概要
一般的に、ピルとは女性ホルモンである卵胞ホルモンと黄体ホルモンの合剤である“低用量ピル(OC:oral contraceptives)”のことを指します。排卵抑制作用と子宮内膜の増殖抑制作用があり、避妊に役立つだけでなく、月経痛や過多月経、PMS、ニキビなどの症状を改善するはたらきもあります。
種類
ピルには低用量ピル(OC)以外にも卵胞ホルモンの含有量が多い“中用量ピル”、無防備な性行為後に緊急的に妊娠を防止する目的で使用される“アフターピル”などがあり、それぞれの用途に合ったものを使用する必要があります。
目的
ピルの中でももっとも一般的に使用されているOCは、卵胞ホルモンと黄体ホルモンという2種類の女性ホルモンが配合されている薬です。月経開始日から服用することで脳の下垂体から分泌される卵胞(卵子が入っている袋)の成熟を促す“卵胞刺激ホルモン”の分泌を抑え、排卵を抑制する効果を発揮します。
服用すると避妊効果は高く、正しく服用すれば避妊の失敗率は0.3%に留まるとされています。また、OCは同時に子宮内膜の増殖を抑えるため、月経痛や過多月経を改善し、ホルモンバランスを整えることで月経前症候群(PMS:premenstrual syndorome)やニキビなどの症状を改善する効果も知られています。
そのため、月経困難症、過多月経、PMS、ニキビなどの治療に用いられることも少なくありません。その場合にはOCと同じ成分であっても月経困難症の治療薬としてLEP(low dose estrogen progestin)と呼ばれます。スピロノダクトン誘導体であるドロスピレノンを含むLEPは月経前不快気分障害(PMDD:premenstrual dysphoric disorder)を改善することが確認されています。しかし、PMSと診断されるような軽症例に対する有効性およびほかのOC、LEPに対する優位性については不明です。
一方、低用量ピルよりも卵胞ホルモンの含有量が多い中用量ピルは月経を遅らせたり、早めたりする作用があります。低用量ピルと同じく避妊や月経困難症などの治療効果もありますが、現在では旅行などに合わせて月経を移動させる目的で使用されるのが一般的です。
そのほか、アフターピルは黄体ホルモンのみを含み、排卵を遅らせたり、子宮内膜の性質を変化させたりすることで緊急的に妊娠を防止する目的で使用されます。
購入方法
低用量ピル、中用量ピル、アフターピルはいずれも医療用医薬品であるため、入手するには医師の診察と処方を受けなければなりません。基本的には婦人科や産婦人科などで診察と処方を受ける必要があります。
また、アフターピルは無防備な性行為後72時間以内に服用する必要があるため、遠隔地に居住しており医療機関を受診できない、性犯罪に巻き込まれたため婦人科受診がためらわれる、といった事情がある場合は2019年7月からオンライン診療でも処方が可能となっています。
処方は産婦人科医と厚労省が指定する研修を受けた医師に限定し、薬局においても研修を受けた薬剤師による調剤を受けて面前で内服すること、服用の3週間後には対面診療を受けるといった条件を付けることで了承されています。一定程度のハードルを厳しくするのは薬の乱用や性犯罪への利用を防ぐためです。
さらに、新型コロナウイルス感染拡大の予防策として2020年4月から初診も含めたオンライン診療が全面的に認められたため、現在は時限的ではあるもののオンライン診療での低用量ピルや中用量ピルの処方が可能です。
費用の目安
- 低用量ピル1か月分(1シート):自費で2,000〜3,000円、保険適用では3割負担で約1,000円〜2,000円程度
- 中用量ピル:5,000円前後
- アフターピル:10,000円〜20,000円程度
そのほか医療機関によって料金が異なりますが別に診察料、処方料、検査料がかかります。費用については購入前に医療機関のホームページなどで確認するとよいでしょう
治療
ピルは正しい服用方法を守らなければ十分な効果を得ることができない薬です。具体的には、それぞれ次のような服用方法を心がけましょう。
低用量ピル
低用量ピルは、含有されるホルモン量や開発された時期によって第1~第4世代までの4種類があります。
現在、もっとも多く使用されているのは第3世代のタイプで、月経開始日から21日間にわたって卵胞ホルモンと黄体ホルモンが同量含まれた薬を服用します。服用を中止すると3~4日ほどで薄い子宮内膜が剥がれ落ちる“消退出血”と呼ばれる出血が生じます。そして、7日間の休薬を経て再びホルモンが含まれる錠剤の服用を続けることとなります。
低用量ピルは通常、1枚のシートに21錠、または28錠分の錠剤が含まれています。21錠タイプのものは飲み切った後に7日間休薬してから再び次のシートの錠剤を服用します。
一方、28錠タイプのものはホルモンが含まれた21錠の錠剤のほかにホルモンが含まれていない7錠の“偽薬”が含まれるのが特徴です。偽薬をそのまま飲み続けることで、21錠タイプのように7日間の休薬期間を設けなくてよいため、飲み忘れや飲み間違いを防ぐことができます。
中用量ピル
中用量ピルは主に月経日を移動する目的で使用されます。
月経を早めるためには、月経開始予定日の3週間ほど前から10日間程度にわたって低用量ピルを服用します。服用を中止すると2~5日で月経が生じることとなります。
一方、月経を遅らせるには月経開始予定日より5日ほど前から遅らせたい時期まで中用量ピルの服用を続けます。服用を中止すると2~5日ほどで月経が生じます。
ただし、月経周期に乱れがあるなど月経開始日が予測しにくい方は、その旨を必ず医師に伝えるようにしましょう。
アフターピル
アフターピルは無防備な性行為があってから72時間以内に服用する必要があります。
一般に“morning after pill”からアフターピルと呼ばれることもありますが、緊急避妊薬(emergency contraceptive:EC)が正しいです。
現在主流となっているアフターピルは1回のみ服用するタイプのものであり、性行為から時間が経過する前に服用するほど避妊効果が高まるとされています。24時間以内に服用すれば妊娠阻止率は95%とのデータもありますので、妊娠を望まないものの思い当たる行為があった場合はできるだけ早く医師の診察と処方を受けるようにしましょう。しかし、妊娠阻止率は100%でないので、次回月経が来なければ、来院が必要となります。
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