概要
てんかんとは、脳が一時的に過剰に興奮することで生じる、意識消失やけいれんなどの“てんかん発作”を繰り返し引き起こす病気のことです。
私たちの脳は数百億もの神経細胞によって成り立っており、神経細胞が電気的な興奮を引き起こすことでさまざまな情報が伝達されていきます。てんかん発作は、神経細胞の電気的な興奮が過剰に発生する部位が生じ、脳のはたらきに異常が引き起こされることによって発症します。
てんかんには症状の現れ方や原因によってさまざまなタイプがあり、乳幼児から高齢者まで全ての年代で発症する可能性があります。画像検査などではっきり原因が分からないタイプと画像上で異常を示すタイプに大別されます。後者は外傷による脳への損傷、脳卒中、脳腫瘍など脳の病気によって引き起こされます。乳幼児や小児は原因が分からないタイプが多く、高齢者は病気や外傷によるタイプが多いことが特徴です。
てんかんの症状は人によって大きく異なりますが、7~8割は適切な治療を行うことで発作を抑制し、問題なく社会生活を送ることができるとされています。一方で、頻繁にてんかん発作を繰り返して徐々に脳の機能自体が低下していくケースでは、症状に応じて適切な社会的支援を受ける必要があります。
原因
てんかんは、脳の神経細胞が過剰な電気的興奮を引き起こすことによって起こります。過剰な電気的興奮が生じる原因はさまざまです。
近年の遺伝子診断の進歩により、分類や用語が変わってきています。成人発症てんかんの4割は今なお原因不明ですが、近年の遺伝子診断の進歩により“素因性てんかん(以前の特発性てんかん*)”の一部に遺伝子との関連が指摘されています。
一方、以前“症候性てんかん“と呼ばれていたてんかんは頭部外傷、脳出血や脳梗塞、脳腫瘍、皮質形成異常といった脳の構造的な異常や脳炎などの感染、免疫の異常、または代謝の異常が原因であると考えられています。
*特発性てんかん:検査を行っても異常が見つからない原因不明のてんかん
発作症状の現れ方は非常に幅が広く、神経細胞の電気的興奮が生じる部位や強さによって大きく異なります。
症状
てんかん発作の種類と特徴
てんかん発作の主な分類としては、脳の一部から発作が生じる焦点発作(部分発作)と、両側大脳半球が同時に巻き込まれる全般発作があります。
焦点発作(部分発作)
焦点発作は、発症部位がつかさどる機能に何らかの異常が現れるようになります。具体的には、手や足の運動をつかさどる部位に発症した場合は手足のけいれんが生じ、視覚をつかさどる後頭葉に発症した場合は視覚や視野の異常といった症状が現れるようになります。また、側頭葉などに波及した場合は、けいれんしなくても開眼したまま意識を減損し動作が停止する、手足をもぞもぞ動かしたり口をもぐもぐさせたりするなど、見た目では分かりにくい意識減損発作をきたすことも少なくありません。
焦点発作の場合も、神経細胞の異常興奮が脳全体に広がっていくケースもあります。このような場合には、意識消失や全身のけいれんといった症状が現れます。発作自体は通常数十秒から数分で自然に収まりますが、発作終了後もしばらく意識が朦朧としていることがあります。患者自身はこのような発作が生じている最中の記憶はないとされており、車の運転中などに発症することで思わぬ事故を引き起こすケースがあります。
全般発作
全般発作は脳の両側で同時に異常な興奮が起こる場合に発生し、多くの場合、発作の開始時から意識を失います。さまざまなタイプの全般発作がありますが、その代表的なものに強直間代発作があります。この発作では、患者は突然意識を失い、全身が硬直した後、ガクガクと筋肉の律動的な収縮を起こします。
また、欠神発作も全般発作の一種です。欠神発作では、患者は数秒から数十秒間意識を失い、突然動きが止まって周囲に反応せず、ぼんやりとした状態になります。この発作では倒れたりけいれんしたりしないため、周囲の方がてんかん発作と気付かず、単に集中力が欠けているだけだと誤解されることがあります。
そのほか、全身の筋肉が突然緩み、頭や体が崩れるように倒れる脱力発作、手足や体の一部分の筋肉が一瞬収縮しぴくつくミオクロニー発作があります。
てんかん重積状態
てんかん重積状態とは、てんかん発作が異常に長く続くか、意識が回復しないまま発作が繰り返し起こる状態を指します。通常、てんかん発作は数秒から数分程度で治まり、その後意識が回復するものです。
以前は「けいれん発作ある程度の長さ以上続く、または短い発作が反復し、その間に意識の回復がない状態」と定義されていましたが、発作が30分以上続くと脳に後遺症が生じる可能性があることが分かりました。そのため、現在では5分以上発作が続く場合や、意識が回復しないままけいれんを繰り返す場合には、速やかに治療を開始するべきとされています。
このような状態に陥った場合は、緊急用の発作を抑える薬を使用したり、救急車を呼んだりするなど、迅速な対応が必要です。
検査・診断
てんかんが疑われる場合は、まず発作の症状や経過について、詳細な問診を行うことが重要です。発作時の症状については、患者さん自身は意識消失し覚えていないことが多いため、目撃したご家族やご友人と一緒に受診していただくことがすすめられます。さらに次のような検査が行われます。
脳波検査
てんかんの診断や経過観察において行われることが多い検査です。頭皮にいくつかの電極を装着し、脳の神経細胞の電気的な活動を波形として記録します。てんかん患者では、発作が生じていなくても脳波で異常な電気活動がみられることがあります。
なお、一般的な脳波検査は暗く静かな室内で安静にした状態で行われ、てんかん発作を誘発するために光を点滅させる、過呼吸を行うなどの負荷をかけながら反応を評価する検査も行います。
普段しっかりされているにもかかわらず、記憶がまったく欠落していることがある、または上記のように意識を失っている場面を何度か目撃されている方は速やかにてんかん外来を受診し、診察を受けることがすすめられます。
外来の脳波は30分~1時間程度であり、脳波中にてんかん発作を同定することは通常難しいとされています。てんかんを診断するために発作を脳波で確実に同定しなければならない場合はてんかんセンターに入院し、数日から1週間、脳波とビデオを同時記録する“長時間ビデオ脳波”検査がなされる場合があります。
画像検査
脳自体に腫瘍などてんかん発作を引き起こす病気などがないか調べるために、CTやMRIを用いた画像検査が行われます。一部の症例では、さらに詳しくてんかんの焦点を調べるのに、脳血流検査(SPECTなど)や脳の代謝をみるためのPET、深部のてんかん性異常を検出するための脳磁図(MEG)を行うこともあります。
血液検査
てんかんと似たような症状は、一部の薬剤による影響・中毒や、低血糖や電解質の異常などによって引き起こされることもあるため、それらの病気を除外する目的で血液検査も行うことが一般的です。
治療
てんかんの治療は基本的に神経細胞の異常興奮を抑える作用を持つ抗発作薬の内服治療が行われます。上記のような問診や検査に基づくてんかんの正確な病型診断と、それに合わせた適切な抗発作薬の選択が重要であり、発作がなかなか減らない場合はてんかん専門医への受診がすすめられます。多くは、適切な抗発作薬の服用を続けることでてんかん発作を抑制することができ、通常の社会生活を送ることができるようになります。
一方で、複数の抗発作薬の調整を受け、適切な服用を続けても発作が難治に経過する場合があり、それに対してはてんかん外科治療が有効な場合があります。術前検査で、発作起始部位をある程度絞り込んでおきます。手術で頭蓋内電極を留置、解析し発作の原因部位が明確に同定でき、かつ的確に切除が可能な場合、発作を抑制することが期待できます(頭蓋内電極留置術および焦点切除術)。また、海馬硬化を伴う片側の内側側頭葉てんかんに対する海馬扁桃体切除術や側頭葉切除術は、内服のみの治療と比べると、より高い確率で発作のコントロールが得られることが証明されています。これらの外科治療は病変の切除により発作の完全な抑制を狙うもので、根治手術に分類されます。
てんかん外科治療としては、てんかん病巣の切除ができない場合でも発作を減らすことを目的とする緩和的手術が適応となる可能性があります。代表的なものに、脳梁離断術、迷走神経刺激装置(VNS)植え込み術、脳深部刺激療法(DBS)が挙げられます。脳梁離断術は、左右の脳をつなぐ脳梁を開頭して離断する手術であり、脱力発作やスパズム*による転倒発作を減らす効果があり、主に小児期に行われます。迷走神経刺激は頸部の迷走神経に電極を巻き、ペースメーカーのような形状の発動機を胸部の皮下に留置し持続的に電気刺激を行うことで、全般発作を含むさまざまなてんかん発作の頻度を減らしたり発作の程度を軽くしたりする効果があります。脳深部刺激療法は、元々パーキンソン病や振戦の治療に用いられてきましたが、2023年より焦点発作に対しても保険適用となりました。主に焦点切除術が困難または無効だった患者さんに対して行われます。左右の視床前核に細い電極を留置し、発動機は胸部皮下に留置します。術後に微弱な電流を持続的に流し調整することで発作を減少させる効果があります。
そのほかにも、糖質を制限して脂質の多い食事を取る“ケトン食療法”、小児のウェスト症候群に対して副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)を注射する“ACTH療法”もてんかん発作を抑える作用があるとされており、薬物療法と併用して行われることがあります。
*スパムズ:手足や体の筋肉が瞬間的に収縮すること。
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予防
発作の予防
てんかんは発症原因がはっきり分からないケースも多く、確立した予防方法は現在のところありません(2025年3月時点)。しかし、てんかんと診断された場合は抗発作薬の内服継続など適切な治療を続けていくことで発作をコントロールする可能性が高まります。
症状がないからといって治療を自己中断すると、思わぬ場面で発作が再発し発作が止まらなくなる(てんかん重積状態)や肺炎、外傷などの危険な合併症や交通事故などを起こす可能性があります。そのため、必ず担当医の指示にしたがって治療を行っていくようにしましょう。
また、薬剤投与にもかかわらず発作がよくならない場合は、日本てんかん学会認定てんかん専門医による診断や薬剤調整、てんかん外科治療、食事療法などさまざまな治療の選択枝もあるため、てんかんセンターの受診を担当医とご相談ください。
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