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がん治療が女性の妊娠・出産に与える影響とは
がん治療が進歩し、がんを克服できることが多くなりました。その一方で、抗がん剤や放射線治療などの副作用による不妊に悩まされる方も増えてきています。そこで近年発展しつつある考えが、がん治療を受ける前...
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がん治療が女性の妊娠・出産に与える影響とは

公開日 2017 年 07 月 26 日 | 更新日 2018 年 09 月 19 日

がん治療が女性の妊娠・出産に与える影響とは
京野 廣一 先生

医療法人社団 レディースクリニック京野 理事長

京野 廣一 先生

目次

がん治療が進歩し、がんを克服できることが多くなりました。その一方で、抗がん剤や放射線治療などの副作用による不妊に悩まされる方も増えてきています。そこで近年発展しつつある考えが、がん治療を受ける前に、患者さんの妊孕性(にんようせい・妊娠をする能力)を温存し、がん治療後に治療の影響なく妊娠・出産ができるようにするというものです。今回は、妊孕性温存の基本からがん治療が女性の妊孕性に与える影響、妊孕性温存の種類まで、生殖補助医療を専門に行う京野アートクリニックの理事長 京野 廣一先生にお話をうかがいます。

妊孕性とは

妊娠

妊娠をする能力を指す

妊孕性(にんようせい)とは、一言でいうと妊娠する能力のことを指します。この妊孕性は女性であれば卵巣・子宮の機能、男性であれば精巣の機能が正常かどうかによって左右されます。今回は、女性の妊孕性について説明しましょう。

まず、妊娠において重要な役割を果たすものが卵子です。その卵子のもととなる卵胞は精子と違って生後つくられることはありません。女児が母体の胎内にいるあいだに、その胎児の卵巣ではおよそ700万個もの卵胞がつくられ、その後減数分裂を経て出生時には100万〜200万個になります。それから、初潮(初経)が始まるころには約30万個にまで減少します。

また、卵胞は新しくつくられることがないため、その女性と同程度に歳を重ねます。たとえば、30歳の女性の場合、卵胞は30歳+1歳(胎児期に作られるため)ということです。一般的にいわれる「卵子が老化する」というのはこのことです。健康な方の場合、妊孕性は30歳を過ぎたころから徐々に低下し、30代半ばにはその低下のスピードが高まります。さらに40歳を過ぎると急速に低下します。

卵子の老化について詳しくはこちら

がんなどの病気の治療により卵巣や子宮が影響を受けて妊孕性が一度低下すると、現代の医学では妊孕性を回復させることはできません。そのため、病気の治療などで妊孕性を失わないよう、対処をすることが重要なのです。

では、妊娠・出産時に具体的にどのような影響を与えるのでしょうか。がん治療に絞って説明します。

がん治療が妊娠・出産に及ぼす影響

がん

がん治療が妊娠・出産に影響を及ぼすパターンとして、1.腹部や骨盤、頭部への放射線治療を受けたことがある、2.抗がん剤治療を受けたことがある、3.外科手術を受けたことがある、の3つが挙げられます。

1.腹部や骨盤、頭部への放射線治療を受けたことがある場合

<腹部・骨盤の場合>

時に、以下の影響があることが報告されています。

・流産・早産の頻度の増加

・低出生体重児(出生体重が2,500g未満)の割合の増加

・在胎週数に対して体重の軽い子どもが生まれる割合の増加

<頭部の場合>

放射線の影響でホルモンの分泌を司る視床下部や脳下垂体前葉の働きが阻害され、十分にホルモンが分泌されないことで妊孕性低下を招くことがあります。

また、妊娠後については流産の確率が少し上昇するという報告と、流産・早産の確率は変わらないという、相反する報告があり、頭部の放射線照射による流産・早産への影響はいまだ解明されていません。

死産や新生児死亡の確率は、健康な女性との差はないといわれています。

2.抗がん剤治療を受けたことがある場合

使用した抗がん剤によっては卵子や卵胞などの卵巣組織に影響を与え、妊娠しづらくなる可能性があります。

卵巣組織への影響が少ない抗がん剤であれば、流産・早産や胎児の発育への影響は認められないといわれています。ただし、抗がん剤によって心臓や腎臓などの機能が低下していると、妊娠の継続が困難になる可能性があります。

3.外科手術を受けたことがある場合

当然ですが、子宮や卵巣などの妊娠に関わる機能を持つ臓器を切除すると、妊娠はできません。

また手術により腹腔内に癒着が生じた場合は、妊娠中の腸閉塞や帝王切開時の腸管損傷などのリスクがあります。

抗がん剤や放射線治療で奇形や染色体異常は増える?

放射線治療や抗がん剤による治療を実施すると、その女性から生まれた子どもが、いわゆる奇形やダウン症などの染色体異常による疾患を持つ頻度が増えるのではないかと心配される方が少なくありません。しかし、放射線治療や抗がん剤治療を行ったことのある女性から生まれる子どもにそのような先天異常が現れる頻度は、健康な女性から生まれた子どもと変わらず、新生児の約3〜5%といわれています。

それでは、なぜがんの治療で妊孕性は低下するのでしょうか。次章ではそのメカニズムについて解説します。

がん治療で妊孕性が低下する理由

がん治療による女性の妊孕性が低下する理由には、次の3つが考えられます。

抗がん剤による妊孕性

抗ガン剤が卵巣に与える影響

抗がん剤などの細胞に影響を与える治療は、卵巣に大きなダメージを与え、ときには卵巣内の卵胞を死滅させてしまいます。このように、卵巣や卵胞に影響を及ぼすことを「卵巣毒性」といいます。

しかし、一概にすべての抗がん剤が卵巣毒性が高いとはいえません。使用する抗がん剤によって卵巣毒性の強度は変わります。また、抗がん剤の組み合わせや全使用量によっても妊孕性低下の程度が左右されます。

卵巣毒性の高い抗がん剤

卵巣毒性の高い抗がん剤として、小細胞肺がんや悪性リンパ腫に用いられるシクロホスファミドに代表されるアルキル化剤が挙げられます。

乳がんの場合だと、40歳以上の方へ行われるCMP・CEF/CAF療法も卵巣毒性の高いものだといわれています。

卵巣毒性の低い抗がん剤

卵巣毒性の低い抗がん剤もあります。たとえば、乳がんなどに使われるフルオロウラシルは卵巣毒性が低いといわれています。ほかに、ビンクリスチン、メトトレキサートなども卵巣毒性の低い抗がん剤です。

そのほかには、以下の薬剤も卵巣毒性の低いものです。

  • 代謝性拮抗剤
  • 植物アルカロイド
  • 乳がん(30歳未満)へのCMP/CEF/CAF療法
  • 乳がん(40歳未満)へのAC療法

治療中、治療後は一度月経が停止しますが、その後月経が再開し一定期間を経てからの自然妊娠例も報告されています。ただし、なかには治療後に月経が回復せずに閉経してしまう患者さんもいらっしゃいます。

癌と妊娠の相談窓口 手引き第2

出典:がんと妊娠の相談窓口—がん専門相談員向け手引第2版

放射線治療による妊孕性低下

放射線も抗がん剤と同様に、部位や照射量によって卵巣、卵胞に影響を与えます。放射線治療でも卵巣に影響を与える照射部位は全身、腹部や骨盤です。また全脳照射もホルモン調節を司る視床下部から脳下垂体前葉までに影響を及ぼし、ホルモンの分泌低下から妊孕性の低下を招くリスクがあるといわれています。

放射線量については、成人は被ばくの総量が2.5〜6Gy(グレイ)程度、小児では10〜20Gy程度が永久的な不妊になるかどうかの境目の値だといわれます。40〜50Gy(小児では20Gy)を超えると数年後に不妊の症状が現れ始め、放射線量が多いほど早期に症状が発現します。

手術による妊孕性低下

両側卵巣摘出術、単純子宮全摘出術や広汎子宮全摘出術によって卵巣や子宮自体をすべて摘出してしまうと、絶対的な不妊となります。

これらの原因に加えて、がんの種類やステージ、年齢にも左右され、妊孕性が低下するといわれています。

妊孕性温存とは

妊娠

このように多かれ少なかれ、がん治療は妊孕性に影響を与えることがあります。今までは何よりもがん治療によってがんを克服することが最優先であったうえに、がん治療後の予後が必ずしも芳しい状況とはいえなかったため、がん患者さんの妊孕性を温存することについて大きく注目されることはありませんでした。しかし、医療の進歩により予後が飛躍的に向上したことから、がんを克服した患者さんのQOL(生活の質)の維持・向上の一環として、妊孕性を温存することの重要性が唱えられるようになったのです。こうして、がん治療前に卵子凍結や受精卵凍結、卵巣組織凍結などによって妊孕性を温存することを、妊孕性温存というようになりました。

妊孕性温存には多くの方法があり、一例として以下が挙げられます。

妊孕性温存の方法

・卵子凍結

がん治療開始前に卵子を採り、凍結保存する方法です。妊孕性温存の方法のなかで最もよく知られる治療法です。卵子1個あたりの生産率は5%程度です。

・卵巣組織凍結

外科手術によって卵巣を摘出し、卵巣を凍結保存する方法です。がん治療後に妊娠を希望する際に、卵巣を融解して再度患者さんの体内に移植します。

2004年に世界で初めて卵巣組織凍結を実施した卵巣を使用しての妊娠・出産が報告されました。すべての妊孕性温存療法のなかでも新しい治療法のため、有効性や安全性はまだ研究段階で、実施施設も限られています。

・受精卵凍結

採卵した卵子を精子と受精させた状態で凍結保存を行います。精子提供者となるパートナーがいる場合のみに実施される方法です。胚盤胞(はいばんほう)という受精5日目の着床する直前の状態で凍結保存し、別周期で子宮内膜の状態を整えて最適な環境で移植する凍結融解胚盤胞移植では、1度の移植あたりの妊娠率は40〜50%といわれています。この数字は全妊孕性温存療法で最も妊娠率が高いといわれています。

・卵巣遮蔽(らんそうしゃへい)

骨盤へ放射線治療を行う患者さんに対して、照射前に卵巣の位置に金属ブロックを置くことで放射線を遮蔽(さえぎること)します。そして卵巣に照射される放射線量を減らし、卵巣の機能を温存します。

・卵巣位置移動

卵巣遮蔽と同様、骨盤への放射線治療を行う患者さんに対し、照射前に片方または両方の卵巣を手術によって照射位置とは別の場所へ移動します。移動したままでは自然妊娠が不可能なため、再度手術で元の位置に戻すか、体外受精を経て妊娠に至ります。

・広汎性子宮頸部摘出術(トラケレクトミー)

初期の子宮頸がん(1A2期から1B1期)の患者さんを対象とする方法です。子宮頸がんの手術では、通常、子宮体部を含めた子宮全体を摘出しますが、広汎性子宮頸部摘出術では、がんのある子宮頸部だけを切り取り、子宮体部を残して治療を行える可能性があります。子宮体部が残っていれば妊娠が可能です。

記事2『がんでも妊娠・出産を可能に―卵子凍結と卵巣組織凍結の違いや適応、画像でみる凍結の流れ』では、数多くある妊孕性温存のなかでも特に卵子凍結と卵巣組織凍結について解説します。
 

日本における不妊治療のトップランナー。1983年には所属チームの一員として日本初の体外受精による妊娠出産に成功した。より多くの不妊に悩む患者さんのお手伝いをするため、2007年に京野アートクリニックを開院。通常の不妊治療だけでなく、凍結胚移植法などの高度生殖医療も行っている。患者さんの幸せを第一に、患者さん目線に立った医療を心がけている。

「子宮頸がん」についての相談が17件あります

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