが一般的です。

がんが子宮の外にまで広がっている、または骨盤内のリンパ節などに転移があるIII期の手術の有用性は正確に検証されていません。しかし、III期であれば手術によってがんを完全に切除できると考えられているため、まずは手術をすることが一般的です。

III期で手術をする場合は、子宮全摘出術、卵巣・卵管の摘出に加えて、場合によっては大網切除や後腹膜リンパ節郭清(ステージ確定のため)が行われます。

がんが骨盤を超えて広がっている、または遠隔転移をしているVI期も手術の有用性が正確に検証されていません。

手術は子宮全摘出術のほか、お腹にある腫瘍をできる限り取り除く減量手術を行うこともあります。また、減量手術の後に化学療法、放射線治療を追加することで、予後が改善する可能性があると考えられています。

前述のとおり、子宮体がんの治療の基本は外科手術です。子宮(子宮全摘出術)と卵巣・卵管を摘出する手術を基本に、状況によってはリンパ節の切除なども行われます。手術で摘出したものを検査することによってがんの進行度合い(ステージ)を定め、以後の治療方針の決定に役立てます。

子宮全摘出術は切除部位によっていくつかの種類に分けられ、予想されるステージや状態によって選択されます。子宮全摘出術の種類は以下のとおりです。

ステージI期と予想される子宮体がんに行われることがある手術で、子宮、卵巣・卵管を摘出します。がん(病巣)の一番外側と切除する箇所の距離を置くために腟壁を切除する場合もあり、その場合は拡大単純子宮全摘出術と呼ばれることがあります。

なお、開腹手術のほか、小さな穴からカメラと器具を入れて手術を行う腹腔鏡手術が行われるケースもあります。

単純子宮全摘出術と広汎子宮全摘出術の中間の手術で、単純子宮全摘出術よりも切除する部分が多いことが特徴です。主にII期以降で選択されます。

準広汎子宮全摘出術では、膀胱子宮靱帯(膀胱と子宮をつなぐ靱帯)の一部を切って尿管を端に寄せた後、子宮頸部の周りにある組織と腟壁を切断します。さらに、転移の状態によっては骨盤内や腹部大動脈周辺のリンパ節を切除する場合もあります。

子宮、子宮頸部の周りの組織、腟壁、腟の周りの組織の一部を取り除き、さらに骨盤内のリンパ節を切除する手術です。

広汎子宮全摘出術の中にもさまざまな術式(方法)があり、日本では一般的に岡林術式を基本として発展した方法が用いられています。岡林術式は子宮頸がん手術の基本的な方法であり、膀胱子宮靱帯を切断して子宮から尿管と膀胱を分離し腟を切除するものです。子宮体がんでは、がんが子宮頸部の表層よりも深いところに広がっている場合に行われることがあります。

子宮体がんは手術時に切除した臓器を病理組織診断で検査することで正確なステージが確定されます。その際に後腹膜(こうふくまく)リンパ節郭清(かくせい)と呼ばれる、腹部の大血管周囲にあるリンパ節を切除して、ステージを確定することがあります。

しかし、リンパ節切除が治療として意義があるかどうかははっきりしていません。がんが子宮の壁の中にまで広がっておらず、がんの状態で分類される組織型において、類内膜がんの中でもG1、G2に該当し、子宮の壁の2分の1の深さまで広がっていない、かつ腫瘍の大きさが2cmである場合、リンパ節に転移していることはごくわずかです。その場合は、リンパ節切除は行わなくてよいと考えられています。

大網切除とは、大網(大腸や小腸を覆う網のような脂肪組織)を切除することをいいます。大網に転移が確認された場合はステージIVB期となるため、手術の際には必ず大網を調べます。大網に転移が見られる場合に大網切除が行われることが一般的ですが、転移がなくても以下の場合に大網切除が検討されることがあります。

  • 組織型が特殊組織型、または類内膜がんG3であることが予想される場合
  • 子宮の壁の深いところまでがんが広がっていることが予想される場合
  • 術中に子宮外に異常があると判明した場合
  • 術中の腹腔細胞診が陽性の場合

子宮体がんの治療では、原則として最初に卵巣・卵管摘出手術が行われます。しかし、がんの状態によっては卵巣温存が可能な場合があります。卵巣温存が検討されるのは、がんの組織型が類内膜であり子宮の壁への広がりが浅い若い人です。ただし、卵巣を温存する場合は卵巣に転移したり、卵巣がんが発症したりするリスクも考えられます。そのため、卵巣温存をするにはリスクへの理解も必要です。そのため、卵巣温存を希望する場合、まずは医師に相談して説明を受けるようにしましょう。

子宮体がんは、がんの組織の状態によっていくつかの組織型に分けられます。もっとも多いのは類内膜がんですが、悪性度の高い漿液性(しょうえきせい)がんや明細胞(めいさいぼう)がんも存在します。

漿液性がんや明細胞がんは、類内膜がんに比べて予後不良の傾向があり、腹部やリンパ節などへの転移が見られることもしばしばあるため、子宮全摘出術、卵巣・卵管の摘出に加え、骨盤・傍大動脈リンパ節の切除、大網切除が推奨されています。

子宮体がんは、腟を含む骨盤内、腹腔内、肺、肝臓、リンパ節などに再発することがあります。その際、複数箇所に再発することが多いため、完治を目指すことは難しいとされていますが、腟断端(子宮を取った側の腟の奥)の再発であれば治癒が期待できると考えられています。

腟断端再発の場合は、放射線治療を行うのが一般的です。ただし、再発前にすでに放射線治療を行っていた場合は、十分な量の照射ができないため手術が選択されることがあります。腟断端は、がんが完全切除できる数少ない再発部位のため、治療成績も良好とされています。

子宮体がんの手術内容はステージやがんの状態によって異なります。基本は子宮と卵巣・卵管の切除をしますが、状況によって切除部位を増やしたり、場合によっては卵巣の温存が可能なケースもあります。また、手術だけでなく化学療法や放射線治療も併せて行うことがあるため、治療内容をしっかり理解したうえで治療に臨むとよいでしょう。

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