肝がん
- 同義語
- 肝臓がん
概要
肝臓がんとは、肝臓に発生するがんのことです。肝臓がんには“原発性”と“転移性”があり、一般的に肝臓がんといわれるものは、もともと肝臓から発生した原発性の肝臓がんです。肝臓がんはさらに、肝臓を構成する肝細胞から発生する“肝細胞がん”と肝臓内の胆管の細胞から発生する“肝内胆管がん”に分類されます。肝臓がんのうち、95%は肝細胞がんといわれており、残りの4~5%のうち大部分が肝内胆管がんです。肝臓がんは、1年間で約4万人の方が新たに罹患するとされる比較的頻度の高いがんです。進行するまで症状が現れないことも多く、国立がん研究センターによれば日本における5年生存率は約40%とほかのがんと比べて低い傾向にあります。
なお、肝臓は血流が豊富な臓器であるため、ほかの臓器に発生したがんが転移しやすい臓器でもあります。このように他臓器から転移することで肝臓に発生するがんのことを転移性肝臓がんと呼びます。
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原因
肝細胞がん
肝臓がんの90%以上を占める肝細胞がんの主な発生原因は、B型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルスに感染し、長期間にわたって肝細胞に慢性的な炎症が加わることです。炎症や細胞の再生を長期間にわたって繰り返すことで遺伝子の突然変異が引き起こされ、その結果、がん細胞が発生すると考えられています。ただし、C型肝炎に関しては特効薬による患者の減少・高齢化により、肝臓がんの原因となる割合が年々減少しています。
一方、近年では肝炎ウイルスの感染がないにもかかわらず肝臓がんを発症するケースも増えてきています。肝炎ウイルス以外の原因は不明な部分もありますが、アルコールやメタボリックシンドロームによる脂肪肝が肝臓がんを引き起こしている可能性が示唆されています。なお、飲酒や肥満のほかにも、喫煙や食事内容、糖尿病などの基礎疾患が発症に関与していると考えられます。
肝内胆管がん
肝臓がんの4%ほどを占める肝内胆管がんも一部は肝細胞がんと同じく、肝炎ウイルス感染によって引き起こされるとの報告があります。しかし、ほかの原因については特殊な寄生虫(肝吸虫)や有機溶媒などを除き不明で、明確な発症メカニズムは分かっておらず、近年患者数が増加していることが問題となっています。
症状
肝細胞がん
肝臓がんは、発症しても早期段階ではほとんど症状が現れません。また、進行しても無症状な場合があり、病気に気が付かない方もいます。
がんが進行して大きくなると、人によっては上腹部の張りや痛み、圧迫感などが引き起こされ、やせ体型の方は体表面からしこりが触れるなどの症状もみられるようになります。また、胆汁の通り道である胆管ががんで圧迫されて胆汁がうっ滞すると、皮膚のかゆみや目・皮膚が黄色くなるなどの“黄疸”と呼ばれる症状が現れます。
さらに進行すると肝臓の機能が悪くなる、いわゆる肝不全がみられます。肝臓には体内の有害物質を解毒したり、出血を止めたりする作用を持つ凝固因子や体の組織を作るのに必要なたんぱく質を作るはたらきがあります。肝臓がんが進行するとこれらの機能が低下していくため、おなかに水がたまりやすくなる・出血しやすくなるといった症状が現れるようになります。また、体内にアンモニアが蓄積し、昏睡状態を引き起こす“肝性脳症”と呼ばれる状態に陥ることもあります。このように症状が現れている場合、すでに進行がんとなっており、根治を目指す治療は難しくなっていることが一般的です。
肝内胆管がん
肝内胆管がんも無症状で経過することが一般的です。ただし、比較的早い段階から胆管が詰まって黄疸が生じることもあります。また、血液検査などでγ-GTPの数値やCEA、CA19-9などの腫瘍マーカーが上がっていることをきっかけに肝内胆管がんが発見されることもあります。
検査・診断
肝臓がんが疑われるときは、診断のために次のような検査が行われます。
血液検査
肝臓の機能の状態、肝炎ウイルス感染の有無などを調べるため、血液検査を行う必要があります。また、肝臓がんは“AFP”や“PIVKA-Ⅱ”と呼ばれる腫瘍マーカー(がんを発症すると体内で産生されるようになる物質)の血中濃度が高値になる性質があるため、診断の手がかりの1つとしてこれらの腫瘍マーカーの値を測定します。ただし、肝臓がんでも3分の1の人では腫瘍マーカーが高値にならないといわれているため、血液検査だけでがんの有無を判断することはできません。
画像検査
がんの有無、大きさ、位置、広がりなどを調べるために画像検査が必要となります。肝臓がんが疑われた際に第一に行うことが多い画像検査は超音波検査(エコー検査)です。体への負担なく短時間で行うことができ、簡易的にがんの有無を評価することができます。その一方で、超音波検査はがんの広がりや性質などを詳しく観察することはできないため、精密検査のために造影CT・MRI検査を行う必要があります。
検査方法の進歩という面では、2008年より使用されているMRI用造影剤“ガドキセト酸ナトリウム”によって、造影MRIの性能がよくなりました。これによって、肝臓内の腫瘍がみつけやすくなったほか、腫瘍周辺の血液の流れを詳しく観察できるようになりました。
治療
肝臓がんと診断された場合は、進行度や全身の状態によって次のような治療が行われます。
手術
がんが発生した部位とその周辺の肝組織を切除する治療です。がんが肝臓以外の部位に広がっておらず、肝臓内のがんの数が3個以下であり、なおかつ肝臓の機能が保たれている場合は手術を行うことが推奨されます。
一方、肝臓の機能が著しく悪化している場合は肝移植が適応になることがあります。ただし、肝移植には65歳(施設によっては70歳)以下という年齢制限や生体肝移植がほとんどのために家族内にドナーになる方がいるという条件があります。
ラジオ波焼灼療法
体表面から肝臓に発生したがんに針を刺し、ラジオ波と呼ばれる特殊な電気を通電して高熱を発生させることでがんを死滅させる治療法です。手術のようにおなかを切り開く必要がないため、体への負担を抑えることが可能ですが、肝機能や血液凝固能、腎機能がある程度保たれていること・がんの数が3個以下かつ3㎝以下の早期段階にあるケースがよい適応です。
カテーテル治療
足の付け根などの太い血管から、カテーテルと呼ばれる細い管を肝臓まで通して行う治療です。抗がん剤を直接注入する“肝動注化学療法”、がんに栄養を送る血管内に固まる物質を注入して閉塞させる“肝動脈塞栓療法”などが行われることがあります。肝動脈塞栓療法は日本で開発された治療方法で、多少肝機能の悪い方や手術治療のできない方などにも行うことができるため適応範囲が広く、繰り返し行えるという利点があります。一般的には抗がん剤の注入と血管の閉塞を同時に行う“肝動脈化学塞栓療法”が広く行われています。
なお、これらのカテーテル治療は、3㎝以上の大きさのがんが複数個できている場合などに適応となります。
薬物療法
がんが広範囲に広がっていたり、合併疾患の問題があったりする場合などで手術やラジオ波焼灼療法、カテーテル治療などを受けることができない場合は分子標的治療薬などを用いた薬物療法が行われます。分子標的薬はもともと、進行がんで手術の難しい方に用いられる治療方法です。しかし、現在行われている臨床試験では手術ができる方に対し、術前・術後に投与することで、手術後の再発を予防できるのではないかと期待されています。また、塞栓療法を繰り返しても効果が少ない方に対して、分子標的薬を使用することも広く行われています。
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予防
肝臓がんの多くは、B型肝炎ウイルス・C型肝炎ウイルスへの感染によって引き起こされると考えられています。そのため、肝臓がんを予防するにはこれらのウイルスへの感染を避けることが大切です。肝炎ウイルスは体液を介して感染する性質があるため、むやみに他人の体液に触れないことに注意しましょう。また、性行為によって感染することもあるため、不特定多数との性交渉は避け、コンドームを着用する必要があります。さらに万が一、肝炎ウイルスに感染した場合は放置せずにウイルスを排除する治療を行うことで肝臓がんの発症率を下げることが可能です。
そのほか、肝臓がんはアルコールの多飲や喫煙習慣、肥満などによって引き起こされることも指摘されています。肝臓がんの発症を防ぐには、禁煙・節酒を心がけ、食生活や運動習慣を整えていくようにしましょう。
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