ある病気において推奨される検査法や治療法などを、科学的根拠に基づいて提示した文書のことを、ガイドラインと呼びます。子宮体部にがんができる“子宮体がん”にも治療ガイドラインが存在し、がんの進行度合い(ステージ)や状態ごとの治療法などが細かく記載されています。日本における子宮体がんの治療は第一に手術が検討されますが、状況によって化学療法や放射線治療が検討されます。
なかでも本記事では、子宮体がんの化学療法をテーマに、2018年版子宮体がん治療ガイドラインに基づいて詳しく解説します。
子宮体がんの治療法には、手術、化学療法、放射線治療などの選択肢があります。治療方針はステージや、がんの状態によって決定しますが、基本は外科手術が行われます。なぜなら、子宮頸がんや卵巣がんと比べて放射線治療や化学療法の効果が低いためです。しかし、検査や手術の結果、がんの状態や進行度(ステージ)、患者の年齢、希望などによって化学療法が選択されることもあります。
化学療法とは、細胞障害性抗がん薬(抗がん剤)を用いる治療法のことをいいます。がん細胞を殺したり、がんの増殖を遅らせたりすることを目的に使用し、血液が流れているところであれば全身に効果が期待できます。
子宮体がんで化学療法が適応となる状況は以下のとおりです。
子宮体がん手術後の補助治療として、再発のリスクを減らすために化学療法が用いられることがあります。また、進行または再発しており手術ができない場合や、術後にがん細胞が残っている場合に化学療法が有効とされています。再発した場所や状態によっては、放射線療法が選択されることもあります。
なお、術後補助治療として化学療法を追加するかどうかは、ステージやがんの状態によって異なります。詳細については以下のとおりです。
ステージI期(がんが存在するのが子宮体部のみ)では、術後の再発率は10%程度とされています。再発リスクが低い場合は術後補助治療自体の有用性が認められていないため、化学療法が行われることは基本的にありません。
しかし、一方で同じステージI期でも、がんのタイプなどによって再発リスクが中〜高程度と判断される場合があり、その際は抗がん剤によって再発のリスクを減らす目的で術後補助療法が検討されます。
ステージII期(がんが子宮頸部まで広がっている)では、再発のリスクを減らすため、手術の後に化学療法の追加を検討することが多いとされています。なぜなら、II期の場合はがんの状態にかかわらず再発リスクが高いためです。
子宮体がんでは、手術をして子宮や卵巣・卵管、リンパ節などを摘出することでステージが確定されます。そのため、治療前の検査で、ステージをある程度推測して治療方針を検討します。
手術前にIII・IV期(がんが子宮の外に広がっている)と推定された場合、治療の選択肢として手術、化学療法、放射線治療、ホルモン療法などが挙げられ、がんがある場所や患者の状態などによって治療法が決定されます。がんが取り除ける状況であれば手術を行い、その後に化学療法などを行います。化学療法が選択されることが一般的ですが、がんのある場所によっては放射線療法が選択されます。
一方で手術が難しい場合や、手術後にがん細胞が残っている場合は化学療法、ホルモン療法、放射線治療が行われます。
術後の化学療法で使われる薬剤は、再発中・高リスクともにAP療法が推奨されています。AP療法とは、ドキソルビシンとシスプラチンという薬剤を併用する方法です。基本的に3週間ごとの点滴を、3〜6回程度繰り返します。
これには、治療後の経過が改善されるといった報告があるほか、AP療法とTAP療法(AP療法にパクリタキセルを追加する方法)の効果を比較したところ、TAP療法では無再発生存期間(がんが再発せずに生存している期間)を延長できず、神経障害などのデメリットもあったことから、AP療法が推奨されています。また、推奨度は下がりますが、患者によってはタキサン製剤とプラチナ製剤の併用療法が行われることもあります。
切除ができない再発がんには、化学療法の実施が推奨されています。ただし、再発の場合はすでに化学療法を実施済みのことが多いため、患者の状況や以前の治療で使用した薬剤を考慮して、AP療法(前述)、TC療法、単剤療法などから薬剤が選択されます。TC療法とは、パクリタキセルとカルボプラチンという薬剤を併用する方法です。
再発がんに単剤で有効性が確認されているのは、シスプラチン、カルボプラチンなどのプラチナ製剤、アドリアマイシン(ドキソルビシン塩酸塩)、エピルビシンなどのアントラサイクリン系薬剤、パクリタキセル、ドセタキセルなどのタキサン製剤などです。
子宮体がんで行われる化学療法では、ステージやがんの状態などによって、タイミング、使用する薬剤などが異なります。いずれも治療においては医師だけではなく、患者本人も十分に理解することが重要です。そのため、分からないことは医師に質問し、どのように治療が進むのかしっかり説明を受け、理解したうえで治療に臨むとよいでしょう。
山形大学医学部附属病院 産科婦人科 教授
山形大学医学部附属病院 産科婦人科 教授
日本産科婦人科学会 産婦人科専門医・指導医・理事・災害対策・復興委員会委員長・婦人科腫瘍委員会副委員長・用語集・用語解説集改訂委員会副委員長日本婦人科腫瘍学会 婦人科腫瘍専門医・婦人科腫瘍指導医・常務理事・ガイドライン委員会委員長・査読委員日本産婦人科手術学会 理事婦人科悪性腫瘍研究機構 理事日本臨床細胞学会 細胞診専門医・評議員日本婦人科がん検診学会 評議員日本女性医学学会 女性ヘルスケア専門医・暫定指導医・代議員日本産科婦人科内視鏡学会 会員日本癌学会 会員日本癌治療学会 会員
現在、山形大学医学部産婦人科の教授を務め、子宮体がんなどの婦人科悪性腫瘍の手術や研究を行う。また、治療成績向上のため、子宮体がんをはじめ婦人科がんの各ガイドライン作成に携わっている。
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