NASHを含めた肝疾患は、病気がかなり進行するまで自覚症状が現れないという問題があります。“気がついたときには手の施しようがない”という事態にならないよう、早期診断をして治療を開始することが非常に重要です。
NASHであるかを診断するためには肝生検(かんせいけん:腹部に特殊な針を挿入し、直接肝臓から細胞を採取する検査)が必須です。
この検査では肝臓の組織を採取するために針を刺しますので、患者さんにとって侵襲の大きい(負担が大きい)検査方法になります。通常、外来では検査を行うことができませんので、入院をしていただいたうえで検査を受けていただくことになります。この肝生検を行うことで、NASHの確定診断を行うことができます。
また、肝生検以外の検査方法としては下記のような方法があります。
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血液検査の場合にはトランスアミナーゼ値(AST/ALT比)や、フェリチン値、血小板数などからNASHの可能性を調べていきます。また、画像診断ではCT、MRI、エストグラフィ(超音波を用いた組織硬度評価)などが用いられています。さらに検査値や患者さんの状態からNASHの可能性をスコア化して診断を行うスコアリングシステムという診断方法も、近年実施されてきています。
NASHの診断を行ううえで課題となっているのが、早期診断と肝生検の負担です。
NASHをはじめとした肝疾患は、症状が現れにくく、早期に診断することが難しい病気です。そのためNASHを早期に診断することは1つの大きな課題となっています。
また、先ほどもお話ししたように、NASHの確定診断に必要な肝生検は侵襲の大きい検査方法です。さらに検査を行う際には、まれに内出血が起こることもあります。内出血が見られれば入院期間が延びることとなり、患者さんへの負担がより大きくなってしまいます。
ただし、NASHを正確に診断するためにはどうしても肝生検が必要です。身体的負担も大きいため肝生検に抵抗がある患者さんは多く、肝生検をせずにNASHの診断を行う方法の確立が世界的な課題とされています。
ではNASHを早期に診断するにはどうしたらよいのでしょうか。それには血液検査の結果を読み解くうえで重要となる点をおさえ、早期に診断していくことが1つ大きなポイントといえます。
AST、ALTの数字だけでNASHを診断することはできませんが、NASHになると高い数値になる傾向があります。100以上に増加している場合はNASHが疑われます。ただし、肝硬変まで進行してしまうとAST、ALTは低下してくるので、数字が高くないからといって安心はできません。また、AST/ALT比が1以上であると肝硬変になっている危険があります。
これとは反対に、血小板数はNASHが進行すると減少します。血小板数は通常20万/μL以上ですが、18万~19万/μLになると注意が必要です。
これらの数値は肝臓専門医でなくても判断できます。ただしNASHの場合、血小板の数値の下がり方が他の肝疾患とは異なることに注意しなければなりません。
肝硬変になると血小板数が減少することは、医師の間では周知されていることです。しかし、一般的な目安となるC型肝炎の基準とNASHの基準は大きく異なります。
C型肝炎で血小板数が13万/μLを切ると前肝硬変(肝硬変になる直前の段階)の可能性を、10万/μLを切った時点で肝硬変を疑います。しかしNASHの場合は、一般に血小板数が18~19万/μLの時点で病状が進行しており、15万/μL以下に減少したときにはすでに肝硬変になっています。
つまり、C型肝炎の基準で肝臓を診てしまうと、「血小板数が15万/μL以上あるから大丈夫」と判断されてしまう恐れもあります。そのため、診断がつかないまま放置されている患者さんが多く残されているのが、NASHの診断における大きな問題です。日本人のNASHは緩やかに進行することが多いので、治療介入をしなくともしばらく大きな変化が見られません。残念ながら、肝硬変や肝がんになってしまった状態になって初めて発見される患者さんが多いのが現状です。
また、エコーで脂肪肝が見つかった後に血小板が20万/μLを切った、5年前の検査では22万/μLだったのに今年は18万/μLに下がった、という方の場合も注意が必要です。脂肪肝の患者さんは病院に通っているものの、その通院先は糖尿病内科、循環器内科、あるいは一般内科である方がほとんどです。原疾患もしくは心血管系疾患に対しては適切に加療されていますが、その方がNASHであるかどうかに関しては評価されていないケースも少なくありません。
NASHは生活習慣病、循環器疾患を持った患者さんから発症することが多い病気です。血小板は血液検査で簡単に調べられる数値ですから、脂肪肝の患者さんで血小板数が20万/μLを切った場合には、特に注意深い経過観察や精密検査が必要です。
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