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自覚症状がないNASHを早期診断するために―研究と取り組み

自覚症状がないNASHを早期診断するために―研究と取り組み
島 俊英 先生

済生会吹田病院副院長/消化器・肝臓病センター

島 俊英 先生

NASHを含めた肝疾患は、病気がかなり進行するまで自覚症状が現れないという問題があります。「気がついたときには手の施しようがない」という事態にならないよう、早期診断をして治療を開始することが非常に重要となりますが、NASHの確定診断には肝生検が必須であり、患者さんに大きな負担がかかってしまうのが現状です。この状況を改善するため、済生会吹田病院ではさまざまな研究やデータ解析を行い、一人でも多くの患者さんが早く治療に臨めるよう取り組みを続けています。引き続き、済生会吹田病院副院長の島俊英先生にお話しいただきます。

肝生検

NASHであるかを診断するためには肝生検(かんせいけん:腹部に特殊な針を挿入し、直接肝臓から細胞を採取する検査)が必須です。

この検査では肝臓の組織を採取するために針を刺しますので、患者さんにとって侵襲の大きい(負担が大きい)検査方法になります。外来では検査を行うことができませんので、入院をしていただいたうえで検査を受けていただくことになります。この肝生検を行うことで、NASHの確定診断を行うことができます。

また、肝生検以外の検査方法としては下記のような方法があります。

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  • 血液検査
  • 画像診断
  • スコアリングシステム

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血液検査の場合にはトランスアミナーゼ値(AST/ALT比)や、フェリチン値、血小板数などからNASHの可能性を調べていきます。また、画像診断ではCT、MRI、エストグラフィ(超音波を用いた組織硬度評価)などが用いられています。さらに検査値や患者さんの状態からNASHの可能性をスコア化して診断を行うスコアリングシステムという診断方法も近年報告されてきています。

NASHの診断を行う上で課題となっているが、早期診断と肝生検の負担です。

NASHをはじめとした肝疾患は、症状があらわれにくく、早期に診断することが難しい疾患です。そのためNASHを早期に診断することは一つの大きな課題となっています。

また、さきほどもお話したように、NASHの確定診断に必要な肝生検は侵襲の大きい検査方法です。さらに検査を行う際には、まれに内出血が起こることもあり、当院のデータでも肝生検を受けた患者さんの0.5%で内出血がみられたことが示されています。内出血がみられれば入院期間が延びることとなり、患者さんへの負担がより大きくなってしまいます。

ただし、NASHを正確に診断するためにはどうしても肝生検が必要です。身体的負担も大きいため肝生検に抵抗がある患者さんは多く、肝生検をせずにNASHの診断を行う方法の確立が世界的な課題とされています。

ではNASHを早期に診断するにはどうしたらよいのでしょうか。それには血液検査の結果を読み解くうえで重要となる点をおさえ、早期に診断していくことがひとつ大きなポイントといえます。

AST, ALTの数字だけでNASHを診断することはできませんが、NASHになると高い数値になる傾向があります。100以上に増加している場合はNASHが疑われます。ただし、肝硬変まで進行してしまうとAST、ALTは低下してくるので、数字が高くないからといって安心はできません。また、AST/ALT比が1以上であると肝硬変になっている危険があります。

これとは反対に、血小板数はNASHが進行すると減少します。血小板数は通常20万/μL以上ですが、18万~19万/μLになると注意が必要です。

これらの数値は当然、肝臓専門医でなくても容易に判断できます。ただしNASHの場合、血小板の数値の下がり方が他の肝疾患とは異なることに注意しなければなりません。

肝硬変になると血小板数が減少することは、医師の間では周知されていることです。しかし、一般的な目安となるC型肝炎の基準とNASHの基準は大きく異なるのです。

教科書的にはC型肝炎で血小板数が13万/μLを切ると前肝硬変の可能性を、10万/μLを切った時点で肝硬変を疑います。しかしNASHの場合は、一般に血小板数が18~9万/μLの時点で病状が進行しており、15万/μL以下に減少したときにはすでに肝硬変になっています。

非専門医はC型肝炎の基準で肝臓をみている場合が多いので、上述のような検査結果をみて「血小板数が15万/μL以上あるから大丈夫」と判断してしまう場合が多いようです。

 

NASHの診断では、医療者側の関心が低いことが大きな問題点で、診断がつかないまま放置されている患者さんが多く残されています。日本人のNASHは緩やかに進行することが多いので、治療介入をしなくともしばらく大きな変化がみられません。残念ながら、肝硬変や肝がんになってしまった状態になって初めて発見される患者さんが多いのが現状です。

そのためこのように、NASHの場合、血小板数15万/μLはすでに肝硬変と思われます。ですから肝臓専門医以外の先生にも、血小板数が20万/μLを切ってくると危険性が高いことを知っておいていただきたいと思います。

 

また、エコーで脂肪肝がみつかったあと血小板が20万/μLを切った、5年前の検査では22万/μLだったのに今年は18万/μLに下がったという方の場合も注意が必要です。

脂肪肝の患者さんは病院に通っているものの、その通院先は糖尿病内科、循環器内科、あるいは一般内科である方がほとんどです。原疾患もしくは心血管系疾患に対しては適切に加療されていますが、その方がNASHであるかどうかに関しては評価されていないことが多いと思います。この状況を改善するためには、NASHを見逃さない仕組みづくりが必要です。我々としては、糖尿病の先生や循環器系の先生に進行したNASHをある程度拾い上げてほしいと願います。

一番簡単なのは血小板数をみることです。実際、紹介元の先生に「脂肪肝が以前からあるが血小板数が少し低下してきたので精密検査を受けてください」といわれて吹田病院に紹介され、精査してみると進行したNASHだったという方もおられます。

 

記事1『「お酒を飲まない」人でも脂肪肝になる?! NASH(非アルコール性脂肪性肝炎)について知ろう』で述べた通り、NASHは生活習慣病、循環器疾患を持った患者さんから発症することが多い病気です。そのような病気に該当する方に対して、医師や医療従事者はNASHの可能性を意識していただきたいと考えます。血小板は血液検査で簡単に調べられる数値ですから、血小板数が20万/μLを切った脂肪肝の患者さんに関しては、特に注意深い経過観察や精密検査が必要です。

次に肝生検に代わる検査方法について考えていきます。

現在のように、肝生検で患者さんに負担が大きくかかってるという状況を改善するため、吹田病院では血液検査のみでNASHを診断する方法を検討しています。

どのような生活習慣病を持っている方がNASH発症のリスクが高いかは簡単に出すことができます。吹田病院では、過去に肝生検を行った800人の患者さんのうち、NASHの確定診断がついた方の血液データや肥満の程度、生活習慣病などの臨床所見をすべて解析し、どのような組み合わせの方がNASHになりやすいのかを調べている最中です。将来的な話になりますが、こうしたデータが年々蓄積されていけば、データを参照するだけで肝生検をせずにある程度はNASHの状態がわかるようになる可能性があります。とはいえ、この方法はあくまで将来的な話であり、2016年6月現在のところ確定診断のためには肝生検が第一で、実際に患者さんにも推奨しています。

肝生検なしで確定診断をつけることは難しいものの、ある程度の絞り込みであれば可能です。何らかの理由で肝生検を行うことが難しい場合は、FIB-4 indexという計算式を用いる場合があります。FIB-4 indexでAST・ALT・血小板の値を使用して、そこから肝臓の線維化の程度を数値化します。これにより、非侵襲的(患者さんへの肉体的な負担がかからない)に大まかな診断をつけることができます。

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☆FIB-4 indexの計算式

FIB-4 index=(年齢×AST)/(血小板数×ALT^1/2)

※FIB-4 indexを計算できるサイトはこちら

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FIB-4 indexでは、数値の高さによってNAFLD(非アルコール性脂肪性肝疾患)の肝線維化の程度を2つの群に分類しています。つまり、NAFL(非アルコール性脂肪肝)と線維化が軽度のNASH(Brunt分類のステージ2以下)をひとつにまとめ、進行してしまったNASH(Brunt分類のステージ3、4)を別にしたのです。FIB-4 indexが2.67以上になる患者さんは進行したNASHの可能性が高く、よりハイリスクな群をスクリーニングできる方法といえます。

(NASHの分類については記事1『「お酒を飲まない」人でも脂肪肝になる?! NASH(非アルコール性脂肪性肝炎)について知ろう』を参照)

吹田病院は現在、患者さんが単純な脂肪肝(NAFL)なのか、NASHに進行しているのかを、簡易な血液検査によって正確に疾患を鑑別できる数種類のバイオマーカーを調査・開発しています。この方法が確立すれば、FIB-4 indexよりも高い確率でNASHの状態を調べることができます。

また、吹田病院ではファイブロスキャンという特殊な機具を用いて、肝臓の線維化および肝臓への脂肪の蓄積具合を調べる検査を行っています。脂肪肝が疑われる患者さんの初診の際は、超音波検査とこのファイブロスキャンの両方を必ず行います。

超音波検査ではどうしても技術者の主観的な要素が入ってしまい、また脂肪肝の程度や線維化の程度も明確にわかりません。この問題点を補うのがファイブロスキャンです。ファイブロスキャンは、これらの程度を数字として表すという特徴があります。たとえばファイブロスキャンを行った結果、CAP値が250を超えていた場合は肝臓に脂がたまっています。このように線維化の程度に加えて肝臓への脂肪の蓄積の程度が数値として計測できるため、客観的な判断がつきやすいのです。また、肝線維化が進行したNASHの場合は、肝硬度が高い数値を示すので、ファイブロスキャンのみで容易に診断できます。

2017年の欧文紙「Hepatology Research」に、日本人のNASH患者の線維化有のフィブロスキャンのカットオフ値が7kPaで、線維化進行のカットオフ値が10kPaであることを発表しています。

▲実際に吹田病院で使用されているフィブロスキャン本体 画像提供:株式会社インターメディカル

▲フィブロスキャン本体に付属しているMプローブ。こちらを患者さんに直接あてて検査を行う 画像提供:株式会社インターメディカル

▲フィブロスキャンによる計測結果画面(CAP_Step4)  画像提供:株式会社インターメディカル

数字上のデータは経過観察の際にも活用が可能です。通常、このような検査は1年に1回程度実施しますが、数字を残しておくことで、「1年前に比べて今年の数字はよくなっている」などということができます。

なおファイブロスキャンはどこにでもある機械ではなく、コストの面からいって普及は難しいでしょう。また、結果の数字にも「これ以上の数字が出れば肝線維化の進行した状態である」という明確な基準値はありません。吹田病院では肝生検のデータと対比することにより、日本人のNASHの線維化進行例におけるファイブロスキャンの基準を設定しました。ファイブロスキャンの数字も検討して判断しているので、これは吹田病院独自の検査方法ともいえます。

これまで述べてきたように、今後は肝生検とさまざまな機器を連動させることで、肝生検を行わずに診断ができるようにしたいと考えています。日本のみならず、世界的にも徐々にそのような方向に向かっていくでしょう。

引き続き記事3『NASH研究の最前線を解説―NASH・NAFLDと生活習慣病との関連や、原因遺伝子の解析は?』ではNASHの最新研究について島先生にご解説いただきます。

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  • 済生会吹田病院 副院長/消化器・肝臓病センター

    島 俊英 先生

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