
子宮体がんとは、子宮の内側を覆う子宮内膜から発生するがんのことで、主に女性ホルモンの一種であるエストロゲンが関与して発症するといわれています。一方で遺伝が関与して発症するケースもあり、約5%が遺伝によって発症するといわれています。一般的に、子宮体がんに限らず“がんは遺伝する”というイメージがあるため、家系内にがん患者がいる方は遺伝を不安に思う方もいるでしょう。では、子宮体がんの場合は遺伝して発生することも考えられるのでしょうか。
子宮体がんの原因には、女性ホルモンの“エストロゲン”が関与している場合とそうでない場合の2つがあります。なかでも遺伝が関与して子宮体がんを発症するのは、子宮体がんの約5%で、主に“エストロゲン”が関係していないケースで発症するとされています。
エストロゲンが発症に関与していない場合の原因は、主に糖尿病、血縁者に大腸がんになった人がいる、本人がリンチ症候群であることが挙げられます。なかでも遺伝が関与して子宮体がんを発症するのは、血縁者に大腸がんになった人がいる、または本人がリンチ症候群である場合です。
ただし、子宮体がんの発症の多くはエストロゲンが関与しているといわれ、主に血中のエストロゲン濃度が高く、かつプロゲステロンの濃度が低い状態が長く続くことによって発症するとされています。この原因としては、出産の経験がない、閉経の時期が遅い、肥満などが挙げられます。そのほかに乳がん・更年期障害の治療薬に含まれる成分も、子宮体がんのリスクにつながるといいます。
また、甲状腺機能低下、向精神薬投与による高プロラクチン血症などによる排卵障害の場合も子宮体がんの原因となりえます。このほか、乳がんの術後ホルモン療法(タモキシフェンなど)や、更年期障害の治療薬に含まれる成分も、子宮体がんの発症リスクを上昇させます。
子宮体がんに限らず、がんが遺伝するのは“がん抑制遺伝子”と呼ばれる遺伝子が変異していることによって、さまざまながんを発症しやすくなるからだといわれています。がん抑制遺伝子とは、人が生まれつき2本もっている遺伝子のことで、がんのはたらきを抑える役割をしています。しかし、まれにその遺伝子が変異することがあり、2本とも変異してしまうとその細胞はがんになってしまいます。
もし親のがん抑制遺伝子が変異していた場合、子どもがこの遺伝子を受け継ぐと、最初からがん抑制遺伝子が1つ変異しているため、子宮体がんだけではなくほかの人よりもさまざまながんになりやすいと考えられています。この遺伝が原因のがんを“遺伝性腫瘍”といいます。前項で解説したリンチ症候群も、がん抑制遺伝子の変異によって起こります。
ただし、変異した遺伝子を受け継いでいたとしても、必ずしもがんを発症するとは限りません。どちらかの親のがん抑制細胞遺伝子の1つが変異しているとすると、その子どもは変異した遺伝子、もしくは変異していない遺伝子をそれぞれ50%の確率で受け継ぐことになりますが、がんを発症しない場合もあります。この状態の人を“未発症保因者”といいます。
リンチ症候群とは遺伝子に変化があることで、主に大腸がんを発症しやすくなることがある病気です。ほかにも子宮体がんや卵巣がん、胃がん、腎盂・尿管・膀胱がん、十二指腸がんなどさまざまながんのリスクが高く、50歳未満でがんを発症することが多いとされています。
リンチ症候群の可能性が考えられる条件は以下のとおりです。
リンチ症候群やそのほかの遺伝性腫瘍の可能性があり不安な場合は、“遺伝カウンセリング”を検討するとよいでしょう。遺伝カウンセリングとは、遺伝子検査や予防についての知識、リスクや自身の状況について相談をすることができる場です。
遺伝カウンセリング自体は多くの病院で受けることができるため、近くの病院で実施しているかどうかの確認をしてみるとよいでしょう。なお、臨床遺伝専門医や遺伝カウンセラーの資格は、日本人類遺伝学会と日本遺伝カウンセリング学会が共同で認定するもので、前者は2020年8月段階が1410名、後者は2020年4月段階で267名が認定されています。
遺伝が関与した子宮体がんの発症を予防することは難しいです。しかし、冒頭で解説したとおりエストロゲンが関与するケース(血中のエストロゲン濃度が高く、かつプロゲステロンの濃度が低い状態が長く続くこと)では、ピルの服用によって子宮体がんの予防につながるといわれています。なぜなら、ピルにはエストロゲンとプロゲステロンの両方が含まれているため、そのバランスをコントロールして子宮体がんのリスクを約半分に低下させることができるといわれているためです。ただし、ピルの服用によって乳がんなどのリスクが上昇することがあるので、メリットデメリットは事前に理解して、医師の指示の下で服用をするようにしましょう。
また、子宮体がんにかかわらず、さまざまながんの予防法として、禁煙、適度な飲酒、減塩した食事、適度な運動、適正なBMIの維持が効果的とされています。これら5つを実践すると、がんになるリスクが約4割低下するともいわれています。
家系の中にがんを発症した人がいる場合でも、必ずしも遺伝して子宮体がんやそのほかのがんを発症するとは限りません。しかし、不安がある場合は遺伝カウンセリングを受けることを検討するとよいでしょう。受診前に、父母、兄弟姉妹、子ども、孫、祖父母、おじ、おば、いとこ、甥、姪などの範囲に、何歳でどのようながんになったかあらかじめメモしておくことも大事です。
また、エストロゲンが関与している子宮体がんは、ピルの服用や日頃の生活習慣に気をつけることでリスクを下げることができるといわれています。そのため、このような予防法を心がけながら、発症した場合に早期診断・治療につなげるためにも併せて定期的ながん検診も検討するとよいでしょう。
国際医療福祉大学医学部 教授
国際医療福祉大学医学部 教授
日本産科婦人科学会 代議員・指導医・産婦人科専門医日本婦人科腫瘍学会 理事・指導医・婦人科腫瘍専門医日本臨床細胞学会 理事・教育研修指導医・細胞診専門医日本癌治療学会 G-CSF適正資料ガイドライン改訂ワーキンググループ委員・臨床試験登録医日本組織細胞化学会 評議員日本婦人科がん検診学会 理事日本先端治療薬研究会 会員日本外科系連合学会 評議員日本専門医機構 産婦人科専門医日本がん治療認定医機構 がん治療認定医日本産科婦人科内視鏡学会 腹腔鏡技術認定医婦人科悪性腫瘍研究機構 子宮体がん委員会 委員・GCIG委員会 委員Sentinel Node Navigation Surgery 研究会 世話人日本臨床分子形態学会 理事日本遺伝性腫瘍学会 評議員
進 伸幸 先生の所属医療機関
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