ブラジルなど南米を中心に世界各国で流行をみせている「ジカ熱」。妊婦さんが感染すると「小頭症」の赤ちゃんが生まれる可能性がある、との報道を目にした方も少なくはないでしょう。2016年4月13日に、アメリカの疾病予防管理センター(CDC)が、赤ちゃんに現れる小頭症の症状と妊娠中のジカウイルス感染の因果関係を肯定したことで、日本での感染拡大を危惧する声は更に高まっています。
ジカ熱の症状や感染経路にはどのようなものがあるのでしょうか。また、なぜこの夏(2016年8月ごろ)日本も流行地域となりかねないといわれているのでしょうか。厚生労働省が推奨しているジカ熱の予防・対策法とあわせてご紹介します。
ジカ熱とは、ヤブカ属の蚊が媒介する「ジカウイルス」による感染症です。ジカウイルスとは、「デング熱」の原因として知られるデングウイルスと同じフラビウイルス属のウイルスであり、症状もデング熱と酷似しています。
※本疾患の正式名称は「ジカウイルス感染症」ですが、本記事では日本で広く使用されている「ジカ熱」という俗称を使用するものとします。
後者のうち、日本に生息しているAe. Albopictusというヒトスジシマカもジカウイルスの媒介が可能といわれており、日本でも感染拡大が危惧されています。
足が白黒の縞模様をしている吸血性の蚊で、日本では茂みのある公園や墓地、庭の木陰などに広く生息しています。かつては東北地方には少ないとされていましたが、温暖化の影響を受け、秋田県や岩手県など、「北限」とされていた地域にもみられるようになっています。
ジカ熱は現在ブラジルやメキシコなど、アメリカ大陸を中心に流行しています。
2016年4月現在は、日本での感染報告者数は決して多くはありません。具体的には、2014年のタイからの帰国者(1例)や2016年3月のブラジルからの帰国者(1例)など、2013年以降の報告は合計で7例のみと報告されています。(参考:厚生労働省 2016年4月5日報告)
しかし、来たる2016年8月に流行地域であるブラジルにてリオオリンピックが開催されるため、これを機に日本にもジカウイルスが持ち込まれ、ジカ熱が大流行するのではないかと懸念されているのです。
拡大するジカ熱感染と、ブラジル国内で持ち上がる小頭症の胎児を妊娠している可能性が高い妊婦の妊娠中絶議論などを受け、世界保健機関(WHO)は2016年5月12日、妊娠している女性はリオオリンピック(ブラジル)への渡航は控えたほうがよいとの勧告を出しました。
ジカ熱の症状には、発熱(ほとんどは38.5度未満)や結膜充血、斑状丘疹性発疹、関節痛や頭痛などがあります。いずれの症状も軽く、2日から7日程度で治癒します。また、感染しても気づかない、もしくは無症状というケースもあります。予後は良好で、死亡する例はほとんどありません。
しかしながら、妊娠中の感染となると、赤ちゃんに及ぶ影響は深刻なものになります。
具体的には、てんかんや脳性麻痺、学習障害や難聴、視覚障害などがみられることもあり、ときには死に至ってしまうこともあります。
冒頭でも述べた通り、2016年4月13日にアメリカの疾病予防管理センター(CDC)が、“ブラジルなどで多数報告されている赤ちゃんの小頭症は、妊娠中のジカ熱感染が原因である”と結論づける声明を出しました。
ジカ熱の流行により、ブラジルでは小頭症の新生児が2000人以上生まれており、2015年12月12日までに小頭症による死亡例も29例報告されています。そのため、ブラジル保険省は2015年末に緊急事態宣言をし、「妊娠を避けるように」と異例の勧告を出しています。
また、WHOや日本の厚生労働省検疫所からも、「妊娠中にジカ熱流行地域への渡航は極力控えるように」との勧告が出されています。妊娠中の女性がやむを得ず渡航せねばならないときには、産婦人科の主治医と相談し、蚊に刺されない工夫(防蚊対策)を徹底することが重要です。
(参考:厚生労働省 「ジカウイルス感染症について」『重要なお知らせ』)
現在、日本の中でも妊婦のジカ熱感染に関する危険意識が広がり、「ジカ熱に感染するとより小頭症のリスクが高まる妊娠週とは?」といった疑問の声が挙がっています。
しかし、妊娠初期・妊娠中期・妊娠後期、どの時期の感染が赤ちゃんに影響するのか、どの程度の頻度で小頭症の子どもが生まれているのか、明確に数値化したエビデンスのあるデータは出されていません。
妊娠時期と感染の時期、小頭症の関係については「現在研究中」とされているため、いずれの妊娠週の方であっても、意識的に感染予防をすることが大切です。
先述の通り、ジカウイルスは蚊によって媒介されること、胎内感染することがわかっています。このほかの主要な感染経路には、輸血や性行為が挙げられます。現段階では、性行為による感染に関しては未解明の部分も多々あります。しかしながら、実際に男性から女性パートナーへ感染したという事例が報告されているため、性行為が主要な感染経路の一つであると捉えること自体は間違いないでしょう。
このような「人から人への感染」を防ぐためには、流行地域からの帰国後最低4週間(※)、ジカ熱の症状がみられなくとも性行為を控えること、もしくはコンドームを使用することが推奨されています。特に、パートナーの女性が妊娠中の場合は、妊娠期間中、症状の有無にかかわらず常にコンドームを使用するべきであるとされています。
ジカウイルスに感染してからジカ熱を発症するまでの潜伏期間は2~12日といわれているため、無症状でも感染している場合があります。
現時点で私たち日本人ができるジカ熱の予防法は、上述した(1)流行地域への渡航自粛、(2)流行地域から帰国した後の性交渉時の注意、そして、(3)蚊に刺されないよう工夫をすることです。特に、海外旅行時には下記のような服装で過ごすよう心掛けましょう。
2016年1月には、人気観光地であるハワイのオアフ島で、ジカ熱に感染した母親から小頭症の赤ちゃんが生まれたことがメディアで大きく報道されました。
感染者である母親は2015年5月にブラジルに滞在していたことがわかっているため、アメリカの疾病対策センター(CDC)は「ハワイで感染するリスクはなかった」と述べています。
とはいえ、少しでも危険を感じる地域に赴くときには、気温が高い季節でも蚊に刺されないよう長袖・長ズボンを着用したほうがよいでしょう。
忌避剤は汗や時間の経過、雨などにより効果が低下していくため、より確実なジカ熱対策のためには頻繁に塗りなおすことが大切です。
ジカ熱には特徴的な臨床所見がなく、診断のためには血液の採取もしくは尿の採取検査によりウイルスを分離する必要があります。また、PCR法と呼ばれる病原体遺伝子の検出も有用です。検査の際には、同じ蚊による感染症(デング熱やチクングニア熱)との鑑別も行います。代表的な鑑別疾患には、左記のほか、チフスやマラリア、レプトスピラ症などが挙げられます。
尚、医師は患者をジカ熱と診断した場合、直ちに保健所に届け出をせねばならないと、「感染症法」により定められています。
ジカ熱に有効な治療薬や治療法は存在しないため、症状に応じた対症療法が行われます。治療を必要としないケースもあり、予後は比較的良好です。問題となるのは妊婦が感染した際におこる小頭症です。
WHOによれば成長に伴うさまざまな障害を防ぐためには早期に遊びや刺激など、発育に好影響をもたらすプログラムが有効であるという報告もあります。しかし、残念ながら小頭症の赤ちゃんに対する根治的な治療法はまだ存在していません。ジカ熱への感染を防ぎ、小頭症を予防することが大切です。
繰り返しになりますが、日本では今夏のリオオリンピック後の感染拡大が懸念されている段階であり、現在報告されている感染者数はごくわずかです。
ジカ熱を国内で蔓延させないため、また、これから生まれてくる赤ちゃんを守るためには、感染が広がる前に私たち一人一人が予防・対策に関する正しい知識を持ち、感染しない・させないよう心掛けることが重要です。
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