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子宮体がんは遺伝することもあるの?〜子宮体がんのリスクがある“リンチ症候群”とは〜

子宮体がんは遺伝することもあるの?〜子宮体がんのリスクがある“リンチ症候群”とは〜
進 伸幸 先生

国際医療福祉大学医学部 教授

進 伸幸 先生

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子宮体がんとは、子宮の内側を覆う子宮内膜から発生するがんのことで、主に女性ホルモンの一種であるエストロゲンが関与して発症するといわれています。一方で遺伝が関与して発症するケースもあり、約3~5%が遺伝によって発症するといわれています。一般的に、子宮体がんに限らず“がんは遺伝する”というイメージがあるため、家系内にがん患者がいる方は遺伝を不安に思う方もいるでしょう。では、子宮体がんの場合は遺伝して発生することも考えられるのでしょうか。

子宮体がんの原因には、女性ホルモンの“エストロゲン”が関与している場合とそうでない場合の2つがあります。中でも遺伝が関与して子宮体がんを発症するのは、子宮体がんの約3~5%で、主に“エストロゲン”が関係していないケースで発症するとされています。

エストロゲンが発症に関与していない場合の原因は、主に糖尿病、血縁者にある種のがんになった人がいる、本人がリンチ症候群であることが挙げられます。中でも遺伝が関与して子宮体がんを発症するのは、血縁者に大腸がん、子宮体がん、卵巣がん胃がん腎盂尿管(じんうにょうかん)がん、膀胱がん、十二指腸がん、になった人がいる、または本人がリンチ症候群である場合です。

ただし、子宮体がんの発症の多くはエストロゲンが関与しているといわれ、主に血中のエストロゲン濃度が高く、かつプロゲステロンの濃度が低い状態が長く続くことによって発症するとされています。この原因としては、出産の経験がない、閉経の時期が遅い、肥満などが挙げられます。そのほかに乳がん更年期障害の治療薬に含まれる成分も、子宮体がんのリスクにつながるといいます。

また、甲状腺機能低下、向精神薬投与による高プロラクチン血症などによる排卵障害の場合も子宮体がんの原因となりえます。このほか、乳がんの術後ホルモン療法(タモキシフェンなど)や、更年期障害の治療薬に含まれる成分も、子宮体がんの発症リスクを上昇させます。

子宮体がんに限らず、がんが遺伝するのは“がん抑制遺伝子”と呼ばれる遺伝子が変異していることによって、さまざまながんを発症しやすくなるからだといわれています。がん抑制遺伝子とは、人が生まれつき2本持っている遺伝子のことで、がんのはたらきを抑える役割をしています。しかし、まれにその遺伝子が変異することがあり、2本とも変異するとその細胞はがんになります。

もし親のがん抑制遺伝子が変異していた場合、子どもがこの遺伝子を受け継ぐと、最初からがん抑制遺伝子が1つ変異しているため、ほかの人よりも子宮体がんを含むさまざまながんになりやすいと考えられています。遺伝が原因のがんを“遺伝性腫瘍(いでんせいしゅよう)”といいます。

前項で解説したリンチ症候群も、広義のがん抑制遺伝子の変異によって起こります。リンチ症候群では、DNAミスマッチ修復遺伝子(MLH1、MSH2、MSH6、PMS2、EPCAM)の遺伝子変化またはその発現異常によって、遺伝情報がコピーされて細胞が増えていくときにがん抑制遺伝子のコピー間違いを修復することができず、さまざまながんが発症しやすくなります。リンチ症候群は常染色体顕性(優性)遺伝で、親から子へは50%の確率で受け継がれます。日本では健常人の200~300人あたり1人の割合で認められるという報告があります。

ただし、変異した遺伝子を受け継いでいたとしても、必ずしもがんを発症するとは限りません。どちらかの親のがん抑制細胞遺伝子の1つが変異しているとすると、その子どもは変異した遺伝子を50%の確率で受け継ぐことになりますが、がんを発症しない場合もあります。この状態の人を“未発症保因者”といいます。

リンチ症候群とは遺伝子に変化があることで、主に大腸がんを発症しやすくなることがある病気です。ほかにも子宮体がん卵巣がん胃がん腎盂尿管がん膀胱がん、十二指腸がんなどさまざまながんのリスクが高く、50歳未満でがんを発症することが多いとされています。

リンチ症候群の可能性が考えられる条件は以下のとおりです。

  • リンチ症候群に関連したがんを発症した人が家系内に最低3人いる
  • その中の1人は、発症した2人と親、子、兄弟のいずれかである
  • 最低二世代にわたってがんを発症している
  • 最低1人は50歳未満でがんを発症している

リンチ症候群やそのほかの遺伝性腫瘍の可能性があり不安な場合は、“遺伝カウンセリング”を検討するとよいでしょう。遺伝カウンセリングとは、遺伝子検査や予防についての知識、リスクや自身の状況について相談をすることができる場です。

遺伝カウンセリング自体は多くの病院で受けることができるため、近くの病院で実施しているかどうかの確認をしてみるとよいでしょう。なお、臨床遺伝専門医や遺伝カウンセラーの資格は、日本人類遺伝学会と日本遺伝カウンセリング学会が共同で認定するもので、前者は2022年1月段階で1,651名、後者は2021年12月段階で318名が認定されています。

子宮体がんの手術を受けた場合は、手術で摘出した組織を用いてリンチ症候群かを調べることが可能です。

まず、スクリーニング検査としてマイクロサテライト不安定性(MSI)検査を行います。この検査は保険適用のため、自己負担割合3割の方の場合、費用は1万円以下です。子宮体がんでは約3割の方がMSI陽性となります。MSI陽性の方で、希望する場合は確定診断のためにミスマッチ修復遺伝子の遺伝学的検査を行います。この検査は保険適用外のため、費用は施設によって異なります。もし、リンチ症候群であると診断された場合、関連して生じる腫瘍の早期に発見するため、さまざまな検査が推奨されます。

エストロゲンが関与する子宮体がん(血中のエストロゲン濃度が高く、かつプロゲステロンの濃度が低い状態が長く続くこと)では、ピルの服用が子宮体がんの予防につながるといわれています。なぜなら、ピルにはエストロゲンとプロゲステロンの両方が含まれているため、そのバランスをコントロールして子宮体がんのリスクを約半分に低下させることができるといわれているためです。ただし、ピルの服用によって乳がんなどのリスクが上昇することがあるので、メリットとデメリットを事前に理解して、医師の指示の下で服用をするようにしましょう。

また子宮体がんにかかわらず、さまざまながんの予防法として、禁煙、節酒、減塩した食事、適度な運動、適正なBMIの維持が効果的とされています。これら5つを実践すると、がんになるリスクが約4割低下するともいわれています。

家系の中にがんを発症した人がいる場合でも、必ずしも遺伝によって子宮体がんやそのほかのがんを発症するとは限りません。しかし、不安がある場合は遺伝カウンセリングを受けることを検討するとよいでしょう。受診前に、父母、兄弟姉妹、子ども、孫、祖父母、おじ、おば、いとこ、甥、姪などの範囲に、何歳でどのようながんになったか、あらかじめ確認しておくことも大事です。

80歳までに子宮体がんや卵巣がんになる頻度は、一般の方でそれぞれ3.1%、1.3%ですが、リンチ症候群の場合は5~10倍程度高くなるといわれていました。最近では変異のある遺伝子の種類によって、発症リスク(頻度)と発症年齢が異なることが分かってきました。MLH1遺伝子の変異がある場合は子宮体がん34~54%(発症平均年齢49歳)、卵巣がん4~20%(同46歳)、MSH2遺伝子の変異がある場合は子宮体がん21~57%(同47~48歳)、卵巣がん8~38%(同43歳)、MSH6遺伝子の変異がある場合は子宮体がん16~49%(同53~55歳)、卵巣がん1~13%(同46歳)などです。早期発見のための検査として、経腟超音波検査、子宮内膜組織診を30~35歳から年1回受けることが推奨されています。予防的に子宮全摘や卵巣摘出の有効性についてはまだ分かっていません。

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